BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
前回のあらすじ!どうやらつぐみの心を弄んでいることになっているらしい最低な俺が、蘭にも告られてテンパった挙句全ての問題を先送りにしたという、総じて糞みたいなお話!
…本当にどうしよう。
「元気ないね。」
「…まぁ、色々あるんだよ、男の子には。」
「ふーん。……でも、折角久しぶりに一緒に居られるんだから、もう少し目の前の私に集中してほしいかなぁ。」
彼女の言う通りっちゃ言う通りだ。嘗て最も距離が近かった幼馴染のひまりが俺の部屋に来るのなんて、実に何カ月ぶりだろうか。色々ゴタゴタもあった相手だが、その興味が巴に行った今となっては正直最も気の休まる相手かも知れない。
相変わらずスキンシップと身体の主張が激しいのは困りものだが。
「久しぶりに…って、お前が巴と一緒に過ごしているせいだろ。」
「しょーがないじゃん、好きなんだから。」
「あそ。」
「……それで、何をそんなに悩んでるの??○○らしくもない。」
今日は巴に俺の事を聞いてやってきたとの事。あの時は巴も一緒に居た訳だし、その後の俺に対して思うところがあるなら仕方ない事だ。
だからといってひまりを送り込んで来るのはどういう了見なんだ?仮にも自分の恋人を元彼のところへ一人で行かせるとなると…普通は心配で居ても立っても居られないんじゃなかろうか。
そこは信用されていると捉えるべきか…。
「あのさ。」
「うん。」
「……モカとは最近会ったり話したりしたか?」
「モカ?」
「ああ。」
「うーん……○○が、つぐのこと弄んでるって聞いて以来会ってないかなぁ。」
「だからそれはガセだっての…」
まだ言うか。
「わかってるわかってる。巴から聞いたもん。」
「勘弁してくれよ…ったく。」
「でも、何でモカ?」
「ああいや、接触が無いならいいんだ。」
「…気になる!教えて!」
「別にいいだろ。関係ねえよ。」
「……関係あるもんっ!」
ダイブ。ベッドで向かい合って座っていた俺達だったが、そこから器用にもスプリングの反動を使いボディプレスの要領で両腕を広げてひまりが落ちてくる。
ゴスッ、という鈍い音と共に肘か何処かが顎に当たり、思わず呻き声が出る。
「お"ぅ"…おま、いきなり飛びついて来るんじゃ」
「私の大好きな○○が悩んでるの!関係ないわけないでしょっ!」
「ッ……だ、大好きっつったって、今は巴と付き合ってんじゃんか。」
あっさり乗り換えやがって。や、別に未練があるとかひまりが好きだとかそういう話じゃないんだけどな?ホントだぞ?
「でもでも、男の子で一番は、昔から今もずっと○○なのっ!」
「………そう、かよ。」
「だから関係ないなんて言わないで!」
「………悪かった。…だからその、退けよ。」
ベッドの上で押し倒すようにしてひまりが覆い被さっている。これはもう、見ようによっては情事をおっ始めようとする男女にしか見えないだろう。おまけに対して腕力の無いひまりは腕立ての様な姿勢もキープできずに潰れてしまっている為…そう、懐かしいあの感触を胸いっぱいに感じることになってしまい、俺も俺で邪念が脳を支配し始めている。
ほんといい加減にせえよ。…そして今、押し倒されたことによりよく見えるようになった壁掛け時計により、忘れかけていた今日の予定が脳裏を過る。
「…じゃあどうして悩んでいたか教えて。」
「あ、えと、取り敢えず一回退けようぜ。」
「やだ!今退けたら○○絶対はぐらかそうとするもん!」
「しないしない…ちゃんと話すから一回退け…」
待ち合わせをしたら十五分前には来て待っているのが蘭の性格だった。当然、うちに来る時も同じ行動が適用されるわけで。
…要するに今日は、あの話について返事をすべく、蘭とつぐみをウチに招いていたって事だ。ひまりの来訪に関しては完全なるイレギュラーだったがね。
「……………蘭?」
「ら、蘭、これはその……!」
