BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/03/05 春の陽光射すように

 

 

 

「兄さん、これ懐かしいよねぇ~」

 

「ん。……あぁ、昔作ってやったやつか。」

 

「うん。あの頃は本当にアイドルになるなんて思ってなかったけど…そういえば、これが人生初のマイクだったんだよ。」

 

「マイクに人生初も何もねえだろ。形だけだし。」

 

「もー…兄さんはそういうとこ、現実主義だよね。」

 

 

 

実家。彩が一人暮らしの準備を始めるというので有咲と一緒に手伝いに来たのだが。

どうやらこの妹、片付けの最中に思い出の品が見つかると手を止めてしまうタイプの人間らしく、今もアルミホイルの芯から俺が五分で作った「マイクのような何か」を手に燥いでいる。

有咲はさっきお袋に呼ばれてリビングの方へ行ってしまったし、この部屋には兄妹だけが取り残されたと言う訳だ。

ぶーぶーと不満を漏らす妹に軽めのチョップ…作業の再開を促した俺は、また妹のクローゼットへ頭を突っ込む。

 

 

 

「いいから手を動かせっての…。……こんなに服だのコートだの要るのかよ?」

 

「い、要るよぅ。アイドルなんだから、外見には気を遣わないと!」

 

「中学の制服とか、要らんもんは捨てるかどうにかしないと…」

 

「す、捨てるなんてっ、ぜったいしないからっ!」

 

 

 

お手製マイクを放り投げ飛びついてくる。俺の手から中学時代の制服をひったくり、抱き締める様にして恨めしそうな眼を向けてくる。俺が何したってんだ。

第一、もうすぐ高校の制服すら着なくなるというのに一体全体どうしたいんだね。

 

 

 

「だって…初めてこの制服着た時、兄さん褒めてくれたから…。」

 

「今の制服だって初見は褒めたろ。」

 

「で、でも!高校入学の時は何か適当だったもん!」

 

「えぇ…?」

 

 

 

思い出してみる。中学に入った時は、初めて制服登校になることもあってとても新鮮だったのを覚えている。俺も通っていた共学の中学で、見慣れた制服より少し新しいデザインを身に纏った妹は文句のつけようが無い位可愛かった。

それに比べて高校の時は、確か俺はもうここに住んでいなかったこともあって、チャットか何かだけで感想を伝えた気がする。それを適当と言われても…ううむ。

 

 

 

「適当でした!」

 

「どんなこと言ったんだ?俺。」

 

「写真送ってさ、「似合う?」って訊いたの。…そしたら、次の日くらいに「ああ」ってそれだけ!!」

 

「……………ああ。」

 

 

 

思い出した。確かあの頃は就活で忙しくて……その時も移動の隙かどこかで見て返信だけしたんだったっけ。確かに適当にも感じられる。

 

 

 

「だから、中学の制服は絶対に捨てないの。」

 

「中学の時ってそんなに丁寧な回答したん?」

 

「丁寧っていうか…携帯でいっぱい写真撮りながら、「最高に可愛いぞ!俺にとって世界一のアイドルだぞ!」って。」

 

「ああもういい恥ずかしいからやめて。」

 

 

 

昔はシスコンだったらしい俺。その時の写真なら今もPCの写真フォルダに入ってるよ。

そんなに小っ恥ずかしい事を言った覚えは無かったが…そうか、そりゃ嬉しがっても仕方ないな。

 

 

 

「じゃあ高校の制服は捨てるのか?」

 

「それとこれとは別!」

 

「あぁそう。…これ、実質俺手伝いようが無いんじゃ?」

 

「む。気付いちゃった?」

 

「結局最終判断はお前だもんなぁ。断捨離の苦手な…」

 

「だって…全部思い出がいっぱいなんだもん。簡単に捨てたりなんて…できないよ。」

 

 

 

お、名曲…じゃない、そんなペースじゃ片付けも準備も終わらないと思うんだが。

現状、俺にできることと言えば作業の手を止めがちな彩の監視程度なんだが、果たしてそのポジションは必要なのだろうか。

 

 

 

「兄さん。」

 

「んぇ?」

 

 

 

自分の存在意義について考えていると、妹から割かし真剣な声が。

 

 

 

「私がいなくなったら、寂しい?」

 

「別に?」

 

「……酷くない?」

 

「今だって一緒に住んでるわけじゃねえし、テレビ付けたらお前に会えるだろ?」

 

「…それって、私は兄さんに会えてないよね?」

 

「だから、俺は寂しくない。」

 

「むーっ!!」

 

 

 

ああ思い出した。このやりとり、俺が実家を出て行くときにした会話だ。丁度中途半端に自我が育っていた彩は少し反抗期気味になっていた頃で、俺に対しても妙に冷たい態度を取っていた時期。

確かあの時は、直前までしょーもない事で喧嘩していて………会話の内容まで思い出してきた。

 

 

 

「…まぁ、「寂しくないと言えば嘘になる」な。」

 

「!!……「でも、今は私に冷たい」じゃない?」

 

「いや別に冷たくはしてな」

 

「兄さん!」

 

「はいはい…。「冷たいのは嫌なの」か?」

 

「「そりゃあ」…兄さんは私にとって、世界でただ一人の兄さんだもん。「できることならずっと、一番大切にしていきたい」よ。」

 

 

 

うわあ。何なの。昔の俺ってそんな気障ったらしい台詞ばっか言ってたの?

