BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/11/21 会合編・猛進のChuchu

 

 

今日も今日とてチャットグループはアホみたいに元気だ。確かに今は深夜だし、営業時間は終わっているんだろうけど…よくもまぁここまで雑談が続くもんだ。

ま、作業中に見る光景としては丁度いいかな。

 

 

 

珠ちゅ『アンタも居るなら反応しなさいよ』

珠ちゅ【猫が爆発するスタンプ】

 

 

 

ただ会話を眺めているだけだったが、既読の付き方で分かったのだろう。個人チャットの方に院長様からお怒りのメッセージが届いた。

相変わらず、猫が好きなんだか嫌いなんだか分からない独特なセンスのスタンプを使う子だな。

 

 

 

『今手が離せないんです』

 

『あぁ?』

『何でよ?』

 

『忙しいんです』

『色々と』

 

『それは、右手が忙しいってやつ?』

 

『ちゆちゃんってそういう人?』

 

 

 

なんつーことをぶっ込んで来るんだ。実際のところ歳は分からないがあのサイズだしたぶん子供だろう…ということで"ちゃん"付けにしてしまったが、怒られるだろうか。

 

 

 

『ちゆちゃん?』

 

『あぁごめんつい』

『ええと…玉出先生?』

 

 

 

…その後待てど暮らせど個人チャットでの反応はなく。どうやら怒りのラインを一足に踏み越えてしまったらしい。

相変わらずグループの方では楽しそうに戯れが続いているが…。

 

 

 

たえ『そういえばね』

たえ『えっと』

 

珠ちゅ『私はSwordの方にしたわ』

 

MaskI『あ?お前Shieldって言ってたろうが』

 

珠ちゅ『乙女ってのは常にInspirationに従って動くもの』

珠ちゅ『誰にもDon't Stopだわ!』

珠ちゅ【スピード感溢れる猫のスタンプ】

 

MaskI『あ?被ったじゃねえかどうしてくれんだ』

 

珠ちゅ【猫があかんべーするスタンプ】

 

MaskI『死ね』

 

 

 

仲良しなんだか殺伐としてるんだかわかんないなぁ…。とりあえずちゆちゃん…玉出院長先生が猫好きなのは何となく把握した気がする。

このまま言葉のドッヂボールを眺めながら作業するのも良いかなと思いつつ、無心で手を動かす。…と、

 

ピコン

 

個人チャットの方から通知が。通知バーを見るに、ようやっと院長から返信があったらしい。…パレオちゃんじゃないのか。

 

 

 

『チュチュよ』

 

 

 

???

何だ?

 

 

 

『はい?』

 

『ちゆちゃんじゃなくて』

『チュチュって呼んで』

 

『ニックネームか何かですか?』

 

『まぁそんなとこ』

『確かに私が年下だし本名呼びでもいいのだけれど』

『あなたに呼ばれると虫唾が走るの』

『Sorry』

 

 

 

なんだそりゃ…。虫唾て。

そこまで嫌なのは一体何なんだろうか。俺が嫌われているのか本名を好んでいないのか…何にせよ、違う名前で呼べと言うのだから仕方あるまい。

 

 

 

『じゃあチュチュって呼ぶね』

 

 

 

我ながら素っ気なさすぎたかな。虫唾がどうとか言われて少し悲しかったけどそこまで悲嘆することでもないし、かと言って絡みに行くほど仲良しでもない。

多分これくらいが丁度いい距離感なんだとは思うけど…

 

 

 

【怒る猫のスタンプ】

『それだけ?』

 

 

 

院ちょ…チュチュちゃんはお気に召さなかったようで。

 

 

 

『他にも何か?』

 

『私がNicknameで呼ぶことを許可したのよ』

『もっと喜ぶでしょ普通』

 

『なんで?』

 

 

 

貴族か何かなのかコイツは。

 

 

 

『あなた、友達居ないでしょ』

 

 

 

うるせぇよ!

