BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
新しいゲームを買った。
ハードウェアではなく、ソフトウェアの方だが。
正直なところ、私も前々から期待していたゲームではあったのだが、一番の目的はプレイ以外の場所にある。それは――
「〇〇ちゃん…コレが、例の…?」
「そうですよ千聖さん…。」
"私の嫁にやらせてみたかった"!!
…それもただの女性じゃない。機械やゲームが大の苦手な、
買ったものの内容としては…様々な武器から自分の好きな物を四つを選び装備、そのまま任務として課せられた内容を熟していく、という…よくあるアクションゲーム。
ただ一つ、"普通"のアクションゲームとは一線を画す要素があって…。
「〇〇ちゃん?…これを、被ればいいのよね?」
「そう、ですけどそこで被っちゃだめですよ。」
「どうして?」
「実際にプレイするのはあっちのモニター前なんですよ。ここでゴーグル着けちゃうと、何も見えない中で移動することになります。」
「あら、これ着けると前が見えなくなるのね。」
「…何だと思ってたんですか。」
そう、VRだ。
昨今の流行りともいえるであろうこの機構…ヘッドマウント型のディスプレイを装着し、その中に映し出される仮想空間を駆けつつ様々な世界に没入していく、といった訳である。
「…本当。真っ暗なのね。」
駄目だと言ってるのに早くも装着して準備万端の千聖さん。まるで母親を探す赤子の様に、両手を前に突き出してふらふらと歩いている。
流石にこのまま放っておくと食器棚に突っ込み兼ねないので、後ろから抱きかかえるように引き留める。ついでに形のいい胸にもソフトタッチしておいた。あぁ、幸せ。
「あんっ。…あらららら???」
「ダメですよ千聖さん。ちゃんと場所に着いてから着けないと。」
「はぁい。…この辺でいいかしら?」
「はい、いいですよ。…じゃこれ被って、あとこれも両手に持ってください。」
「…この固くて太い棒は何?」
「コントローラーですよ。…まぁ、ヤればわかります。」
感触を確かめるようにグッパグッパとスティックをニギニギする千聖さん。可愛い。
一先ず一通りの説明も終え、ゲーム機本体を起動する。「ひゃっ」と発された声からするに、今彼女の目の前には広々とした仮想の世界が広がっている事だろう。
「じゃあ、私がある程度まで操作しますから、途中から頑張ってみてくださいな。」
空いているコントローラーでソフトウェアを起動。少しして表示されるロゴとタイトル画面を確認し、時たま漏れる可愛らしい鈴の音の様な声を背に受けつつ操作可能な部分まで進める。
「うわぁ…!」
「どうです?千聖さん。」
「すっごいわね。…広いの。」
千聖さんが今見て居る景色は、一応目の前のモニターを通して私も見ることができる。
……何でだろう、千聖さん、ステージの端に置いてある狸の置物を凝視している。あの全裸で酒を持ち笠を被ったアレだ。
「千聖さん?…どうかしました??」
「…カワイイ…。」
「マジか。…千聖さん、うっとりしてるところ悪いんですが、もう少し前まで進んでみましょ。」
「わかったわ。ええと、このボタンで……ぉぉぉぉお…。」
手元の移動ボタンを押しながらキョロキョロと周りを見渡している。少し薄暗いサイバー空間に浮かぶ、和を感じさせる道場。その中の渡り廊下を走りながら、周りの風景を楽しんでいらっしゃる女神の姿に私ももう墳血モノだ。
眼下に広がる未来チックな街並みに足を止めて覗き込んでは感嘆、手すりに手を掛けようとしてVRであることに気付いては照れ笑い…。挙句風景を飛び回る二羽の鳥に思い切り手を振って居たり…もう堪りません。個人的には鳥に手を振っている時の背伸びと小声の「ばいばぁい…ふふふっ」がツボでした。
「……え?…きゃっ!!」
