BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「なー。」
「……なんだよー。」
「今日休みなんだろー。」
「そうだよー。」
「何かしないのー?」
「……うーん…。」
突然休日になった金曜日…の昼前。休みと言うことで惰眠を謳歌していた俺だったが、突如として部屋に部屋に再来・のしかかってきた有咲の声に覚醒させられてしまった。
有咲が布団から抜け出していったのも俺の感覚的には一時間ほど前だったように思えるのだが、時計を見るにもう四時間ほど経ってしまっているらしい。疲れていたからね。仕方ないね。
「…何かって、例えば何??」
「えっ?…んー、普段できない事をする…とか?」
「……二度寝するわ。」
「あ、ちょ、こらぁ!」
ピッタリじゃないか。普段の疲れもあるし、ここらで寝溜めと行こうじゃないか。
「も、やだよぉ!寝ないで!!」
「…なんだね…有咲も一緒に寝たらいーじゃん。俺、有咲と寝たいな。」
「ぅ…そ、それもいいけど、まだ明るいし…。」
「……普通に睡眠って意味ね?」
顔を真っ赤にするんじゃないよ。休日の真昼間からそんな…俺だってもう若くないんだから。
「ばっ…ばかぁ!」
「どっちがさ……どにかく俺は…もう少し……ぅむ」
「もー!構えよばかぁ!!」
「うー……ん。」
只管に身体を揺さぶられる。真っ赤な顔で「構ってほしい」と駄々をこねる有咲の姿は、まるで子供の様で穏やかな気持ちになる。
暫く眺めていてもいいが、放っておくと後々のご機嫌取りが面倒臭そうだ。渋々体を起こし、有咲を抱き寄せる。
「わかったよ、有咲。」
「……うん。」
腕の中で大人しくなったことを確認し、顔を寄せる。触れるだけの物ではあるが、寝起きの挨拶としては程よい口付けを交わし身支度を整える。
「…で?有咲は行きたいところとかあんの?」
「………。」
「有咲?」
「…ぅわっ!?な、なんだよ脅かすな…!」
「何ぽーっとなってんだ。行きたいところとか無いのかって。」
キスの余韻か、紅い顔のまま虚空を見つめていた有咲をチョップで呼び戻す。頭を押さえる姿もマスコットの様で愛らしい。
俺の問いに少々考え込むような素振りを見せた後、「〇〇が一緒ならどこでもいい。」と小さく答えた。
「お前、出かけたがってる奴が目的地も無いとか…。」
「だって、一緒に居たいだけなんだもん…。」
「じゃあ寝てたっていいだろうよ。」
「……デート、したいなぁって。」
「…………デートか…。」
そういえば、有咲と目的を何処かへ出かけることなど買い出し以外では無かった気がする。俺も働いている身だし、有咲も有咲でアウトドアを好まない傾向にあるからだが。
デートらしいデート…きっと互いに経験も無く正解なんて捻りだすことは出来ないのだろう。考えるだけ時間の無駄だと判断した俺は、素早く身支度を済ませることに尽力する。
「……嫌?」
「嫌じゃないよ。…そういえば、お前とはそういうデートらしいことしたことないもんな。」
「…うん。」
**
と言う訳で近くのショッピングモールに来たわけだが…。
「…何故並んで歩かないんだ。」
「だ、だって…」
手を繋いで歩いていたところまではよかったのに、モール内に足を踏み入れた途端に俺の背に隠れるようにしがみついてしまった。
「そのままじゃ何も見えないだろ?」
「で、でも……背中あったかいよ?」
「何しに来たんだ…。」
無理やり引き剥がし腕を絡めるようにして隣に固定する。ややジタバタ暴れたが、周囲の目もあって大人しくなる。すっかり俯いてしまったようだが歩みは止まっていない。
「ほらほら、色々見て回ろうぜ。折角のデートなんだし。」
「うん……でも、人めっちゃ居るだろ…」
「他人のことなんか誰も気にしてないっての。」
「でも…視線とか、向けられてる気もするし…」
芸能人じゃあるまいし、一般人同士で視線が集まることなんて…
どうやらこの同居人、俺のフィルター無しでも滅茶苦茶可愛く見えるらしい。すれ違う人やら寛いでいる人やら、結構な視線を集めていた。
「……うん、気にすることないさ。」
「えぇ!?…そ、そこは逃げるとか隠れる場面だろぉ!?」
