BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/04/04 未来があるということ(終)

 

 

 

暫くギスギスと落ち着かない雰囲気を放っていた同居人達に、そろそろ和解の風をと思い近所の小さな焼肉屋さんに連れてきた。千聖も煩わしい家事から一時でも解放されたら、彩も美味しい料理をたらふく食べられたら…きっと話も出来ると思った訳だ。

因みに険悪ムードの緩衝材こと日菜は仕事により不在。代わりと言っちゃ何だが、暇そうにしていた麻弥ちゃんを連行してみた。参加メンバーを伝えたらそれはそれは面倒臭そうな反応が帰ってきたが、晩飯を奢ると伝えたら喜んで飛びついてきた。現金である。

焼き網一体式の四角いテーブルを挟む様にして俺・彩側と千聖・麻弥側に分かれる。お分かりだろうか、また自然と麻弥ちゃんがあちら側にいるのである。

 

 

 

「…南無。」

 

「な!何で手を合わせるんすかぁ!」

 

「……また骨格が…さ。」

 

「!!…○○さん!席替えするっす!○○さんこっちで!」

 

「この場合俺が移動しても戦争になっちゃうんだよなぁ。」

 

 

 

ぶーぶーと不満を垂れる麻弥ちゃんはさて置き各々の飲み物と初っ端の注文を取りまとめる。俺が注文したものに対して「私もそれで」と続く人間が二人も居るとあっという間だが、君達そんなにホルモンばかり食べるのかね?

そしてオーダーしたものが運ばれてくるまでの少しの間。

 

 

 

「ねえ○○くん。」

 

「ん。」

 

「このメニューの、ジュースって何かな。」

 

「ジュースはジュースだろ。」

 

「もー!適当に答えないで、ちゃんと見てー!」

 

 

 

突き出されたメニューを見れば、ソフトドリンクのコーナーが酷いものになっているじゃないか。彩が言うように"ジュース"という商品があるし、隣には俺が注文したジンジャーエールや麻弥が注文したカルピスを筆頭としたジュースが並び、彩と千聖が注文したウーロン茶の下には"お茶"が並んでいる。もう意味が解らないよ。

ジュースを頼めば果たして何ジュースが来るのか、気にならないと言えば嘘になる話題である。

 

 

 

「…本当だ。…なあ千聖、これ見てみろよ。」

 

「そうね、おかしいわね。」

 

「…せめて一度は見てから言えよ。」

 

「……うっさいわね。私じゃなくて、未来の奥さんとヨロシクやっていればいいでしょう?」

 

 

 

相変わらず怒り継続中、か。

彩からのプロポーズにテンパった反応を返して以来、事ある毎にこう返されている気がする。反比例する様に彩の機嫌は鰻登りの体なんだが、俺はどうすべきなのだろうか。

冷静に考えてみれば千聖が怒っている理由は少なからず俺に好意を抱いていたからであって、まさか彩の発言にああもあっさり乗ると思わなかったからだろう。だがあの時――劇場に三人で訪れたあの時は本当に混乱の中での出来事であって、よくよく考えた上での決断ではなく。

その弁明すらもする機会を与えてもらえないのが悩みどころだ。その上での今日の外食を提案した訳だが…どうアプローチしたもんか。

 

 

 

「うっわww修羅場っすねぇwww」

 

「全然修羅場じゃないわ。この男がいたいけな従妹を手籠めにしたってだけだもの。」

 

「えぇー??でも、千聖さんめっちゃ不機嫌そうじゃないっすか。納得いってないんすか?」

 

「……………。」

 

 

 

相変わらず地雷原でサンバを踊るような女である。本人は無自覚だろうが、どうにも煽りとしか思えない口調で捲し立てつつ顔を覗き込んでいる様は滑稽でありながら目が離せない。

 

 

 

「…あっ、もしかして千聖さんも○○さんが好k」

 

「○○。」

 

「あん?」

 

「…いい?」

 

「どうぞ。」

 

 

 

