BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/10/15 幼馴染その10 - 厄日 -

 

 

 

「ふんふ~ん、ふんふふふふ~ん、ふふ~ん♪」

 

 

 

エラく上機嫌な鼻歌を発しているのは俺じゃない。…そもそも体調を崩している俺に、そんな余裕はない。

十月も折り返し。…すっかり朝夕の冷え込みが出てきたことと、ここのところの無理が祟ったんだろう。久々に三十九度超えの高熱を出した俺は、体の不快さのあまりベッドとお友達になっていたんだ。

そしてその看病と言う名目で学校へも行かずにウチに居座り続ける"俺の恋人"、ひまり。今の鼻歌もそうだが、こいつの看病は看病らしい行為とそうでない行為が交互に来るんだ。授業時間と休み時間のようにな。全く以て意味が分からない。

 

 

 

「なあ、もうその子守唄要らねえよ。」

 

「えぇ~?でも、ゆっくり休まないと、早く治らないよ?」

 

「そう思うなら少し黙っててくれ…。」

 

「だってぇ…暇なんだもん。黙ってるの苦手だし…。」

 

「看病する気あんのか…。」

 

 

 

若干不安定な音程で奏でられるそのメロディは、癒し眠りに誘うというよりかは何かを破壊するための超音波のようなものだ。具合云々の前に気分が悪い。

あれ、俺が体調崩してるのってもしかしてこいつのせい?

 

 

 

「じゃあ歌は終わりにするね。」

 

「やれやれ…やっと放っておく気になったか。」

 

「……んしょ。」

 

 

 

おいまてこら。何故服を脱ぐ。

 

 

 

「……何やってんだお前。」

 

「ん??下着はつけたままがいい??」

 

「や、服着ろよ。」

 

「……え?」

 

 

 

こっちの意見がオカシイみたいな表情はやめろ。なにも驚くようなことは言ってないだろ。

どうせ、直接肌と肌で温め合って体温を…とか何とか頭の悪そうなこと抜かすんだろうけど、そうはさせない。…予め蘭に予想してもらった通りだし、用意しておいた対策で…

 

 

 

「流石に具合の悪さも酷くなってきたし、ちょっと母さん呼んでくれ。」

 

「!!」

 

 

 

今日は仕事が休みなのか、幸運な事に母親が居る。いくら今のひまりが異常だからって、俺の母親の前でストリップはやらかさないだろう。

"母さん"というワードに脱衣の手も止められたし、想定していた手順通りスマホも操作した。…あとはこのまま畳みかけるだけ――!

 

 

 

「…いいよ。」

 

「えっ!?…あっあっ、お前、何して」

 

「おばさん、呼べばいいんでしょ?」

 

 

 

何ということだ。一瞬手が止まって安心したのに、その後物凄い速さで残りの防具(下着)まで脱ぎ去った。別に今更それを見たところで思うことは何も無いんだが、そのまま廊下に出ようとするのはマジでやめろ。母親が失神するところなんてまだ見たくない。

 

 

 

「おま、おまままま、ちょ、もう呼ばなくていい!こっちに居ろ!!」

 

「ふふっ、了解だよー。」

 

 

 

手強い。なりふり構わなくなった幼馴染(ひまり)がここまで強敵だとは。俺の返答を待っていたかのように素早くベッド脇へ戻ってくる。小走りだから余計気になるんだが、その揺れているものを早く支えてやんなさい。型崩れしても知らんぞ…。

全裸のまま駆け寄ってきて、勢いを緩めることなく掛け布団を捲る。高熱の為か妙に肌寒く感じる外気が入ってくると同時に、心地よい温度の生き物も入ってきて…

 

 

 

「ふふふ、やっと受け入れてくれたね?」

 

「そんな気更々無いんだけど……ただお前、あったけぇなぁ…。」

 

「ぎゅってしてあげよっか?ねね、ぎゅってしてあげよっか??」

 

「…してから言うな。」

 

 

 

その言葉が発される前に、俺の顔面はその豊かな肢体に埋もれている。……相手が正気なら、かつてと変わらないまともなひまりなら、この状況も幸せだったんだろうか。

あの、俺が大好きだった幼馴染だった頃のひまりなら。

 

 

 

「ねえ、○○?……今、幸せ?」

 

「……お前はどう思ってんだ?」

 

「……私は幸せだもん。とっても。」

 

「あんなに仲良しだった幼馴染に溝を作ってもか?」

 

「それは………。」

 

 

 

言い淀むひまり。……実はここ数日考えていた事がある。

蘭にも指摘されたことだが、ひまりは何もおかしくなっちまった訳じゃないんじゃないか。そう、言うなればこれは、俺を求めるあまりおかしくなったひまりを()()()()()んじゃないか。そうして一体何になるのか……もしも憐れんだ俺が拾ってくれることを期待していたのだとしたら、俺はまんまと策に嵌ってしまったということになるが。

 

 

 

「…お前さ、全部解っててやってんだろ?」

 

「…何が?意味わかんないけど。」

 

「アイツ等の存在するを無視するように振舞ったり、俺に対して狂気的にに尽くしたり、私生活を投げうったり……全部、全部だ。

 お前、もう後戻り出来なくなっちまってるだけなんじゃねえのか?」

 

「……………。」

 

「…まだ、引き返せるぞ。受け入れてくれるさ、アイツらなら。…勿論、俺も。」

 

 

 

話してわからない相手じゃない。そもそもこの現状だって、全員の共通認識として捉えている問題なんだ。そして蘭もつぐみも巴も、みんな心配している問題でもある。

まだ戻れる、ついこの間までの俺たちに。

 

そう思って、言った言葉だったのに。

 

