BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
諸事情により地方の都市へと出張に来ている俺。土曜~日曜のスケジュールな上、俺単身で用足しのような仕事の為有咲も一緒に付いて来ている。
…経費が会社持ちだったらそんな自由は出来ないだろうが、飛行機代も宿代も全て俺持ち。この点の自由度に関してはブラック企業様様である。
「お待たせ、有咲。」
「……おう。仕事は?」
「おわった。」
「早かったじゃん。」
出向先の提携会社での業務を終え待ち合わせ用に目星をつけておいた公園へ。単独出張の為業務終了後は自由、明日の出勤時刻までに会社に居ればそれで良いのだ。
スカートをぽんぽんと叩きながら立ち上がる有咲を見ながら思い切り背中を伸ばしてみる。長いこと緊張して凝り固まった肩と背中が気持ちよく解れて行く感覚がした。
「…おつかれさん。」
「さんくす。…さてどうすっか。」
「帰りの便、何時だっけ。」
「えっとだな…………………あぁ、全然大丈夫だ。二十時過ぎだし、空港まではタクシーだし…まだ余裕あるぞ。」
スケジュール帳に挟んだチケットと大まかな所要時間を見比べてみれば、かなりの空き時間があるらしい。とは言え知らない街だ。せめて方針位は固めておこう。
「有咲腹は?」
「別に、ふつーくらい。」
「空腹度「ふつう」って…今時のローグライクでももうちょっとしっかりしてるぞ。」
「○○は?ぺこちゃんなのか?」
「いんや、まだ大丈夫そうだな。」
そういや「お腹がぺこちゃん」という表現は万実さんから感染ったものらしい。昔からそう訊き続けられたせいで染み付いてしまったとか。
この子、結構そういうほっこりエピソードを持っていて、偶に俺の「ばあちゃんっ子ハート」を擽りにかかって来る。生憎と自分の祖母は亡くしてしまっているので、そういう話題は涙腺に来ることからも少し勘弁求めたいところなのだが。
「どこか行きたい店とか…は無いか、知らん街だし。」
「うん。……でも、○○と一緒なら、何処でも、いいよ?」
「…たまに可愛い事言うよな。たまに。」
「な、ばっ、一言余計だっつの!」
顔を真っ赤にする有咲の手を取り、宛は無いが賑やかそうな方向へ歩き出すことにした。
**
「おぉ…!」
腕を引かれる感覚に振り向いてみれば大きく出っ張ったショーウィンドウに齧りつく有咲。展示してあるのは何の変哲もない服屋らしいマネキンだが…
「ここ、入ってみっか。」
「…うんっ。」
珍しく服に食いついている有咲。普段は金銭事情を考慮してか興味がないのか知らんが、特にファッション関連の話題を出すことも新しい何かを買ってくることも無いのだが…
暖房の利いた店内に入りマフラーを緩める。客の入りはあまり多くないが、店員は多い。…ううむ、この空気、苦手だ。
「すっげぇ数の服だ…」
「…入るの、嫌じゃなかった?」
「あん?んなこたねえわい。…で、どれか気になったのあるんだろ??」
ショーウィンドウに釘付けになる程だ…余程そそられるものがあったんだろう。俺はこの辺適当にうろついてるから、と有咲の鞄を預かり解き放つ。
大層元気な様子でとてとてと徘徊を始める有咲を見ながら、凡そ靴の試着用であろう小さなベンチに腰掛けた。…と、隣に近寄って来る偉そうな肩書の女性。
「いらっしゃいませ。…彼女さんですか?」
「彼女…というか嫁というか。」
「ふふ、可愛らしいお嬢様ですね。」
「そっすね。」
営業トークか何かだと思い適当に受け流そうとしていたが、ベンチの隣…空きスペースに腰を下ろされてしまった。いやアンタも座るんかいとツッコみそうになったが、立ち仕事の上これ程客も少なければしんどいんだろう。暇疲れという奴だ。
別段急いでいる訳でもタスクに追われているわけでも無い俺は、他の店員とアレコレ話しながらワンピースを物色する有咲を眺めつつ、隣の"エリアマネージャー"さんと雑談に耽る。
