BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「で?」
「…で、とは?」
「だーかーらー…先週。」
新品のシーツの香りが心地よく、包み込む毛布もまた暖かく柔らかい…特に意識を向ける物も無く、相変わらず詰め寄る様に質問を投げかけるりみに疑問符を浮かべる僕。…そんな昼過ぎ。
「先週?…うーんと、何かあったっけ?」
「さっきも訊いたでしょ?先週来た時、○○くん居なかったから、どこに行ってたのって。」
「……あぁそうだったそうだった。」
「○○くんがお出かけなんて珍しいやんか。」
りみが言っている先週…っていうのは、多分先週の月曜日の事だろう。姉さんが来て、僕を連れ出した日だ。
…そっか、その間に訪ねてきちゃったんだ。悪いことしたな。
「うん、まぁ…ちょっとね。」
「……どこか、遊びに行ってたとか?」
「え?…んーん、そんな楽しいもんじゃないよ。」
「ほんまにぃ?」
「うんうん、あんまりね。」
実を言えば定期的に病院に行っている僕の検診の日、というだけなんだけど、詳しくは言い出せずにいるのが現状だ。
そんな僕のハッキリしない態度にちょっと不機嫌になったりみが、ベッドの上の僕と鼻が触れ合いそうな距離まで顔を近づけてくる。というか触れてる。
本人は怒っているつもりなんだろうけど、ただ頬を膨らませて居るようにしか見えないその表情は僕的にはドストライクだった。
「ふふっ。」
「なっ!?…なんで笑ってんの。」
「りみこそ、どうしてそんなにほっぺた膨らませてんの?ふぐなの?」
「むーっ!怒ってるの!」
「えー、僕怒られるようなことしたかなぁ…」
目をぎゅっと瞑り益々頬を膨らませて。なかなか伝わらないもどかしさからか、体を揺らし足をバタバタと落ち着かないご様子。
全部可愛い。
「だからぁ!……その、何処出掛けとったん?」
「…ええと、普段はあまり行かない場所かなぁ。」
「そーゆーのじゃなくて!普通に教えてくれたらええやんかぁ!」
「ひっひひー、折角だから当ててみてよー。」
「何なんそれ……」
どうしても伝えなきゃならないことがあるんだけど勇気が出なくて伝えられない。いつかは絶対言わなきゃいけない事なんだけど。
…だったら、いっそりみに見つけてほしい。全部、バレてしまえばいいのにって。
「じゃぁ…あまり行かないっていう理由は?」
「んー…特別用事が無ければ行かない場所だし、一人じゃ行けないからかなぁ…。」
「むっ。」
「む??」
「誰かと…行ったん?」
「??…うん。」
姉さんだけどね。
「……女の子?」
「子…うーん、女の人?かなぁ。」
「…年上なん?」
「まぁね。」
「……むむむむむ…。」
どうしよう。核心に迫る云々より、りみの機嫌の悪化が止まらないぞ。
眉根に皺を寄せても全然怖い顔にならないんだけど、不機嫌になられるのはちょっと困るな。
「何をそんなに唸ってるの。」
「…私がいるのに。」
「…?」
「私がいるのに、どうして他の女の人と出かけるん?好きなん?付き合ってるん?」
「……まぁ嫌いではないしお世話になってる人だけど…付き合ってはいないかなぁ。」
一応書類上は姉だし、ね。
とぼけている様な返事を返してしまったけど、内心りみが嫉妬心のようなものを見せてくれていることが嬉しくてたまらない。…と同時に、どんどんと真相が話し辛くなっていく。参ったな。
「付き合ってない人とお出かけするんっ!?…なら、私ともお出かけしてよっ!」
「……………。」
「…どうして何も言ってくれへんの。」
「…お出かけは…ちょっと、難しいかなぁ。」
「何でなん。…その人とはお出かけできるのに、私とは行かれへんって、何でなん?」
「………ごめんね。」
どうしよう。
誤解させるつもりは無かったんだけど、本当の事は言いたくない。だって、言ったら一緒に居られなくなっちゃうと思うから。
