BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
今日は本来なら休日であるところ出社しなければならない日。
特に真面目なわけでも無い私だが、流石に社長命令とあれば行かざるを得まい。先程氷川からも「いやになっちゃうね★」とクソみたいなメッセージを受信した辺り、私の属する部署は全員出勤らしい。
「休みなのに…大変ね。」
「私的には休みが潰れた事より千聖さんとのデートがフイになってしまったことの方がショックですよ。」
愛する人との蜜月のひと時。普段労働に勤しむ身として、数少ない休日に安寧を求めるのは間違っちゃいないだろう。それを奪うとは…。
会社の皆には申し訳ないが、今日の私は最高にキレている。あのハゲ社長め、いつか必ず血のカツラを被せてやる。
「こらこら、お顔が怖いわよ?」
「だって…千聖さん……」
「いい仕事の為には良い笑顔で居ないと、ね?」
にっこり柔らかい笑顔で小首を傾げる千聖さん。その醸し出す雰囲気は、たっぷりの柔軟剤で洗いたてのタオルのようで…ズルい人だ。
「……千聖さん、可愛い…」
「ええ、可愛い千聖がお家で待ってるから。…頑張ってきて、ね?」
「…んっ。」
首筋に静かに触れるキス。そんなことされたところで私の機嫌は…
「…ふへへ、頑張っちゃいますぅ。」
「ん、宜しい。…いってらっしゃいね。」
………。
**
「あっ、遅いよ○○!」
「氷川?……遅いったって、まだ始業前でしょ。」
「社長がね、怒ってすごいの。」
「社長が?…ったく、普段まるで姿も見せない癖に偶に来たら碌なことないね。」
「まぁね~。」
ヘラヘラと笑う氷川はいつもの事として、オフィスの雰囲気が葬式ってるのはそう言う事か。
私が就職した企業はそこそこ大きいグループ会社の一つであり、社長が基本的に居ない会社だ。大体の責任問題は常務のおっさんに行くし、建物自体の支配人も常に出社しているということで、社長なぞ必要ない説すらある程なのだが…
あのクソ社長、偶に顔を見せたかと思えば厄介な案件ばかり引っ張って来るとことん邪魔な人間なのだ。おまけに不潔で腐臭がするという、人としての如何を問いたくなるような成り。…本当に勘弁してほしい。
「おはようございます。…今日はどういった案件で?」
「あっ○○さん、社長が二階の会議室で待っているそうで…」
「私を?」
「は、はい。一応責任問題らしくって、○○さんが来るまで待つって…。」
「…成程。では行ってきます。」
るんるんと軽い足取りの氷川と共に自分のデスクへ着くなり向かいの席の社員に伝えられた内容。…社長が直接私に、とは珍しい。私の対応次第ではワンチャン早く帰れるんじゃないかと淡い期待も抱きつつ、指定された会議室へと向かった。
「失礼します。」
会議室と言ってももともと応接間だった部屋に長机とパイプ椅子を運び込んだだけのもので、今はドアも取り払われてしまった部屋に入る。
待ち構えていたのは見たくもないのに何度も見て来た社長のニヤケ面。
「何でしょう?」
「何でしょうとはご挨拶だな、君。」
「休日出勤を強制するくらいですから余程会社がまずい状況なのかと思いまして。」
事実、そうでもなきゃ部署全員出勤の意味が分からない。
若干の怒りも籠めつつ皮肉めいた言い回しをしてみるも社長は憎たらしくニヤつく一方だ。
「だははは、そうだなぁ。…ほれ、チサトが抜けて暫く経ったろ?その穴はどうだね。ん?」
「…そうですね、完全に埋められているとは思いませんが、引継ぎと新規プロジェクトも含めてまずまずの状況ではないかと。」
チサト…あの人をそう慣れ慣れしく呼ぶところも、私が嫌悪感を抱く一因なのだ。あの美しい人はお前みたいな醜いゴミが気安く近づいてはいけない程の人間なのに。
だというのに…運命とは斯くも無情なものだ。
「ほほう、そりゃまた大きく出たな。いや何、私もなぁ、アイツを失うというのは心苦しいものがあったのだがね。会社の為にも、君達の為にも。」
「はぁ。」
「だがね、実の
「………何が、言いたいのでしょうか。」
この汚い男…仮にも社長という事で逆らうことは出来ないが、千聖さんの父親ということもあって切っても切れない関係にある。千聖さんも会社を辞めるにあたり、まさに懇願とも言えるほど願い、やっとのことで退職を勝ち取ったのだと聞く。
…恐らく今の状況とてこの男には筒抜けだろう。となると今日の部署全員出社は建前…用があるのはこの私唯一人だと言う事か…。
「いやぁなに、会社の将来が心配なのだよ私は。…こんな、同性を嫁に貰おうとする馬鹿が引っ張っている部署があるんじゃ、余計にな?」
「……ッ!何故、全員出社なのでしょうか?」
「だっははは、最近煩いだろう?やれハラスメントだ、やれ贔屓だってね?だから全員を巻き込んでだね…」
私一人を呼び出す為に、部署の皆迄巻き込んで…どこまでも卑劣な男だ。
そもそも結局は何が言いたいんだこのハゲは。私に辞めろとでも言うつもりなのか。
「まぁいい、端的に話を済まそうじゃないか。」
「…何です?」
「…貴様、チサトと別れてやっちゃくれないか?」
「お断りします。」
「おいおい即答だな。…実はな、最近チサトのやつ妙に冷たくてな。」
「嫌われているんでしょう。兎に角別れたりするつもりはありませんから。」
そう来たか。世間体だの何だのとくだらないことも気にする屑だ。千聖さんが冷たいというのもきっと建前、本当は娘が女性と交際している事実を揉み消したいだけの――
「嫌われているもんか。○○、お前は知らないと思うがな、少し前まではベッドの中でも…それはそれは従順なもんだったんだぞ?」
「………!?」
「それがどうだ。お前と棲み始めるや否や「親子で交わるのはおかしい」だの「○○の為に少しでも汚れずに居たい」だのと…まるで生娘のような戯言を抜かし出してなぁ…まだ幼い頃に調教されたことも忘れられないというのに、生意気なことだと思わんかね。」
今、何と言った?ベッド?調教?親子で交わる?
