BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/11/01 想いを歌え

 

 

「だーかーらー…一人でカラオケ行くなんて、今じゃ普通なんだってば。」

 

「嘘おっしゃい。私と居るのが苦痛になっただけでしょ。」

 

「あーもう話聞いてくれないなぁ…。」

 

 

 

仕事から帰ってきて早々何気なく発した言葉に何故か怒られている俺。正直怒られるようなことは何も言っていないと思うのだが、千聖様はどこかお気に召さないポイントがあったらしい。

勤務中からずっと歌いたい…大声を出したい欲求が止まらなかった今日、帰ったら絶対に一人カラオケ(ヒトカラ)に行ってやろうと決めて働いてきたのだ。

 

 

 

「大体、「カラオケに行くから晩飯要らない」って何よ。」

 

「言葉通りの意味だよ。それも、昼に電話で伝えたのに勝手に作って待ってたのは千聖だろう?」

 

「なっ……!私のご飯が、余計だって言うの!?」

 

「…そうは言ってないけど、事前に言ったのに用意されちゃあ連絡も外出もできないじゃんか。」

 

「なら家でご飯食べてから行けばいいでしょう!」

 

「俺は今日カラオケ飯の気分だったんだよ…ッ!」

 

 

 

千聖が心を開いてくれた結果、このような衝突はまま起きるようになった。今まで余程我慢していたんだろうけど、すっかり喧嘩の絶えない家に……それも、突っかかってくる理由が理由なだけに俺もあまり強くは言えなくて。

『千聖ちゃんね、〇〇くんに今までの分まで甘えたいんだって!』と日菜が教えてきたのはいつだったか。もしそれが理由でアレコレ言われているなら、果たしてどう対処すべきなのか…。

 

 

 

「ねーねー、彩ちゃん?」

 

「なぁに、日菜ちゃん。」

 

「…〇〇くんと千聖ちゃんってさ、夫婦みたいだよね。」

 

「えっ…。」

 

「喧嘩の理由とか、言い合いしてる様子とかさー。」

 

「……うん、そうかもね。」

 

「…彩ちゃん、いいの?」

 

「な、なななにが?」

 

「〇〇くん、千聖ちゃんに取られちゃうかもよ?」

 

「………私は、ただの従妹だから…。」

 

「…ふぅーん。」

 

「……………。」

 

 

 

こっちがヒートアップしていく中、少し離れて見守っている二人。どうやらこの風景が夫婦喧嘩に見えるらしいが、実際問題毎日喧嘩するような相手ならば結婚に至らないと思うがね。

 

 

 

「……千聖。」

 

「なによ。」

 

「もう……やめにしないか。」

 

「…今更素直になるなって言うの?」

 

「そこじゃない。この言い争い、今日は終わりにしないかって。」

 

「……何処に着陸させるつもりよ、この話。」

 

 

 

俺もただ只管に疲れるだけだし時間も勿体ない。…ついでに言うなら、ここに住んでいるのは二人だけではない訳で、あの水色とピンクを蚊帳の外にし続ける空気も嫌だったんだ。

話の落とし処については案はある。互いに妥協ってやつだ。

 

 

 

「千聖の言い分は、「家で飯を食っていけ」だろ?…で俺はカラオケに行けりゃいいんだ。」

 

「……極論はそうだろうけど。」

 

「よし、じゃあこうしよう。……取り敢えずみんな飯にしないか?」

 

「…食べるの?」

 

「おう。折角千聖が作ってくれた飯だしな。…そこの二人も腹減ってるだろうし、戴くとしようぜ。」

 

「わっははーい!日菜ちゃんさんせー!!」

 

 

 

妥協点その1。飯は用意されたものを食べる。…国民的アイドル・女優の手料理に対して何が妥協だと言われるかもしれないが一旦置いといて…。

その言葉に千聖の眉間から皺が消え、料理を温めにキッチンへ戻っていった。一方元気よく声を上げた大天使日菜たんは俺の腕を引き食卓へ引きずり込もうとしてくる、が……。

 

 

 

「…彩?」

 

「…………。」

 

 

 

彩は先程の位置から一歩も動かずに黙って俯いたままでいた。呼びかけにも反応しないし、何か考え事だろうか?