何故にこんな上から目線でモノを言われなきゃいけないのか分からないが、どうも光栄な事らしい。…いやもう面倒だから放っておこう。

気を取り直してグループの方に目を向ける。

 

 

 

RAY『花ちゃんは結局何が言いたかったの?』

 

MaskI『そういや静かだな』

 

RAY『そういえば…って言ってから何も言わないね』

 

珠ちゅ『違うわ、最後は「えっと」よ』

 

RAY『はいはい』

 

珠ちゅ【爪を研ぐ猫のスタンプ】

 

たえ『猫だ!』

たえ『にゃーにゃー!』

 

MaskI『あ、いた』

 

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

たえ【不細工な猫?のドヤ顔スタンプ】

 

珠ちゅ『ハナゾノ、クビにするわよ』

 

たえ『だってかわいい』

 

RAY『うん、可愛いから、私と個人の方でいっぱい貼ろっか?』

 

たえ『にゃんにゃーん』

 

 

 

相変わらず凄いなこりゃ…。これだけ賑やかなら嘸かし素敵な職場なんだろうな。

…いや待て、これは飽く迄チャットのやりとりだろ?…これが実際の職場に近い環境――要は、通話状態で声でのグループトークであればどうなるのだろう。

少なくともスタンプは無いわけだし、だいぶ変わりそうだが…。

 

 

 

MaskI『調子乗んなよ花園』

MaskI『虫歯以外の歯だけ抜くぞ』

 

たえ『えーやだー』

たえ『パン食べられなくなっちゃう…』

 

RAY『何故パン限定?』

 

『あの』

 

 

 

混沌世界に足を踏み入れる。あぁ…何だか途轍もなくマズい領域に突入してしまった気分だ…。あれだけ騒がしかったのに一瞬で静まるチャット欄。出方を窺っているのだろうか。

腹を決めて爆弾を投下する作業に移る。

 

 

 

『俺も会話入っていいすか』

 

 

 

これはまだジャブだ。

ホッとした様に騒がしさを取り戻すチャット勢。

 

 

 

珠ちゅ『何よ驚かせないで』

珠ちゅ『勝手に入れば』

 

RAY『そうですよ!一緒にお話ししましょ!』

 

MaskI『一々断ってんじゃねえよ』

MaskI『出禁にすんぞ』

MaskI『やっぱしない』

 

『よかったー』

『じゃあ折角なんで、通話にしません?』

 

 

 

さぁ、再び静かになったグループ。どう出る。

そこから二分…三分……六分………十分…。あれ、全く以て誰も喋らなくなったぞ。そこまで?

 

ピコン

 

どうやら誰かが個人チャットを送ってきたようだ。流石に調子に乗り過ぎだと、裏でこっそり怒られるパターンなんだろうか…ん!?

通知が表示されていたのはパレオちゃんとのトーク。まさかのタイミングだぞパレオちゃん。もっとやったれパレオちゃん。

 

 

 

『おてんわわたしもはいっってよいですか』

 

 

 

マジかぁ…!思い付きで言い放った茶番に参加してくれようとは!

…本当にこの子天使なんじゃないだろうか?

 

 

 

『ほんと!?』

『是非お願いしたいな!』

『俺もパレオちゃんの声聞きたいし!』

 

 

 

つい興奮して矢継ぎ早にチャットを送ってしまった。とは言えまだグループの方では動き一つないし、手持無沙汰だったから丁度いいんだけども。

…そして待つこと数分。一生懸命打ったであろう文章が返ってくる。

 

 

 

『やったあ わたしも〇〇さんのおこえききたいです』

『あとそのびっくりのやつはどうしたらでるですか』

 

 

 

…可愛い。

エクスクラメーションマークの打ち方は今度また教えてあげることにしよう。ほんと、その辺スマホは面倒なんだから。

 

 

 

**

 

 

 

通話の発信音が鳴る。これは全員が応答するか拒否し終わるまで鳴り続けるもので、応答した人は随時会話ができる状態になる。

一回…二回…三回…

 

 

 

「あっ、あっ…ぁ、あの…」

 

「………パレオちゃん?」

 

「あぅ……○○、さん……は、はじ、はじめまして…は変ですよね、あははは…。」

 

 

 

可愛い…。

相変わらず鳴り続けている発信音や誰ひとりとして反応しない状況はさておいて。…慣れていないのか、酷い音割れと共に聴こえてくる可愛らしくも控えめな声。

あぁ、近すぎてボボボ…とマイクに息が当たりまくっているのもまたいい…。

 

 

 

「久しぶりに……声聞いたな。」

 

「あぇ……その、変じゃ、ないですか?私の声。」

 

「相変わらず可愛い声だね。…すっごい癒される気がする。」

 

「えっ、えっ、あっ、あぅ………。えへへ、嬉しいです。」

 

 

 

あぁ…俺はもしや一生分の運を使い切っているのでは?