あぁ、色々終わった。これから告白の返事をしようとしている相手にこんな状況見られたら、何もかも上手く立ち往かなくなるだろう。何ならその好意だって無くなってしまうかもしれない。
つぐみだけを廊下に残し、ムスッとした顔の蘭だけがベッドまでやってきて、上着も脱がないままひまりを見つめる。
「蘭?…顔、怖いけどどうし」
パァンと小気味よい音が響く。同時に俺の体を押さえつける力は弱まり、頬に生じた熱に驚きと困惑を隠せないひまりは後ずさる。
一方の蘭は振り抜いた手を何事も無かったかのように下ろし、ベッドで情けなく仰向けになっている俺の頬を撫でる。
「……蘭、お前…」
「…いいよ、わかってるから。」
「いや、来ていきなり平手打ちてお前…」
待っていろと言われた矢先の音に焦った様子のつぐみが参入する。これによりひまりは頬を抑えたままキョロキョロと視線を彷徨わせ、目に一杯溜めた涙を溢れさせることができずにいた。
「…あー、取り敢えず俺から説明させてくれ。」
一体どこで何を間違えてこんなギスギスした空気になっちまったんだ。
**
「ひっく……ぇぐっ……えぅ……」
「…とまあそう言う訳で、別に襲われてたりしたわけじゃない。」
胸に顔を埋めしゃくり上げる様に泣くひまりを撫でてあやしつつ、複雑な面持ちの来客二人にあらましを伝える。ザックリとした言い方にはなったが、流石に伝わったことだろう。
「そう……だったんだ。…蘭ちゃん、いきなり叩いたら駄目だよ…?」
「ぐ……だ、だって、○○が、また襲われてるのかと思って…。」
「お、おそったりしたこと…ないもん……うぇぇ……」
「ひまりちゃん…嘘はよくないよ…。」
まずはコイツに落ち着いて貰わなきゃ話が進まない。そもそも俺の前面は今度こそひまりによってホールドされてしまっているし、姿勢を変えて抱きつき直されたことによって視界の半分はピンク色の頭頂部で埋まっている。
益々険しくなる蘭と哀しそうな色を浮かべるつぐみ、それぞれの表情を見つつもただ只管にひまりの背中を摩る他無かったのだ。
「大体…○○はひまりを甘やかしすぎだと思う。」
「甘やかす?どこが。」
「「今!!」」
二人してハモらんでも。
「これはほら、泣いてる人が居たら仕方ないというかさ…」
「……そんな、そんな簡単な理由で抱き締め」
「確かに、○○くんはそういう人だったね。」
「つぐみ!?」
以前蘭にフラれたつぐみを同じように落ち着くまで抱き締めていたこともあったっけ。つぐみはその時の事を思い出したのか、ほんのり頬が赤らんでいる。可愛いかよ。
「…○○、どういうこと。」
「…………。…ひまり、もう落ち着いてきたか?」
「無視しないで。…あたしも泣くよ。」
「それは少し困るかなぁ。」
「……う、ありがと○○。…少し大丈夫になった。」
未だ涙目ながら、背中に回していた腕を解き体を離すひまり。部屋の空いている場所を探すように周囲を見回した結果俺の隣に腰を下ろす。
狭い部屋だし、対面には二人が座っている。妥当な判断だろう。
「……で、本題なんだけど。」
「ああ…わざわざ来てもらってすまんな。」
「だ、大丈夫だよっ!丁度暇な日だったし!」
「…ねえ○○。」
「ん。」
話題の転換を切り出した赤メッシュだったが、つづくつぐみの様子を見て先制攻撃とも言える質問を飛ばしてきた。
「あたしの勝手な想像かもしれないんだけど。」
「ん。」
「つぐみにも告白されたの?」
「……私に、"も"?」
「…そう、なるな。」
それぞれの秘密だったことが、どんどん共有されていく。今この場にひまりがいるということは、勿論巴の耳にも入るだろうし、あのモカにだってどこからか伝わるかもしれない。
もう、逃げられないんだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!そんなこと初耳だよ!!」
「ひまりちゃん?」
「ひまりには関係ないでしょ。今は巴と付き合ってるんだから。」
「そう、かもしれないけど…。」
「それとも何?○○を