この再現芝居みたいのも噴き出しそうで辛いのに…俺いま泣きそうなレベルで恥ずかしいよ。

 

 

 

「…で、ここでお前は大泣きしたんだよな。「ぶぇぇ」つって。」

 

「も、もう!そんなとこまで思い出さなくていいよ!」

 

「…………まぁ、本当に、寂しくないってことはないさ。彩が活躍する姿は楽しみだけど、直接褒めてやれなくなるからな。」

 

「……そんなに褒めてもらったことないけど?」

 

「ああもう……この歳になると照れ臭いんだよ。ほら来い。」

 

 

 

演技モードに入っていた妹に向けて手招き。スイッチが切り替わる様にふにゃふにゃの顔になるや否や、早足でトトッと近寄ってきた。

あの頃とは違い身長差も著しくなったその華奢な身体を抱き締めてみる。久しぶりに嗅ぐミルクの様な甘い匂いは、色気づいたのか振りかけてあるコロンの香りと混ざり合いその成長を意識させる。

頭を抑え込む様にして、暫し無言で佇み頭の後ろ…油断していたのか少し寝癖の残ったあたりを撫でる。彩も彩で、胸のあたりに顔を埋め、時折もぞもぞと左右に振っている。感触を確かめているのか、何かを求めているのか。

 

 

 

「…お前の頑張りはちゃんと見てるよ。テレビは流石に全部見られるわけじゃないけど、雑誌も写真集も、トレーディングカードもちゃんと集めてる。」

 

「……うん。」

 

「お前は今だって俺にとって一番のアイドルだよ。あの時にも言ったかもしれないけど、人ってのは変わることで大きくなっていくんだ。」

 

「…ん。」

 

「住む場所が変わって、一緒に過ごす人が変わって、環境が変わって、学ぶことが変わって…」

 

 

 

彩は春から、大学生。勿論芸能活動も続けながら通う事になるので、事務所の意向で事務所近くの全寮制の大学に通う事になるのだ。パスパレの他のメンバーも同じ学校に通うとかで、ぼっちの心配は無いのだが。

俺だって、妹が上手くやって行けるのか、体を壊したりしないか、気持ちが負けそうになったりしないか、ホームシックにならないか、心配し始めたらきりがない。だが、誰もがそうやって大人に成って行くのだ。俺にできることは、この地で、彩の行く末を見守り応援するだけ。

 

 

 

「お前がどんなに変わろうと、俺にとっては世界でただ一人の妹だから安心しな。辛くなった時には、いつだって甘えていいんだから。」

 

「………うん。」

 

「……大丈夫だ。お前はちゃんと頑張れてる。偉い子だ。」

 

「…………………兄さん。」

 

「ん。」

 

「私、やれるだけやってみるね。」

 

「おう。」

 

「………兄さん。」

 

「んー。」

 

「……だいすき。」

 

「…そか。」

 

 

 

勉強机の上に置いてある、古い魔法少女モノのキャラクターデザインの目覚まし時計。秒針の硬い音が部屋にまったりとした時間を齎していた。

暫く頭を撫で続けていたが、やがて突き放す様に距離を取る彩。

 

 

 

「もうおしまいっ!片付けしないとね!」

 

「おう。」

 

「でも兄さん?最後のだけ減点ね!」

 

「え。」

 

「……私みたいな可愛いアイドルに大好きって言われてるんだよー?「そか」って!「そか」ってぇ!」

 

「まじかぁ…手厳しいなぁ。」

 

「にへへ、もう言わないよー。」

 

「そっか。」

 

「さ、お片付けお片付け~」

 

 

 

俺の自慢の妹は意気揚々と腕まくりを始めた。どうせまたすぐにその手を止めるんだろうが、それも悪くない。

こっちにいるうちに、出来る限りは一緒に過ごしてやろう。

 

 

カチャァ…

 

「○○……」

 

 

「ん。」

 

 

 

部屋のドアが開いたかと思えば、ついさっきまで泣いていたかのように目を真っ赤に腫らした有咲が。

何事かと兄妹揃って心配したが、さっきまで彩が居た場所に今度は有咲が飛び込んでくる。

 

 

 

「おっと……どした?」

 

「………お母さんと、話した。」

 

「うん。何か酷い事言われたのか?」

 

「……。」

 

 

 

首を横に振る有咲。

何故か彩が泣きそうな表情なのも引っ掛かるが、まずは腕の中の有咲だ。

 

 

 

「…○○を宜しくって言われた。」

 

「……うん。」

 

「………すん…すん…。」

 

「……え、それだけ?」

 

 

 

何だよ、そんな事かよ。

…もっと凄い事言われたのかと思ったけど、要は俺がだらしないからとかそういうやつだろ?