「あぁ、申し遅れました。私この辺りのエリアを任されている、
「ぇあ?ああ、これはどうも、ご丁寧に…。」
渡されてしまった名刺を見やると当然ながら彼女の名前が。大して興味も無いので胸ポケットにしまい、一応持ち歩いていた名刺ケースから一枚取り出す。
「ま、商談とかって訳じゃないんでアレなんですけど、私○○と申します。」
「頂戴いたします。……あら、ずいぶん遠くからいらっしゃったんですね。」
「ちょっと出張でして。」
「それで立ち寄って頂けた訳ですね。」
「まあ、あの子が……実は連れなんですが、普段あまりこういった店に興味を持たなくてですね。」
「あら、意外ですね。お年頃に見えますが。」
「ええ。…普段から服でもアクセサリーでも欲しがるものは何でも与えようと思っているんですが…中々欲しがらないものでして。ところがさっき、ここのショーウィンドウを食い入るように見つめてたんで「もしや」と思いましてね。」
何だろう、これが聞き上手という奴なんだろうか。訊かれても居ないのにベラベラ喋ってしまう自分に引きながらも、このまま話し続けることで有咲をより可愛らしく包み込むことができるやもしれないと腹の中で考え出した。
「成程ですね。…愛情が凄いです。」
「そりゃもう愛してますよ。」
「おぉ、素敵です!」
「あ……じゃあ折角なんで横澤さんに相談なんですけど。」
「なんでしょう?」
「予算はそこそこあるんで、アイツをもっと可愛くする手伝いをして欲しいんですわ。」
「あぁ、それならお安い御用です。…というより、そういうお店ですしね。」
「それもそうだ。」
服屋の店員に向かって「頼むから服を売ってくれ」などと頼み込むのも俺位なものだな、と自分を滑稽に思いながらも横澤さんと一緒に有咲の元へと向かった。
「………あ、あれ?もう帰る時間?」
「な訳。…気に入った服はあったか?」
「えと……い、いっぱい試着出来て楽しいけど、買う程は…その、アレかな。」
「どれだよ。」
「う、うっさいなーもう。…別に試着できただけでも満足だから、行くんなら行こ?」
何が恥ずかしいのか、妙に焦った様子で店外へ誘導を図ろうとする。だがその誘いには乗らんし俺の目的も達成出来ちゃいない。
横澤さんに目配せして、有咲を試着室へと引っ張っていく。
「へ?…へっ??ちょちょっ…」
「有咲。」
「な、なんだよ」
「悪いが今から、お前には着せ替え人形になってもらう。」
「あぇ??…何言って」
間抜け面で状況に付いて行けない感をモロ出しにする可愛い彼女。そりゃそうだ。
逆の立場だったら俺もそうなる。正直俺のエゴ的な要素もあるこの流れだし、有咲が服だなんだを欲しがっているかどうかすら分からない。
だがこの子は悪い意味でも気を遣えてしまうような、根っからのいい子だ。どこかで俺が無理してでも押してやらないと、こういった金のかかる欲求は一生口にできないだろう。
「○○様、奥様の好みなどはお分かりで?」
「んー、わかりませんねぇ。」
「えっ、だ、誰??店員さん?」
「私、横澤と申します。…本日は○○様のご依頼で、有咲様の一式コーディネートを担当させて頂きます。」
「こーでぃ……おい、○○!どういうこと??」
「まぁその、あれだ。…日頃の感謝とかそういう…色々あるから、その、もっと色んな服着たお前が見たいんだ!!」
「後半お前の願望じゃねーかそれ。」
「そうともいう!」
「開き直んなぁ!……えーと、それはアレか?好きな服、買ってやるぞ…的な?」
有咲も俺の真意に気付いたらしい。気付かれるというのもそれはそれで滅茶苦茶恥ずかしいものである。
…だがもう引けない。ここは押し通す勢いで道化を演じるしかないのだ。大丈夫だ、きっと横澤さんは分かってくれるはずだ。すっげぇ笑い堪えてるけど気にしないでおこう。
「おう!どんどん可愛くなってくれ!!」
「お、おう!…おう??」
