BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
あの一件以降。今度は俺が嘘を吐く側になっていた。
てっきりフラれたもんだと思っていたつぐみからの突然の告白。その場では「少し時間をくれ」なんて言って誤魔化せたと思っていたけど、俺の返答如何によってはこの仲の良い幼馴染すら崩壊してしまうような気がして何も動けずにいた。
今日も今日とて先延ばし、何事も無かった風を装ってこうして蘭と一緒に居る。
「どしたの、考え事?」
「…まぁ、そんなとこかな。」
「疲れちゃったの?」
「かもなぁ。」
「ふふ、今日は素直じゃん。」
…素直に最低なんだよな。
**
「あぁ、悪い流石に長居し過ぎたな。」
気付けば夜も夜。更けるなんてもんじゃない遅さに帰り支度を始める。
どうも蘭の部屋は居心地が良すぎてだらけちまうんだ。ハンガーからコートを下ろしてきて後ろから着せてくれる蘭は、もうすっかり手慣れたもんで。
「別にあたし的には泊ってってもいいんだけど。」
「馬鹿言え。男女で同じ部屋になんぞ泊まれるか。」
「…同じ部屋なんて言ってないじゃん、えっち。」
「てめー誘導尋問だな?」
「あはははっ。…よし、これでおっけー。」
「さんきゅ。」
くだらない話をしながらも帰る準備は完了。今は蘭とお揃いで買ったマフラーを巻いているんだが、どうやら巻き方に拘りがあるらしく自分ではやらせてもらえない。…必然的に蘭が管理しているし、蘭と過ごす時にしか巻いていられないものだ。
いつもの流れ的に、マフラーを巻かれると言う事は我が家まで付いてくると言う事で…。
「なぁ、逆だよな。」
「なにが?」
「ほら、「夜遅いから~」つって送って行くのは男の役目じゃんか。こんな時間になって迄お前が一人で帰ることになったら…」
「細かい事気にしないの。…それとも何?○○の部屋に泊めてくれる?」
「だから同じ部屋で泊まるのは流石によ…」
「じゃあつべこべ言わないで、大人しく送られな。」
「強ぇ。」
結局何だかんだ言いくるめられてしまうんだよな。…それ程離れていない位置に両家があるのがせめてもの救いか。
冷やさないようにと、繋いだ手を上着のポケットに捩じ込んで冷え込む夜の道を歩く。
一見クールそうに見える蘭だが、最近は本当によく喋る。二人で居ることが多いからか、それに慣れたからか。
「そうそう、あたし昨日ひまりと話しててさ。また皆でつぐみの家行こーって。」
「唐突だな…何でまた。」
「知らない。お腹空いたんじゃない?」
「モカじゃねえんだから…。しかしひまりかぁ…最近めっきり関わりなくなっちまったなぁ。」
「…巴に取られたもんね。」
「別に俺の物じゃねえけどよ…。ま、あそこはあそこで仲良くやってんじゃ………あれ?」
丁度そんな話をしていた時だった。俺の家が見えて来て、そろそろ話すのも終わりだなーなんて考えて居たら、家の前には見慣れた赤髪のノッポが居やがるじゃないか。
寒かろうにスカジャン一枚羽織っただけで、ウチの玄関前で仁王立ちと来たもんだ。
…ったく、アポも取らねえであいつは…とポケットの中の蘭の手を強く握りしめ近づいていく。
「おう巴、何か用か?」
「……どこ行ってたん…あぁ、蘭の家か。」
「ん。巴、寒く無いの?」
「滅茶苦茶寒い。」
「……あー…家、入るか?」
こんなところで立ち話もなんだろう。というか俺自身こんなクソ寒い中で話したいとも思わないので、返事も待たずして玄関へ入って行く。流石に靴が脱ぎ辛いので手は放したが。
三人揃って階段を上がり部屋に入って行く。途中で廊下のハンガーを掻っ攫っていくあたり流石蘭だ。お前、ウチに慣れすぎな。
「まぁ適当に座れよ、今飲み物でも――」
「○○。」
上着も脱がず部屋の中央で立ち止まったままの巴が低い声で俺を呼ぶ。
「…あんだよ。」
咄嗟の事だったのでやや不機嫌そうに聴こえてしまったかもしれない。だが、これからするであろう話が決して明るいものではない事を、俺と…そして蘭も感じ取っていたようだ。
「二人ともまず座ろうよ」と促したのは、この場を一度仕切り直す為か、何度か経験してしまった殴り合いに発展させないための策か。
腰を下ろし真正面から巴と向き合う。…あぁ、こいつ髪伸びたな。
「○○お前、なにやってんだよ。」
「…何の話かさっぱりわかんねえな。」
嘘だ。大方つぐみからひまりを経由してかせずしてか、散々引き延ばされている事に対しての相談でも届いてしまったんだろう。
それ以外の件でここまでこいつに凄まれる謂れは無い。
「恍けんな。」