大好きなりみと一緒に過ごすのが、辛くなっちゃうから。
「……ね、○○くん。」
「うん。」
「○○くん、私に隠してること、あるやんな。」
「…うん。」
「何で、それは言うてくれんの?」
「…………。」
「私の事、嫌い?」
「…大好き。」
「………それなら、全部教えてよ。隠してることも、全部。」
「………。」
ついにこの時が来たのか。恐れていたこの時が。
「……言ったら、もう一緒に居られないから。」
「…そうなの?」
「きっと…きっとね。」
「それは、聞いた上で私が決める…とかじゃ、駄目なの?」
「…………わかんない、けど。」
最終的な判断はりみに任せることになるかもしれないけど、僕はりみに迷惑を掛けたくなかったし、気も遣わせたくなかった。
…でも、言わずに嫌われるのも何か違うとは思っていた。
「……いいから言って?」
「………実は、」
話す内容も考えついていなかったから、順序や関連性も全くない状態で話した。一つ一つ、今の僕について回る事象を、思い出せる順に。
治ることのない病に冒されていてゆっくり死を待つ以外何もできない事、もはや自分の力では満足に歩き続けることも出来ない為定期的な検診でさえ"姉さん"の力を借りる必要があること、死を待つだけとなった自分を両親が見捨てて、家を宛がわれた今は事実上絶縁関係にあること。
全部、話したつもりだ。…とても重い話になったが、りみは真剣でどこか悲しそうな表情のまま静かに聞いてくれた。そうして僕が、何も思い当たらなくなって口を噤んだ頃、汗ばむ僕の手をそっと握り、一言。
「……ありがとうね。」
「…えっ。」
感謝される謂れはない筈なのに。りみは相変わらず真剣な表情のままだったが、確かにそういった。
「そんなになってるとは知らなくて…だから学校にも行っていなかったんだね。…でも、全部教えてくれてありがとう。」
「……ん、隠してて…ごめん。」
「ううん、いいんよ。」
沈黙。
そりゃそうだ、あれだけ重い話を長々と話したんだもの。りみだって頭の整理が追い付いていないだろうし、きっと今もどうやって今生の別れを切り出すか言葉を選んでいる筈だ。
「…で、一つ訊きたいんやけど。」
「??」
「どうして、今の話を私が聞いたら一緒に居られなくなると思ったん?」
「…だ、だって、何もできないし、いずれお別れになっちゃう奴と一緒にいる意味が無いでしょ?嫌いにもなるだろうし。」
「……むぅ。」
またしても膨れるりみ。ネガティブな事ばかり言い過ぎたのだろうか。
それか流石にこの話に飽きてきたか。
「どうしてそう決め付けるんかな…。」
「決め付け…てるわけじゃあないけど、そうじゃないの??」
「…私は、○○くんがどんな状況に居ようと、ずっと一緒に居たいよ。」
「………本気?」
「うん。…いつかお別れになっちゃうんなら、その瞬間まで、私は○○くんと一緒に居たい。」
「………りみ。」
「○○くんが一緒に居たくないって言うならもう来ないけど?」
「やだ。…一緒に居て、ほしい。」
「ん。…それなら、今までと変わらないように遊びに来るけど、いい??」
「…………うん。」
世の中には不思議な人もいるもんだ。僕としてはりみとまた会える事が純粋に嬉しいし幸せだけど、りみはその先の事を考えていないのだろうか。その先に待っているのは別れと喪失しかないのに。
「…あのね○○くん。」
「うん。」
「お話聞いてて気になったんだけど、そのお姉さん…ええと、まりなさんだっけ。」
「うん。」
「本当のお姉ちゃんじゃないんでしょ?」
「うん。」
「……ふーん、じゃあ本当にただ年上のお姉さんとお出かけしたんだ。」
「えっ、いや、だから病院」
どうやら話は少し変わっていたみたいで。いつのまにかりみの中でされていた話題転換に付いて行けず、ついしどろもどろになっちゃう。
結局のところ、りみは何が言いたいんだろう。
「…面白くない。」
「えぇ?」