蘭の背負う圧のようなものが勢いを増していく。ただでさえ目つきも態度も悪いってのに、一度シバいた相手にそれは酷だろう。
ひまりもすっかり震えあがってしまっている事だし、ここはもう抑えて貰わないと。
「蘭。」
「何。」
「好きだ。」
「ッ…!」
先程迄放ちまくっていた威圧感が嘘のように萎む。と同時に、青い顔になるつぐみ。
「つぐみ。」
「……なに?」
「好きだよ。」
「ふぇ!?」
「ちょ…!?」
暴落からの起死回生。言われた当の本人も、隣で赤い顔を晒していた蘭も戸惑いを隠せないようだ。
「…悪い、二人とも。」
「……どういうこと。」
「説明…してくれるかな?」
「俺には……選べない。」
最終的にたどり着いた答え。それはこの選択から…逃げる事。
「つぐみの事はずっと好きだった。…まぁ別に隠してたわけじゃないし、みんな知ってたんだろうけど。ずっと好きだったからこそ、つぐみに彼が出来たって聞いた時に諦められたんだ。」
「……え?私に彼氏?」
「そして蘭。落ち込んでいる時や悩んでいる時、お前はずっと傍に居てくれたな。俺よりも頭がキレるし、行動力も悪くない。その中でずっと見えていなかった可愛さだとか弱さが見えて、正直凄ぇ好きになった気がする。」
「…じゃあ」
「でも駄目だ。…俺はな、この幼馴染って関係が好きなんだよ。」
ひまりの一件で分かった。誰かが誰かに惹かれ、愛情を向ける。それは間違いじゃない。
でも、何処かの関係が深まるにつれ壊れていくモノだってきっとあるんだ。俺はそれを是とはできない。
俺は…いや、俺自身なんてどうでもいいのかもしれない。俺が大好きで見て居たいのは、誰にも入り込む隙さえ無い、完全に未完成なAfterglowなんだから。
「…お前ら、最近ライブとかやってないだろ?練習は?集まったり、してるのか?」
「…………。」
「ひまり。巴はどうだ?ドラム叩いてる姿、格好いいって言ってたじゃねえか。」
「えぅ…もうずっと、見てない…と思う。」
何処のボタンを掛け違えてしまったんだろう。何処の皺寄せが俺達に襲い掛かっているんだろう。
何時からこうなってしまったんだろう。
「…そういうことだ。俺はあの輝いていた関係をぶち壊してまで誰かと付き合おうなんか…!」
「ね、ねえ○○くん。」
結論に差し掛かろうかというタイミングで、真っ青な顔のつぐみが震える声を上げる。
「…ん。」
「私に彼氏が出来た…って、誰から聞いたの?」
「え。…確か、蘭から電話がかかってきて…」
「!!」
キッ、と隣の蘭を睨みつけるつぐみ。今まで見たことも無いその表情に浮かぶ涙は何を物語っていたろうか。
当の蘭も何処か居心地悪そうに視線を逸らし、ひまりはただただ展開に付いて行けずコロコロと表情を変えている。
「私、確かに告白はされたけど付き合うなんて言ってないよ。それを相談したのも蘭ちゃんだし、結果を報告したのも蘭ちゃんだけ…で。」
「………蘭、つまりどういうことだ?」
「…あれ、早とちりかな。ごめん。」
視線を合わせないまま、あっけらかんと返す蘭。早とちりで済む問題か…?
「お前なぁ…じゃああの時から今まで、つぐみはずっとフリーだったのか。」
「うん。あの人も悪い人じゃなかったんだけど、私はずっと○○くんが好きだったから。」
「嘘。」
「え?」
今度は此方の番だと言わんばかりに蘭が睨み返す。何だか不穏な流れになってきたぞ。
「じゃあどうしてあたしに告白なんかしたの?あの時の涙は…嘘だったの?」
「………嘘なんかじゃない。本当に好きで…!私、蘭ちゃんが…!」
「…訳わかんない。もう、何もわかんないよ、つぐみ。」
次に涙を浮かべたのはつぐみ。蘭が「つぐみに告白された」と持ち掛けてきた件…結局蘭がつぐみをフる形で収束した話だったが、その真意は何だったのだろう。
「…つぐ、蘭に告白…したの?」
「……うん。」
「…そっか。……わからなくは、ないかな。」
「えっ。」
「何よー○○。女の子でも、格好いい女の子に惹かれちゃうことだってあるんだからねっ!」
「そりゃ今のお前を見てりゃ分かるけどよ。」
