BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/19 幼馴染その16 - 誤解と真実 -

 

 

 

まったーりと休日の一時を優雅に過ごす俺。部屋に充満する新しい芳香剤の香りと、何となく最近ハマっている紅茶に孤独ではありながらもそこそこに幸せな時間を感じていた。

此処の所幼馴染達との交流はほぼ無に等しい。騒がしくない、というメリットはあるのだが…やはりいつも其処にあったものが欠けているような喪失感を感じてしまい、どうも寂しさが込み上げてしまう。

 

 

 

「……皆、何してんのかな。」

 

 

 

休日と言えば、全員とは言えずとも大体誰かと複数人で行動していたというのに。…あれ程鬱陶しかったひまりも、今では懐かしみすら感じてしまう程に俺は交流を求めていた。

 

 

 

「………まぁ、嫌われてんならそん時はそん時だな。」

 

 

 

思い立ったが吉日、とはよく言ったものだが。俺の場合は気持ちが傾いた時こそが吉時、である。

自分でも引くくらい長い我慢期間を経て、行動を起こすことにしたんだ。モカ?しらねえ。

 

 

 

**

 

 

 

「顔くらい見せてくれよ…?」

 

 

 

まず最初に脳裏に浮かんだのがあのインパクトのある赤メッシュ、蘭の顔だった。幸いにも美竹家はウチからあまり遠くは無いし、休日に友達と出かけるようなアグレッシブさはアイツにはない。アポなしで突撃するにはもってこいの相手って訳だ。

 

リンゴーン

 

和風っぽい家柄には似つかわしくない重厚な鐘のような音色の呼び鈴を押し、暫し待つ。……数秒おいて、インターホンから聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 

 

『……何しに来たの。』

 

「おいおーい!開口一番それかよ!」

 

『…あたしに用なんかないでしょ。』

 

「はぁ??何いじけてんだよー。取り敢えずほら、どうせ暇だろ?上げろよー。」

 

 

 

久々に聴いた蘭の声に、彼女と反比例するが如くテンションが上がる俺。例え機嫌が悪くとも今の俺なら上手くやれる、そんな無根拠な自信さえあった。

 

 

 

『…つぐみに怒られるよ。』

 

「つぐみ??…意味わからん、入るからなぁー。」

 

『……知らないからね。』

 

 

 

ブツッと通話が終了し、辺りに残るは再び住宅街の喧騒のみになる。車も無く親父さんもいないだろうし、あとは勝手に入っちゃっていいかな。

ベルの付いたファンシーなドアを開け玄関へ進むと、いつにも増して気難しそうな幼馴染の姿があった。何をそんなにイラついているのか…。

 

 

 

「よっ!」

 

「……はぁ、面倒事に巻き込まれるのは御免なんだけど。」

 

「あんだよ面倒事って…つか、()()、すげぇ皺寄ってんぞ。」

 

 

 

トントンと自分の眉間を人差し指で突きつつ指摘する。若いうちから険しい表情ばかりしていたら皺が深く残り、消えなくなるというが…。

 

 

 

「○○のせいでしょ…。…上がるなら上がって。靴は…」

 

「ちゃんと並べるっての…作法だの何だの、昔からうるせえなぁこの家は。」

 

「…………よし。あたしの部屋?居間?」

 

「遊ぶならお前の部屋だろうな。」

 

 

 

居間と言えば、賞状とか家族写真飾りまくってて居心地があまり良くなかったのを覚えている。と言っても小学生の頃の記憶だし今はどうなっているか分からないが…蘭の部屋の方が無難だろう。

 

 

 

「ッ…じゃあ、こっち。」

 

「おう!」

 

 

 

やっぱ、幼馴染と話すこの時間こそが俺の日常だよな。

 

 

 

**

 

 

 

「ん。」

 

「さんきゅ。」

 

 

 

歪んだコップに入れられた茶を受け取る。

 

 

 

