BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/10/06 休日なのに気が休まらない件

 

 

「久しぶりだね!この感じっ!」

 

 

 

休日と言うこともあり、千聖さんと氷川と私、久々の3人で外食に行くことに。

後部座席で燥ぐ氷川を流し見しつつ、助手席から香ってくる仄かな甘い香りを楽しむ。

…っといけないいけない。早いところ目的地を決めなければ。

 

 

 

「…で?氷川は結局何食べたいわけ?」

 

「えっとねー……何か高い奴!!」

 

「ふわっとしすぎでしょ。」

 

 

 

金額でご飯を食べるんじゃないよ。分からんでもないけど。

隣の千聖さんも苦い顔をしていらっしゃるし…言いたいことはわかりますよ。

 

 

 

「そんなにお金あんの?」

 

「?ないよ??」

 

「バカなんじゃないの。」

 

「バカじゃないよ!!」

 

 

 

この流れを大真面目に言ってるんだとしたらそれはもう正気の沙汰じゃない気がするけど。

そこまで馬鹿な会話をしたところで、漸く千聖さんがその可憐な口を開いた。

 

 

 

「…日菜ちゃん。系統とかで良いのよ、ご飯ものとかお肉がいいとか麺とか…」

 

「あぁそっち系かぁ。」

 

「寧ろいきなり金の話だと思う方がヤバいでしょ。」

 

「私たちは何でもイケちゃうから、日菜ちゃんの食べたいものでいいのよ?」

 

 

 

氷川は偏食がすごいからね。私は別に嫌いな食べ物はないし、千聖さんも嫌いだった納豆が最近克服できたみたいだし。…どうでもいいかもしれないけど、納豆嫌いの克服に付き合った日々は興奮の連続だった。

蓋を開けた瞬間のあの汚いものを見るような目つき、恐る恐る口へ運んだ一粒に真っ赤な顔で零した涙、スーパーで納豆コーナーを通る度に私の手をぎゅっと握りしめるあの掌…。正直堪りません。

 

 

 

「…えっ、〇〇そんなにお腹空いてるの??ヨダレ凄いよ?」

 

「あいや、これは、ちが」

 

「ふふふっ。じゃあ〇〇ちゃんも待ちきれないみたいだし、さっさと決めちゃいましょ?」

 

「……千聖さん。」

 

 

 

本当は千聖さんを食べたいんですよ、私は。

 

 

 

「あっ!るんっ♪てきた!」

 

「…決まったのね。」

 

「お肉!!」

 

 

 

鶴の一声ならぬ日菜の一声。今日の少し遅めの昼食は、久々のメンツで焼肉となったのである。

 

 

 

**

 

 

 

「……ちょっと氷川、あんたの言うとおりに来たけど…」

 

「うん!ここ、おいしーんだ~」

 

「そりゃ美味しいだろうけど……」

 

 

 

氷川の案内に従って運転し辿り着いた焼肉屋。相変わらず賑やかな車内(主に一人が)だったが、近くのパーキングに停め店の扉をくぐる頃にはすっかり静まり返っていた。

もうなんというか、雰囲気がガチすぎる。カジュアルな雰囲気で食べ放題でも…と思っていたのに、何だかコースを選んで注文する流れらしい。おい氷川、またやってくれたね?

 

 

 

「前にね、おねーちゃん達と一緒に来たの。」

 

「お姉さんって…あの?」

 

「うん!Roseliaのみんなと一緒にね。その時美味しかったの覚えてたんだぁ!」

 

 

 

…そりゃ高い店にもなるわ…。

あ、Roseliaっていうのは、氷川の双子のお姉さん…紗夜さんがギターとして所属しているロックバンドで、結成してからもう10年くらいになるのかな。メンバーの入れ替えを繰り返しつつも世界規模で有名になるに至った人達だ。確か紗夜さんは現リーダーで、唯一結成当初からいるメンバーだとか。

その場にご一緒するって…何とも不思議な私生活だ事。

 

 

 

「〇〇ちゃん…」

 

「あっ…」

 

 

 

半歩程後ろを歩いていた千聖さんに服の裾をキュッと握られる。あぁもう、心配なんですか?高そうなお店で、怖くなっちゃったんですかぁ??

