BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/11/18 役割

 

 

 

「…はぁ、あなたも一応大人なんでしょう…?」

 

「面目ない…。」

 

 

 

月曜日。本来なら出勤の予定だったが、訳あって本来の出発時刻の数分前に()()()()

…まぁ、単に日曜の夜に友人と隣町で飲んで終電を逃して…と、社会人としてあるまじきミスをやらかしたんだが。今は抜けきっていないアルコールと夜通し歌ったことによる体への披露から千聖に介抱を受けている真っ最中だ。

 

 

 

「はぁ…ちーちゃんの膝は落ち着くなぁ。」

 

「ばっ…!…馬鹿言ってないで、反省、しなさいよ…。」

 

「あぁー!千聖ちゃん照れてるぅー!かーわーいーいー!!」

 

 

 

若干ひんやりとした柔肌に顔を埋め、飲酒とダッシュにより火照った顔を冷やす。現状最高の癒しといっても過言ではない応急処置だが、日菜の喧しい茶化しのせいで台無しだ。お前の声は響くんだ…。

 

 

 

「日菜たん…。」

 

「う??」

 

 

 

こいこい、と千聖の太腿に突っ伏したまま手招き。

阿呆のように近寄ってくる日菜を抱き寄せ、姿勢を変えた俺自身の胸でその顔を覆う。ややジタバタとした日菜だったが、暫くして大人しくなったようだ。

…やや手荒な方法だったが、結果としてうちの静寂は守られたんだ。安らかに眠れ日菜。

 

 

 

「むー…。」

 

「「むー」??」

 

 

 

謎の唸り声に頭を上げると、頭上で金髪の女神さまが頬を膨らませていた。

いや、君から「むー」って…可愛すぎか。

 

 

 

「どしたんちーちゃん。」

 

「…しらないっ。」

 

「…妬いてんの?日菜に。」

 

「……別に。」

 

 

 

いやいやもう顔に出とりますやん…。

 

 

 

「じゃあ千聖、君も」

 

「あ、私今日収録があるんで。」

 

「………ううむ…。」

 

「はい、じゃあもう膝枕おしまいね?自分でちゃんと会社に連絡するのよ?」

 

「連絡?」

 

「そんな状態で仕事なんて無理でしょ。…一日家で休みなさい。」

 

 

 

なんてこった。少し太腿に載せていただけなのにそんなことまで分かるのか。何者だよこの子。

手を添えられゆっくり起きた先で、椅子に座ってぼーっとしている彩と目が合う。

 

 

 

「…おはよう、彩。」

 

「…おはようじゃないよ。」

 

「……こんにちは?」

 

「違うもんっ。○○くんの馬鹿。」

 

 

 

一体何なんだ??…やけにつんけんした態度だったが、朝帰りに対して怒ってんのか?

 

 

 

「…なぁちーちゃん」

 

「じゃあ、私はもう行くから……いい?ちゃんと体を休めるのよ?」

 

「ういういー。気をつけていってら~」

 

 

 

冷たいフローリングに再度倒れ込みながら、身支度を整え仕事モードに切り替わった千聖を見送る。凛と伸びた背筋に冷たい空気を纏った立ち振る舞い…女優白鷺千聖、か…。

 

 

 

「おっといけねえ。」

 

 

 

見とれている場合じゃなかった。曲がりなりにも欠勤するんだし、会社に早急に連絡を入れんと…。

胸元でぐったりしている水色を床に放り投げ、スマホを取り出す。電話帳の上位に表示されるよう記号で囲った上司のデータを見つけ、素早く二回タップ。…数回のコール音を聞きながら廊下へ出たところで、気怠そうな低音ボイスが出てきて…。

 

 

 

**

 

 

 

「ふぃー…。」

 

 

 

相変わらずネチネチと煩い上司だったが、死にそうなんで休みますの一点張りで何とか切り抜けてやった。これだけでストレスが溜まりそうな作業だが、丸一日をダラダラ過ごせると思うと不思議と気は楽になった。