「おいおい懐かしいなこのコップ…!まだ持ってたのか?」

 

「まあ…○○がくれたものだし。」

 

「あげたっつっても交換だけどな。…蘭のやつは誰が持ってるんだっけ。」

 

「ひまり。」

 

「あー…あいつならまだ持ってるだろうな。」

 

 

 

その昔、小学校の修学旅行でガラス吹き体験をした時に六人それぞれが作ったコップ。事前に渡す相手を決め、幼馴染内で相手の物を作って交換したのだ。

…その頃は蘭と距離感が掴めなくなる前だったな、うん。

 

 

 

「普段も使ってんの?このコップ。」

 

「……あのさ、どうして急にあたしのとこに来たわけ?」

 

「暇だったから。」

 

「…暇なら、さ…つぐみのとこにでも行ってあげればいいでしょ。」

 

 

 

少し間を置いて出た声は震えていた。質問をスルーされたことも引っ掛かったが、これは何やら俺の知らないマズい事が起きていそうだ。

 

 

 

「お、おい、さっきも言ってたけどそれはどういう」

 

「恋人でしょ!?…暇なら会いに行ってあげたらいいじゃん!あたしのところなんか来たって…拗れる…だけだよ…!!」

 

「…………………んぇ?ちょ、ちょっと待て!」

 

 

 

恋人?俺とつぐみが??誰だそんな幸せ…じゃない、適当なデマを言ったやつは。とりあえずテンパって泣いている蘭を落ち着かせるのが先か。何故泣いているかはよく分からないが、大方幼馴染の輪が崩れることを危惧しての事だろう。

 

 

 

「俺、つぐみと付き合ってんの…??」

 

「…何言ってんの?…そんなの、つぐみに対して失礼過ぎるでしょ!?」

 

「……付き合うも何も…前にお前と一緒につぐみの部屋行ったろ?ほら、つぐみがお前のこと好きだとか何だとかっていう…」

 

「行った……けど。」

 

「その後から一切つぐみには会ってねぇ。何度かチャットはしたけども…見るか?」

 

「うそ………みる。」

 

 

 

特にロックも掛けていないスマホを渡す。目に涙を湛えた真剣な表情でじっと画面を見つめる蘭。操作するタップ音から察するに、つぐみ以外のチャットも確認しているようだ。

…しかし、どこでそんな情報の錯綜が起こってしまったのだろうか。

 

 

 

「……何この当たり障り無い会話。」

 

「だから、つぐみとは何もないんだってば。…そりゃ、幼馴染だし遊びてぇなーとは思ってるけど、モカが駄目だっていうんだもんよ。」

 

 

 

お陰で一人孤立状態だ。最近はそのモカも「いそがしー」と言って構ってくれないし。何なん。

俺の言葉にハッとした様子の蘭。やっぱこういう時は蘭だな。真剣に考え事に耽っている時の横顔が最高にイイ女だ。

 

 

 

「あたしも……。」

 

「ん。」

 

「あたしも、モカから聞いた。…○○とつぐみが付き合う事になったって。」

 

「………ほほう、それはそれは…。」

 

 

 

あの不思議ちゃんめ…一体何がしたいんだ?ドッキリにしては手が込み入り過ぎてるぞ…いやまあ、全く疑わない俺達も俺達なんだけどさ。

 

 

 

「恋人の邪魔はしちゃいけないよねって、あたしから連絡とかもあまりとらないように言われて…」

 

「ってことはモカに」

 

「いや。…ここはまずつぐみの所に行こう。」

 

「うん?」

 

「もう、ニブちんさんなんだから…。あたしと○○がそうやって遮られてる、その"理由"…いや"口実"がつぐみなら、つぐみにもモカから何か行っている筈でしょ。」

 

「…おぉ。」

 

「モカが何を企んでいるのかは知らないけど、動くなら()()()()の人間から当たろう。」

 