大丈夫、私が居ますよ。…という気持ちを込めて、その小さな可愛らしい手を包み込む。私の手で。

ハッとした顔でこちらを見る千聖さんは、どこかうっとりとした顔つきで…

 

 

 

「あはっ!何してるの二人して!!にらめっこ??」

 

「ッ!!」

 

 

 

危ない、まだ店の入り口だってのに、いつもの様に濃厚なのをかますところだった。私としたことが、公の場でクールさを忘れるなんて。

 

 

 

「べ、べべつに、何もしてないわよ?ねえ〇〇ちゃんっ?」

 

「……まぁ。」

 

「ふーん??…あたしもしたいなぁ、にらめっこ。」

 

「はぁ?いい年して何言ってんの。」

 

 

 

…いや待って。相手はあの氷川だ。「ふーん」からの間も気になるし、もしかしてしかけていたのバレてる?もしバレているとしたら、あたしもやりたい(イコール)千聖さんとそれはもう濃厚なキスをしたいってこと…?

…それは断じて許さない。

 

 

 

「…氷川には絶対渡さないから。」

 

「んー??…そういうのは焼き始めてから言おうよ。」

 

「肉の話じゃ…!……いや、もういいわ。」

 

「んん???」

 

 

 

まともな話を氷川としようとしたのが間違いだったみたいだ。

案内された4人掛けの半個室。向かい合う様に配置されたソファと二つの椅子…といった、よくある構成だ。

ソファ側の真ん中に氷川がドカッと居座り、向かい側に私と千聖さんが座る。……や、別に今の関係になって自然と…とかじゃないからね?昔から三人だとこうだったから!

 

 

 

「はいメニュー。…二人は結構ハングリー系?」

 

「はい?」

 

「あ、ガッツリいけちゃうかってこと。」

 

「…氷川、そういうのは店選びの段階で訊こうよ。」

 

「ふふふ、いいじゃない〇〇ちゃん。今はお仕事中じゃないんだから、ね?」

 

「でも千聖さん…」

 

「もー!またそうやって二人の世界にはいっちゃうし!!」

 

 

 

このままじゃ氷川も氷川のお腹も煩そうだし、さっさと注文しちゃおう。そのあとでじっくり、食事中の千聖さんを観察したらいい。

一緒に居れば楽しみも幸せも無限大だ。

 

 

 

「……えっ、結構する…もんなんですね。」

 

「量はどれくらいなのかしら…?」

 

「あ、このコース…」

 

「??……あぁ。ふふふ、もう〇〇ちゃんったら、そんなんじゃ足りないでしょう?」

 

「そんな大食いみたいに言わないでくださいよぉ…」

 

「ふふ、冗談よ。拗ねないで?ね?」

 

「くそぅ可愛いなぁ…。」

 

 

 

一つのメニューを二人であれこれ言いながら見ていく。あぁ、千聖さんとなら、たとえ真っ白な本を前にしたって幸福に浸れる自信があるね。

頬をつつかれながら氷川の方をチラ見すると。

 

 

 

「むむむむむむ…………。」

 

 

 

滅茶苦茶睨んでいる。さっきまでの元気はどうした。

 

 

 

「…どうしたの日菜ちゃん?」

 

「もう!!千聖ちゃんも〇〇もずるいよ!!二人でいちゃいちゃして!!」

 

「マジ?…そう見えた!?」

 

「〇〇は何で嬉しそうなの!?」

 

「あごめん、つい。」

 

「もう!……今日は三人の日なんだよ!仲間外れは嫌だなって!!」

 

「あー……それはなんかまあ、うんごめん。」

 

「日菜ちゃんぷんぷんだよ!!ぷんぷん!」

 

「ブフッ」

 

 

 

ちょ、千聖さん。このタイミングで噴き出すのは火に油ですって。…確かに、「こいつ20代半ばでマジか」って思いましたけど。

 

 

 

「わかったわかった…。で?氷川はどうしたら満足なわけ?」

 

「席替えをします!!」

 

「え"」

 

「…やだなぁ。」

 

 

 

注文も決まってないというのに、氷川が中々なことを言い出した。

因みに最後の「やだなぁ」は千聖さん。これはこれですごく可愛かったです。はい。

 

 

 

**

 

 

 

「るんっ♪るんるるんっ♪」

 

「……。」

 

「………。」

 

 

 

地獄だ。

何この部屋。上機嫌でほっかほかな氷川日菜サイドと、クールな瞳で鋭く睨みつけつつ今にも涙を零しそうな哀しみの白鷺千聖サイド。…温度差が激しすぎてメド〇ーアに発展しないか不安で仕方がない。

