BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「……ん。」
物凄く深い眠りの中に居た気がする。
寝起きだというのに矢鱈ハッキリ覚醒した頭のまま、枕元のスマホを見る。……午後9時過ぎ。
「っえ!?」
「ひゃっ!?」
予想もしていなかった時間に思わず驚きの声を漏らすと、目の前を覆っていたグレーの景色から可愛らしい声がした。
確か布団はブルーとホワイトのストライプだったはず…となるとこのグレーのもこもこは一体?正体を確かめるべく両手で触れてみる。
「わひゃぁ!?……ちょ、ちょちょ……あひゃぁ!!」
柔らかい感触が掌に伝わるとともに、頭上から間の抜けた面白い声が降ってくる。声の方向に顔を上げると…
「…イヴ?」
「も、もう!〇〇さん!!…ヨバイは後で、皆さんが寝静まってからですよ??」
「…あー…何か察したわ。ごめん。」
つまるところ俺の布団にイヴが潜り込んでいたわけで。…目の前をグレーが覆っていた理由は、グレーのチョッキ?みたいなものを着たイヴが、正面から俺を抱き締める様に添い寝してたからと…うん、これでファイナルアンサーだ。
寝起きとは言えどこを触ってしまったかは言及しないようにして、そのままもぞもぞと這い出る。
「…すっげぇ寝た気がする。」
「そうなんですか?私が来た時にはもう寝ていたみたいですが。」
「まじかぁ。…彩は?」
「起きていきなりアヤさんを探すだなんて…すっかりあちち、ですね。」
「古いよイヴ。…それに、そういうのじゃない。」
「はいはい。アヤさんは今日はお仕事ですよ。…チサトさんならいますけど。」
「そっか。」
起きても彩は居ないのか…。ならこのまま寝るのもワンチャンアリだな、うん。
一旦離れはしたが、もう一度さっきの位置まで潜り込む。端から見たら犯罪臭のする絵面かもしれないけど、一度イヴの方から潜り込んできてるんだし問題ないだろう。
「ふふっ、今日の〇〇さんは甘えん坊将軍ですか?」
「俺が松〇健に見えるかね。」
「〇〇さんは可愛い系ですもんね。…私、明日も休みなので今日はこのまま…」
はい、いつものですね。
我が家の風紀委員長、白鷺千聖様のご登場だ。リビングの電灯を背に美しい金髪を靡かせて…。うん、ポニーテールも似合ってる。
「??なんでしょう?」
「イヴちゃん……そんな男に気安く体を許すもんじゃありません。」
「??なぜです?」
「男はみんなケダモノなのよ。いつ襲われるか、わかったもんじゃないでしょ…?」
酷い言われようだ。まだ誰も襲ったことねえよ。まだ。
「うーん……でも私、〇〇さんはケダモノなんかじゃないと思いますっ。」
「イヴ…」
「や、ケダモノよ。この前も日菜ちゃんに如何わしいことしてたでしょ?」
「う"っ…」
「そうなんですか?」
「……い、いやぁ…何のことだか……。」
「〇〇さん、こっちにいらっしゃい。」
「はい。」
何とも離れ難い楽園だったが仕方がない。今日までの期間で、白鷺千聖の一声には逆らえない体になってしまったんだ。…そんな目で俺を見るな、イヴ。
「将軍……。」
「いつからここはサンクチュアリになったんだ…。」
「バカなやり取りしてないで、早く来なさい。」
「あはい。」
一瞬の遅れも許さない。それが千聖様だ。
ベッドから起き抜け、若干の早足で近づく。
「あなた、本当に何もしてないでしょうね?」
「何もとは。」
「…日菜ちゃんにしてるようなことよ。」
「今日はしてないよ。」
「あ?」
「してません、ほんとに。」
また黒千聖が見えたぞ…。因みに日菜に如何わしいことをしている、などと大袈裟に言うが、ほんの少し創意工夫溢れるスキンシップを図っただけなんだ。
具体的には、ちょっと言えないけれど…。
「じゃ、イヴちゃん。深夜になる前に帰るのよ~。」
「つまらないですねぇ…。」
俺の襟首を掴み自室から引き摺り出す千聖。イヴは俺がベッドに戻れない事を悟ると、いそいそと帰り支度を始めたようだ。本当に俺と添い寝する為だけに居てくれた…?天使かよ。
そのままリビング迄連れてこられた俺。ソファに座るよう促され、俺が座った隣に千聖も腰を下ろす。
「なんだよ。」
「なんだよじゃないでしょ。何イヴと添い寝決めちゃってんの。」
「それは、イヴの方からしてくれたことで…。」
「そもそも寝過ぎなのよあんた。昨日帰ってきたかと思えばただいまも言わずにシャワー浴びて、そのままベッドに直行でしょ?飲み会の時のを繰り返す気?」
「あの時とは違うだろ…。ちょっと疲れてただけだよ。」
あの時…彩にキツく当たって泣かせてしまった日か。昨日はそんなこと無かったはずだけど。
「昨日の夜だって、彩ちゃんも日菜ちゃんも待ってたんだからね?あんたが帰ってくるの。」