「さすが蘭、冴えてんな。」

 

 

 

さっきまでの困惑やら哀しみはすっかり払拭されたようだ。キリっとした目つきには何というか、生命力の様なものを感じられてつい見入ってしまう。ライブ中もそうだけど、何かを決意した蘭の顔は本当に綺麗で、格好いいんだよな。

 

 

 

「……好きだ。」

 

「ぁえっ!?何て!?」

 

「…ん、いや。行くならさっさと行っちまおうぜ、つぐみんとこ。」

 

「……。」

 

「何だよ、そんな見詰めんなっての。行かねえのか?」

 

「知らないっ。お茶、飲んじゃってよね。」

 

「おう頂くぜ。」

 

 

 

一気に飲み干した緑茶はすっかり温くなってしまっていた。

 

 

 

**

 

 

 

カランコロンカラン

 

「いらっしゃいま……!!…○○、くん?」

 

「おーつぐみー。…いやに空いてんな。」

 

 

 

久々に来たぞ羽沢珈琲店!!入店と同時に響くベルの音とよく通るつぐみの声。…うんうん、やっぱここはホームグラウンドって感じがするな。

振り返り俺を見るなり固まる看板娘の姿に、ここにもモカの魔の手が届いていたことを本能的に察する。もうニブちんなんて言わせねえぜ。

 

 

 

「ぇ…あ、う、うん!何か今日はお客さん少ないの!え、えへへー!」

 

「ほー…んじゃ、カウンター座らせてもらうわ。…ほれ、蘭も。」

 

「ん。」

 

 

 

カウンターに備え付けられている少し背の高い丸椅子に二人並んで座る様子を、下唇を噛み締めるようにして見つめるつぐみ。丸い盆を抱えるようにして持つ姿がとてもキュートだが…こちらにはどんな情報が入っているのか。

 

 

 

「…えっと、二人は、その……デートなの?」

 

「?あいや、俺達は」

 

「ちっ、ちちちっちがうっ!デートとかは、まだ、その、あの」

 

「どうした落ち着け赤ガメッシュ。」

 

 

 

赤ガメッシュというのは「赤がメッシュで入っている黒髪」から俺が名付けた渾名だ。現状こう呼ぶのは俺だけだが、何だか格好良さげだろう?財宝持ってそうで。

その赤ガメッシュは一体何をテンパっているのか。

 

 

 

「だってその、あたしはまだ、あぅ」

 

「…つぐみ、こいつと何かあったん?」

 

「ああいや……その……」

 

 

 

まさか、蘭と同じようにこっちにも…?そうなれば、俺と蘭が恋人同士だと勘違いしているのも頷ける。

 

 

 

「安心してくれ、俺と蘭は付き合っちゃいない。」

 

「…そーなの?」

 

「あぁ。全然、これっぽっちもそんなんじゃねえ。」

 

「…そんな言い方ないじゃん。」

 

「何か言ったか?」

 

「うっさい馬鹿。」

 

「えぇ……?…まぁ、兎に角だ。モカからの情報は嘘だかんな。」

 

 

 

今日の蘭はまるでジェットコースターみたいな精神状態だな。また知らないところで地雷を踏み抜いてしまったらしいが、落ち着いたようなので結果オーライと言えなくもない。流石俺。

 

 

 

「モカちゃん??…モカちゃんからの情報って??」

 

「……ありゃ?モカに「俺と蘭が付き合ってる」って聞いたんじゃないのか?」

 

「ううん?」

 

 

 

???

