BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

229 / 278
2019/12/05 目覚め

 

 

 

「……えい。」

 

 

 

ぷにぃ

 

 

 

「…うみゅ??………むむぅ………すぅ……すぅ…」

 

 

 

休日の朝。無駄にぐっすり寝たせいか日が昇る前に目覚めてしまったようだ。尤も、日が昇っていないのは時間の問題ではなく季節の問題なのだが。

本来であれば毛布に羽毛布団を重ねて眠るベッドも、今日は布団とタオルケットのみ。温度を上昇させてくれる温もりの根源は、未だに俺の左腕を枕に眠り続けている。その柔らかくハリのある頬は永遠に触れ続けていても飽きが来ることはないだろう。

 

 

 

「…しっかし、こうしてると昔を思い出すなぁ…なあ彩よ。」

 

「すぅ……すぅ……んんっ、んぅ……」

 

 

 

従妹である彩とは、まだ俺が幼かった頃にこうして一緒に寝たりもしていたもんだ。…懐かしいなぁ、祖母(バア)さんの家に二人で泊まったり、よくしたっけなぁ…。

 

 

 

 

 

** **

 

 

 

「ねぇねぇ!○○くんは、あしたも、あさっても、そのつぎもいっしょにいるんだよねぇ!」

 

「そうだよー。冬休みは来週いっぱいだから、それまではここに泊まるかな。」

 

「えへへ!…えへへへへへっ!!」

 

「やけにご機嫌だなぁ…何かいいことでもあったのかい?」

 

「あのねあのね、彩ね!○○くんとあそぶために、しゅくだいもぜんぶやってきたんだよ!」

 

「マジ!?…俺全然やってないなぁ…」

 

「えーっ、それじゃあ…あそべないの…?」

 

「宿題なんかね、やらなくても遊んじゃえばいいんだよ。」

 

「だめだよ…がっこうでおこられちゃうよ??」

 

「いいんだよ、俺は悪い子だから。」

 

「えぇー……それじゃあ、彩はいいこ?」

 

「ん、いい子だよ。…いい子だから、そろそろ寝ようね。」

 

「えぇー…彩、まだねむくないもん。」

 

「あれぇ?ちゃんといい子にするから一緒に寝るって約束だったろ??」

 

「そうだけど…そうだけどぉ……」

 

「ほらほら、離れたら寒いだろー?明日も早く起きて、朝からいっぱい遊ぼ?な?」

 

「うゆぅ……ほんとう?彩とあそんでくれる??」

 

「おう、いっぱい遊んじゃうぞー。……だから、今日はもう遅いし寒いから、ぎゅってして寝よ?」

 

「…うん、わかった。…彩、いいこ?」

 

「ん、いい子いい子。…おやすみ。」

 

 

 

** **

 

 

 

……ん、あの頃も彩は可愛かった。何処へ行くでも後を付いてくるし、それでいて何をやらせても同じ頃の俺より真面目にこなすし。

長い休みに親戚が集まる時くらいしか会えなかったけど、いつでもこうして俺の左腕を独占してたなぁ。頭撫でてやらないと寝付けなかったりするところは今でもあまり変わりゃしないが、よくここまで大きく立派に育ったもんだ。

 

一晩じゅう枕の上を転がり乱れた桃色の髪を梳くように撫でてやると、いつも嗅いでいるのに今日は無性に懐かしくなる甘い香り。…回想なんかするもんじゃないなぁ。

 

 

 

「んゅ………ぅ??……へ、あ、○○くん??」

 

「……なんだ起きたのか。」

 

「…ん、おはよ。」

 

「おはよう、彩。」

 

「……うん…。」

 

「…………。」

 

「…………えと。」

 

「…彩はいい子だな。」

 

「……へ?」

 

 

 

いけねえ、つい回想の続きが。頭を撫でているのと、寝起きで目の前の顔が幼く見えることもあるのだろうが、どうも昔のように可愛がりたい欲が出てしまう。

 

 

 

「……寒くないか?」

 

「…う、うん。」

 

「………まだ寝るか?」

 

「……どうしよ。」

 

