BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
羅須歯科に通う事数度。何とか歯の修復は終わり、素敵なシルバーアーマーを身に着けた奥歯は心なしか誇らしげに輝いている。
現在は特に治療する箇所もなく、三ヶ月に一度定期健診で来てほしい…と言われたのみで、暫くあの面々とは接点も無いんだろうと思っていたが…。
「んぁ?」
早朝。聞こえた通知音により寝起きの状態へと移行した俺は、ぼんやりとした頭のまま通知音の発信源を探す。枕の下に入り込んでいたソレを引っ張り出すと、メッセージの受信を示す数字が"2"と表示されている。
そのまま視線を右斜め上方へ移動させると時刻は四時台……四時??
「なんだよ…まだ起きるまで二時間もあるじゃんか…。」
この時間から二度寝は非常に危険だ。目覚ましのけたたましいアラームすら通さない鉄壁のシールドを耳に纏うことにもなりかねない。
渋々ではあるが諦めて体を起こし一伸び。ぐぐぐっと広がる様な感覚を覚える背中が心地よく、ぼんやりしていた頭も晴れていくようだった。
「…ええと……あぁ、グループかぁ…。」
どうやら、新着メッセージを受信していたのは羅須歯科のグループチャット。……普段やたらと業務連絡や雑談が飛び交うこのグループチャット、患者である俺が絶対に居ちゃいけない場所だとは思うが、最後の治療――シルバーアーマー装着の儀――の日に放り込まれたのだ。
ええと、あれは確か佐藤先生が「お前面白い奴だな。…ラ〇ン教えろ」とか唐突に言ってきたせいなんだっけ。本人曰く「柔和な笑顔」で詰め寄られた挙句、ちびりそうになって思わずアカウントを教えてしまったのだ。
たえ『〇〇昨日歯ブラシして寝た?』
たえ『しないで寝たら悪い子だよ?』
……これはどうリアクションしたらいいんだろう。まず、多分だけどあの花園さんは俺より歳下だと思うし、個人チャットもあるのにどうしてここで言うのかも分からない。…まあ一番の問題は発言する時間だけども。
どこか間の抜けた質問にどう返そうかと思案していると他の面々も気づいたようで…
MaskI『過保護か』
RAY『花ちゃん時間』
珠ちゅ『うっさい寝ろ』
と散々な返答が返ってきていた。因みに皆独特のセンスでアカウント名を作成しているようで、最初見た時は花園さんしか分からなかった。…というか佐藤先生と花園さんしかまともに本名確認できてないし。
この流れでパレオちゃんだけはいつまでも反応を示さなかったが、肝心の俺が何も返答しないのもどうだろう。ちゆちゃん辺りが煩そうだし、無難に返信しとくか…。
……無難すぎるかな。あ、因みに表示名が「珠ちゅ」なのが玉出ちゆちゃん――レントゲンを撮ってくれたちっちゃい女の子。あとの人は分かるからいいか。
俺の返事に、少し間を置く様にして周りも騒がしくなってきた。
たえ『結構』
MaskI『何様だお前』
たえ『おたえちゃんですぅ』
珠ちゅ『時間考えて送んなさい』
珠ちゅ『起きちゃったじゃない』
MaskI『沢山寝ないと背伸びないぞ』
珠ちゅ【中指立てた女の子のスタンプ】
RAY『営業日です!その後痛みとかはどうですか?』
たえ『元気です!』
RAY『花ちゃんじゃないよ』
たえ『何の話?』
MaskI『花園一回お口チャックな』
ふと、ここまで騒がしいのに反応が無いパレオちゃんが気になった。あまりに煩いので通知を切っているのだろうか…いやでも業務連絡も兼ねているグループなんじゃ。
俺なんて知りたくもないのに残業とか体調不良の連絡見ちゃってるのに…。
思わず入力してしまったが気付いた時には時すでに遅し。話の流れも読まずに唐突に名前を出す流れとなってしまった。
あれ程騒がしく交わされていた会話がピタリと止まる。
「うーわやっべぇ…。絶対おかしい奴だと思われてんよ…。」
既読は人数分ついているので確実に全員読んでいるはずだ………ん、人数分?