許可を取る辺りまだ冷静っちゃ冷静なのか。止める義理も無い俺は「処して、どうぞ」のジェスチャーを見せ、麻弥ちゃんの冥福をお祈り申し上げた。

 

 

 

「はれぇ?千聖さぁん、そんなとこ掴んで……ちょ、ちょっとストップっす!腕はそれ以上曲がらな……ンギョァァァアアア!!!!」

 

 

 

バキバキ・ミチミチと人の体から聞こえてはいけない音と一緒に次第にコンパクトにされていく供物を見ながら彩に耳打ちする。

 

 

 

「…あのさ。」

 

「なあに?」

 

「今日はその…いっぱい食ってくれな。」

 

「…?たべるよ?」

 

「……あと、先に謝っとく。ごめん。」

 

「………どうして謝るの?悪いことするの?」

 

「…お前の事、多分傷つける。」

 

 

 

何せあの時はっきりした返事をしなかったことをひと月以上も開けてしまった今になって告白するのだ。最悪目の前の眼鏡っすちゃんと同じ運命をたどっても何ら不思議では無いと思う。

俺の言った言葉に何かを感じ取ったのか、ビクリと身を震わせておそるおそる視線を合わせる従妹。多分とは言ったものの、こうも早く傷つけてしまうとは。

 

 

 

「……けっこんの話?」

 

「勘がいいな。」

 

「うん。…だって、あれ以来恋人とか結婚とかって言葉出す度に、○○くん避けてたでしょ。露骨に話題逸らそうとするし。」

 

「…ごめん。時間経つにつれてさ、余計どうしていいかわかんなくなっちゃって。」

 

 

 

そこからは無言で暫し見つめ合う。気付けば麻弥ちゃんを畳み終わった千聖も何か言いたげにこちらをじっと見ていて。

 

 

 

「…千聖も聞いてくれ。」

 

「何。」

 

「…俺、彩とは結婚しない。」

 

「「…っ!」」

 

 

 

桃色と金色。二つの髪が震えたのは、それぞれ異なる理由からだろうが。ずっと机の下で握られていた手を突き放されたのは少し堪えた。

既に喉を震わせ始めている従妹の腰を抱き寄せ、視線は千聖へ向けてから話し始める。

 

 

 

「悪い。あの時変な態度取っちまったせいで今こんなことになってんだよな。」

 

「…。」

 

「俺は…彩のことが好きだ。」

 

「……そう。」

 

「でも。…結婚ってのは違うと思った。」

 

 

 

俺達だってあの頃の従兄妹のままじゃない。その曖昧な関係を楽しむ様に、手の届きそうで届かない未知を空想するにも限度があるのだ。

…彩の事は大好きだ、愛してる。でも、今の俺に相応の責任が負えるとも思えないし彼女の人生には可能性が多いに残っている。結婚とはそれら全てを切り捨て…可能性を無くす道でしかないと思った。

若い身空で、こんなにも世間に愛されている彼女を、俺は終わらせることなんてできなかったんだ。

 

 

 

「千聖…ってさ、俺の事好き?…その、そういう、意味で。」

 

 

 

世を賑わす大女優にとんでもない事を訊いているな俺は。身の程が違い過ぎるからこそ思い切って行けるということでもあるんだが。

処理しきれない感情が涙となって零れ落ちている彩の顔を胸元に抱き寄せつつ、千聖の言葉を待った。

 

 

 

「……………そういうところよね。」

 

「え。」

 

「これだけ私にアプローチさせておきながら、ぬけぬけとそんな質問ができるあなたが心底憎らしい。」

 

「…な。」

 

「何なの?白鷺千聖よ?自分で言うのもアレだけど、大抵の男はそのブランドだけで屈していたし、何なら好意なんて飽きる程ぶつけられたわ?なのに、何なのあなたは…。」

 

「…。」

 

「…どうして、今更そんな事言えるのよ。ええそうよ、好きよ!気になって気になって仕方が無いの!傍に居る時だって、彩ちゃんと一緒に寝室に入って行くのを見ている時だって…」

