BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
暇だ。
明日も平日なので当然やるべき課題や予習や復習や…色々やること自体はあるんだが、ひまりが遊びに来なくなってしまった今、独りの夜というのは成程暇な物らしい。
「ううむ…鬱陶しいあいつも役には立っていたって事か…。」
まず思い浮かぶのはあの無駄に発育の良い、一番近い幼馴染。呼んでも居ねえのに毎日の様に来やがって…彼氏できたらすーぐこれだ。
このまま一人でゴロゴロしていても余計な事ばかり考えてしまいそうなので、知り合いにチャットを送信して回る作業に入る。
…まずは…ここ最近何となく接しづらくて放置している蘭。話し初めの言葉すら分からなくなって、随分遡ってみたりもしたが…結局昔の俺の様にしてみた。
たった一言だけど、それがいつもの俺と蘭の始まり。ここにやや遅れるようにして返信が付くのだ。
『なに』
後はもう流れに身を任せるのみだ。
『変なの』
『何も』
『○○は?』
『そう』
『いつも通りだね』
お互い即答とは言えない間隔で、小さな言葉を送り合う。これはまさにいつも通り、幾度となく繰り返してきた日常ってやつだ。
そしてここからは非日常が始まる。俺にとっては小さな疑問だが、蘭にとっては大きな問題かもしれないし……ん?
手元のスマホがバイブレーションを用いて何かの受信を通知する。蘭とのトーク画面は開きっぱなしだから、通知が来るとしたらバックグラウンドの……モカぁ?
モカからのチャットとは珍しい。まぁ、最近何だかんだで一緒に過ごすことも増えたが、また何とも絶妙なタイミングだ。蘭への返信を一旦保留にしてモカからの連絡内容を確認する。
『やーやー』
…これだけ?まぁ適当に返しておけばいいか。
『今、蘭とチャットしてたりするー?』
思わず変な声が出そうになった。唐突なチャットにしては的確過ぎる。
…あぁでも、蘭と一緒に居たりするんだろうか?そして揶揄っているとか…それなら返信する相手は蘭の方がいいな。
相変わらずの速さで既読がつき、蘭にしては珍しく即行で届く返信。
『家で一人だけど』
『何かあったの?』
ふむ…蘭は冗談を言うような奴でもないし、何も知らないんだろう。となると、やはり訊く先はモカになりそうだ。
『ふっふっふー』
『○○のことはお見通しなのだー』
特に何もなさそうだな。なら放っといていいや。
『で、どうなのー』
既読は早い。今の子ってみんなそうなのかな。…や、同い年の俺が言うのもアレだが…。
モカのメッセージが止まったことを確認して、蘭とのチャットに戻る。
『変なの』
『あぁ』
『それは』
またしても震えるスマホ。少し間は空いたが再度モカから何かを受信したようだ。
開いてみると
『今は関わるなって言ったよね』
『どうして言う事聞けないの』
『今はモカちゃんと居たらいいって言ったよね』
『どうして?』
連投だった。それに口調も少しキツイ。
周囲から見たら普段のモカの喋り方の方が引っ掛かるんだろうが、身内にしてみたらこっちの方が怖い。あのモカが普通に喋るなんて。
「…怒ってんのかな。…でも一人称はモカちゃんなんだな…。」
どうしよう、蘭への質問よりモカの状態の方が気になってきちまった。何をそんなに怒っているのか、果たして本当に怒っているのか。結局のところなぜ関わってはいけないのか…訊くことは山積みなんだ。
取り敢えずは話が必要だ…会話会話、と…。
『へー』
『暇ならモカちゃんに送ればいいでしょ』
『蘭と同じくらいには暇だよ』
『それでも蘭を選んだってことは』
『何、好きなの?蘭のこと』
妙な流れになってきた。好きとか嫌いとか、そんなの今はどうでもいいだろうに。
『そういうのいいから』
『好きか嫌いかで答えて』
俺の頭の中に"誰かを嫌う"という選択肢は無い。今回のだって、別に嫌いじゃないってだけなんだから、嫌いじゃない方を選んだだけなんだ。
『付き合うとかそういう?』
『それはよかった』
…よかった?
