BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
人は、常に何かを求めている。
欲求の強さこそ人それぞれだが、何かしらに期待せずには生きられない人間なのだ。
だからこそ、希望もあれば絶望もある。
…今日、俺の一つの希望が、潰えた。
**
「んぁ?……電話?」
朝から訪ねてきた
「電話??珍しいねっ!……巴とか?」
「ん………いや、蘭だ。」
「蘭!?…蘭から電話が来るの…?」
「…ちょっと黙っててくれ。」
そういえばひまりには話していなかったと思いつつ、そろそろ十四度目のバイブレーションを伝えようとしている電話を取る。
…こらこらひまり、構ってもらえないからってそんな目はないだろう。
「…はいよ。」
『…ぁ、○○?ごめんね、朝に電話しちゃって。』
「いや、別に何もしてないし大丈夫。」
『そ…。えっと、つぐみから何か聞いてる?』
「つぐみ?……いや、何も。」
『………そう、なんだ。』
「…………蘭?」
『今日、会える?』
「…あぁ、別に…うん、大丈夫。」
ひまりにはまぁ帰ってもらえばいいか。何やら深刻そうだし。
『…じゃあ、○○の家、行ってもいい?』
「えっ…うち、来るのか?」
『……嫌だった?』
「嫌、とかじゃぁ…ないけどさ」
『確かに、家に行くの初めてだもんね。…無理なら別に外でも』
「いや!…うちで話そう。…待ってるから。」
『…ん。わかった。…あ、別にひまりは居てもいいからね。』
「…………お、おぅ。」
『じゃ。』
…驚いたな。
どうしてひまりがうちにいることを知ってるんだ?
「蘭、ここに来るの…?」
「あぁ、嫌だったか?」
「……いつの間に、蘭とそんなに仲良くなったの?」
「別に?変なことじゃないだろ?」
「…そう、なんだ…。」
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ。」
煮え切らない奴だな。さっきまでの無駄な元気はどこに行ったって言うんだ。
蘭から電話がかかってきたと知った瞬間からこれだ。…実は仲悪いのか?
「……今日は、○○を独り占め出来ると思ったんだもん。」
「ぁあ?…別に今日だけの話じゃないだろ。」
「…ばか。」
わからん。
家が隣ってだけで、不本意にも毎日独占状態じゃないか。
どうせ独り占めされるなら、大天使つぐみちゃんが良いのだよ。ひまりくん。
バカ呼ばわりされる筋合いはないね。
「蘭は俺に用事があって来るだけなんだから、終わって帰ったあとはまた二人きりだろ?
それじゃだめなのか?」
「うぅ、ダメじゃないよ。ダメじゃない、けど…。
でも、何か嫌なんだもん。初めて来るんでしょ、蘭。」
「?そうだな。」
「なんとも思わないの?」
「あぁ……片付けしないと、とは思うけど。」
今はひまりしか居ないから別にいいけど、この散らかりようはなぁ。
蘭はあれで神経質なところもあるし、家や部屋も整理整頓されてそうだ。
「ほんとそういうとこは、嫌いだな…。」
「嫌いならうちに来なきゃいいのに。」
「そういうこと言う!?…人の気も知らないで!!」
「…なに怒ってんだ。嫌いなんだろ?俺のこと。」
「そんな訳ないじゃん!!好きだよ!大好き!!」
「…お前それ言ってて恥ずかしくないわけ?」
「……は、恥ずかしくないよ。…本当だもん。」
参ったな。
てっきり喧嘩になると思ったのに、愛の告白(笑)を受けてしまった。
まぁ、こいつが好き好き言うのはいつものことか。
いつのまにか蘭が到着していたらしい。
部屋のドアを少し開け、相変わらずの無表情で顔だけ出している。
「おう、ごめんな散らかってて…。」
「い、いや、別に。……○○の部屋、きったないね。」
「ストレートだな!」
「…ううん、男の子の部屋っぽいなって思っただけだから…。」
「そ、そか。」
「うん…。」
ナンダコレ。初めてだからか、妙に気恥ずかしいぞ。
「まぁ、あれだ。取り敢えず適当なところに座ってくれ。」
きょろきょろと物珍しそうに周りを見ながら部屋をぐるぐると回る蘭。
やがて落ち着いたのか、そっとベッドに腰を下ろした。初めての場所に来た猫みたいだな君は。
「蘭は…何の用があって来たの?」
「ひまり…ええと、ちょっと○○に話があって。…って、○○から聞いてないの?」
「ふーん、そうなんだ…。
何も教えてくれなかったよ。○○は蘭のこと、なーんにも話してくれないから。」
随分トゲのある言い方だな。
まさか本当に仲悪いんじゃなかろうな。Afterglow不仲説とか勘弁してくれよ??