連ねられた単語とニヤケたいけ好かない汚い顔面に、私の知らない穢されてしまった千聖さんの存在がモヤモヤと黒い煙のように渦巻く感覚がした。
「それとも、お前も私の愛人に…なんちゃってなぁ!だっはははは………ん、何だお前、そんなものを持って…!」
「………死ね、ゲス野郎。」
「まっ、待つんだ!分かった今のは冗d――」
荒い呼吸と生温い臓物の匂い。体中を汚す穢い男の赤い体液。衝撃から原形を留めないほどにバラバラになった、パイプ椅子だったモノ…。
気付いた時には全てが終わっていて、青い制服の警官数名に取り押さえられているところだった。
「……ちが…違うん、です…私は護りたかっ……千聖さん……貴方を…!!」
**
「…ってことになったらどうするんです。」
「なりません。人の父親を勝手にゲス野郎にしないで頂戴。ぶつわよ?」
「えぇー。…でも、千聖さんにだったらぶたれてもいいかも…」
「あら、○○ちゃんSだって言うから相性ピッタリだと思ってたんだけどなぁ…。Mっ気があるなら他のパートナーを」
「千聖さん、殴られるのと嬲られるの、どっちがいいです?」
「…もう、○○ちゃんったら。…目一杯愛してくれるなら、それでいいわ。」
そっと包み込む様に私を抱き締め、後頭部を弄られ…あっ、撫でられている。耳元で囁く声が、何とも淫靡で艶めかしい。それでいて優しさまで伝わってくるんだからホントにズルい、この人は。
「…でへへへ…」
「それにしてもお父様の話だなんて、流石の○○ちゃんにもプレッシャーなのかしら?」
「…そりゃまぁ…結局はうちの社長ですからね。憎たらしい程にイケメンなのもまた…。」
「ふふっ、○○ちゃんが惚れちゃわなきゃいいけど。」
「そんなっ!私は千聖さん一筋ですから!!」
「私を愛しすぎてお父様においたしちゃだめよ?」
「し、しませんって!さっきのは妄想の話ですからっ!ほ、ほら、私筋肉とか全然ないですしっ!」
「……ふーん?その割には夜のアグレッシブさは中々の」
「ち、千聖さん!サボりたくなっちゃうんでやめときましょう!!」
首筋、背筋、脇腹、胸、太腿、尻…と、全身を這いずり回る様に辿る千聖さんの細い指にゾクゾクと上り詰める快感。思わず喘ぎそうになりつつも今が出社前であることを思い出し気を引き締める。
名残惜しいがその手を掴み、発展を止める…。
千聖さんのお父さん――社長に、一度実家に遊びに来るよう誘われた時は心臓が止まるかと思ったものだ。今の関係も知っていると言う事で、事実上交際相手の親へ挨拶に伺う事になるのだから。
「それじゃあ、続きは帰ってきた後で、ね?」
「……ッ!!…い、いってきますぅ。」
私は、千聖さんを幸せにできるんだろうか。
世界でただ一人、愛した女性を。
妄想部分は妄想なので、過激かもですが妄想なので。主人公の性癖ですね。
<今回の設定更新>
○○:感度上昇中。独占欲から妄想が暴走気味。
結局休日出社の理由は先月末の収支予算案を未作成だった為…と、
至って普通の業務内容でした。
社長には気に入られている模様。
千聖:かわいい。どっちかというと昼はS、夜はM気質。
あまりに手先が綺麗すぎる為、年末に手タレのバイトを請け負ったとか。
父親との関係も良好、ちゃんと愛されて育ったいい子。