 

 

 

「ねーねー!〇〇はどれにするか決めたぁ?」

 

「……じゃあ氷川と同じで良いよ。」

 

「ほんとっ??お腹パンクしちゃわない?」

 

「…同じメニュー見てるんだよね?」

 

 

 

先程とは打って変わってご機嫌な氷川。あんたの脳内は秋空か何かか。

 

 

 

「私この(きわみ)コースにする…」

 

 

 

向かい側で飽く迄冷静を装いつつ淡々と最上級のコースを口にする千聖さん。…わかりました、二人で高いの頼んでこの悪魔に奢らせてやりましょう。

アイコンタクトを交わし、互いに小さく頷き合う。これこそ、絆の深さだぞ。羨んでもいいよ氷川。

 

 

 

「わー!千聖ちゃんアゲアゲだねー!」

 

「意味が分からないんだけど。二人とも決まったのかしら?」

 

「これから決めるところだよ~。ね、〇〇?」

 

「…まぁ。」

 

 

 

早く決めて早く食って早く帰れと言わんばかりの貧乏ゆすり(アースクェイク)がこちらにまで伝わってくる。流石にそろそろ千聖さんにも悪いし、滅茶苦茶距離を詰めてくる氷川(バカ)から少しでも離れて……ッ!?

 

 

 

「ちょっと氷川、何のつもり。」

 

「??何が?」

 

「これ。」

 

 

 

二人の間、ソファの上。恐らく千聖さんからはあまり見えないであろうテーブルの陰で、むんずと掴まれている私の左手。捕食者(掴んでいるの)は勿論氷川の右手だ。

それを指さして訊くも、「えへへへ、何となく」とまるで要領を得ない。

 

 

 

「ち、千聖さん?今決めるので、もう少し待っててくださいね?」

 

「早くなさい。時間は有限よ。」

 

「もー千聖ちゃん厳しーぃ。」

 

「ばか氷川、煽るなって…」

 

「…?そんなに時間かかる程メニューないでしょ?第一あなた達、ちょっと距離が近すぎやしないかしら?」

 

「や、べつに、その、えっと」

 

「あれ?〇〇何でそんなに慌ててるの??」

 

「バカじゃないの!早くこれ離しなさいよ!」

 

 

 

一度手を握られていることを意識しだすと何故か注文どころじゃなく、いつも通りなのに妙に近く感じる距離とか、小首を傾げて本気で理解が追い付いていない顔とか、全部に目が吸い寄せられてしまう。

……嘘でしょ?相手はあの氷川だよ?

 

 

 

「…離したくないんだもん。」

 

「な、なんでさ。」

 

「……ずっと、触りたかったから。」

 

「…氷川……?」

 

「ちょっと、本当に何してるの。早く決めましょうよ。」

 

「今決まる所だからもうちょっと待ってね!千聖ちゃん!!」

 

 

 

メニューを立て、まるで目が悪い人の様にメニューへ顔を近づけていく。そしてそのまま、メニューごと私の方に顔を寄せてきて…

 

 

 

「にらめっこ、しよ?……んっ」

 

「―――――!?」

 

 

 

**

 

 

 

…衝撃だった。

そこから一体何が起きたのか。その後食べた肉が牛なのか豚なのか、美味しかったのかイマイチだったのか。その記憶が全て曖昧になっている。

気付けば夜になっていて、自宅のリビングで全裸で千聖さんに土下座していたのだから。

 

 

 

「……次は無いわよ?」

 

「誠に申し訳なく思っており現在死んで詫びようか一生生き地獄を味わうことで償おうかと検討している私でありますがこの場合生き地獄と言うのは何を指すのかその項目が非常に重要と」

 

「私以外も欲しくなったの?」

 

「千聖さんがオンリーワンでナンバーワンです!!」

 

「ん。…よろしい。」

 

 

 

私、被害者じゃないの?

 

 

 




遅くなりました(反省)




<今回の設定更新>

〇〇:見境ないとかそういうのじゃないから。
   千聖さんラブ。日菜に対しては……要検証。
   安価な豚肉派。

千聖:仕事が休みの日は全力でイチャイチャいていたい系女子。
   付き合って数年たっても初期の熱が持続するタイプ。
   ヘルシーな鶏肉派。

日菜:姉がすごい人。
   主人公も千聖も大好き。隙あらば食べちゃいたいと思っている。(食事)
   財力の暴力・高級牛肉派。

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