BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2019/10/07 邂逅編・天使のPareo
「……
仕事中突如奥歯が痛み出し、慌てて飲んだ鎮痛剤も効かず…。そう、我々人間の中で畏怖の対象として口授されている、"親知らずの反乱"である。
とは言え、こんな片田舎の歯医者なぞ、どこも17時や18時までの診療が主流であり、勤務時間終了後に受診できる場所はそう多くない。
痛みの退かない昼休み。ダメ元でグー○ル先生に訊いてみたところ唯一ヒットしたのがこの羅須歯科。……地味にネット予約可能だったのも評価が高い。
ただ、評価欄が軒並み低評価だったのは気になったんだが…背に腹は代えられないと、当日予約したってわけだ。
「……すっっっっげぇネオン。」
そういう建物の密集地であるかのように、ギラギラと不気味に光る建物。看板も表札レベルで小さいため、予約でもしていなければ歯医者だとは思わないだろう。
外観とは裏腹に、"ザ・歯医者"といった匂いの中受付を目指す。取り敢えず保険証は持ってきたし、大丈夫だろう…。
「あっ!ええと…らっしゃぁせ!!」
「は?え、あどうも。予約してた者なんですけど…」
「よやく??」
「あれ??」
「よやく、って?」
「あの、ネットから……ええと」
受付の綺麗な黒髪のお姉さんはぽかんと口を開けてこっちを見てくる。小首をかしげる姿は食事中のウサギのようで可愛いし、滅茶苦茶美人の類だと思うんだけど……予約、伝わってないのかな。
「ちょっとまってね?」
「あはい。」
考えた結果何もわからなかったのか、受付にある内線電話を操作するお姉さん。………ポチポチポチポチポチポチ…桁多くない?そんな複雑な内線なの?
「あ、これうちの番号だ。」
「こっちの事務所ってやつじゃないですか?18番。」
「あ、それかも。えへへ、ありがとーねお兄さん。」
「あはい。」
我慢しきれず身を乗り出して口出ししてしまった。今までの話の通じなさは何だったのか、言われた通りに1・8と入力するお姉さん。……あ、名札。この人「花園」さんっていうのか。ふわふわしててぴったりだな。
「あ、えっと……なんかね、よやくって人がいるよ?」
「……。」
「……うん…う?………うんうん、……わかんない!」
「…………。」
「………えー?……わかったぁ。じゃねー、ばいばいー。」
大凡患者の前で話す様子とはかけ離れたものだったが、連絡は終わったらしい。
「予約、取れてました?」
「…ん??よやく、って??」
「あれ、今の電話は…」
「あ、レイ~。この人だよ、この人。」
「ちょ、だめだよ!患者さんに指さしちゃ!!」
「…間者?」
奥からこれまた綺麗なお姉さんが出てきた。「レイ」と呼ばれた彼女は、受付の花園さんとは違ってクールビューティな雰囲気がある。
未だ俺を指し続けている花園さんの手をそっと下ろし、にこやかに話しかけてくる。
「19時にご予約されている方ですよね?…ええと、○○さん。」
「あ、そうです!よかった…予約失敗したのかと思った……」
「す、すみません…この子も、悪い子じゃないんですけど…」
「あ、うん、全然気にしてないんで大丈夫ですよ。楽しかったし。」
「うぉっ!お兄さん、いい人?」
謎のポーズを取る花園さんに一礼し、レイさんに導かれ診察室の方へ。6個並んだ椅子のうち、一番窓側へ案内されるままに座る。
「すぐ先生が来ます」と言い残しレイさんは去っていってしまった……。
…にしても、俺以外の患者一人もいないんだな。遅い時間ってのは分かってるけど、逆にどこもやってない時間だし、社会人とか多いかなーって勝手に想像してたんだけど。
「おい。」
「っえ??」
「お前、今日はどうしたんだ。」
「はぁ?」
「……あぁ、名乗るの忘れてた。佐藤です。佐藤ますき。」
「あ、先生なんですね。よろしくお願いします。」
「で?」
「え?」
「どうしたんだ、今日は。」
ぶっきらぼうな話し方だな…。
先生と自称する金髪の女性。や、仮にも医療現場でここまでギラギラした髪色ってのもどうかと思うけども、怖ぇよ。
取り敢えず質問には答えておく、低姿勢で。
「……あぁ、そういう感じか。じゃあまずは写真だな。…あっちの部屋行って。」
「あはい。」
指差された方向を見ると、…あぁ、レントゲンの部屋ね。