「今日は、仕事は休みなのか?」

 

「……うん、だから学校いかなきゃ。」

 

「……もう起きる?」

 

「………今何時??」

 

「よい…しょっと。……七時前だ。」

 

「……もうちょっとだけ、こうしててもいい?」

 

「ん……おいで。」

 

 

 

もぞもぞと身動ぎの後、俺の脇腹に腕を回しより密着する面積を広げる従妹。目の前に迫った顔がほんのり朱に染まったかと思えば、

 

 

 

「……頭も、なでてくれてても、いいよ。」

 

 

 

つっかえながらもそんなことを言う。

可笑しくてついニヤけてしまうのを隠すこともせずに空いている右手で、今度はグシャグシャと掻き乱すように、少し力強く撫でてやる。そうすればほら、今度は目の前の顔がふにゃりと蕩けるのだ。

擽ったそうに目を細め、顎をくいと持ち上げた彩は「わふぅ」といつもの様に小さく鳴いた。

 

 

 

「……さっきお前の寝顔見ててな、昔のことを思い出してたんだ。」

 

「わふっ……昔??」

 

「ん……。…彩は昔も可愛かったなってさ。」

 

「えっ、えっ?きゅ、急にどうしたの??」

 

「あの頃は、本当の妹だと思って可愛がってたんだぜ。祖母さんちに泊まってる時なんかはずっと一緒に居たもんな。」

 

 

 

頭を撫でる手をずらし、耳から頬、口元へと持っていく。

まだトロンとした目の従妹はあの頃と変わらず朝が弱い。それは暑い寒いに関わらず、どれだけ眠れたかにも関わらずであり。

 

 

 

「……今は?」

 

「え?」

 

「…今は、どう思ってる?私のこと。」

 

「あぁ、そりゃ勿論…」

 

 

コンコンコンコンコンコンコン

 

 

「「!!」」

 

 

 

返答のタイミングで重なるノックの音。…そうか、千聖が起こしに来る時間か。

 

 

 

「ちょっと、彩ちゃん??遅刻するわよ。」

 

「えっ、…あっ、わわっ、い、今行くよ!!」

 

「……。」

 

「じゃ、じゃあ…○○くん、私、起きるね。」

 

「……………彩。」

 

 

 

起きようとする彩を逃すまいと抱き寄せる。……二、三分はそうしていただろうか。互いの心の鼓動だけが響く距離に、体温とはまた違う熱さを感じ腕の力を緩める。

流石に遅刻させるわけにもいかず、距離を離して再度桃色の毛並みを掻き乱す。

 

 

 

「…挨拶、忘れてたからよぉ。」

 

「……ぁ…そ、そだね。」

 

「……遅刻すんぞ。」

 

「あっ、そ、そそそうだった。…じゃあ、行って…くるね。」

 

 

 

ベッドに掛かる重みが片側、俺一方に寄る感覚と共に温もりが抜け出ていく。次いで残る喪失感。

カチャリと開く扉に従妹の姿が吸い込まれていく間際―――

 

 

 

「彩!」

 

「…ぇ?」

 

「…お前のこと、今はただの従妹だなんて思っちゃいねえからな。」

 

「………ぁ…う……えと…」

 

「……行ってこい。」

 

「…う、うん!行ってきましゅっ!」

 

 

 

―――無性に、「行かないで欲しい」…と、そう思ってしまったのだ。

ああ、ほんとに、昔のことなんか思い出すもんじゃない。

 

 

 

「…そうか、今日は何の予定もないのか。」

 

 

 

彩が閉めて行ったドアに跳ね返るその独り言は、抱いてしまったその感情を紛らわせる術が無いことを示していた。

 

 

 

 




冬の朝は寒い。




<今回の設定更新>

○○:彩は従妹。ただの従妹である。
   昔は今と違って面倒見もよく、彩にべったりだったようで。
   寒いのと寂しいのが苦手。

彩:わふぅ。
  頭を撫でられると、耳の後ろが擽ったくなる感覚が何とも言えず好き。
  昨晩の○○と一緒に寝る人選手権勝者。
  学校にはちゃんと行く。

千聖:ママ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。