「てめーこそいきなり人ん家押しかけて何だよ。暈かさないでちゃんと話したらどうだ。あ?」
本質を探る為にも、敢えて挑発するような口調で巴の思考を加速させる。こいつは昔から、キレたらキレる程よく口が回る奴なんだ。
巴は一瞬目を逸らし…いや、蘭に視線を送り、バツが悪そうにその視線を床へとスライドさせた。
そうだな巴。確かに、蘭はそこまで知らないさ。
「………ちゃんと気持ち考えてやれよ。」
「…あんだって?」
「つぐのことっ!もっとちゃんと考えてやれよ!!」
「…………。」
やはりそれか。だが悪いな巴。俺はお前みたいに割り切った思考はできねえ。
「…何黙ってんだよ!?つぐだけじゃなくて、蘭も傷付けることになるって分かってんのか!?」
「…………うるせえよ、脳筋女がよ。」
「んだとテメェこの野郎…ッ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!」
今にも点火せんとボルテージを上げる二人の間にヒステリックな声を上げる蘭が割って入る。その介入は、俺がもう引き延ばすことも避けることもできず、選択の刻を迎えていることを示していた。…いや、可能性としてはもう一つ無くも無いが…
一度広げた量の手をゆっくりと降ろし、何が起きているか分からないといった様子で蘭が続ける。
「…あたしにも分かる様に、説明して?…巴はどうして怒ってんの。○○は何を隠してんの。」
その真摯な眼差しにどう返したものか。思わず黙り込んでしまう俺と巴を交互に見比べる赤メッシュ。
「……ねぇ。つぐみに何かあったの?」
「……………。」
「答えたらどうだ○○。」
「……その前に、だな…巴。」
「あ?」
「お前がここに来る前…いや、ここに来ることになった経緯を教えてくれ。」
「んなこと今はどうだって」
「よくねえんだ。…あのな、俺の予想が間違っていなけりゃ、この話にはもう一人噛んでる奴がいるぞ。」
飽く迄俺が冷静でいられるのはその予測があるからだ。純粋につぐみから悩みが伝わったんならまだいい。…だが、以前の蘭やつぐみへの連絡の様に、間にもうひとりの幼馴染が居たらどうだ?
…そろそろ、まんまと踊らされている訳にはいかないんじゃなかろうか。俺の意図を汲んでか、隣の蘭も渋い顔をする。…ああそういう流れか、とでも言いたげだ。
「言ってる意味がわかんねえ…けど、アタシが○○と話しに来たのは、ひまりがおかしなことを言ったからなんだ。」
「……あ?ひまり??」
「あぁ。「○○がつぐみを弄んでる」ってな。」
ちょっと待て。何だその新展開は。
「……○○、ふざけた顔してんじゃねーよ。ちゃんと聞け。」
「聞いてるわ…聞いてるからこそ、頭が痛くなってきてんだ。」
「あぁ??」
「………蘭、この前の事、説明頼んでいいか?」
「うん。…頭痛薬、飲む?」
「頭痛はしないから大丈夫だ。さんきゅ。」
それから蘭は、以前蘭とつぐみにモカから情報操作めいたメッセージが来たこと、その誤解を解きに羽沢珈琲店を訪れた事、その後少なくとも俺たち二人はモカと接点がなく、何が突飛な動きがあればモカを疑ってしまう事を伝えた。
最初こそまともに聞き入れようとしなかった巴だが、次第にふんふんと食いついてきた。
「そんなことが…いや、アタシはひまりから聞いたのもあって疑い何か欠片も無かったんだが…」
「そりゃ自分の彼女から言われたら鵜呑みにしがちだよな。巴は思考回路が色々と残念だからしゃーない。」
「あ?喧嘩売ってんのか。」
「今更だろ。」
「…まぁいいや。じゃあホントに、つぐと○○は何も無いんだな?」
何もない…とは言い切れないのが悩みどころだが、少なくとも誑かしたり弄んではいない。と思う。
「…ひまりは何て言ってたんだ?」
「だから、弄んでるって」
「や、具体的によ。」
「あー……なんつーか、○○がつぐの事諦めきれなくて猛アタックして…んで、つぐの返事を待つ間に今度はモカにまで告白しだして…」
「ちょっと待て。よくその話信じたな。」
「……○○ならやり兼ねないと」
「おい。いや、おい。」
巴とは言え幼馴染にそんな印象持ってもらっちゃ傷つくわぁ。
つまりはまたモカが絡んでいる訳だ。ひまりが意味も無くそんな出鱈目を言うメリットは考えつかないし、この手の情報の発信源は大体モカって事で間違いなさそうだ。
一先ず巴には一睨み効かせ、少し考えてみる。
暫く会う事すら出来ていないモカだが、奴は何を考えている?嘘を吐くにしてもここまで恋愛絡みの事ばかりと来たもんだが、どうにも誰も得しない嘘ばかりな気がする。
まるで俺を屑に仕立て上げたいかのような。…あれ、それが狙いなのか?