「堂々としてりゃあいいんだよ、俺達だってこの施設の利用者なんだから。」
「恥ずかしいんだもんよぉ…。」
それからも半ば強引にアパレルショップやら雑貨屋やら、連れ回している間に段々と緊張が解れて行ったようで。
日が落ち、俺の両手が紙袋で埋まる頃には実に楽しそうな有咲が居た。
「〇〇、次あそこいこ!!」
「…お前元気だなー。」
「あん?折角遊びに来たんだし、色々見ないと損だろーが!」
「どの口が言うんだ、どの口が…。」
燥ぐ有咲を追う様に歩き、到着したのはフードコート。これまた有咲の要望で、二人それぞれタピオカジュースを購入。
時間帯もあってか、すっかり空いている四人掛けの席に腰を下ろす。……割と足にキてるな。
「…………んーっ!おいひいなこれ!!」
「ん。もちもちだなぁ。」
「〇〇って何にしたんだっけ?」
「ええと…何だったか、抹茶のやつ。」
「一口ちょうだーい。」
「お好きにどうぞ。…有咲のは…」
「いひほほーうふふぉ。」
受け取ってから吸い始めるまでが早いんだよ、お前は。
ストローから口を離さないせいで何言ってるか全く…
「…いちごヨーグルト?」
聞き取れたわ。
「……………んむ。まぁ、想像に難くない味だなぁ。」
「……抹茶にしたらよかった…。」
話を聞くといちごヨーグルトか抹茶ラテで迷っていたようで。一口と言って持っていたそれをズルズルと暫く吸引している有咲。
やがて、俺の目線に気付いたのか慌てて口を離した。
「あ、えっと…その…。」
「抹茶気に入った?」
「…うん、美味しい。」
「そっか。二人で居ると味も二つ楽しめるからラッキーだなー。」
「ごめん…いっぱい飲んじゃった。」
バツが悪そうにズリズリと容器を返してくる有咲。容器の中にはもう少なくなった緑の液体と気持ち程度のタピオカが転がっているだけだった。
「ここまで来たら全部飲んじゃいなさいな。」
「えっ…でも、これは〇〇のだから…。」
「いいからいいから、いちごの方も飲めるなら飲んじゃいな。」
「いいの…?」
「いいよ。…俺はもう満足したからさ。」
あとは美味しそうに飲む有咲を見て満たされるだけだ…とは言わなかったが、見ているだけでも幸せな気分にさせてくれるその光景を、数分にわたって眺め続けるのも悪くない。
結局、ストローの空振りする音を響かせて有咲が赤面するまで、俺はただ有咲を見つめ続けることとなった。
「ごちそう…さま。」
「ん。……さて、どうしようか。この後は。」
「んー……微妙な時間だな。」
「晩飯、どこかで食って帰るか。」
「…外食、もあんまりないよね。」
「そうだな…。」
そもそも買い物以外で外に出ないのだから当然っちゃ当然なのだが。
一先ずショッピングモールを出発。家路の途中にある店で、目に付いたところに入って食おうという話になり、薄暗くなった道を並んで歩く。
有咲は余程楽しかったようで、今日行った店や見て回った場所の話を延々としていた。…正直、何度かデジャビュを感じるほど同じ話もしていたのだが、話題の端々に「〇〇と一緒だから」と混ぜられると悪い気はしない。
「それでさ、結局あの店員さんがさ…!」
「うんうん……おっ、有咲。」
「なんだ??」
「ほれ、あったぞ飲食店。」
「ん。……お寿司屋さん?」
最初に巡り合ったのは家族向けの回転寿司のお店。行ったことは無いが、窓から見える店内は特に混んでいる訳でもなく明るい雰囲気だ。
「……入って、みるか?」
「…うん。〇〇と一緒ならどこでもいい。」
「お前はそればっかだな…。」
「…多分、一生言い続けると思うけど?」
「そうかい。」
リーズナブルで素敵なお店。
初めて二人で行った飲食店として特別な場所になったお店は、俺達の行きつけ店になりそうな予感があった。
お寿司美味しいです。
<今回の設定更新>
〇〇:有咲がもうすっかり生活の一部になってしまった。
有咲の望むことは極力かなえてやりたいと思っている。
甘い飲み物はあまり得意じゃないが、有咲と居る時はよく飲む。
寿司はエンガワが好き。
有咲:かまってちゃんらしい。
低血圧で朝は弱いくせに滅茶苦茶早起き。
SNSの同年代の子の投稿を見てタピオカに興味を持ったらしい。
好きな寿司ネタはたまご。