じゃあ何故そんな勘違いをしたんだ?巴やモカと違って、そんなガキみたいな弄りをしてくる子でもあるまいし。

…まぁモカの策略に巻き込まれていないようで一安心、か。純粋なつぐみを傷つけるようなことにはなっていなかったんだ。

 

 

 

「だって、蘭ちゃんが○○くんの事すk」

 

「つ、つぐみ!!あたしナポリタン食べたいなぁ!」

 

「あ、はーい。ご飯食べてないの?」

 

「う、うん!すっごくお腹空いてるって感じ!!」

 

「ふふっ、わかったよっ。…おとうさーん!ナポリタン入ったよー!」

 

 

 

客は俺達しかいないと言う事もあり、裏の居住スペースに引っ込んでいるであろう父親にオーダーを通しに行ったつぐみ。

…しかしナポリタンとな?時間は昼過ぎ。いつもの蘭なら昼飯を食い終わっている時間だったんだが…俺が急に訪ねたことで食べ損ねたのだろうか。それは申し訳ない事をした…と謝ろうと思えば小さく抓まれているシャツの裾。何事かと思えば隣の蘭ちゃんが微振動を繰り返しているではないか。

 

 

 

「…どした、寒いのか?」

 

「……あ、ああああたし、お腹いっぱい。」

 

「デブ活か?」

 

「ちがう…どうしよ、食べられないよ。」

 

 

 

何故注文した。

 

 

 

「ったく……食えねえもんを頼むなよな…。」

 

「手伝って…くれる?」

 

「手伝うも何も、腹いっぱいなんだろ?」

 

「う……そう、だけど…でも頼んじゃったし。」

 

「しゃーねえな……他で食べられそうなものとかあるか?」

 

「!?…い、意地悪、する気?」

 

「そうじゃねえよ、俺が一肌脱いでやろうってそういう…」

 

「おまたせぇ!おとうさんが、ちょっと大盛にしておいたから是非大きくなってって!!」

 

 

 

満腹であることが判明した蘭の前にでん!と置かれる紅い麺。ちょっと大盛…って、皿からして通常メニューと違うんだが?

つぐみは「いいことをした!」と言わんばかりの眩しい笑顔を向けてくるが、当の蘭は真っ青な顔して震えている。…こらこら、俺のシャツを千切って持って帰る気か?

 

 

 

「…お、おぉ!!こりゃうまそうだなぁ!!…なぁ蘭、俺にもちょっとくれよー。」

 

 

 

幼馴染の…それも女の子が食べたものを食べた場所から出すのを見たくは無いしそんな性癖も無い。幸い食に関しては俺の方が太い訳だし、まだ余裕のある俺の出来る限りをすることにした。

蘭の目が見開かれ、絶望に打ち震えていた表情もパアと明るくなる。「大丈夫?」とでも言いたげだが、蘭には空気を読んでもらう必要がある。

 

 

 

「……ん。別にいいけど…。」

 

「さんきゅー!いやぁ、こんなに旨そうなモン見せられたら全部でも行けちまいそうだぜ。」

 

「ふふっ、食いしん坊だね。…全部食べちゃってもいいよ?」

 

「お、まじか。」

 

「ん。つぐみ、あたしやっぱり…この"黒洞々たる夜のガトーショコラ"食べたい。」

 

「わかったよ!…ナポリタンの気分じゃ無くなっちゃった??」

 

「…そうじゃないけど、見てよこの食べっぷり。」

 

 

 

量は多いがこのナポリタン、うめえ。流石はつぐみの父さん、どんなメニューも絶品だぜ。言うほど空腹じゃなかったが麺を巻く手が止まらねえんだ。うひょー。

 

 

 

「あははっ!○○くん口の周り真っ赤だよっ。」

 

「ん?ぉああ、すまん旨すぎて。」

 

「ありがとっ、おとうさんに伝えとくね!…あ、あと蘭ちゃんのオーダーも通さないと。」

 

「ごめん、よろしく。」

 

「はぁい!」

 

 

 

再度消えていくつぐみ。大盛で出された紅の麺も半分を切ったし、蘭を救うことは出来たろうか。救うと言っても旨そうな料理を横取りしただけなのだが……少しは食べたかったろうかと思い蘭を見やれば、何とも優し気な表情でこちらを見ていた。

 

 