 

 

「うるさい…。」

 

「…あ?」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」

 

「…ひ、ひまり?」

 

「○○にはわかんないよ!!私の気持ちなんて!!」

 

「落ち着けひまり。……お前の気持ちなんて、全部話してるわけじゃないんだからわからないに決まってるだろ?」

 

 

 

伝えられてもいないことが分かるかよ。

 

 

 

「なんで?どうして!?私は○○のこと、全部全部わかってるのに!○○はどうして私のこと、なんにも…」

 

「わかってるさ。」

 

「……ッ!…じゃあ、どうして「まだ戻れる」なんて言うの!?私が戻りたがってると思ってるの!?」

 

「落ち着けって……ほら、深呼吸。あと服も着ろ。」

 

 

 

今にも多い被さらんと肩を抑えてくるその両腕を掴み、至近距離から語りかける。全く、緊迫した場面だってのに目の前に見える山が集中力を乱してきて止まない。マジで服は着ろ。

俺の呼吸に合わせて深呼吸を2、3度。昂ぶっていた感情が少しは落ち着いたのか、声のトーンを抑えベッドから出るひまり。

 

 

 

「……やっぱり、わかってないよ。○○は。」

 

「……あーもう。…ひまり。」

 

 

 

脱ぎ去った服を拾い集め、泣きそうな声で呟く彼女を後ろから抱きしめる。

柔らかい感触と共に、ほんの微かな汗の臭い。ビクリと体を震わす彼女に俺は

 

 

 

「俺はな、お前が大好きなんだよ。……ずっと一緒だったひまりが、な。」

 

「………。」

 

「でも、だからこそ今の状況が辛くて、素直に受け入れられないんだ。」

 

「……じゃあやっぱり、私のこと」

 

「幼馴染連中の中でもさ、ひまりと一緒に過ごす時間が一番長かった。それはただ家が隣りだからって訳じゃぁない。

 お前が、この幼馴染の中で一番……一緒に居たかったからだ。」

 

 

 

もう喋らせない。俺がまくし立てることでひまりの発言を止め、抱き竦める腕に力を込めることで暴れさせることなく会話をする。

…申し訳ないひまり。頭の悪い俺にはもう、Afterglowを救う手段が見つからないんだ。

 

 

 

「嘘…。」

 

「嘘なんかじゃない。お前と一緒に居る俺は、居心地悪そうにしていたか?いつも機嫌が悪かったか?」

 

「………いつも、普通って感じだった。」

 

「だろ?…お前の前だと、気を張らずに自然体で居られる。すげぇ居心地良くて、幸せだったんだぜ?」

 

「………ほんと?」

 

「あぁ。……だからこそ、前のお前に戻って欲しい。また気兼ねなく絡んで居られる幼馴染に、戻りたいんだ。」

 

「………。」

 

 

 

嘘は言ってないさ。ひまりのことは()()()好きだし、こんな変な状況になっていなければ一歩踏み出す未来もあったかもしれないんだ。

俺はその、今潰れかけている未来を取り戻すために……選択肢と俺達の居場所を取り戻すために、嘘偽りのない気持ちをぶつけたんだ。

 

 

 

「○○……。」

 

「……ん。」

 

「…ごめんね。」

 

「ひまり、お前…。」

 

「私、みんなに謝ってくるよ。……今の言葉、全部本当なんだもんね。」

 

「……あぁ。」

 

 

 

そっと俺の腕を解き振り返るひまりに、さっきまでの影は見えなかった。濁りが解けた様に真っ直ぐな瞳もすっかり元通りだ。

俺が求めていた、元のひまり。……少し寂しそうに笑ったあと、元通りに服装を整え、言った。

 

 

 

「じゃぁ……行ってくるね。……帰ってきたらまたぎゅってしていい?」

 

「…あぁ。行ってこい。」

 

 

 

パタパタと出ていく背を見送り、ふと眩暈を覚える。…そうか、自分が熱出してんのすっかり忘れてた。

そりゃこんだけ動き回って気を使えばふらつきもする、か。重い体を引き摺るようにしてベッドへ、枕元に置いてあるスマホへと言葉を投げる。

 

 

 

「…蘭。なんとか上手く行きそうだ。」

 

『……おつかれ。』

 

「あぁ……ちょっと疲れた。」

 

 

 

先ほどスマホを操作した時に通話を繋げておいたのだ。予め計画していたこととは言え、蘭には中々にディープな話を聞かせたことだろう。これはこれで、またいつか感謝やら謝罪やらが必要だろうし…

 

 

 

『ねえ、○○。』

 

「…どした。」

 

『あたし、どうしたらいいんだろう。』

 

「……別に、ひまりが来たら話を聞いてやってくれりゃそれで」

 

『ううん、それとは違うんだ。』

 

 

 

違う?…はて、それ以外に何か抱えるような案件があっただろうか。

 

 

 

『さっき、つぐみからチャットが来てさ。』

 

「うん?」

 

『……なんか、あたしと、付き合いたいって。』

 

「………うん?」

 

 

 

自分達に夢中で見えていなかったらしい。

拗れているのが俺たちだけじゃなかった、そのもう一つの事実に。

 

 

 

「……こりゃ暫く熱も下がりそうにないな。」

 

 

 




もっと拗れなさい。




<今回の設定更新>

○○:インフルエンザではないとの診断結果。
   多分知恵熱。
   そりゃこれだけ身内に問題があれば倒れもするわって話。

ひまり:動いたはいいものの引っ込みがつかなくなっていた状態。
    主人公の言葉に、関係の回復へと奔走する。

蘭:参謀。
  まさかの事態のため、次回活躍予定。

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