BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「……まじか。」
『マジもマジよぉ!結婚しちった!』
昼休み、何気なく眺めていたSNS――FaceBoke、通称顔ボケの恐ろしい一文を読んだ直後に昔懐かしい電話番号へコールしていた。
"この度△△さんと入籍しました!"
高校まで同級生で、俺よりもよっぽど馬鹿をやっていた印象しか無い奴が、中々に整った綺麗目(世辞)なお姉さんと結婚するらしい報告を読み思わず声を上げそうなほどの衝撃を受けたのだ。
あいつは一生独身だろうと馬鹿にしていたというのに…。
実際電話で話してみて、真実であることを確認してしまった今では衝撃よりも落胆と焦燥の方が大きく、何時までも目標も無く働き続けている自分に嫌気がさしたのだ。
『そういえばお前も見たか?』
「…なにが。」
『ほら、沢井って居たろ??…あのデブ。』
「…あぁ、居たなあそんな奴。」
それもまた何かやらかしたらしいが…?
『アイツ、俺らの高校で教師やってるらしいぜ。』
「沢井が…教師??」
『あぁ、母校で生徒の明るい未来のために人生を賭けるのが夢だったんだと。顔ボケに書いてあったわ。』
「……やべー。」
『ヤバいよな、想像できねえ。』
「…何かテンション落ちたから切るわ。」
『は?いや、ちょ』
何なんだ。何なんだよ一体。
周りばかり順調に大人に成っていく中、自分だけが子供で取り残されていく感覚。
確かにもういい歳だ。周りだって、夢を叶えた奴、予想外の場所で成功した奴、世界進出を果たし新たな視界を手に入れた奴、点々とする先々でどんどん増える仲間に囲まれ毎日楽しそうに過ごす奴…家庭を持って幸せな親になってる奴もいる。
何なんだよ本当に。ずりーよ。俺だってそれなりに機会さえあれば…
「○○くん。」
「…あ?」
「勤務中に、あまり私用で電話しないでねぇ。」
「……すみません、主任。」
何だってんだよ。
**
「おかえりぃ!」
「…ただいま有咲。」
「……何だよ、随分落ちてんな。」
「…うん。」
我が家に帰るまでの帰路もずっと悶々としていた。
俺は一体どこに向かっているのか。俺は何時になったら大人に成れるのか。何を為せば大人だと言えるのか。
…分かってんだ。きっと顔ボケで見たアイツらみたいに、何かで成功したり海外に進出したりしても自分を大人だとは思えないって。要は、結局のところは無いものねだりなのだ。
全ての人間がそうなのかは知らないが、少なくとも俺はそうなんだ。だって、こんなに可愛い彼女と同棲してんのに、"結婚しました"の報告が羨ましいと思っているんだから。
大して可愛くもねえ奴と結婚した大して格好良くもねえアイツに。
「おいおい、どこ行くんだよ。そっちはトイレだぞ?…居間はこっちだろーが。」
「ぇ……あ、ごめん。」
「…なあ○○、本当にどうした?疲れてる…ってだけじゃなさそうだけど。」
「うーん……まぁ、色々。かなぁ…。」
有咲には言えない。というより、他人に言ったところでどうなるものでもない。これは俺が一人で勝手にモヤモヤして、時間経過で勝手に忘れられたらいいだけの…
「えいっ!」
「…んむぐっ!?」
何が起きた?