このグループには、俺を含め六人のメンバーが参加していることになっている。既読数の表示は"5"。…ということは。
非アクティブになっている画面でのアクションを報せる通知音が鳴る。"新着メッセージあり"…?
通知をタップすると別のトーク画面、パレオちゃんとの個人チャットが開かれ、
『ぱれおをごしょもうですか?』
と表示されていた。
すぐに既読が付いた。……が、待てども待てども返信が無い。
恐らく現在非アクティブになっているグループの方からはピコンピコン通知音が鳴り響いているというのに…。
余りにも煩いので一旦そっちを開いてみる。
RAY『患者さんはどうなるんですか?』
MaskI『予約入ってないだろ』
RAY『そうなの?花ちゃん』
たえ『ごはんたべにいこーよ』
RAY『予約は?』
RAY『花ちゃん』
たえ『よやくって?』
RAY『前に教えたでしょ?紙に書くやつ』
珠ちゅ『今日の予約ならゼロよ』
RAY『ほんと?』
珠ちゅ『ええ、昨日見たもの』
MaskI『お前昨日何処に居たんだ』
珠ちゅ『暇だったからカウンターでお絵描きしてたの』
たえ【トーストが焼きあがるスタンプ】
たえ『ちーん!!』
RAY『予約台帳に変な生き物いっぱい描いたの院長だったんですか…』
珠ちゅ『変?』
珠ちゅ『猫よ』
もう耐えられなかった。朝から何てものを見せられているんだろうか。…正直結構面白かったが、ずっと見ていると頭がおかしくなりそうだった。
混沌とし過ぎだ。…つーかあのちいちゃい子、院長さんだったんだ…。
MaskI『今日、休みにするぞ』
MaskI『なんだお前、歯だけじゃなくて目も悪いのか』
MaskI『何の為に生きてんだ』
珠ちゅ『納税の為でしょ』
たえ『ねます、ぐぅ』
珠ちゅ『いいのよ、患者なんか碌に来ないんだし』
RAY『四日続けてゼロ人でしたからね』
MaskI『うるせえ。じゃあお前が治療しろ』
……どうやら今日は急に休診にするらしい。普通じゃ有り得ない判断だが、羅須歯科ではどうやら普通の事らしい。上層連中が満場一致なのが特にヤバい。
これ以上無茶苦茶言われても困るのでそっと通知を切り、今日のところはもう関わらないようにする。
…と、そのタイミングでピコンと、通知音が鳴った。最後の送信から十五分余りが経過しているパレオちゃんの個人チャットへ。
『ぱれおはもじをうつのがすごくおそくてにがてなのです』
『だからみなさんにもいっぱいいぱいめいわくがかかるのです』
『〇〇さんはいやっていわないでくれるとうれしいのです』
『ぱれおは〇〇さんとなかよしさんでいたいのですからよろしくです』
うーん、どうやらパレオちゃんはスマホの入力が苦手らしい。遅れてしまうからグループでは発言しないと……これは唯一の癒しかもしれない。
ところどころ入力を間違えているところとか、平仮名ばかりの文面とか…何と言うんだろう、守ってあげたくなる?感あるよな。
『ありがとごじます』
『わあまちかえちゃいました』
…気づけば、患者の一人も来ない珍妙な歯科医院がクセになり始めている自分が居た。
ライン一つでこんな…
<今回の設定更新>
〇〇:この後普通に出勤した。歯磨きは一日に4回する派。
パレオ:機械が少し苦手なよう。かわいい。
チュチュ:想像以上に可愛い名前でしたね。これでも一番偉いのだ。わはは。
マスキング:ラインのアイコンはシャボン玉に囲まれたうさぎさん。口が悪すぎる。
レイヤ:真っ当。彼女が居なければもう色々と成り立っていないと思う。
たえ:まだサポートメンバー。正直居なくても困らない。
面白そうなスタンプを買うだけ買い漁って使わないタイプ。