「…遅くなるって言ってあったろ。」
「……それでも待つのよ、あの子たちは。」
何故か仲良くなってしまったPastel*Palettes。その中でも取り分け懐いてくれている二人。嬉しい事ではあるんだが、どうにも懐きすぎな気もする…。
「そりゃ悪かったよ。…千聖は?」
「あ?」
「待っててくれたのかなーって。」
「すぐ寝たわよ。馬鹿じゃないの?」
「あはい。」
この子だけは自分をしっかり持って暮らしてくれているようで何よりだ。あまりにもツンツンし過ぎて寂しいくらいだよ。
「じゃあ、二人に謝っとかないとな。」
「特に彩ちゃんなんて、朝もずっとそわそわしてたし。」
「俺が死んだと思ったとか?」
「挨拶でしょ。お仕事前の。」
いつだったか彩が提案した、「挨拶はハグと共に」ルール。新居に越してきてからも、彩と俺の間でこの習慣は続いていた。
寝る前にお休みのハグ、朝起きておはようのハグ、仕事前や学校の前には行ってきますのハグ…。まるで新婚夫婦の様だけど、彩がやりたいって言うんだから叶えているまでだ。俺も役得だしな。
そうか。そのチャンスを二度続けて逃している訳か。
「……じゃあ今日は待ってないとな。」
「当たり前でしょ。帰ってきたら真っ先に迎えてあげなさい。」
「おう……。…なぁ、この習慣、お前も」
「〇〇さん!チサトさん!」
「お、おう?」
「なあに?」
「私、そろそろ帰ろうと思います!」
「おう、一緒に寝てくれてありがとうな。凄く休まったぞ。」
「喜んで頂けて何よりです!!続きはまた、アヤさんのいない時に…ですね。」
「やめなさい。」
帰る準備ができたのだろう。食卓で喋る俺たちの元に、帰宅の報告をしに寄ってくれたようだ。
何故続きは彩のいない時に?続きって?と疑問は浮かぶが、帰るというのだから引き留める道理はあるまい。
「…ところで〇〇さん。」
「ん。」
「この家には、素敵な伝統があるとアヤさんからお聞きしました。」
「伝統?」
「ハイ!…それは、挨拶の時にハグすることでぇす!!」
「のわっ!?」
言うや否や。座っている俺に覆いかぶさるようにイヴが両手を広げて突っ込んでくる。と同時に再び視界はグレー一色に…。
最初こそ驚くが、やっぱりいい習慣なのかもしれない。広がれ、ハグの輪。
「んふー♪良い香りです~。」
「んむっ……むむむ……うむぅ。」
「……はい終わり終わり!いつまでくっついてるの二人とも!」
「えへへー、ぎゅってしちゃいましたぁ。」
千聖の一声に距離を置く二人。顔にはまだあの温もりと柔らかさが残っている。ハニカミ顔も可愛いイヴ。
「〇〇さん…??」
「なんだい千聖さん。」
「ウフフフフフフフフフフフ…」
「アッハイ。」
流石の大女優だ。笑顔一つでここまで気持ちを伝えられる人間がこの世に何人いようか。
どうも仲良くなれそうにないなこの子とは…。
「んん"っ。いいかいイヴ。もう夜も遅いし、危ない人がいるかもしれない。」
「はい!大丈夫です!」
「……これ、タクシー代に使いんさい。」
「えっ」
「ああいや、本当は送ってあげたいんだけど、鬼があの様子だからさ。
…君が心配なんだ。わかってくれるね?」
「〇〇さん…!!……わかりました。〇〇さんの愛、しかと受け止めて帰ります!!」
うんうん、それでいい。後ろから犇々と感じていた鬼千聖の霊圧も小さくなったし、きっとこの「早く帰す」選択肢が正解なんだろう。
丁寧にお札を畳んで財布に仕舞い、会釈をした後に玄関を出て行くイヴ。あぁ、俺の小さな天使よ、どうか再び相見えんことを…。
「何祈ってんの。…十字の切り方間違えてるし。」
「うるさいな、いいんだよこういうのは。気分だ。」
「それで?……さっき何か言いかけてたでしょ。」
「あぁ…。」
"習慣"のことな。
「挨拶でハグするってアレ…お前もやってやんなよ。」
「はぁ?嫌よ。」
「……お前がどれだけ彩の事を知っているかは知らんが…寂しがってたぞ、あいつ。」
「寂しい?何でよ。」
「…お前、俺の事鈍いってバカにする割には自分も中々のもんだよな。
あいつは"みんな"が好きなんだろ?パスパレのみんながさ。」
「好きだからって、ハグしなきゃいけない訳じゃないでしょ。」
「……一応訊くけど、そんなに頑なに拒む理由は何なんだよ。」
俺にならともかく、相手は彩だぞ?まさか嫌いって事もないだろうに。
「……嫌なのよ。自分が甘くなっちゃいそうで。」
「というと。」
「実際問題、Pastel*Palettesって子供っぽい子ばかりじゃない?」
「まぁ否定はできないけども。」
「だから、まとめ役と言うか、保護者みたいな人間が必要だと思うの。」
「ほー。それで、「私がしっかりしなきゃ~」ってことか?」
「言い方ムカつくわね。」
