BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/16 小さなcomplexes

 

 

 

「うぇぇ…」

 

 

 

仕事から帰ってくると、リビングでだらしなくソファに寝そべっている従妹の姿が。腹を摩っているあたり、食い過ぎか飲み過ぎか…拾い食いなんてのも最悪こいつならやり兼ねない。

 

 

 

「あらおかえり。早かったわね。」

 

「おうただいまちーちゃん。…これ、どうしたんだ?」

 

「さぁ?また何か無茶でも始めたんでしょ。」

 

 

 

風呂上がりらしく濡れた髪をタオルでパホパホと挟みながら呆れる様に零す天才女優。どうやったらそんな綺麗な髪になるんだね。彩に教えてやってくれ。

……しかし、腹が減った。千聖に晩飯を用意してもらいつつ着替えてくるとしよう。

 

 

 

**

 

 

 

「……うん、今日もうまい。」

 

「そ?よかった。」

 

「…なぁ千聖?」

 

「なあに。」

 

「お前ってさ、暇人なの?」

 

 

 

食卓の向かいでじっとこちらを観察している視線に耐え兼ね訊いてみる。いつからだったか、一人遅くに晩飯を食う俺を食べ終わるまで見守るようになった千聖。何が面白いのか、終始無言で見詰めているだけなのだ。そりゃ居心地も悪くなる。

 

 

 

「失礼ね…。台本(ホン)も読み込まなきゃいけないし、体の維持にスキンケア、やることは山積みよ?今何て四人分の家事も熟さなきゃいけないんだから。」

 

 

 

口調とは裏腹に柔らかい微笑みで返してくる。芸能人ってのは大変だ…がそれなら尚更。

 

 

 

「俺が飯食ってるときさ、ずっとそうしてるだろ?…暇なのかと思って。」

 

「…嫌?」

 

「嫌じゃねえけど……緊張するっつーか。」

 

「あのね、料理ってのは食べてくれる人が居てこそでしょう?貴方の為に作った料理を貴方が食べ終わる、そのプロセスが完了するまでは見届けるのが私の当然の責務でしょうに。」

 

「あー……その、なんだ。いつもありがとう、助かるよ。」

 

「ふふん、分かればよろしい。」

 

 

 

千聖が難しい言葉を並べ立てたり、凡そ日常会話では必要とされない長文を捲し立てたりするときは、素直に言い出せないことがあったり何かを要求している時だ。まぁ、状況とこいつの性格から考えて、大体甘えるか甘やかしてやれば済む話なんだが。

 

 

 

「………むぅ。」

 

「なんだよ、お前も飯まだだったのか?彩。」

 

 

 

ちーちゃんニコニコ大作戦を完遂し、レンコンの天麩羅に齧り付こうとした矢先…今度はリビングのソファから覗き込む様に目だけを出した従妹が唸る。お前、FPSだったら十分HSされる頭の出し方だぞそれ。よかったな俺が特攻型のプレイヤーで。

 

 

 

「もう食べました。」

 

「じゃあ何だってそんな唸って…」

 

「だって…油断するとすぐそーやって千聖ちゃんと仲良さそうにして…」

 

「仲良しはいいことだろう?それに今は飯食ってるだけだ。」

 

「千聖ちゃんは食べてないじゃん!」

 

「……だとよ。どうする?ちーちゃん。」

 

 

 

やれやれヤキモチって奴か。そんなに嫌なら混ざってくりゃいいだけだろうに…。

目線を戻せば自然な流れで茶碗におかわりを盛ってくれる千聖がいて、彼女も同じようなことを言う。

 

 

 

「別に○○さんとだけ仲良くしているつもりは無いわ。彩ちゃんもこっちでお話しましょう?」

 

「……ってことだけど、どうだ彩」

 

「あのね、最近悩みがあってね。」

 

「気付いたら隣に座ってるのやめろ。」

 

 

 

振り返ってみれば至近距離にピンクの髪、…心臓飛んでいくかと思ったぞ。

 

 

 

「…悩み?彩ちゃん、悩みとかなさそうだけど。」

 

「いっぱいあるのっ!……その……」

 

 

 

言い難い事なのか、吃る様に言葉を探しつつ人差し指と親指を交互に組み替えて遊びだした。チラチラと千聖を盗み見ているあたり、三人だと話しにくい事なのだろうか。…いやしかし、話を始めたのは彩だ。いくらグズグズに煮込まれた芋のように蕩けた思考能力の持ち主と言えど、そんな話題のミスチョイスは犯さないだろう。

 

 

 

「…なんだよ、早く言えよ。」

 

「……えっと……身長が、ね。低いのがその……コンプレックスで。」

 

「あっ」

 

 

 

ダメだ彩、それ以上いけない。もっとコンプレックスに感じているかもしれない人が居るんだから。…というか、そんな見て解る様な話題を何故チョイスするのか。これが愛すべきバカの本領発揮なのだ。恐ろしや。

恐る恐る千聖を見れば見事なまでの無表情。すんっ!というオノマトペが似合う彼女は、真っ直ぐに彩を見詰めていた。

 

 

 

「あっあわわわわわっ、ち、違うんだよ千聖ちゃんっ」

 

「なあに?」

 

「その、その、ね??私って156センチだから、「彩は四捨五入すると160なのにちっちゃいイメージある」とか弄られちゃうから、せめて四捨五入しないでも160欲しかったなっていう…えと…」

 

「そうね、折角ならキリが良い方がいいわね。」

 

「で、でしょっ!?そうなんだよぉ!」

 

 

 

おい彩、今のは安心していい奴じゃないぞ。気付いているのか?千聖の声、最早氷点下レベルだ。証拠の残らない凶器として人を刺し殺せるくらい研ぎ澄まされてたぞ。

 

 

 

「私なんか四捨五入すると150センチだし、「千聖さんって152センチとは思えないくらいデカいオーラありますよね」とか言われるし、いっそ有乎無乎(なけなし)の2センチも無ければ小さく纏まったのかもしれないわねえ。」

 

「ひぅっ!?………ち、千聖、ちゃん?」

 

 

 

ほら見ろ言わんこっちゃない!