 

 

 

「日菜、彩何かあったの?」

 

「うーんとねー…多分それは、あたしが言っちゃダメなことだと思うなー。」

 

「…なんだいそりゃ。」

 

「〇〇くん自身で気付かないと意味が無いって言うか……彩ちゃんに訊いてみたら?」

 

「また訳の分からんことを…。」

 

 

 

流石天使。言っていることが理解できねえ。

埒が開かないので、未だ突っ立っている彩の隣へ…その頭をいつもの様にグリグリしてやるも、反応は薄い。

 

 

 

「…ん、どうした彩。いつもみたいに鳴かないのか。」

 

「……ぁ、うん。…ごめんね。」

 

「本当にどうしたんだ…?まだお腹空いてなかったか?」

 

「ううん、そうじゃないけど……。ね、〇〇くん。」

 

「ん。」

 

「…千聖ちゃんのこと、好き?」

 

「それは……どういう目線での答えを求めてんだ?同居人としては嫌いじゃないけど。」

 

 

 

家事も出来るし何だかんだで面倒見も良いしな。千聖が居てくれるお陰でウチの生活水準が保たれていると言っても過言ではない。

 

 

 

「女の子、としては?」

 

「…………うーん……嫌いじゃあねえけどさ。愛だの恋だのには発展しないと思うぞ。」

 

 

 

これ以上距離を詰めたら疲れそうだし。…そして何より、

 

 

 

「俺、あんまり付き合ったり結婚したりって考えてないからさ。…皆でずっと楽しくしていられたら良いかなーって。」

 

「そう…なんだ。」

 

「まぁなんだ、俺こういう類の話はあんまり得意じゃなくってなぁ。」

 

「………私はね、○○くんと」

 

「もー何してんのー??ご飯はぁー??」

 

 

 

彩が何か言いかけていたが、食卓からは待ちきれない様子の日菜から催促の声が飛んでくる。振り返ってみれば、食卓に同じように着いた千聖も無表情でこちらを見ているし、せっかく温めた料理を再び冷ますなということだろう。

咄嗟に彩の手を引き食卓へ強制連行してやる。

 

 

 

「ぁ…………。」

 

 

 

少し悲しそうな声を出す従妹だが、今はマナーの鬼を怒らせるほうが怖いんだ。すまんな彩。

 

 

 

「ふふふ、それじゃあ頂きましょうか。」

 

「おう!いただきまぁす!!」

 

「いっただっきまー!」

 

「…いただきます。」

 

 

 

相変わらず安定のクォリティを発揮する千聖の料理に舌鼓を打ち、満腹になったところで一人カラオケへ向かった。

 

 

 

**

 

 

 

「…千聖ちゃん?」

 

「なぁに、彩ちゃん。」

 

「その……料理って、私にも上手に作れるかなぁ。」

 

「…急にどうしたの?」

 

「……千聖ちゃんにばっかり迷惑かけられないと思って…」

 

「別に迷惑じゃないわ?私がやりたくてやってることだもの。」

 

「じゃ、じゃあ…私もやりたいなぁ…って。だめかな?」

 

「別にダメじゃあないけど…。教えてほしいってことかしら?」

 

「うん…あっ、でもね、忙しかったら別に、いいんだけど…」

 

「…ふふっ、いいわよ。オフの日にでも、少しずつ練習しましょ?」

 

「う、うんっ!!ありがとう千聖ちゃん!!」

 

「あたしもやる!!」

 

「日菜ちゃんは教えなくてもできるでしょ…」

 

 

 

家を出る直前、身支度を整えている最中に聞こえていた会話がこれだ。何やら料理を勉強したがる彩と、日菜が料理もこなせるといった新事実。

…何に触発されたのかは知らんが、彩が色々やりたがっている姿を見るのは素直に嬉しいもんだ。従妹という事もあってか、頑張り屋さんの妹を見ている気分だ。…まぁ、実際の俺の妹は可愛さとは無縁な奴なんだがなぁ…。

