BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「ねーねー○○くんー。」
作業続きでゲンナリしている俺に、後ろから覆いかぶさるように纏わり付いてくる天使。
相変わらずの可愛さだが、たまに少し面倒くさい。…流石に、面と向かって言えたことじゃないけど。
「んー、なーんだー。日菜ぁー。」
「昨日もそうだったんだけどさ、夜中彩ちゃんと何してるのー?」
「……何、とは?」
「昨日あたし帰り遅かったでしょ??…で、部屋に入ろうとしたら、○○の部屋が騒がしかったからさー。」
「…気のせいじゃねえの。」
「えぇー??でも、確かに彩ちゃんの声したんだよー??」
くそぅ…随分食い下がるな。できれば言いたくないことなんだけど…。
「疲れてたんだよ、君は。うん、きっとそうだ。」
「えぇー??絶対何か隠してるよー。…あっそうだ!」
「…なんだね。」
「ふっふっふー♪日菜ちゃんきちゃった!るんってきちゃった!!」
あぁぁぁぁ超絶嫌な予感がする…
「○○くんっ!」
「ダメだ。」
「まだ何も言ってないー!!」
ぶーぶー言うんじゃありません。…これは彩の為でもあるんだから。
「○○さん??賑やかですねー!!」
「おぉイヴ!!いつからそこに!」
まさに大天使!この状況を何とかしてくれ!!
「忍術テレポーテーションです!にんにんっ!」
「それなんか違う…」
「イヴちゃんも気になるよねー??」
「はい!私、気になりますっ!」
「あれぇ…?」
敵の攻撃力が倍増しただけだった。
「さあさあ、大人しく吐いちゃいなよぉ…」
「○○さん?諦め時を見誤るのは、武士道の風上にも置けないことですよ??」
「………はぁ。…何をそんなに気にしているんだ君らは。」
「だってさだってさ!!彩ちゃんばっかりずるいんだもん!!あたしだって○○くんと一緒に過ごしたいのぉ!!」
「「だ、誰だ!?」」「何奴っ!?」
「私の名前はまりっ、丸山彩っ!…○○くんの隣を守る女…!!」
「ああもうお前ら茶番は終わり!!」
何かもうどうでもよくなった。彩もいるし、多分言っても怒られないだろう。
「あのなあ、夜は彩と、ゲームの特訓してたんだ。」
「ゲームぅ?」
「ん。……少し前にさ、皆でレースゲーム大会やったじゃんか。」
遡ること一週間。たまたまパスパレ全員がオフだった日があって。
彩は俺の傍から全く離れようとしないし、千聖は千聖で俺への小言と家事で忙しそうだし日菜は…まぁよくわからなかったけど…ということで、結局全員が我が家に集合したんだ。
で、集まったはいいが何をするって話になって、俺の持ってるゲームで遊ぼうとなったんだよな。
あとは何となくお察し。大体のことは器用にこなす日菜が際どいショートカットやバグまで駆使してダントツ。普段からそこそこプレイしている俺が次点につき、あとは団子。
…特に不器用で有名な彩は、勝ち抜き形式でやっていたこともあってほぼゲーム自体参加できず終いだった。
「その時の彩の顔が忘れられなくてな…。…表面上は笑っていたが、あれは相当キツかったろ。」
「○○くん……。」
その次の日からだ。"特訓"という名目で毎晩ゲームをするようになったのは。
無邪気にゲームをしている彩の顔は、ただただ楽しそうで、一緒にいる俺も嬉しかったんだ。
「うわーお。」
「清々しいまでの惚気でぇす!」
「あ、ち、違うぞそういうのじゃ…」
「○○くん、彩ちゃん、またゲームで勝負しようよ。」
あれ、何だか日菜、怒ってる?目が…マジなんだけど。
**
「なぁおい、ゲームは明るい部屋で、テレビから離れて…って習わなかったか?」
「うるさいよ○○くん。彩ちゃんとばっかり仲良くして…あたしと一緒にゲームしたほうが楽しいって、教えてあげるんだから。」
「……どうしようイヴ?」
「ヒナさんは負けず嫌いですからねぇ。こうなったらもうやるしかないのです。」
「マジ?」
「マジです!」
イヴがそう言うならそうなんだろう…。いやもうこの状況、俺にはどうすることもできないのだよ…。
こういう時に限って千聖はいないし……早く帰ってこないかなぁ…。隣の彩は……
「○○くぅん……ぜ、ぜぜぜったい、勝てないよぅ…」
泣きそうだ!!