「ふふふふ…それでは○○様は此方の椅子にお掛けになってくださいな。」
有咲が一応了承の動きを見せるや否や、突如用意された椅子に押さえつけられるようにして座らされる俺。有咲は女性の店員と一緒にカーテンの向こう側へと消えて行ったが…。
「…一体何が始まるんです?」
「勿論、奥様のファッションショーですよ。」
「なるほどぉ。」
アレコレ考えるとまた重い空気を作り出してしまいそうだったので、頭を振って余計な考えを飛ばすことにした。
もう頭は使わない…これから見られるであろう有咲のエr…可愛い姿だけを目に焼き付けよう。
「…奥様とお呼びしてしまいましたが、もし複雑な関係だったならば申し訳ありません。」
「え?」
「いえ。…先程ご関係を濁しておられたので。」
「あぁ。」
突然真剣な声色で何を言うのかと思えば。それは横澤さん、俺達ってそういう人種なんですよ、としか言いようがない。彼女も"二次嫁"も纏めて嫁と呼ぶような、ね。
「失礼ですが、横澤さんご結婚は?」
「しておりますよ。」
「ふむ。…やっぱり、ご主人からプレゼントとかされるんですか?」
「私…がですか?全くですよ。」
「あら。」
「だから正直なところ、有咲様が羨ましいんです。……○○様を見ていると、溢れんばかりの愛情が見えますので。」
………俺ってそんなにわかりやすいのかな。もしかして、端から見て恥ずかしいレベルだったりするのか?
いやでも、自分の嫁の色んな可愛さを見て居たいって言うのは誰でも一緒なんじゃないのか…そもそも、
「おや、準備が終わったようですね。」
「ほう。」
…考えるのは後で良いか。
「それではお披露目でーす!」
恭しく開かれたカーテンの向こうには恥ずかしそうにこちらを睨む有咲が居て―――
**
「有難うございました~またお越しくださいませ~」
二時間近く過ごしただろうか。次々と現れる多角度からの"可愛さ"攻撃に俺の理性は限界。
あれやこれやとアクセサリーも同時に紹介されたような気もするが、気付けばクレジットカードの暗証番号は入力済み、両手には大量の紙袋を持った俺と買ったばかりの服でめかし込んだ有咲は店員の声を背に歩き出していた。
「……えと、その……あ、ありがと。」
「おう…………なんつーか……すげぇ、似合ってるよ。」
「あぅ………………す、すす。」
「??」
「………好き、に……なった…?………前より、もっと。」
あれあれ、どうしちゃったのかな。服が変わっただけだというのにこのキャラの変わり様。
今までにない程いじらしさが漂っている有咲…すっげぇイイ。
「当たり前だろー………あれだけ何着ても似合うんだもんよ……ヤバいくらい…いやもう、可愛すぎて…ヤバい。」
ヤバいのは俺の語彙力かも知れない。
「……き、嫌いになったり、して…ない?」
「何だその質問は…」
「…だって……だって、高い買い物……させちゃったから…さ。」
あぁもう、どこまで俺を誑し込むつもりなんだこいつは。気を遣うのもいいが、ここはちゃんと教えてやらないとな。
「……いいか有咲。」
「…ん。」
「今回のは、俺の我儘に付き合ってもらっただけだ。有咲が駄々こねて買った訳じゃないだろ?」
「………そりゃそうだけど。…遠慮とか、さ。」
「遠慮なんかいらねえんだよなぁ…。お前、普段から色々抑え込んで生活してるだろ?俺に気を遣ってるのか知らんが、こういう買い物とかも全然したがらないし。」
「……だって、部屋着でも制服でも、○○は可愛いって言ってくれるじゃんか。」
「……え。」
「だからその、何なら何も着てなくったって、○○は可愛がってくれるし…好きって言ってくれるし……着飾ることよりも、一緒に居る時間増やしたいな…って。」
なるほど。
なるほどなるほどなるほど。
つまりは、気遣い云々よりも俺に原因があると?どんな有咲であろうと色んな魅力が見えていいじゃん的な俺の態度が、有咲を満足させてしまっていたと…?