若干攻撃的な態度のひまりを、特に気にする様子もなく話し始める蘭。
「ねえ○○。…○○は、つぐのことが好き、なんだよね。」
「あぁ、まあな。真剣に付き合いたいと思うくらいには好きだ。」
「…そう、だよね。……でも、何も聞いてないんだよね。」
「あぁ。最近はあまり話す機会自体無くてなぁ。」
話の流れからしてつぐみのことか。
あいつに何かあったとか?
「実は………つぐみ、最近彼氏出来たらしくて。」
「ぇ…………。」
思考が止まる。
なんだって??彼氏?それはあの、お付き合いする相手っていうこと、だよな?
俺がずっと求めていたのに座れなかった座席の名前で、もう暫くは語れない肩書きのことだよな?
目の前で何やら心配そうな顔の二人が一生懸命喋っているが全く言葉が頭に入ってこない。
「…はは、はははは………。」
「…○○?」
「……いやいいんだ。なんだか笑えてきちゃうよなぁ。
てっきりじゃれ合いの延長のような断り方だと思ってた。…まぁ俺も真剣に告白したことはないしさ。」
「…………。」
「蘭には話したってことだもんな?…いずれこっちにも連絡が来るかも知れないしさ。
…まぁいいんだ別に。……いいんだ。」
要するにあれだ。散々困ったように流されていたのは本気で嫌がられてたってことだ。
その証拠は、その新しい彼氏とやらの存在だ。他に言葉はいらんだろ。
「…○○、げ、元気だしなよっ!…ほら、なんなら私が毎日でも来てあげるからさっ!
もういっそ私のこと好きになっちゃえば??…あはは!なーんちゃって、ね!」
「………ひまり、ちょっと放っといてくれ。」
「っ!……ご、ごめん…。」
無理して励まさんでいい。
今はそんな気力も残っちゃいないさ。
「ねえ、○○。……前にあたしに言ってくれたこと、覚えてる?」
「ん。」
「「俺とお前は幼馴染じゃない、親友を目指す、ダチだ」って。」
「…あぁ、言ったなそんなこと。」
「…あたしはあの言葉が嬉しくって。…みんなと同じ"幼馴染"って関係じゃなくて、もっと近い関係…"友達"なんだって。
だからね、ええと…一応アンタのことは知ってるつもりだから敢えて言うね。…今は放っとくから、目一杯落ち込みなよ。」
「…………。」
「それで気が向いたら、さ。…また遊びにでも誘ってよ。」
「蘭……。」
そうか。お前はそういうドライな対応を取ってくれるんだな。
確かに、今は一人にしてくれるほうがありがたいよ。…色々考えたいこともあるし。
流石、長いこと幼馴染をやってただけあるな。
「ありがとな、蘭。…まぁ、そう時間はかからずに復活するさ。」
「ふふ、知ってる。…それじゃあ、今日は帰るね。」
「あぁ、もしかしたら何か相談とかするかもしれん。」
「…そうして。それが友達、でしょ?」
後ろ手をひらひらと振りつつ、部屋を出ていく蘭。
さて、言われたとおり今日は目一杯落ち込もう。心ゆくまで凹んでやろう。
…そんで、あとでつぐみに祝いの一言でも言ってやるさ。
「…何あれ。意味わかんない。」
ただ、ひまりの冷めたような表情と去り際に残した一言だけは、俺を素直に失恋ムードに持って行かせてはくれなかった。
今回すっごい名前呼ぶやん。
<今回の設定更新>
○○:今作中最も名前を呼ばれる男。
幼馴染って意外と恋愛対象に見られないよねって話。
灯台下暗しってやつなんだけどね。
ひまり:大好き。
最初におどけて入ったために今更本気で告白しても真面目に取られないパターン。
蘭がぐいぐい来ているのが少し気に入らない。
ちょっと痩せた。
蘭:よき理解者になりそう。
前回のあと、作品外の時間で主人公と結構な遣り取りを交わしている。
休日もたまに一緒に外出したり、ライブ後に二人で打ち上げをしたり。…あれ?
後ろ姿がかっこいい。
つぐみ:おめでとう。
凄く真剣に頼み込まれたために、「じゃあ付き合う前提でお友達から…」となった。
そう、まだ付き合ってはいないのだ。
それが主人公に伝わらなかったのは、運命か果たして…。