 

 

 

**

 

 

 

すっかり喉が枯れるまで歌…いや叫び、家に着いたのは夜中。日付も変わった後のことだった。

電気も真っ暗だし、きっと三人とも寝ているのだろう。足音を立てないようにまっすぐ自室へ…行こうとして、彩の部屋だけ明かりが灯っていることに気付く。

隙間を覗いてみると

 

 

 

「……誰もいない?ったく電気も点けっぱなしにしやがって…。」

 

 

 

パチリとスイッチを落とし、改めて自室へ向かうと……自室の扉が開いている。

まるで自動ドアだと変なテンションのまま考え足を踏み入れ…

 

 

 

「彩、何やってんだ人の部屋で。」

 

「うぇっ!?…ぁ、か、帰ってきたんだ…おかえりぃ…。」

 

「……何で俺の部屋で寝てんだ?」

 

「え、えと、えとえと……そう、ゲーム!ゲームの練習したくて、○○くんが帰ってくるのを待ってたんだよ!うん!」

 

「ゲーム??……あぁ、でも俺、明日早いからすぐ寝るぞ??…ま、お前の部屋にテレビないし、やるならヘッドホンつけてやってくれな~。」

 

「あぅ。」

 

 

 

確か前壊れた時に買ってやったのがあるはずだし。というか、こいつは明日学校するないのだろうか。もうすぐ一時だぞ。

 

 

 

「ぅぅ………。」

 

「……言いたいことがあるならちゃんと言ってごらん?」

 

 

 

何やら涙目で唸っている従妹に屈んで目線を合わせる。少し身長差があるとどうしてもこうなっちゃうんだよな。千聖が相手でもたまにするけど、どうして女の子ってのはこうちっちゃいんだ。

 

 

 

「ひ……」

 

「ひ?」

 

「一人で寝るの……寂しくって……。」

 

「………ん?」

 

「………なっ、なし!今のナシ!!私、もう寝るね!バイバ」

 

「待てってば。」

 

 

 

そんなに言い辛そうにしてるから何事かと思ったじゃねえか。その程度ならお安い御用だ。

 

 

 

「別にそんなの今更だろ?何度も一緒に寝てるんだし…」

 

「う、ぅん…いいの?」

 

「ん、ちゃんと言ってくれるなら全然いいぞ。…あでも、風呂入ってくるからそれだけ待っててくれ。」

 

「!!……うん!!」

 

 

 

ドアに手をかけていた彩だったがくるりと180度回転し駆け寄ってくる。…あぁ、撫でろってことか。

そのキラキラした笑顔ごと撫で繰り回すように、両手で頬やら髪やらをもみくちゃにする。さっきの夕食前とは違い「わふわふ」とリアクションが返ってきて心地よい。

…恐らく今なら、俺が「待て」と言えばずっと待ってるんだろうなぁ。

 

 

 

「んじゃ、いってくるかんな。…眠くなったら先に寝とけよ?」

 

「う、うん!!待ってるね!」

 

 

 

元気のいい返事。さっきまで落とされていた影は何処へやら、すっかり元気になった彩を確認し風呂場へ向かう。

 

 

 

……一時間ほどして戻ってきた時には、ベッドはすっかり占領され枕はヨダレでひたひたになっていた。

 

 

 

「……この状況でどこで寝ろってんだ。…このっ。」

 

「……うにゅぅ。」

 

「…………女の子として、か。」

 

 

 

眉に力の入っていない安らかな寝顔を見つつ、同居している少女たちに朝まで思いを馳せるのだった。

 

 

 

 




カラオケたのしかったです。




<今回の設定更新>

○○:結婚願望なし。実の妹を見ていたせいで女性に幻想がないタイプ。
   歌下手。

彩:可愛い。想いは隠せないタイプ。

千聖:素直だとべったりになっちゃうタイプ。女神。
   彩を応援したい気持ちと自分の気持ちと…唯一素直になれない感情に葛藤している。

日菜:賑やかしとお色気担当。

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