 

 

 

「……○○、私も丸山にしてくれる…?」

 

「!!」

 

 

 

あっ。ヤバい。

涙に潤んだ瞳でそんな風に見上げられると…色々精神衛生上よろしくなかったので、もう一度強く抱きしめる。そのまま顔を見て居たらおかしな気分になりそうだったのだ。

隣で小さく「ぁ…」と声を漏らす彩。いやわかる、びっくりだよな。

 

 

 

「……俺は結構前から、そのつもりだったが?」

 

「………ほんと?」

 

「おうとも。…つか、お袋とどんな話したんだ…。」

 

「…可愛いからうちの娘になって、とか…○○はどうしようもない愚図だからずっと傍で支えてあげてとか…」

 

「……あのババア…!」

 

 

 

言うに事欠いて愚図とは何だ。

 

 

 

「でも、有咲がいいなら是非とも嫁に来てくれ。俺もずっとお前と一緒に居たい。」

 

「……うん、結婚する…。」

 

「…よし。なら今度は万実さんのとこ行かないとな。」

 

「…ばあちゃんも……いいって、言ってた……」

 

 

 

根回しが早ぇ。

両家がこんなに早くも合意だとは。こんなに幸せな事ってあるだろうか。そうと決まればこの場に合う有咲の顔は泣き顔じゃない。

まずは落ち着かせるために背中をトントンとリズムよく叩く。勿論、優しくだ。

 

 

 

「……………ちょ、ちょま、一旦ストップ。」

 

「あん?痛かったか?」

 

「…今子ども扱いしたろ?赤ちゃんあやすやつだろ?それ。」

 

「…その結果泣き止んでたら世話ないわなぁ。」

 

「なっ…!」

 

 

 

相変わらず目も顔も真っ赤だったが、一先ずいつもの調子は取り戻したようで。

俺と周りの状況が、こうして一つの区切りを付けようとしている。なら俺も男を決めて…

 

 

 

「あれ?」

 

「ん。」

 

「有咲ちゃん、もう一年高校生だよね?」

 

「はい。」

 

「結婚…すぐするの?」

 

 

 

…あぁ。そういやすっかり失念していたが、彩は卒業、有咲は次が三年生…。

流石に現役高校生と結婚しちゃう社会人はマズいだろう。

 

 

 

「そうか。じゃあ挨拶も一年後に」

 

「はぁ!?折角こんな流れが出来たのにそりゃねーだろ!!」

 

「じゃあどうすんだよ高校生。」

 

「学校辞めるし。」

 

「だめだ。」

 

「あぁ!?いーじゃんか!!ケチ!!」

 

 

 

ケチとかそういう問題じゃねえよ。

 

 

 

「有咲ちゃん…高校は卒業しておいた方がいいと思うけどな。」

 

「なっ、あ、彩先輩まで!?」

 

「ほら、高卒の肩書だけでも色々便利だし…あると無いとじゃ大違いだし…」

 

「うむむむむ………えいっ!」

 

 

 

ぼふっ、と半ばタックルに近い勢いで有咲が再度飛び込んでくる。つい反射で抱きとめてしまったが、こいつ…全てを有耶無耶にしようとしている…!?

 

 

 

「あっ、有咲ちゃん!ずるいっ!」

 

「「ズルい」じゃねえ。」

 

「えいっ!」

 

 

 

今度は後ろから彩が。ええい、お前まで有耶無耶作戦に加担してどうする。

 

 

 

「ねえ有咲ちゃん?」

 

「何…ですか!」

 

「兄さんって、ハグ上手過ぎてズルいと思うの。」

 

「……わかります。」

 

「だーっ!もう、お前ら離れろっての!!」

 

 

 

新たな始まりが近づく、春の日のお話。

 

 

 

 




彩メインの季節ネタ回。もうすぐ完結です。




<今回の設定更新>

○○:特に自分から動かずして両家から承認を捥ぎ取る人格者。
   妹を溺愛していたらしい過去も。
   ハグが上手いらしい。彩曰く頭の撫で方も。何だこの兄妹。

有咲:夢はお嫁さん。
   別に学校を辞めたがっている訳じゃないからな?本当だぞ?
   主人公の母親にエラく気に入られた模様。

彩:可愛い。
  自宅ではたまに眼鏡を掛けることもある。
  かなりのお兄ちゃんっ子で、冗談抜きで恋心さえ抱いていた時期も。
  ぶぇぇ。
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