私のスマホの千聖さんフォルダが潤うこと潤うこと…その事態に喜びを隠せずにいると、突如姫様から可愛らしい悲鳴が。
何事かとモニターを確認すると…あぁ成程、武器選択のエフェクトが派手過ぎて驚いてしまったらしい。自分に迫ってくるように広がるポップアップとか、最初は怖いよね。
「…驚く千聖さんも可愛いです。」
「もう!揶揄ってないで教えてちょうだい!…これはどれを選ぶべきなのかしら。」
「武器ですか……千聖さん、武器を扱った経験は?」
「あるわけないでしょ。」
「ゲームとかもしないですもんね。…ええと、それじゃあ私の勝手なイメージですけど…」
千聖さんの左手を取ってスイスイッと装備を選んでいく。千聖さんのイメージだと……
「私、二本も刀振れないわよ…。」
「いやぁ…似合うと思うんですよねぇ。」
私がチョイスしたのは、腰の両脇に一本ずつの日本刀。ふむふむ、銘は"円水"というのか。そのふた振りの刀に、身の丈ほどもある大きな手裏剣…名前はよくわからない。
空いている手には取り敢えず苦無を持たせておいた。特に理由はないが、くノ一衣装の千聖さんとか見たいでしょ?見たくない?あそう。
「……うふっ、うふふふっ」
ぶつくさ言いながらも、楽しそうに笑っていらっしゃる。あぁ、二本の重さのない刀がいたく気に入ったらしい。ブンブンと振り回して…
「あいたっ。」
「!?…ッだ、大丈夫!?」
振り回していた刀はどうやら私を切り裂いたらしい。下からせり上がるように振り上げられた左手のコントローラーは私のヘラヘラした口にアッパーカットを決めた。
その手応えから感じたか、はたまた私の声が馬鹿デカかったのか…ゴーグルを投げ捨てるようにして千聖さんが距離を詰めてくる。
勢いそのままに私の後頭部を支え床に引き倒し、頭の下に滑り込むように膝枕の体勢をとり私の口を優しく撫で押さえる。…この間僅か1.2秒。大して痛みは無かったのだが、気づけば床に寝ていて目の前には聖母の如きご尊顔が。
人智を超えるスピードに、情けないながら涙が出てしまった。
「!!!……○○ちゃん?痛かった?怖かったの??打ち所が悪かったかしら…それとも勢いが…いや、寝かせ方が悪い…それとも」
「…ふふふっ。」
「???」
まさか千聖さんがそこまで必死になるとは。ぽたぽたと垂れてきた汗に、思わず笑い声が出てしまったが、それを聞いた千聖さんのぽかんと開いた口にまたしても笑ってしまった。
「はははっ…なんて顔してるんですか…!大丈夫ですよ、私は。」
「だ、だって、私○○ちゃんの事…き、斬り上げちゃったから…っ!」
「ぶふーっ!!!!」
真剣な顔しちゃって…。もう耐え切れなかった。
「そ、そんなに笑うこと無いでしょ…ばか。」
「だって、そんな真剣な顔して…斬り上げtあっはひゃひゃひゃ!!!」
「もぉ…本当に心配したんだから…。」
「はーっ…はーっ…いやぁ、笑った、じゃない…真っ二つでしたよ。見事な剣筋でしたねぇ。」
「揶揄わないでってば…。」
一転、膨れ面に変わる。流石に笑いすぎたかな。
「いやいや…今私は怪我人ですよね?刀でバサリですから。」
「……ええそうね。」
「ここらで一つ、治療を受けたいんですが。」
「生憎と仮想の怪我につける特効薬は持ってないけれど?」
「いえ、このままだとまた笑い声が漏れてしまいそうなんで…私の口を塞いで欲しいんですよ。」
「…それは大変ね。すぐに止めてあげるわね。」
「それでこそ千聖さんですね……んっ。」
**
翌日から、その新品の名作ゲームソフトはプレイ禁止になった。
酔う。
<今回の設定更新>
○○:本当はゴーグルのせいで周りが見えない千聖さんにあんなことやこんなことをしたかった。
まぁ、恐らく結果は同じ。
このあと滅茶苦茶()
千聖:機械にはめっぽう弱い癖に目新しいものが大好き。
いくつになっても新鮮なものには無邪気に燥いじゃうタイプ。
基本攻め。