日菜はストレッチし始めているし。…いやSw○tchするのに柔軟性とかいらねえし。急にゲームしても怪我とかしねえし。
「さあ、
「お前何かの見すぎだよ…」
「ファイト!です!」
「あ、イヴは参加しないのか。」
――1戦目。
抽選の結果選ばれたのはビーチのコース。漣の音色に耳を傾け、軽快なエンジン音と共に水辺を走る爽快感溢れるステージだ。
相変わらず絶妙なハンドリングとコース取りで先頭をキープする日菜。右半分しか見えないドヤ顔は今日も美人だ。…一方彩は
「わっ、わっ、わー!!」
「あれ?れれれ?……うえぇ…。」
「ひー………うー……」
壁に引っかかり木にぶつかり海に沈み……見ているこっちが辛くなるほど悲惨だった。
リザルト画面に行く頃にはすっかり落ち込んでいて、近くの俺にはえぐえぐ言っているのが聞こえるようだった。
しかしここで露骨に彩のフォローに走っても日菜は是としないだろうし…。
「……どう?○○くんっ。あたし1番だよ!!」
「くそぅ……次は負けねえからな……。」
あっ。
わかった気がする。
ゲームっつうのは前提として楽しむもんだが、
次も楽しめたらそれでいいんだ。……よしよし、疲れている割にはいい閃きだぞ…。
「よし来い彩!」
「ふぇっ!?…えっ、わっ、ちょちょっ」
「!?…どういうつもり…?○○くん。」
すっかりお葬式ムードの彩を抱え上げ、胡座をかいた俺の足に座らせる。俺自身のコントローラーを置き、空いた両手は彩の体を包み込むように前へ。
「ふふふ…日菜よ、これが秘策。合体だぁ!」
「くっ…うらやま…じゃない、合体することに意味があるとは思えない…」
「ふふん、日菜程の腕前を相手にするには一人じゃ力不足…それなら、二人がかりでってな。」
後ろのイヴからの冷やかしはスルーしつつ、少し体温の上がった彩とコンビで挑む2戦目。
選ばれたのはシンプルなサーキットステージ。とてもシンプルとは言い難い無駄にグネグネした構成になっているが…。
…意外や意外。日菜がチラチラこちらを見るせいでケアレスミスを連発。それと対照的に、ゆっくりだが堅実な走りを見せた彩はなんと最終ラップまでトップをキープした。
最後の最後で日菜に逆転を許してしまったが、彩のやりきった顔が全てを物語っている。
「どうだ日菜!合体、侮れないだろぉ?」
「くぅ……」
あぁ、マジで悔しそうだ。
「お二人とも凄いパワーです!愛の力ですね!!」
「サンキューイヴ!君の応援もあったからこそ、さ!」
「別に応援はしてません!」
「………おう!」
中立なんだね…大天使。
「むぅぅぅぅぅぅ…ずるいずるいずるいずるい!ずるいよっ!」
「んー?ゲーム上ズルはしてないぞー。」
「それでもずるいのっ!あたしだって、○○くんと合体したいもんっ!」
「そっち……?ゲームの話じゃなくて?」
「ゲームもだけど……っ。○○くん!!」
「…なんだい。」
「あたし、もっとこのゲーム練習する!それで、二人の合体にダントツで勝てるようになったら、あたしとも合体して!」
いやいやいや…。弱い人たちが団結してボスを倒そうって話なのにさ。
君と俺が合体したら、理論上レイドボスのパーティをソロで倒すような状況になるぞ?灰塵に帰すぞ?
とは言え、ここは駄々っ子を相手にしているようなものだし、適当に合わせてあげないと収まらない、か。
彩に目配せすると、言いたいことは何となく伝わったようで笑顔が返ってきた。うん、可愛い。
「はぁ…しゃーないな。それでいいかな?彩。」
「うん。…でも、私も練習して上手くなるからね!!」
「やった!!次こそは圧倒的な差をつけちゃうからね……あ、このゲーム借りていい?」
「おう、もってけもってけ。つかリビングに置くから好きな時にやってくれ。」
「わーい!!」
「あっ待ってください日菜さん!!」
ゲーム機を抱えてドタドタとリビングに向かう日菜。…とそれを追うイヴ。
「…子供かあいつら。」
「えへへ……楽しかったよ?○○くん。」
「そうか?練習の成果が出てたみたいで何よりだ。」
さっきまでのしょんぼりさんは何処へやら。手をパタパタさせてご機嫌な従妹の頭をぐりぐりと撫で付ける。
うんうん、これだ。この押し返してくる感覚。
「わふっ……わぅ…」
と鳴き声。
「あ、でもね。練習もそうだけど、○○くんにぎゅってしてもらったから頑張れたんだよ。」
「そうなん?」
「一回目は…凄く悔しくて、泣きそうだったけど…。」
「それは知ってる。」
「でも、○○くんとくっついてたら不思議と集中できて、頑張れたと思うの。」
「それは……何よりだなぁ。」
「だから、ね?」
頭に乗っている手を振りほどき、俺の耳に口を近づける。…や、二人しかいないのに内緒話って…
「……普通に言えよ、照れるだろ。」
俺の従妹が、今日も可愛い。
わふっ
<今回の設定更新>
○○:誰もいない日はゲームで一人盛り上がる。
あんまりレースゲームは好きじゃない。
彩:わふっ。
ゲームももちろん苦手。でも頑張り屋さん。
日菜:負けず嫌いが発揮されるとすごく面倒くさい。
○○と合体するため、鍛錬の日々が始まる…!!
イヴ:見てるだけで楽しいです。