手渡された紙のエプロンのようなものを装備しながら歩いていく。……ドンッと。何かにぶつかった気がした。
が見渡しても何もない。何か機材でも蹴ってしまったかと足元に視線を移―――何だか小さな女の子が不機嫌そうに見上げていた。
「あ、ごめんね。ぶつかっちゃったね…。大丈夫?」
「…アンタも私をChild扱いするってわけ?」
「……あ、大人の方なんですか??」
「うっさい!早くその部屋入る!そこ座る!これ噛む!…動くんじゃないわよ!!」
稲妻の様な速さで指示とセッティングをし、力いっぱい扉を閉めて出て行かれた。あぁ、レントゲン撮ってくれるってことは…衛生士さんか技師さんってところか。失礼なこと言っちゃったな。……だってさ、俺の胸くらいまでしか身長ないんだよ?子供だと思うじゃん。
「終わりよ!口の中のはそこ、あとそれはそっちに置いてさっさと席に戻りなさい!」
「……何で俺怒られてるんだろう。」
複雑な気持ちのまま先ほどの椅子へ向かう。…あぁ、もう佐藤先生が仁王立ちで待ち構えてるよ。だから怖ぇんだって…。
「撮った?」
「はい。」
「…タメ口でいいぞ。」
「いや先生ですし。」
「…そうかよ。」
不満なんですかね。
「ふむ。お前、前にも親知らずの治療したのか?」
「ええまあ。と言っても、炎症が起きた時に消毒して抗生物質飲んだくらいですけど。」
「へぇ。…今回は親知らず関係ないぞ。」
「まじすか。」
「あぁ。写真撮ったんだから分かるよ。…ほらこれ見ろ。」
「………や全然わかんないす。」
レントゲン写真突きつけられてもな。暗いし。
あ、これブラックジャ○クで見たやつだ!くらいにしか思わんよ。
「ここ。」
「はい。」
「割れてるぞ、歯。」
「え"…それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないから治療に来たんだろ。馬鹿か。」
「まぁ…。」
「ん、じゃあまず削るから。…麻酔したいか?」
「痛いのは嫌です。」
「はぁぁぁ……じゃあ横になれ。倒すぞ。」
不思議とこの先生の「倒す」が「椅子を倒す」じゃなくて「お前を倒す」に聞こえるんだよな。
英語で言うならテイクダウンだ。
「おらぁ!!」
「!?」
「なんだこれ……人の口の中とか生理的に無理だわ…。」
「!!…!!」
「この辺刺しとけばいいか。」
「!!??」
「んじゃ削るぞー。」
「!!!!!!!!!!!」
「何だよジタバタすんなよ、他削っちまったらどうすんだ。…殺すぞ。」
「!!?????」
**
地獄の時間だった。恐怖やら痛みやら、今までの人生観が根こそぎひっくり返るほどの衝撃。結局何が起きていたって言うんです?
気が付けば枕が…これまた新しいお姉さんの膝に変わり、優しい掌で頭を撫でられていた。
「……終わった、んですか…?」
「はい~。全て終わりましたですよ~。」
「……めっちゃ怖かったぁ…。」
「マスキさんは少々やりすぎちゃうことがありますからね~。あ、でもでも、悪い人じゃないんですよ~。」
「本当すか…。」
「ふふっ、怖かったですよね~。落ち着きましたか~??」
「お姉さんは…一体…?」
なんだこれ…歯医者に於ける天国と地獄。いやそもそもこれは歯医者なのか?
…新手のプレイみたいだけど。頭上に見えるカラフルな髪、人懐っこそうな優しい笑顔。名前だけでも訊いていかなきゃ…。
「私ですかぁ?私、パレオっていいます~。ここの衛生士さんなので、これからあなたのお口の環境を守っちゃいますよぉ~。」
唐突な歯痛に訪れざるを得なかったぶっ飛んだ歯医者。
これは運命か、或いは……
「あ、お兄さん治療終わった?…ちゃんとお金払って帰ってね?」
「あ、花園さん……」
わかってますとも。
通っている歯医者さんの衛生士さんが倉知玲鳳さんに似ていたことから思いついたシリーズ。
キャラがふわふわしております。
<今回の設定>
○○:会社員。特に残業が酷かったりするわけじゃないが、職場が遠い。
一旦着替えて~…とすると、大体19時以降に病院を探さなきゃいけないせいでこんな事に。
パレオ:天使。優しい。マジ天使。
佐藤:当院唯一のお医者さん。狂犬マスキング。絶対接客系向いてない。悪気は無い。
チュチュ:レントゲン担当だったあの子。名乗る暇すら無かった。
一番可愛い。
レイヤ:衛生士さん。受付もこなす。たえ大好き。
たえ:期間限定のサポートメンバー。歯医者のサポートメンバーってなんだ。