「でもさ、ただそれだけで信じた訳じゃないぞ。」
「ん?」
「実は……あぁ、これ、できればつぐに内緒にして欲しいんだけど…」
「なんだよ、話してみ。」
「あぁ。つぐがさ、「○○とは色々あったけど異性として意識はしている」って話をよく口にするんだよ。」
「………いやそれだけで信じるってのも」
「巴、続けて。」
何故か前のめりで食いつく蘭。え、お前が興味持っちゃうの?
「ん。○○からアタックしたとは言ってなかったけど、どうしたら振り向いてもらえるかーとか蘭とは付き合ってるのかーとか相談受けててさ。…まぁ、アタシじゃ何の力にもなれないんだけど。」
「ふーん。……そっか、つぐみも○○のこと好きなんだ。」
「…も?」
蘭の意味深な呟きに訊き返したのがまずかった。
巴そっちのけでにじり寄って来る蘭は、俺に益々直接的な選択を迫らせようとしていて。
「……あたしも、さ。○○が好きなんだ。」
言いやがった。
途端に困ったような表情で固まる巴。真っ直ぐ見詰めてくる視線を一ミリもずらそうとしない蘭。
「……勿論、男の子として、って意味だよ。」
付け加えんでも分かる…!
「えと……その………。」
「…今こんなに変な情報が飛び交ってて、あたしも○○が困ってるの知ってるけど。…でも、たとえつぐみが相手でも取られたくないから。だからちゃんと言うね。」
「いや、あの……蘭?」
「あたし、○○が好き。今の関係も楽しくて好きだけど、できることなら……か、彼女に…なり…たい。」
蘭越しに見る巴は真っ赤な顔で汗をダラダラ流していて、泣きそうな顔をしている。俺だって泣きたいよ。こんな事に発展すると思わなかった。
勿論途轍もなく嬉しい事なんだが、事が事だけに即答も出来ず―――
「………あぁ、ありがとう蘭。…大切な事だからじっくり考えたくて…その…返事は少し、待ってもらって良いか?」
「……うん。……急に言ってごめんね。でも、本気だから。」
蘭から向けられる熱い視線と可愛すぎる笑顔に詰まった溢れんばかりの想いも分かるし、巴の恨めしい目つきに込められた意味も分かる。
動き続ける幼馴染達の不穏な動向と、絶えず迫られる選択。俺の弱さが原因の部分もそりゃあるが、俺達は一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
………あぁ、俺は一体どうすりゃいいんだ。
もうすぐ、終わります。
<今回の設定更新>
○○:人間関係が迷宮入り。
幼馴染に対する印象はどんどん変わるし信用できる情報も分からない。
みんなが好きなだけなのに。
蘭:かわいい。もう何も言うこと無いけど、ほんと結婚して。
巴:張り切り過ぎてヘイラッシャイッ!!大事な幼馴染の事となると周りが見えなく
なるようで、時には直情的なソイヤッソイヤッ!!
ひまりとは最近も上手くいってセイセイッソイヤッサァッハァッッ!!!
モカ:いい加減にせえよ。