と、そんな俺の前を見覚えのある猫背のピンクが通り過ぎていく。

 

 

 

「あれ?…彩、お前も今日は仕事か。」

 

「…………ねえ〇〇くん。」

 

「ん。」

 

 

 

玄関へ向かう廊下、その途中で足を止め振り返ることなく俺の名を呼ぶ従妹。

 

 

 

「……〇〇くんは、誰が好きなのかな。」

 

「…はぁ?」

 

「少なくとも……私じゃない、よね。」

 

「いや俺は…」

 

「行ってきます。」

 

 

 

怒ってる…のか?いつもの挨拶も無かったし、グロッキーの俺には目もくれずに颯爽と玄関を飛び出して行ってしまった。

ううむ、俺また何かやっちゃった…?

 

 

 

「ふふふふ…」

 

 

 

確かに酔っぱらって朝帰りしたのはどうかと思うけど、それでも彩には迷惑を掛けていない筈だ。

介抱だって千聖がしてくれたし……

 

 

 

「やっと二人きりになれたね〇〇くん…」

 

 

 

あっ…日菜を虐めたのが悪いとかそういう?

……でも、あの煩さを二日酔いの頭で受け止めるのは無理だって。死んじゃうよ、俺。

 

 

 

「もー!!!」

 

「ぉお!?びっくりしたぁ!!」

 

 

 

背中のすぐ後ろで大声を張り上げる水色騒音お姉さん。…だから、その声が頭に響くんだってば…。

こいつはこいつで何が不満何だかぷりぷり怒ってらっしゃるし。

 

 

 

「…どうした日菜、窒息させたのがそんなに苦しかったのか。」

 

「別に!!……それよりも、折角あたしが二人きり感を演出してるのにスルーするってどういうことさ!」

 

「言うて珍しい事じゃないだろ?」

 

 

 

アイドルグループと言えど、グループ全員の仕事は中々無いようで。大抵誰か一人は家にいる為、二人きりの状況にそれほど特別感は感じなくなっていた。

…そもそも、この水色とだって何度もあったはずだし。

 

 

 

「そうだけどさぁ……もっとこう、ドキドキしたりしないの??」

 

「日菜たん相手に?」

 

「うん。」

 

「…………うーん。」

 

「まるっきりしないって顔だね。」

 

 

 

何だろう。実際に会えるようになる前…テレビでアイドルとして応援していた頃の日菜たんに対しては正直色々想像したりしたし、妄想もした。

実際初対面の時も心臓がおかしくなりそうだったし、少し前まではその顔すら直視できなかった。

 

 

 

「むーっ!あたしにもドキドキしてよぉ!!」

 

「頼まれてするもんじゃないだろ。」

 

「そうだけど……もう、えいっ!」

 

 

 

ふに。

俺の左手が何か柔らかいものを鷲掴みにしているようだ。その手を誘導したのは紛れもなく目の前のこの子なんだけど、この子は何を考えているんだ?

そのまま感触を確かめるようにニギニギさわさわと手を動かす。

 

 

 

「うみゅっ……んぁっ………んっ…ふ……。」

 

 

 

うむ、今日も形のいい尻だ。

…まぁ、こういうところなんだよ。ドキドキしない理由は。

この氷川日菜って女の子は、スタイルも顔の造形も非の打ちどころが無いほどに最高なんだ。その上才能にも恵まれていて、何をやらせても…ステージの上も下も関係なく、何処でも一際輝いた存在になっちまう。

凡人の俺にしてみりゃ、その部分が眩しく、憧れていた部分であったんだろう。一緒に住む様になって、女の子として誰が好きなのかと考えた後には、もうドキドキなんて感情は抱かなくなっていた。

 

 

 

「……あ、あれ?もう終わり??」

 

「終わり。あんまり体を売るんじゃないぞ…アイドルなんだから。」

 