 

「……何つー顔してんだ、珍しい。」

 

「…顔?」

 

「おう。…微笑み?っつーか…まぁ蘭にしては珍しい顔だよ。」

 

「…………嬉しかったから。」

 

「何が。」

 

「○○は、いつもあたしの事をちゃんと見てくれてるよね。今も助けてくれたし。」

 

「あー…まぁほら、幼馴染だからさ。」

 

「そっか。……あたしは、そんな○○が、ずっと好きだよ。」

 

「……好きってお前…勘違いされるような事言うんじゃねえ。」

 

 

 

不覚にもドキッとしたじゃねえか。

 

 

 

「別に……勘違いされたっていいし。」

 

「!!………ど、どうだ、一口食うか?最高に旨いぞ。」

 

「…じゃあ一口だけ。………ん。」

 

 

 

少な目に巻き取って開けてくる口に放り込む。暫し咀嚼した後、少し惜しそうに言った。

 

 

 

「…今度はちゃんと食べる。」

 

「そうだな。うまいもんな。」

 

 

 

…このやり取りを何時から見ていただろう。顔を正面に戻せば、何ともぎこちない様子のつぐみ。

 

 

 

「お、おお待たせぇしました!蘭ちゃんの、ガトショコだよ!!」

 

「そんな略し方は初めて聞いたぞ。」

 

「ありがと。……どしたの。」

 

「二人って、本当に付き合ったりして無い…よね?」

 

「あぁ。してないよ。」

 

「………○○くんって…そ、そういう、あーんとか、誰にでもするの??」

 

 

 

そんな人をタラシみたいに言うんじゃない。遡って思い返してみても、巴とつぐみ以外の幼馴染連中にしかしたこと無いわい。

 

 

 

「いんや、誰にでもはしねえよ。」

 

「そう……なんだ。…蘭ちゃんだけ?」

 

「今のは流れでしただけで…つぐみもして欲しい?」

 

「っ!!…い、いいいいいや、いいいいよ!!大丈夫っ!!!」

 

「……声でっけぇな。まぁされたところで食い慣れてる飯だもんな。今度どっか行った時にしようなぁ。」

 

「今度…!?どっかって、○○くんとおでかけ…!?その時に…あーんっっっって!!ひゃぁぁ…」

 

 

 

これまた珍しい、ブツブツと高速で独り言ちるつぐみ。最近知られざる幼馴染の姿が見られることが多くて面白いな。

 

 

 

「おいひ。…○○、あーん。」

 

「んぁ?……んむぐっ。」

 

 

 

とんとんと肩を叩かれ振り返るや否や口に突っ込まれる塊。………おぉう、かなりビター寄りのガトーショコラ(つぐみ風に言うならガトショコ)、いつ食べても独特な旨みがあるぜ。

 

 

 

「ん、やっぱ美味いなこれ。」

 

「でしょ。…○○が提案したんだっけ?」

 

「うむ。前に新メニューの話をつぐみの父親(おやっさん)に持ち掛けられた時だな。蘭が甘いのよりビター系のが好きって言ってたから提案したんだよな。」

 

「へ、へぇ…。」

 

「結果的に気に入ったみたいで良かったさ。…蘭、またいい顔してるぜ。」

 

 

 

にこにこしながら咀嚼って…旨いのはわかるけど、可愛いかよ。

因みに名前は巴の妹、あこの案を取り入れた。普通とは違うアピールをした上で目に留まる様なインパクトのある名前…おやっさんの希望を上手く叶えたネーミングだと思う。

 

 

 

「蘭ちゃん……凄いね、○○くん。」

 

「……うん。」

 

「なんのこっちゃわからんが…まぁ、モカに何か言われたわけじゃないならいいや。それを訊きに来ただけなんだ。」

 

「う、うん!…あでも、モカちゃんに一つ教えてもらった事…というか、注意されたことはあって…。」

 

 

 