俺のモノマネはお気に召さなかったらしい。ただでさえ冷たい目がより険しくなる。
「…お前も大概だぞ。」
「何が。」
「子供っぽいって。」
「なっ…!…どこがよ!?私だって、私なりに、頑張って…!!」
「そういうとこじゃない?」
前々から思っていたことだけど、一番面倒な子供っぽさを持っているのは千聖かもしれない。
妙に斜に構えているというか、確かに大人な面なのかもしれないが、その実本人はまだ未成年なわけだし。守られる立場なんだから、もう少し肩の力を抜いて素直になりゃいいのに。
「意味わかんないんだけど。」
「だってさ…パスパレが子供っぽいって言うけど、実際みんなまだ子供じゃねえか。大人たちに囲まれて仕事をする以上、精神的に成熟していかなきゃいけないってのは分かるけどさ。
…なんつーか、お前だけだよな。変に大人ぶってんの。」
「………だからそれは」
「いーんだよ。年相応に周りに迷惑かけりゃ。保護者
どうして一つのグループで、ましてや歳も団子になってる五人の中でお前だけ責任を背負って行かなきゃならんのだ。」
「…………じゃあどうしろってのよ。」
「芸能界の事はよくわかんねえから出過ぎたことは言えないけどよ。…うちにいる時くらい、子供で良いんじゃねえの?
一応俺が保護者ってことになってんだからさ、甘さとか気にしないで素直に笑えよ。…千聖の素の部分だって、うちじゃ皆知ってる事なんだから。」
「…。」
「話が逸れちゃったな…ええと、ハグの話だったか。…だからな?もし、相手の事が嫌いなわけじゃなくて、甘さを見せないようにする為…それだけの理由だとしたら、この家の中では応えてやってほしいんだ。
なんつーかさ、同じ家に住んでるんだし、家族みたいなもんだろ?だったら余計な気を回すことなく、素直に自然体で過ごすべきだと思うんだよ。ありのままに、好きなら好き、嬉しいなら嬉しいってな。」
「……あんたは、それでいいの。」
「…他に問題があればわからんけど。」
「…考えてみる、けど…ハグについては、まぁ。」
歯切れ悪いなぁ…。まぁ急に自分を曝け出して行けって言われても難しいよな。特に千聖の場合、「子供っぽくなれ」と言われている様なもんだし、そう簡単にいく問題じゃないとは思うけど…。
この先一体どうなるやら…と俺が頭を回したところでどうなるものでもないんだけどね。
「んじゃ、そろそろ彩も帰ってくるし、その時には応えてやってくれ。」
「………ちょっと、立ちなさいよ。」
「ん。…なんで?」
「…いきなりハグするのって、照れるじゃない…。だからその、練習って言うか…。」
「俺とするのは嫌なんだろ?そこは別に無理しなくていいからさ、要は彩と…」
「いいから。…す、素直になれって言ったのは、〇〇でしょ…。」
「……千聖…?」
挨拶のハグ…の練習。いつも彩としていることを千聖ともするだけだ。それだけなのに、真っ赤になった顔を伏せ、恐る恐る両手を差し出してくる千聖の特別感よ。
これで演技や台本じゃないっていうんだから、どうして緊張せずに居られようか。
「い、いいのか?」
「ん…。して…。」
「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて…。」
ドッドッドッ…と、ここの所大人しめだった俺の心臓担当が、ここぞとばかりに存在をアピールしてくる。
自分の脈が速くなるのを感じながら、それを意識することにより余計鼓動は加速していき…。
「んっ…。」
「…………スゥ…ハァァァァ…。」
両腕の中に、すっぽりと千聖が収まった。
素直に身を委ねる千聖の、何と可憐な事か。……あぁ、これはこれで、彩とはまた違った良さが
「彩っ!?」
「彩ちゃんっ!!」
帰ってくるなり奇声を上げてぶっ倒れる従妹の姿に、先程迄感じていた謎の熱と加速現象なぞ忘れて駆け寄る二人。
聞こえちゃまずい音が頭からしたような…。
「うむむむむむむむむ……」
大きなたんこぶをこさえた彩が目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎになるのだが…。
千聖と彩の記念すべき最初のハグは、まだまだ先になりそうだ。
素直な千聖ちゃん。…いい。
<今回の設定更新>
〇〇:結局何だかんだで大人。
そこ、平時がガキ過ぎるとか言わない。
みんな妹みたいで可愛いなぁと思っている。
実の妹がいるがあまり懐いていなくて可愛くない。
彩:お仕事中。
脳に異常はなかった模様。
何だか無性にちびキャラにしたくなる。
千聖:次回からデレ組に回る…のか?
可愛い千聖ちゃん、千聖ちゃんかわいい。
イヴ:天使。
主人公と遊びに来たが寝ていた為、凄く自然なムーブで布団に入った。
痴漢とかされても気づかないタイプ。