「ドキドキした?」

 

「…「あ、こいつやべえ奴だ」って思った。」

 

「〇〇くんって、変わってるよね?」

 

「そうかもな。……んじゃ、俺は寝るから、適当に遊んで過ごしてな。」

 

 

 

何だか妙に悔しそう…それでいて嬉しそうな日菜を置いて、頭痛対策に一眠りすることにしたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

あれからどれ程寝たか……。

ふわりと香るフローラルな香りと、程よい体温に挟まれる感覚に目が覚めた。…いや、これは流石に狭いな。

 

 

 

「……ぁ、起きちゃった…。」

 

「ヒナさんが動き過ぎなんだと思います!」

 

「イヴちゃんだって足絡めてるくせにぃ!」

 

 

 

成程成程、身動きが取れないと思ったら案の定こういうオチか。イヴの効能か、寝起き直後にしては冴え切っている脳を働かせ現在の状況を把握する。

右側…やたらと薄着で抱きついているのは日菜だろうな。このクソ寒い季節だって言うのに上はタンクトップ一枚、下は恐らく下着オンリーだ。蟹挟マジやめろ。

そんで左側…こちらは異常なまでの安心感と包容力を感じる…ニット生地のイヴだな。厚めの生地越しでも感じられる柔らかさと顔を上げればそこにある天使の様な笑顔……余談だが、イヴに背中をトントンされると即効で睡眠状態にされてしまう。必中で睡眠確定は強い。

 

 

 

「……おはよう二人とも。」

 

「はいっ、おはようです!」

 

「〇〇くん、幸せな目覚めだねぇ!」

 

「…日菜、ブラ着けてないの?」

 

「その方が嬉しいかと思って!」

 

「ヒナさん…はしたないです…。」

 

「そうだぞ。」

 

「えぇー???」

 

 

 

二日酔いの頭痛は治まったが、どうやら次は日菜の暴走っぷりに頭を痛めることになりそうだ。急にどうしちゃったんだろうこの子。

 

 

 

「…イヴもイヴだけどなぁ…。」

 

「なんです??」

 

「君、どうして俺が寝てる時しか遊びに来ないの。」

 

「うーん…。私が来るときに限って〇〇さんがオネムなのでは??」

 

 

 

いやまぁ尤もなんだけどね。

 

 

 

「いつも寝起きでしか君と話せないからさ、何だか申し訳ないよ。」

 

「私は、〇〇さんの寝顔好きですよ??」

 

「そういうことじゃねえんだよなぁ…。」

 

「…私の添い寝…迷惑になってるですか??」

 

「ううん、最高。」

 

 

 

君と一晩寝るだけで一週間は動けるもん。最高の癒しだよ。

 

 

 

「よかったぁ!それならこれからも、チサトさんが居ない時を見計らって潜り込みますね!」

 

「…やっぱ確信犯なんじゃないか…。」

 

 

 

Pastel*Palettes一番の癒しここにあり…か。

 

 

 

「日菜、あんまりキスマークつけないで。」

 

「やだっ!」

 

 

 

人が天使とほんわかしてる時に何をしているんだね貴様は。…いや、迂闊にうなじを向けた俺も悪いのか…?

だからってそんなに連打はしないと思うが…相変わらず真意の測り切れない奴だ。最早モンスターだこれ。

 

 

 

「ダメですよヒナさん。…本妻のアヤさんとチサトさんに怒られてしまいます。」

 

「本妻て。」

 

「だってぇ!二人ばっかりずるいんだもんっ!あたしも好きになってもらうのぉ!」

 

「だったら尚更、〇〇さんの嫌がることは駄目だと思います。」

 

「あぅっ…」

 

 

 

クレイジーVSド正論。ある意味不毛とも言える戦争だが、俺はここに美学すら感じるね。

理論的にも物理的にも板挟みな俺だけど、この戦いは何だか目が離せない。

 

 

 

「で、でもっ!あたしが目立つにはもうこういう事しか…」

 

