BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
今日はクリスマスイブ。夜はクリスマスパーティをするのだと一昨日から有咲と盛り上がっていた俺は、仕事も真面目にこなし、定時を少し過ぎたあたりで無事に帰路へ。気持ち的にはルンルンだったのだが、帰り際に電話をかけた時の有咲の反応が少し引っかかっていた。
『あ、う…うん。えーっと……んじゃあま、気をつけて帰ってこいよ?』
何だろう。普段帰る連絡なんかしないから不審に感じたとか?それともイブに何かするのって丸山家だけで、市ヶ谷家だとやはり異例の文化なのか?そもそも色々面倒になった…?
焦る気持ちと募る不安から、二度ほど信号無視をしそうになってしまったが何とか家に着くことができた。二重の意味で高鳴る心臓を抑え付けつつ扉を開け、玄関へ。暗い廊下の先には明かりを漏らす居間の扉があるが…ええい、考えてないで入ってしまおう。自分の家だここは。
「ただい…………ま?」
テーブルの上には恐らく有咲が受け取ってきたであろうオードブルと苺がたくさん並んだ真っ白なケーキ。あとケーキ。それに有咲作と思われる俺のリクエストした大好物のおかずがちょこちょこと…それに取り皿やコップなんかも並べられていて…いやそれはいい。それはいいんだけど。
「お、…おかえ」
「有咲なんで服着てないん?痴女?」
「なっ、ばっ、おま、ちょっ」
恐らく俺の登場に合わせて鳴らす予定だったであろうクラッカーを握り締めた裸エプロンの有咲が。上手に紐が引けなかったのか、「おかえり」が先に出てしまう結果となったのだが、俺の指摘に顔を真っ赤にした有咲は恥ずかしさのパワーで無事発砲。安っぽい空音とカラフルなテープで有耶無耶になってしまったようだ。
カラーテープを浴びながら痴女ってしまった未来の嫁をどうしようかと思案していると、奥にある脱衣所の方から正真正銘すっぽんぽんの妹が…出てきて、叫んで、盛大にこけた。
俺の周りはどうしてこう騒がしい奴が多いんだ。
「…なんだあいつは。」
「そっ、おまっ、私が、痴女って…えぇ!?」
「お前も落ち着きなさい…。取り敢えずエプロンは付けてるみたいだけど、他の服はどこ行っちゃったんだ?」
所謂裸エプロンの状態で己の身を強く抱きしめた有咲は、やや上目遣い気味の真っ赤な顔で何故か威圧してくる。…えこれ俺が悪いの?
「…俺にそんな性癖ないよ??それにほら、体冷やすと良くないから服着なさい…。」
「はっ!はだっ、裸じゃねーし!…ほらぁ!」
謎の威勢のまま後ろを向いてみせる有咲。…あぁなるほどタンクトップ…に下はホットパンツか。
裸じゃないということでひと安心したが、それでも今は真冬に外は雪。…いくら部屋が暖かいからといって正気の沙汰ではない。
「そかそか。俺としては奥さんが変な方向に目覚めていないようで良かったよ。…でもほら、今は冬なんだから、そんなおかしな格好はやめて服着よ?」
「う"……だって、○○が…喜ぶかと…思って…」
「あー……うん、正直あれだ……色々元気になった気がするよ。いいものを見た。」
「お、おう…。」
「………。」
「…………。」
「ほ、ほら、部屋着に着替えておいで?この前買ってきたのがあるじゃん??」
「お、おぉ、おう。…それじゃ、○○も…楽な格好に着替えて来いよ…な。」
やれやれ…とんだサプライズだ。危うく夕食が有咲になるところだった。
**
「さぁてそれでは。」
「うん。」
「へくちっ」
着替えを終えて再び居間に集まる俺たち。有咲は先日出かけたモールで買ってきたドレスワンピに着替え、ちょこんと隣に座っている。黒を基調とし薄紫の月と星が散りばめられたデザインにショルダーフリルが何とも可愛らしく、俺が思わず衝動買いした一品だ。うんうん、流石俺の嫁。下ろした髪も相まって究極の可愛さだ。