何?穏やかに解散の流れかと思ったが、そんなことを聞いちゃぁ帰る訳にはいかんなぁ。

 

 

 

「…何を吹き込まれた?」

 

「吹き込まれたって………ええと…」

 

 

 

チラリと蘭を見て何やら考え込む。…蘭に関係あることなのか?蘭に伝わった内容は俺とつぐみに関することだったし、果たして。

 

 

 

「…い、今は言い難いから、後でメッセージじゃダメかなっ?」

 

「……まぁ、構わんが…言い難い事か。」

 

「うん…すっごく。」

 

「プライバシー云々もあるしな。…わかった、それじゃあ夜にでも。」

 

「わかったよ!」

 

 

 

蘭の完食を待って、一先ず今日は家路に就くことに。あまりに夢中になって食べていたせいで膨満感が後から込み上げてきたが、帰り道でも蘭がご機嫌だったので良しとしよう。

繋いだ手は離さずに、蘭を家まで送り届けたのが夕刻。そのまま真っ直ぐ自宅へ向かい、全く減らない胃の中身に夕食を迷ったのは辺りが暗くなってからだった。

 

 

 

**

 

 

 

ヴーヴヴッ

 

何とか食べきった夕食の後、自室のベッドで死んでいるところに愛機のバイブレーション。

内容を見ると案の定つぐみからだったが、その内容に益々疑問が深まった。

 

 

 

『○○くんが私の事諦めきれてなくて』

『私にちゃんと告白するチャンスを窺っているから』

『私からは話しかけたりしないで待ってあげてって』

 

 

『いつ頃の話?』

 

 

『○○くんに放課後の待ち合わせ断られた時』

『の次の日くらいだったかな』

 

 

『その節は』

『ホントにすまん』

 

 

『全然気にしてないからいいよ!』

『それよりも』

 

 

 

そのチャットを最後に暫し間が開く。特に急いでいるわけでも無いのでぼんやり続きを待つが…

 

 

 

「アイツは人の気持ちとかそういうのを軽んじ過ぎだな。皆可哀想だ。」

 

 

 

心底何がしたいのか分からない。もし飛び交っている情報が軒並み嘘だとして、それらを正していった先には何がある?隠さなければならない、欺かなければならないのは何なんだ?

珍しくシリアスな思考に寄ったところで、スマホが震える。

 

 

 

『○○くんはまだ』

『私の事好きでいてくれてるの?』

 

 

 

――――ッ。

どう、答えるべきなんだろうか。何も考えないようにして、「おう」とでも返してやれば話は終わるんだろうか。

モカの余計な行動のせいで、純粋なつぐみにさえ疑心を抱いてしまっている俺が居て。それはとても、悲しい事だと冷静に分析する俺も居て。

 

 

 

『当たり前だろ?』

『つぐみだって俺の大切な幼馴染なんだから』

 

 

 

気付けば逃げの一手を打っていた。

 

 

 

『そっか』

『それで』

『蘭ちゃんとは本当に付き合ってないんだよね』

 

 

『おう』

 

 

 

どうやら運命とやらはそれじゃ許してくれないらしく。

 

 

 

『じゃあ私もちゃんと言うね』

 

『私、○○くんが好き』

 

 

 

迷宮は一層深みを増すばかりだ。

 

 

 




モカちゃんさぁ…




<今回の設定更新>

○○:男らしい一面も。Afterglowを引っ掻き回す騒動の原因となっている
   異分子。
   好きな物は好き、美しいものは美しいとハッキリ言える感覚派。

蘭:かわいい。もう隠しようも無い程に主人公が好き。
  主人公とのツーショットをずっと見ていたいほどのお似合い感…と言
  うより夫婦感。

つぐみ:天使。主人公たちが店にいる間ずっとドキドキしてました。
    告白待ちのスタンスをかなぐり捨て、遂に動いた。

モカ:暫く誰も見ていないという。
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