「どうしてそうなったですか??他になかったんですか??」

 

「他の()()()っぽいことは彩ちゃんと千聖ちゃんが大体してるんだもんっ!」

 

「ですから、お二人は本妻なんです!…第一、お二人とも何れはそういうことすると思います。」

 

「うそ!?…じゃぁ、あたしは一体どうしたら…」

 

「別に何もしなくて良いのでは??」

 

「それじゃあ好きになってもらえないもん…。」

 

「でも、嫌われることはないですよ?」

 

「うぅぅぅぅぅぅううぅぅぅぅぅ…。」

 

 

 

あぁ可哀想に。分かってはいたことだけど、正論の勝ちだこれ。日菜には申し訳ないが、ここは一度"何もしない"という美徳を知ってもらって追々は…

…と真面目ぶったことを考えつつ、イヴの胸に全力で顔を埋めた。ドサクサに紛れて腰に両腕も回させてもらった。

 

 

 

「…あっ。ほら見てくださいヒナさん!…これが、〇〇さんの答えです!」

 

 

 

引き合いに出された。

 

 

 

「あーっ!あたしに抱きついてよぉ!!〇〇くんのばかー!」

 

「いや、その…」

 

 

 

流石に下着も着けてねえアイドルの胸には埋まれねえよ…。

 

 

ガチャッ

 

 

あっ。

 

 

 

「アナタタチ、ナニヲヤッテイルノ…」

 

 

 

あーこれ、デジャビュって奴だ。

 

 

 

**

 

 

 

「全く…あなたもいい大人でしょう?捕まるわよ。」

 

「面目ない…。」

 

 

 

イヴが帰った後、朝と同じように説教を受けるダメダメなおじさん…。

捕まるってワードに特にビビッと来たね。

 

 

 

「第一、一緒に寝たりとか体触る相手なら困ってないでしょう?」

 

「いや言い方よ。」

 

「なぁに?」

 

「いえ別に。」

 

 

 

恐らく彩の事を言っているんだろうけど、その肝心の彩もずっと機嫌悪いしなぁ。

 

 

 

「あのね、〇〇さん。」

 

「はい。」

 

「物事や人には役割ってのがあるの。」

 

「はい。」

 

「その役割を全うしてこその存在意義なのよ。」

 

「はい。」

 

「逆に、与えられた役割を他の人に横取りされたらどうかしら?」

 

「…ええと。」

 

「哀しいし、寂しいじゃない?そりゃ、怒りもするわよ。」

 

「…つまり?」

 

「きっとまた部屋で泣いてるから、さっさと慰めて一緒に寝てやんなさい!この馬鹿!」

 

「あっはい。」

 

 

 

長々と説教垂れてはいたけど、要は彩ともっと一緒に過ごしてやれってことか。…考えてみりゃ最近はイヴか日菜とばかり寝ている気がするし、昼間膝の上に乗ってるのも最近は日菜だし…

具合悪い時や風呂入るときは大体千聖かイヴと居るし…あれ?こうして考えると彩と殆ど関わってねえな。

 

 

 

「…あ、千聖?」

 

「な、なによ?」

 

「さっきの話で引っかかったんだけど…体触る相手は流石にいないぞ。」

 

「……それは、例えじゃないの…。」

 

「ほーん…?…じゃあ、それは千聖の役目に」

 

「早く行きなさい馬鹿!!」

 

 

 

うん、余計な事は言うもんじゃないな。

 

 

 

 




次回は彩ちゃん回。




<今回の設定更新>

〇〇:随分な事をやっている模様。
   多分一番この状況を楽しんでる。

彩:寂しがり屋だってば。
  大好きなんだってば。

千聖:安定の世話係。
   仕事の時の切り替えがエグい。

日菜:クレイジービューティー。
   何とかして主人公を振り向かせようとするが、多分それは好き嫌いより勝ち負けの話。

イヴ:眩しい。
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