テーブルを挟んだ向かいには妹の彩。先程は風呂に入っていたようで今はまた何ともガーリィな…ええと、これは何と言ったらいいか。細い紐がリボンのような形状に結ばれた装飾がところどころのアクセントになっている、丈がクソ長いシャツの様な服。…俺にもう少しファッションだの何だのの知識があれば説明できるんだろうが、生憎と有咲の着ないようなものは分からないんだ。すまん。
三人それぞれ、思い思いの飲み物を注いだコップを掲げる。
「イブだけどクリスマスということでぇ…。」
「…うんっ。」
「う…へくちゅ」
…どうでもいいけど、乾杯の前って謎の緊張感あるよね。
ゴクリと唾を飲み込み互いに視線を交わす。
「かんぱーい!」
「か、かんぱいっ。」
「へくしっ、えぐしゅっ、かんぱ…っしゅ!」
声とともに宙へ掲げられる各々のコップ。ちゃぷんと水音に小さな波。隣の有咲と手元でそれをぶつけ、一口……うん、うまい。
仕事終わりということもあるけど、やっぱりこいつと飲む酒は格別なんだ。
因みに向かいのおピンクシスターとはコップをぶつけなかった。唾入りそうだし。
「に、兄さんっ!どうして私とはかんぱいしてくれないの!!」
「えー…涎入ったら嫌だし。」
「もうくしゃみ終わったもん!して!!」
「……はぁぁぁ…。」
「…そ、そんなに嫌??」
どうしてそう乾杯に拘るんだ…本来グラスはぶつけないものなんだぞ妹よ。とも思ったが今日は楽しい席だ。あまりいじめすぎるのもどうかと思うし、妹だって俺にしてみりゃ唯一の可愛い兄妹だ。
「ほれ。」
「!!…うんっ、かんぱい!!」
ゴツッと鈍い音の乾杯。俺が持つプラスチックのジョッキにプラスチックマグの彩…ということで、風情はないがこれはこれでアリだろう。そういや実家に居た頃もイベントの時は毎度のように乾杯してたっけ。
彩も漸く満足したようで、こくこくとそれはもう美味そうに麦茶を飲んでいる。どうやら同じグループで活動している白鷺千聖ちゃんに夜のジュースは禁じられているようで…さっきまでは注がれる麦茶にあれほどぶーぶー文句を垂れていたというのに、現金なやつだ。
ぼんやりその様子を眺めていると右肩に寄りかかる感触が。
「…どした有咲?もう眠い?」
「んーん。……何か、幸せだなって。」
「……そうだな。」
ちらりと横目で盗み見ると、俺の右肩に頭を寄りかからせている有咲は柔らかい笑みで向かいの彩を見ていた。喜々として麦茶を注ぐだけの彩がそんなに面白いのかはわからんが、有咲の視線はまるで我が子を見守る母親であるかのような優しさが滲んでいた。
…というか、萌え袖の両手で自分のコップを包み込む様子も、眉根に力の入っていない妙にリラックスした表情も、小声で囁くように話す姿も…全てがどストライクなんだがどうしよう。今日の有咲は、控え目に言ってヤバい。襲ってしまいそうな衝動が込上げてきたので慌てて話題を変えることに。
「あー…そういえば、電話で何か引っかかるような返事してたけど…何かあったのか?」
「ん"っ!!……えほっ、けほっ」
「おぁあ、そんな動揺することかよ…!」
一体何があったってんだ。
咽せる有咲の背中をさすり、抱き寄せるようにして落ち着かせる。その様子を見ていたうちの愚妹が態とらしく咽せ始めたがそれを華麗にスルー…やがて落ち着いた有咲の抱き寄せた頭を撫でつつ続ける。
「あいや、そんなに言いにくいことだったら聞かないが…ちょっと気になっててな。」
「……あれは…彩先輩が、「二人とも水着か裸エプロンで出迎えたら兄さん絶対喜ぶ!」って、私を脱がそうとしてる最中だったからさ…色々複雑で。」
「………なるほど。原因はウチの馬鹿か…。」