『ねーねー○○』
『暇だから遊びに行ってもいーい?』
これまた唐突だな…。
とは言え暇を持て余す俺には願ったり叶ったりの提案だった。大方適当に喋るだけ喋って解散の流れだろうが、時間が潰せるならこの際何だっていい。
ものの数秒でOKの返事をし、部屋の片づけを始める俺の頭には、「蘭と会話途中だったこと」「そもそもの蘭の気になる言動」そのどちらもがもう残っていなかったのだ。
**
「うぉりゃー。」
「うぉ!?…入って来るなりいきなりダイブかよ。」
「んふははは、ふっかふかだぁー」
十分と経たずに俺の部屋まで駆け上がってきたモカ。上着も帽子も脱がずに俺のベッドへダイブし、その感触を楽しむ。
丁度片付けやら掃除やらが終わったタイミングだったので退屈せず、かと言って急くことも無いナイスな来訪だったと言える。
「せめて上着は脱げよ。ほれ。」
「あー、モカちゃんのスカチャン…」
「スカジャンだろ…。」
上着を回収し皺を防ぐためにハンガーへ。本人はまだ楽しそうにベッドで燥いでいるが…結局何しに来たんだこいつ?
「いやぁ、ひーちゃんが入り浸ってた部屋だけど、毎日なにやってたのかなぁってー。」
「暇を極めてんなお前…。」
「うちでごろごろするよりは有意義だと思ってぇー。」
「ふーん。」
「ねーねー、ひーちゃんはいっつも何してたのー?」
「えー…っと。」
あいつは確か、毎日自宅でも出来ることをやりに来ていた気がするな。食後のダラダラタイムをただ俺の部屋で過ごしていただけというか、まるでここが自分の部屋であるかのように過ごしていたというか。
要は、太々しいやつなんだ。
「何…もしてなかった、かな。」
「おやおやぁ?哲学ですなぁ。」
「要は好きに寛いでたってこったよ。」
「あーはーはー、なるほどなるほどー。…じゃあモカちゃんもだらだらしまぁす。」
「どうぞどうぞ。」
放っておいていいなら是非そうしてくれ。俺としては適度に会話さえ交わしてくれたらそれでいいのだから。
…と思ったのだが、ベッドからぬるりと垂れ落ちるように降りてきたモカは匍匐前進の要領で俺のかく胡坐の上へ。
「両膝借りまぁす。」
「えっ」
両手には最近買ったばかりのラノベ。まさかそれをここで…?
「読み終わるまでどかないよぉーだ。」
「おいふざけんなひま…ッ」
「ふふふ…図らずともひーちゃんと同じことをやってしまったそうですなぁ。」
「くっ…!」
そうだよ。あいつもよく俺を枕かなんかだと思って下敷きにするんだよ。本を読むときもスマホで動画を見る時も、必ず体の何処かは敷かれていた気がする。
その状況の酷似具合に思わずひまりの名を呼びそうになったのも恥ずかしいし、ニヨニヨと笑みを浮かべるモカも憎たらしい。
「あはははは。また随分えっちなのを買いましたなぁ。」
「うるせぇ!」
結局、そこから三時間ほどモカの"喋るクッション"としての任務を全うした。…モカが帰ったのは日付が変わってから。
その後、思い出したようにスマホを見てみると、あの後蘭から届いたと思われる二十件あまりのチャットが全て取り消されているのを見つけた。
くそ、流石に放置は怒らせちまったか…。今度会った時には機嫌を挽回しないと…と、ある種次への希望を抱きながら、眠気に任せて布団に潜り込むのだった。
ひまりちゃんは遠くの方でソイヤしてました。
<今回の設定更新>
○○:鈍いなんてレベルじゃない。
もう滅べ。
モカ:すべてを見渡せる賢さと常に冷静で100%の頭脳を稼働させられるのが強み。
何を計画しているかは…。
蘭:可哀想。
ひまり:ソイヤ中