 

「千聖…?」

 

「二人きりでも、みんなと一緒に居ても、どんな時でもあなたしか見えないの!見えなくなっちゃったの!…その責任を取らせようと思ったら今度は何?従妹である彩ちゃんと結婚!?…私の気持ち、どうしてくれるのよ…!?」

 

 

 

ここまで血相を変えて食って掛かる姿も珍しい。テーブルの上で身を乗り出すようにして感情をぶつけてくる大女優の姿は、思わず目を背けたくなる程必死で、耳を塞ぎたくなる程に痛々しく、それでいて涙が出る程に美しかった。

普段大人ぶってクールに決めているだけに、ここまでストレートな感情を爆発させられるとどうにも戸惑ってしまう。勿論千聖に対してだって好意は抱いている。決して浮気性な訳では無いが、たこ焼きの最中に現れてからずっと、俺にとっての白鷺千聖は目の前のこれなんだから。

ビジネスやサクセスを意識していない素の彼女…異性としての好意を持たれているだなんて想像もしていなかったし、驚きと同等かそれ以上の喜びに余計頭は混乱させられる。

 

 

 

「…後だしのようで、言いたくなかったんだけど。…私もあなたが好き。生涯を捧げてもいいと思ったもの。」

 

 

 

…どうしよう。胸元がびしょびしょと色を変えていくのを感じながら、頭の中ではこの話題の着地点についてでいっぱいいっぱいだった。

えうあうと狼狽を隠し切れない音を口から発している間に、涙を止めた彩が顔を上げる。

 

 

 

「……千聖ちゃん。」

 

「………ごめんなさい、彩ちゃ」

 

「謝らないで。」

 

 

 

力の篭もった声。真っ直ぐに正面の千聖を見据える瞳は、何か確固たる思いを秘めているように静かに澄んでいる。

 

 

 

「…私、千聖ちゃんの気持ち知ってたよ。…○○くんのこと、好きなんだろうなって。」

 

「…。」

 

「……それに、○○くんの言ってたこともちゃんとわかるから。○○くんは、私のこと考えて言ってくれたんだよね?結婚は"まだ"しないって。」

 

「まあ。」

 

「だからね千聖ちゃん。……一緒にがんばろ?」

 

「へっ?」

 

 

 

静かに俯いて彩の言葉を聞いていた千聖だったが、最後の発言に思わず間抜けな声を上げていた。予想外の切り口に俺もつんのめりそうになったほどだ。一緒に何を頑張るというのだ…?

不安になりつつも横から眺める従妹の顔は真剣なもので、本気で千聖と何かを頑張ろうとしているらしい。

 

 

 

「…私、○○くんが好き。でも千聖ちゃんも大好きなの。」

 

「……ありがとう。」

 

「でもその、今はお仕事も、学校も…頑張らなきゃいけない事、いっぱいあるよね。いっつも千聖ちゃんにも怒られちゃうし。」

 

 

 

確かに、と頷いてみれば千聖も同様に頷いている。

 

 

 

「だからね。…私、○○くんのお嫁さんになるのはもうちょっと大人に成ってからにするよ。…だから、それまでは千聖ちゃんも一緒にがんばろ?」

 

「待て待て彩、少し先延ばしにして他の事に集中するのは分かったぞ。…でも、何を一緒に頑張るってんだよ。」

 

「そうよ。私はもう何も言わないし、邪魔になるようなこともしないから…」

 

「違うよ千聖ちゃん。どんなお仕事でも誠心誠意真心込めて、一生懸命にやり切るべきだって私は思うんだ。でもそれってお仕事以外でも一緒で、自分がやるって決めたこと全部に当てはまると思うの。」

 

 

 

珍しくまともに論じる従妹の姿に成長を感じる。場所が場所なら泣き出していたかもしれん。

 

 

 

「…千聖ちゃんも諦めないで。千聖ちゃんが○○くんを大好きなように、私も負けないくらい大好きだからね。…二人で一緒に頑張って、一緒にお嫁さんにしてもらう!…って、駄目かなぁ?」