もう全身から冷気が染み出してるもの…どうすんだこのチンチクリン大魔神。俺は一切発言しないからな。

 

 

 

「どうしたの彩ちゃん、お顔が真っ青よ?…あ、さっき沢山飲んでいた牛乳が()()()()のかしら??」

 

「うっ……そ、そう、かも、しれない、ね??」

 

「ふふふ、彩ちゃんは大きくならなければいけないものね。大変ねぇ。うふふふふ。」

 

「……あっ、お、オナカ、イタク、ナチャタナァ!トイレいってくるよぉ!!」

 

 

 

ダダダダダダダッと室内とは思えないダッシュでエスケープ。わかるわかる、この千聖の正面に一分でも正気で立っていられるならもう世界救えると思うくらい、ヤバい感じ出てるもん。

程なくして廊下の先から「うぇぇぇ…怖かったぁぁ……」と情けない声が響いて来る。…ありゃマジ泣きだ。

 

 

 

「…まったく。人が気にしていることを…。」

 

「………ははは…。」

 

「貴方も貴方よ。」

 

「何が…?」

 

「ヘラヘラして見てるだけで…少しはフォローとか考えないわけ?」

 

「えぇ……。」

 

 

 

そんなこと言われたってなぁ。当の本人がソロで無双できるようなオーラ出してんだもん、フォローのしようがねえよ。「小さいのにデカいオーラ出てる」ってのはわかるし。

 

 

 

「私だって…傷ついたり、するんだから……。」

 

「…………。」

 

 

 

こいつの情緒どうなってんだ。

 

 

 

「…いいんじゃねえの?150だろうと152だろうと。」

 

「……いいって…そんな無責任な。」

 

「別にデカけりゃいいってもんでも無いだろ。女の子なんだし、ちょっと小さい位で可愛らしいんだよ。」

 

「……そっち系の趣味なの?」

 

「馬鹿言え。」

 

 

 

フォローしてやったらこれだもんな。

 

 

 

「ほら、俺だってそんなにデカくないだろ?170無いんだし。」

 

「…まぁねぇ。」

 

「だからさ、千聖くらいの背の方が居心地良いんだよ。…その、一緒に肩並べて歩く時とか。」

 

「………そうなの?」

 

「あぁ。趣味とかってだけじゃなくて、目線とか存在感とか、ちょうど可愛がりやすいって言うか…さ、もう分かってくれよ…。」

 

 

 

何故こんな小っ恥かしいこと言わねばならんのだ。何かもう千聖も機嫌悪くなさそうだし、やめていいかな。

 

 

 

「…そう、なんだ。大きくなくてもいいんだ。」

 

「逆にどうして身長を求めんだよ。」

 

「モデルとかって、背が高い方がスタイル良く見えるのよ。…私も偶にファッション誌に載ったりする以上、イヴちゃんくらいは欲しかったなって思うことあるし…」

 

「芸能界関連はよくわからんが……立ってみ、ほら。」

 

 

 

まだぶつくさ言っている千聖を立たせ、正面に立つ。身長の話をしている中でより背の高い俺が正面に立ったからか、少しムッとした表情になるが…お構いなしに抱き締める。

 

 

 

「ちょっ……」

 

「…ほら、こうしたときにさ。…丁度腕と胸でお前のこと護れるじゃんか。だから千聖はこのサイズがいいんだよ。」

 

「………もう。いつからそんな女たらしになったのかしら?」

 

「うるせえやい。……ほら、元気出たんならまたおかわりを頼むぞ。」

 

「…はいはい。そろそろ少な目よね?」

 

「三杯目だしな。…あと味噌汁も。」

 

「ん、ちょっと待ってね…」

 

 

 

それに、これは流石に言えないが…小さい美人がちょこまかとシステムキッチンを動き回る様も、見ていて微笑ましいもんなんだ。日常感が、すげえ幸せで。

 

 

 

「あぁ!!また二人で仲良くしてるぅ!!」

 

 

「お前が自分でどっかいったんじゃないか…」

 

「……もー、戻ってらっしゃい。」

 

 

 

小さくたって、こいつらは俺にとってデカい存在なんだ。

もう、可愛くて仕方ないさ。

 

 

 




ちいちゃいちーちゃんかわいい。




<今回の設定更新>

○○:お腹すいてた。
   最近女性の扱いに慣れてきた気がする。
   多分気のせい。

彩:背が低いのと甘いものを食べ過ぎちゃうのとゲームで夜更かしし過ぎちゃ
  うのと朝に弱いのとよく噛むことと人見知りしちゃうことと怒るとすぐに
  泣き出しちゃうところとくしゃみが阿呆っぽいのがコンプレックス。
  
千聖:ちいちゃくてかわいい。
   お持ち帰りぃしたい。

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