こいつ、口では捻くれた事言ったりツンツンしてる癖に腹の中滅茶苦茶ピュアじゃねえかよ…。
「………じゃあこうしよう、有咲。」
「…うん?」
「俺が有咲に何かプレゼントしたくなったら、その時は俺とデートしてくれ。」
「でーと…?」
「ん。今日…程豪勢には難しいかも知れないけど、一緒の時間を過ごしながら俺の物欲?も満たせる。」
「…あのさ、私は買ってもらう側だからいいんだけど、○○にとって負担にはならない?私、○○に何かを買ってもらいたくて一緒に居るわけじゃないんだけど。」
少しムッとした様に言い返してくる。強情な奴め、俺が君にプレゼントすると言う事はつまり君を俺の好きなもので塗りつぶしていくと言う事で…いや決して押し付けたいわけじゃないが。
「何も毎度何かを買ってあげようとかそんなつもりはないさ。…ただ今日みたいに、有咲の可愛さをより際立たせる何かがあった時は、遠慮せず受け取って欲しいんだ。」
「可愛さ…って、お前今すっげー恥ずかしい事言ってっかんな。」
「これからもずっと一緒に居てくれるんだろ?…なら、もっともっと、有咲の魅力を焼き付けていきたいんだ。だから…」
「わかった!わかったよぉ!!!……もう、ここ往来だってこと忘れてないか?すっげぇ恥ずいんだぞ…。」
しまった。熱く語り過ぎてしまったがここはまだ店から数十メートル歩いただけの道路。周りには普通に通行人が居るし、何ならじっと観察してくる奴さえいる。
そんな中で俺は、クソ恥ずかしい求愛めいた真似を…!!
「あ、あああああ、有咲よぉ、と、ととっ、取り敢えず歩かねえかっ?」
「気付いたら恥ずかしくなったパターンか。」
「な、なんでおま、有咲はそんな冷静なんだよっ。」
「んー……なんかさ、お前の言ってくれたことは恥ずかしいし、「よく真顔で言えんな」って感じで、私だったらのたうち回るレベルの台詞なんだけどさ…」
胸に見えない何かの破片が突き刺さる気がする。
「…○○の気持ちはよく伝わったっつーか、言ってくれた言葉の意味とか、褒めてくれた私自身を考えたら…さ。嬉しさの方が勝っちゃったんだよな。」
「………。」
「……○○、私と一緒に居てくれて、ありがと。」
「…………んむぅ。」
何も言えねえ。何だこれ。
すーっと体の熱が冷えていく感覚がして、目の前の笑顔から目が離せなくなって。俺も何か返さなきゃいけないのに、口から出る声は文字にならなくて。
雑踏と喧騒をバックに微笑む姿が、天使に見えたんだ。…んで天使は続けるわけだ。
「あのさ、まだ時間あるよな?」
「んぉ、…おう。」
「さっき店員さんに聞いたんだけど…もう一つ、おねだりしてもいいかな。」
「!!……よし、何でも来い。」
「えへへっ、ここからそう遠くない場所にさショッピングモールがあって―――」
**
帰りの飛行機の中。
右側、窓際がいいと言う事で席を交換した有咲は疲れて寝息を立てている。
俺の首筋に掛かる同じ匂いの金髪はくすぐったいが、また一つ増えた嫁との思い出に、込み上げる笑みと幸福感を噛み締めていた。
「確かになぁ…一緒に写ってるのは、なかったもんな。」
ハサミを持っていなかった為に数パターンが一枚にプリントされているが……この
出張終わり。つかれました。
<今回の設定更新>
○○:愛妻家(予定)。
貢ぐとかそういうのじゃなくて、純粋に好きな人を甘やかして可愛が
りたいタイプ。もう有咲無しじゃ生きられない。
有咲:何を着ても似合う。髪型も何でも似合う。
おい最高かよ。
ショーウィンドウに食いついたのは、以前主人公が雑誌で見かけ
可愛いと言っていた服に色と形が似ていたから、らしい。
横澤:昔色々あった人。結婚生活が上手く行っていない訳じゃないが、
旦那が「発想力を鍛える為」とか何とか言いつつ金髪の少女と
遊ぶことに夢中な為、不満が多い。要するに欲求が不満なのである。
多分今後は出ない。