急に腕を引っ張られバランスを崩してしまった俺は何か柔らかいものに突如として包まれた。…それが有咲による強引なハグだと言う事に気付いたのは、塞がれた口のせいで呼気が吸気を上回った頃だった。
「んむぅっ!!!…こっ、殺す気か!」
「………何だよ、勝手に落ち込みやがって。私はこうでもしないとお前を元気づけてやれないんだから…そ、その……何かあるならちゃんと言えよな!」
「……有咲。」
顔を真っ赤にして涙目で睨みつけてくる。あぁそうか、それ以上の事迄やっておきながら未だに自分からのハグは慣れないって、いつか言ってたっけ。
その衝撃と本能的な死の恐怖故にさっきまでのモヤモヤはどこへやら。どう説明したものかと言葉を探すが、残念ながら脳以外の場所に血流が集中してしまっているようで考えが纏まらない。
…結果、頭が空っぽの人間というのは本当に突拍子も無いことをほざく訳で。
「風呂、入るべ。」
「……んん??」
「風呂。一緒に。」
「…………どうした、おい。」
「元気、出すから、風呂、入ろ。」
「……やべぇ。本格的におかしくなった?」
「………やっぱヤバいかな。」
「いや別にいいけどさ…私の心配返せよ。」
「心配…してくれたの?」
咄嗟のイカレ発言にも満更でもない様子で対応してくれる有咲。軽く揶揄う様な調子で喋りながらも俺の鞄と背広を回収し、ハンガーに掛ける。
ネクタイとベルトも外され、為すがままの状態となった俺を引っ張り入浴の準備を進める横顔は、何とも複雑そうな表情だったが。
「…当たり前だろ。私はこれからずっと傍に居なきゃなんねーんだ。…○○が元気ないのも心配だけど、私に何も言ってくれない方がよっぽど心配なんだぞ。」
「……というと?」
「……………………れたんじゃないかって。」
「あんだって?」
「嫌われたんじゃないかって!信頼されてないのかなって!色々考えるだろーが!バカ!」
小声でボソボソ言ってるから何事かと訊いたが…あまりに頓珍漢な答えが返ってきて思わず無のトーンで返答してしまった。
「…………いやそりゃねえよ。」
「なら何でも相談しろっ、この馬鹿○○!!」
「…いやそこはほら男のプライド的な」
「プライドあんなら落ち込む姿見せんな。」
咄嗟にした言い訳に返ってきたのはド正論だった。
ぜぇぜぇ言ってる有咲からは実際に何かされた訳じゃ無いが、重いボディブローを食らったようなズシリとしたダメージが胸に刺さる。
…どうでもいいけど、自分の口から"プライド"なんて単語が出てきたのに少し驚きだ。あったのか、俺にも。
「……なあ有咲。」
「なに。」
「…ちゃんと言わなくてごめんね。」
「…あ、謝るなら最初から話してくれたらいいだろ…。」
「うーむ。…あまりにもしょーもない内容過ぎてさ…。」
「…しょーもない話なら、風呂の中での
「……あぁ、勿論だ。」
「別にこれはあれだからなっ、話聞く代わりにって言う、対価でやらせるだけだかんな。」
「…お前、シャンプーしてもらうのほんと好きな。」
「だからぁ!違うっての!落ち着くとかそういうのじゃないから!対価の支払い…そう、取引だこれは!!」
有咲の頭から泡が流される頃、俺のやりきれない思いなぞすっかり無くなってしまっていた。
きっとまた週明けからあのつまらない職場に向かい、大人に成り切れないままの俺は惰性のように仕事をこなすのだろう。
でも帰ってみれば有咲がいる。顔ボケに載せるつもりは無いが、俺にとって見たら唯一無二の嫁が居るんだ。勝手に落ち込んでいくどうしようもない俺を一番傍で温めてくれる奴が。
それはきっと、何よりも幸せな事なんだ。
「でも面倒だから極力元気で居て欲しいんだが。」
「えぇ~、有咲ぁ、きっつぅい。」
「調子戻ったら戻ったで面倒だな○○は。」
「てへぺろ。」
「かわいくねえ。」
「有咲は世界一可愛いぞ。」
「……うっせえ。」
「結婚してくれぇ!」
「その妙なノリ何なんだよ?………するけどさ。」
「やったぜ。」
「つか結局何で落ち込んでたのかわかんねーんだけど。」
「え"、説明したじゃん。」
「周りはどーだっていいだろ?私じゃ不満なのかよ。」
「有咲は最高だけどさ、仕事とか満たされないなーって。」
「……んじゃ、ばーちゃんとこで働けば?」
「…………流星堂を、継ぐってことか?」
「今の仕事よりは面白いと思うぞ。…そもそも○○、骨董品とか好きで通ってたじゃんか。」
…その手があったか。
実話要素がかなり多い回。このシリーズの主人公は作者にだいぶ近いですね。
<今回の設定更新>
○○:某FBを見てかなり凹んだ模様。
昔の知り合いが生き生きしてる姿とか、結構クるよね。
有咲:女神。ほんとすき。