BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
第一部をお読みいただいた後の方がより楽しめるとかなんとか…。
2019/09/23 隣で始まる
「……スゥ…ハァァアア…………」
「…うえぇ…よかった…よかったよぉ……!」
―――日頃のストレスを発散するには、涙を流すことだ
そう教えてくれたのは誰だったか。
新居に引越してから暫くは落ち着かない日々を過ごし、それでももうすっかり"我が家"として本能に刻まれた頃。
以前にも増してベッタリの
医療系ドラマということで、最後はやっぱり二人して涙を流してしまう。…もう3話続けてびしょびしょだ。
「ずびずび……ぁっ」
「どした……彩。」
「ティッシュ……なくなっちゃったぁ……うぇぇ…」
ティッシュが無くなった事実に対してまで涙をこぼすとは。もうすっかり涙の防波堤がおかしくなっちゃったようだな、この従妹ちゃんは。…こらこら人の袖で鼻を拭くんじゃない。
「…きったないなぁ…。」
「うぅ……じゃあ新しいの出して?」
「俺も余韻に浸ってるのに…。まったく困った妹だ。」
「えっへへ……ありがと。」
あの引越を機に、彩の俺に対する態度も…そして俺の彩に対する考え方も変わった。
ずっと絶妙な間隔を置いていた彩は、まるで本当の家族のように触れ合える距離で甘えてくるようになったし。…俺も俺で、アイドルとしての丸山彩と親戚としての彩ちゃんの
なんというかその……彩の持っている全部の面が好きになったんだ。ただ、それだけ。…可愛い妹のような存在として、俺に好意を持ってくれている一人の女の子として。ただ一番近くで守ってやりたくなったってだけさ。
「へっくちっ。……うわぁ!鼻水が増えたよ!!」
「…お前、今ちょっといい雰囲気醸し出してたんだから水差すんじゃないよ…。」
「…うえぇ……べたべただぁ…。」
どこに入っていたんだと突っ込みたくなるような……いや、アイドルのメンツを保つためにも言うまい。
新しく開けたてのティッシュで掌、手首、口の周り、鼻…そして最後に目と、該当するソレを拭き取っていく。俺が各所を拭いている間、彩は成すがままだ。
「ははっ、お前、犬みたいだな。」
「なっ!犬じゃないよぅ!人間!!」
「うわー、その返しじゃバラエティでもカットされるぞ。」
「うぅぅ……返しは苦手なんだから振らないでっ!…千聖ちゃんや日菜ちゃんみたいに上手にできないんだもん…。」
「………よしよし。」
放っとくとどんどん底なしに落ちていってしまう彩の、桃色の綺麗な髪を撫でる。気持ちよさそうに目を細め、ぐりぐりの掌に頭頂部を押し付けてくる彩はやがて―――
「わふぅっ」
―――鳴いた。
「えっ」
「あっ、ち、違うのこれは!その、えっと…」
果たして無意識か狙ってのものか、わたわたと手を振る彩の顔がみるみる赤く染まっていき…。
「犬、っぽい、方が、好き、なのかと、思って…ひゃわぁぁ……///」
ちいちゃくなってしまわれた。
「………………。」
頭を抱えて恥ずかしさに震えるその従妹の姿が、何だか可笑しくて。
崩れ落ちてぷるぷるしているその頭をもう一度慰めるべく、
「……大正解だよ、彩。」
「―――ッ!!………かわい、かった?」
顔を上げないまま上目遣いのように見上げてくる。その姿もまた、怖がりながらも周りの様子が気になって仕方ない子犬を連想させて、思わず笑いがこみ上げそうになる。
「……続き、見ようぜ?」
「でも、また泣いちゃうよ…?」
「はははっ、泣いてる顔も可愛いからいいじゃんか。」
「…またそういうこと言う…。」
「あぁ、鳴き声も可愛いんだったな。」
「~~~///」
未だに顔を見せてくれない彩の手を取り、しっかりと握る。
リモコンの再生ボタンは、今更見ずとも手探りで押せる。
「今度はティッシュも新品、何ならまた俺の袖を使ってくれたっていいさ。」
医師の日常風景と少し時代を感じるオープニングが流れ始める。
―――ストレスなんてつまらないものを発散するには、大切な人と共に過ごすことだ。……涙を流す時も、笑う時も。
これは俺の言葉。これからもずっと持ち続ける、俺の見解だ。…なぁ彩よ。
「………わふっ。」
パステルカラーの日常、始まります。
<今回の設定>
○○:例の一件、引越を経て従妹との距離がぐっと縮まった模様。
今回は二人きりでも、ちゃーんとみんないます。
少し丸くなった?
彩:誰にも渡すまいと言わんばかりにより一層ベッタリになった子犬系女子。
頭を撫でられるのが好き。あと甘いものも。
よく泣くがよく笑う。…前より自然体になった。