 

 

 

威勢キープできず。結局最後は俺達二人分の視線に耐え切れず、小さく丸まってしまった。小丸山である。

だがその自信満々に語ってくれたとんでもない展望に、もう二人して笑うしかなかった。

 

 

 

「…ぷっ!…あはははっ、彩ちゃんったら…!」

 

「………いやいや、こりゃ一本取られたな。」

 

「え?…えっ??」

 

「あのなぁ彩。そんな幸せ過ぎる状況、世の中の男たちが黙っちゃいないだろうよ。俺殺されちゃうぜ。」

 

「そもそも、この男にそんな甲斐性あるわけないでしょ?従妹一人まともに娶れないんだから。」

 

「おいこら言い過ぎだぞちーちゃん。」

 

「じゃあ何?私の事も貰ってくれるのかしら?」

 

「うぐっ…だからその……今はほら、大事な時期だし…学生だし…」

 

「ね?こんなゴニョゴニョ言ってるようじゃまだまだなのよ。」

 

「も、もー!あんまりいじめちゃ可哀想だよ千聖ちゃんー!」

 

 

 

良い様に玩具にされている様な気もしなくはないが、二人の間の溝は程よく修復を見せたようだ。

と同時に、時が来たならば二大アイドルを嫁にしなければいけないという恐怖の時限爆弾を背負わされたわけだが。事の重大さに頭を抱えていた頃に、漸く注文したブツが届き始めたようで。

 

 

 

「あ、千聖ちゃん?これそっちに置く?」

 

「そうね。私と○○の方に纏めちゃって?彩ちゃんの方はそっち…あぁおしぼりありがと。」

 

「わわっ、結構な量だねぇ!…ほわぁ、これ全部ホルモンなの??いろんな形だよ??」

 

「詳しくはそこの朴念仁に訊きなさい。…あ、はい、ドリンクはお茶がこっちで…」

 

 

 

テキパキとテーブル上を仕分けていく二人。結局のところ、Pastel*Palettesも我が家もこの二本柱で成り立っているのかもしれない。

その二人を、これからも一番近くで、何れはもっと近くで見守っていくのが俺の使命かも知れない。何れ訪れるその時の為に、嫌われないように努力しつつも俺は…

 

 

 

「もう、何堅くなってるの。行き渡ったんだから食べましょう?」

 

「あ、ぅ。」

 

「○○くん!私かんぱいしたい!○○くんもしたいよね?ね?」

 

「え、ぇあ…」

 

「もう!いい加減シャキッとしなさい!…言っとくけど、私も彩ちゃんもそう簡単にはあなたを見放さないからね?」

 

「ふっふっふー、覚悟してね?○○くん?」

 

 

 

どうやらこの悪戯そうに笑う少女と従兄妹という間柄に生まれてしまった時点で俺のこのハチャメチャな未来は約束されてしまっていたようだ。

半ば強制的に握らされたと思いきや高く掲げ、ヤケクソ気味にぶつけたグラスは俺達の新たな関係性と始まりを報せる鐘の音のようにも感じられて。

 

 

 

「「「乾杯!!」」」

 

 

 

…そういえば麻弥ちゃん(の骨)が復活したのは宴も半ばになってからの事だった。

 

 

 

終わり




彩編第二部完結になります。…あ、そうです、いつか第三部もやると思います。
ご愛読ありがとうございました。




<今回の設定更新>

○○:すっかりおもちゃに。
   頑張れ。お前なら誑せる。

彩:発想も一皮むけた模様。もうただの泣き虫じゃないぞ!わふぅ!

千聖:気持ちを吐露したらすっきりした模様。
   これからは良き妻良き母ポジション目指して邁進するとかしないとか。

麻弥:破損耐性が4上がった!
   骨折耐性が3上がった!
   対白鷺スキルが成長した!
   主人公のことはますます嫌いになった!
   ンギョァァアア…!!
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