だからと言って理解できるもんでもない。
蘭に格好良さはあまり感じないし…まぁ、ライブ中は流石に輝いていて格好いいっちゃ格好いいんだけどさ。ただ個人として格好いい方面での魅力があるかと訊かれたならば微妙だ。
男女の感性の差だろうか。
「…私、ね。…○○くんが好きで、でも○○くんは蘭ちゃんが好きで。」
「……。」
「蘭ちゃんのどこが好きなんだろうって、考えてみたの。何処が素敵なんだろうって。」
「ふむ。」
「ちょうどその頃、ひまりちゃんの事で蘭ちゃんや巴ちゃんと相談とかもしてて、○○くんの事を考えて一生懸命になってる蘭ちゃんって格好いいなーとか…あと、友情とか絆とかそういう言葉が似合うのも魅力だなーとか考えてたら…」
「……つぐみ自身も蘭が好きになっちゃったと。」
「………うん。」
つぐみはこの幼馴染連中の中で言えば一番真っ直ぐな「女の子」だからな。純粋に誰かを好きになる事も、純粋に誰かの良いところを見ることができるのも彼女の魅力であり、弱点でもあるのだろう。
正直先程迄は疑り半分で聞いていた俺とて、その経緯を知れば納得だ。あるよな、そういうこと。
「…だから、蘭ちゃんのこともちゃんと好きだったの。今は、吹っ切れたんだけど…ね。」
「ふ、ふーん。そうだったんだ。」
「照れてんのか、蘭。」
「別に。そんなことないし。」
何にせよまた一つ、掛かっていた霧が晴れた。こうして一つずつ暴いていけば、何れは元の関係に戻れるのだろうか。
勿論、今目の前の彼女達が
「兎に角だ。俺はこの幼馴染って関係を大事にしたいんだ。だから」
「○○。」
「…すげぇ遮るじゃん。何だよ蘭。」
「ごめん。でもさ、あたしはその考え、違うと思う。」
「…と言うと。」
「自分で気付いてくれなきゃ意味が無いと思う。…だから多くは語るつもりないケド。」
先程とは打って変わって、真剣な眼差しでつぐみにアイコンタクトを送る。つぐみも理解したのか、こくりと小さく頷き続ける。
「そう…だよね。難しいことかもしれないけど、○○くんにはもう一度ちゃんと考えて欲しいかな。」
「考えて出した結論なんだよ。俺はこの一択で――」
「あのね○○。」
俺の言葉を遮るのは、俺が間違った言葉を選んで発言しているからか。例え違うとしても、そう錯覚してしまう程まっすぐな想いを蘭は持っていて。
「その答えじゃ、あたし達は納得できないってことだよ。」
その想いは、俺にやはり逃げ道なんて無いことを表していた。
その後連れ立って帰って行った二人だったが、何を求めているんだろう。欲しいものは調和や平和じゃないのか。
今までの人生で知った気になっていた幼馴染達のまだ見ぬ心の奥に、底知れぬ恐怖を見たこの日。久々に泊っていくと無理矢理テンションを上げ励ましてくるひまりの姿に、ほんの少しばかりの安堵を覚えている俺がいた。
それも、"逃げ"かもしれないというのに。
**
ヴーヴヴッ
『やっほ』
ヴーヴヴッ
『モカちゃんでーす』
ヴーヴヴッ
『だから言ったでしょ』
ヴーヴヴッ
『言うこと聞いてくれないから』
『つまんないなー』
ヴーヴヴッ
『そーだ』
ヴーヴヴッ
『聞き分けの無い○○には』
ヴーヴヴッ
『もっともっと』
ヴーヴヴッ
『楽しんでもらおっかな』
ヴーヴヴッ
『あっはっはっは』
ヴーヴヴッ
『○○のかっこいいお顔が』
ヴーヴヴッ
『目に浮かびますなぁ』
ヴーヴヴッ
『あのね』
ヴーヴヴッ
『ずーっとずーっと』
ヴーヴヴッ
『モカちゃんは○○のこと』
ヴーヴヴッ
『大っ嫌いなんだよ』
ヴーヴヴッ
『また遊びに行くねー』
ヴーヴヴッ
『だからもっと』
ヴーヴヴッ
『もっともっと楽しませてねー』
本当は最終話の予定でした。
でももうちょっと拗れて貰おうかと思います。
<今回の設定更新>
○○:窮地。
もはやひまりちゃんのひまりちゃんズに惑わされている場合では
ない。
蘭:早とちり…?
つぐみ:そう簡単に女の子に惹かれるものでしょうか。
ひまり:泣き顔が良く似合う。
モカ:
さて…?