そう思ってしまうくらい、パレオちゃんは天使だった。

 

 

 

「○○さんのお声も……すっごく素敵で、毎日聞いていたいくらいです…よ?」

 

「…ッ。いやいや、そんなそんな…」

 

「ほんとですっ!だってだって、何だか落ち着く声で、安心できて、大好きで……ぁ。」

 

 

 

あ。

暫しの沈黙。多分電話の向こう側で顔を真っ赤にして悶えているんだろうなー…とこれはまあ俺の勝手な妄想だけども。

でも、なんだって?大好き?…ちょっと待ってよぉ…そんなこと言われても俺困っちゃうよぉ…。

 

 

 

「じゃあさ……その、時間あれば、だけど……毎日電話、する…?」

 

「!!………い、いいんですか…?」

 

「俺は全然、パレオちゃんと喋れるなら……それにほら!文字の打ち方も教えられてないし!!」

 

「そ、そうですねっ!………ぜひ、お願いしたいです。」

 

 

 

なんということだ。あの病院のメンツを引っ掻き回したいだけだったのに、こんなに可愛らしい通話相手ができてしまうとは…何たる僥倖、何たる棚ぼた。

これからは毎日、楽しい作業時間が待っているぞ…!

 

 

 

「アンタ達、何を青臭い会話してんのよ。」

 

「げっ」

 

「い、院長さぁん!?」

 

 

 

居たのか。いつ応答してたんだ。玉出。

 

 

 

「ちゅ、チュチュちゃん!どこから聞いてた?」

 

「!?」

 

「割と序盤からね。「可愛い声だね~」くらいから。…人の病院スタッフ口説くのやめてくれない?」

 

「違うんだチュチュちゃん!…いや違わない、か…?」

 

「………。」

 

「ほら、パレオは否定しないじゃない。沈黙は肯定って言うじゃない?」

 

「パレオちゃん…!!」

 

 

 

どうしてだろう。チュチュちゃんと喋りだしたあたりからパレオちゃんの声が聞こえなくなったぞ。いや、別にチュチュちゃんが大声を出しているというわけではないんだが、純粋にパレオちゃんの様子が変というか。

 

 

 

「○○さん?……「チュチュちゃん」って?」

 

「へ?……あいや、さっき、そう呼べって言われて。」

 

「……ふぅん。」

 

「ええと、だめ…だった?」

 

「ダメとかじゃあないですけど、何だかもやもやする気持ちですっ。」

 

「もやもや?」

 

「何だか、すっごく仲良くなってる気がするです…。」

 

「えぇ…?」

 

 

 

なんだなんだ、雲行きが怪しくなってきちゃったぞ。

 

 

 

「じゃあええと、パレオちゃんも何か呼び方変えよっか。」

 

「うぇっ!?…えぅ…あぅ……その、ええと。」

 

「…なあに?」

 

「私……"れおな"って言うです。名前。」

 

「……パレオって本名じゃなかったんだ。」

 

 

 

それもそうか、カタカナだし。髪の色こそ愉快なことになってるけど、名前は確かに違和感があったんだよな。

れおな、れおなか…。

 

 

 

「…ん、わかったよ。じゃあこれから、"れおな"って呼んでいい??」

 

「ひゃぅっ。……ひゃ、ひゃい…それで、よろしくお願いしましゅ……。」

 

「そんなに固くならなくていいよ…名前で呼ぶだけだし…。」

 

「ら、らって…男の人に名前…初めて…あぁう」

 

 

 

ポーン

 

あ。

テンパった挙句に通話からもいなくなっちゃった。あちこち弄って切っちゃったのかな?それもそれで可愛い…

 

 

 

「……あの子の名前、れおなっていうんだ。」

 

「あ、気になるとこそこなんだ、チュチュちゃん…。」

 

 

 

…なんだかなぁ…。

 

 

 

 




カオス。




<今回の設定更新>

○○:声がいいらしい。低めの落ち着いた声をしている。
   作業作業といいつつ、趣味のお絵描きをしていただけという。
   名前を覚えるのが苦手。

パレオ:れおなちゃん。相変わらず文字を入力するのは遅い。
    主人公の声が好みらしい。よくテンパる。

チュチュ:お騒がせ院長。
     圧がすごい。

マスキング:怖い。

レイヤ:たえが気になって仕方がない。お母さんか。

たえ:手に負えない。

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