「まあその…うん。」
「なっ!馬鹿って!ひどいぃ!へっくしゅっ」
そういやクラッカーの時も「喜ぶと思って」とか言ってたな。…ギリ裸エプロンに見える、が最大の譲歩だったってわけだな。
「おいこら風邪引き娘。ウチの有咲を変態道に引きずり込むたぁいい度胸してるじゃねえか。えぇ?」
「ち、ちち、ちがうよぉ!だって、昔、兄さんが持ってた本にそういうのが…」
「彩。」
「あっ」
「帰りたいか?」
「……!!!」
こいつ流れで何言おうとしてやがる。確かにそういう時期はあった、あったけどそれは若気の至りってやつで、そう気軽に話題に出していいもんじゃ…
「彩先輩、それ詳しく。」
「だー!お前も食いつくんじゃない!!」
妙に前のめりになる有咲を引き戻す。俺の黒歴史に触れるんじゃない。
「えっとね、あとは猫耳とか、尻尾とか羽とか…あと……八重歯?」
「おい彩。」
「ひぅっ!?」
懲りろ。
「………ふーん…?」
ほれみろ。有咲が氷点下みたいな目ぇしてるじゃねえか。
「そもそも、お前は空気読むとか無いんか。」
「えぇ?…くちっ。」
「クリスマスだぞ??恋人たちの夜だぞ??」
「ちょっ、○○……。ひゃわぁぁぁ///」
我ながらストレートすぎたか。隣で有咲が溶けているのを尻目に、これまたストレートな頼みごとを妹にぶつける。
「……彩、明日こそは、二人きりにしてもらってもいいか?」
「………なんで?」
「そらお前…今日はパーティするとして、明日はクリスマスを恋人と過ごしたいからだよ。」
「ひうぅぅぅぅ///」
ぽかんとする彩と、俺のかく胡座に倒れこみ照れまくる有咲。底抜けな察しの悪さによりどストレートな表現を探していると突如彩の顔が茹で上がった。
「……あっ!あぅっ、えと、ええと…が、がんばって!!!!」
「理解までが遅ぇよ……」
「だだだって、私、そういう経験、ない…から。」
「生々しいこと言うな。妹の純潔具合に興味はねぇ。」
「あの、自分の後輩と兄さんのそういう話聞かされるのも生々しいと思う……っくしゅ。」
なるほど一理ある。
つかお前本当に風邪ひいたんじゃないだろうな。可愛いくしゃみが止まらねえじゃねえか。
「…まぁ、その、なんだ。…食おうぜ!今日はクリスマスだァ!!」
「お、おー!!」
丸山兄妹は空元気が得意なんです。
突如としてやってきたもぐもぐタイムに恥ずかしがっていた有咲も起き上がる。
「あ、じゃあ私おかず温め直してくるね。」
「あぁ…すまんな、いつも。」
「何言ってんの?これからもずっとこんなんなんだろうし、もう慣れたし。」
「…せやな。」
「あっ!有咲ちゃん!私もてちゅっ…手伝う!!」
「お前は座っとけ。食えるもんが減る。」
「どーゆー意味!?」
メリークリスマス…イブ?人生で初めてとも言える、愛する人と過ごす賑やかな聖夜が暮れる。
なるほど、これは目出度いもんだ。
「っくちゅっ!」
「おまっ…オチ!!」
賑やかクリスマスにはっくしゅん
<今回の設定更新>
○○:両手に花状態のクリスマス。全世界の男子に呪い殺されろお前マジで。
実家にいた時はケーキも特別な料理もないクリスマスが慣例だった為、この日は
全力で楽しんだらしい。実は乾杯の後の一口で大分酔っていたとか。
正直裸エプロンは好み。
有咲:嫁力が高い。
主人公の反応に味を占め、ちょくちょく本物の裸エプロンを披露するようになった
とかならないとか。
準備から片付けまで、更に料理にセッティングにと万能な奥さん。
おばあちゃんと二人のクリスマスしか知らないため、とても幸せな思い出に
なったそうな。はよ結婚しろ。
彩:賑やかし担当。裸で登場したのは若干計算もあったらしいが兄には響かず。
セリフの殆どがくしゃみという中々稀なクリスマス。
へっくち。