「そんなのってなんだかおもしろくないんだもん。」
「面白くないって…そもそもそんなに笑える話じゃ」
「そう言う事じゃなくて!」
「???」
女の子ってみんなこうなんだろうか。…本当に何が言いたいんだかさっぱり分からない。
「だから、実際のお姉ちゃんでもない人と二人きりで出かけたって事やろ?」
「…まぁ、そうとも言える…かな。」
「嫌。」
「いや?」
「私の方が○○くんの事大好きやのに…。」
「っ…!」
恥ずかしくないんだろうか。いつもだったら照れてそんなこと言える子じゃないのに。
それとも、さっきの話を聞いた上で真剣に言ってくれてるんだろうか。
「○○くん。」
「…はい。」
「私と、…付き合って。」
「…………ん!?」
「だから、……私と恋人になって欲しいって…言ってるの。」
「……さっきの話、聞いてた?」
「聞いた上で!……だって、それまで一人でって哀しすぎるやんか。それに私も一緒に居たいし、本当はこんなすぐ告白するつもりと違かったけど…でも、大好きなんだもん。一番に、なりたいんだもん。」
「…あ……ぅ…ええと…。」
まさかこの流れで告白までされると思ってなかった。…というか、こういう告白って男の方からするもんだと思ってたけど…。
「…どうなん。」
「あいや、えぅ…その…」
「あぁもう!○○くんハッキリしてや!」
「あっ、そ、その…はい…」
「○○くんは私のこと好き!?」
「す、好き…!」
「私も○○くんのこと大好き!」
「あ、う、はい。ありがとう…」
「今○○くん彼女いないやんな!?」
「い、いません」
「私と付き合って!!」
「い、いやでも」
「あぁぁあぁあああああ!!!!!」
且つてない程勢いのあるりみ。気圧されそうになりつつも、付き合うと言う事に関しては気軽に頷けない。
終始煮え切らない僕に苛ついたのか、大きな声を張り上げるりみ。その頬は真っ赤である。
「ど、どうしたの。」
「…もう!振るんなら振ってや!!私は○○くんと一緒に居たいねん!どんなに辛い結末になっても、誰よりも愛して愛されていたいんや!!だから恥ずかしいのも頑張って、本気で付き合ってほしいって言うてるやんか!!」
「…………。」
「どうしてそこで黙り込んでしまうん!?私が好きなら思い切り抱き締めてや!弱いところも隠してることも全部見せてや!!今更どんな事実が来ようと、私の○○くんに対する気持ちはビクともしないから告白してるんやんか!!私のことが本当に好きなら、私の気持ちも信じてやぁ!!」
「……りみの…気持ち。」
初めて見る大声で捲し立てるりみの姿に、僕が今どれだけ酷いことをしているのか、りみがどれだけ悩み我慢していたかを痛い程叩きつけられた気持ちになった。
僕もりみが好きだ、なんて言いながら、結局はりみを信用しきれていなかったのかもしれない。…無意識の内に、りみの心の奥底で考えていることを見ないようにしていたのかもしれない。…僕は、りみのことを気遣っているようで、ただ悪戯に傷つけ続けていたのかもしれない。
「……○○くんの…ばかぁ…。」
「……………くっ。」
傷付けないように、関係性を深めるべきじゃないと思っていた。そして道化を演じ続けていた筈なのに。
…その結果がなんだ、結局彼女に涙を流させてしまっているじゃないか。
「…りみ。」
「………なに。」
「………僕はそう遠くない未来に、君の目の前からいなくなっちゃうよ。」
「……うん。」
「その時に、もしかしたら後悔させちゃうことになるかも…いや、確実に、今よりももっと多くの涙を流させちゃうと思う。」
「………うん。」
「…でも、きっとそれまでは。…その時が来るまでは、もう二度と君にそんな顔はさせないから。」
「……○○くん?」
「だから……僕の一番大切な人になってください。そしてずっと、できるなら毎日、ここで一緒に過ごしてください。」
「…………っ!」
絶対悲しませる。だけどそれまで一緒に居て欲しい。…とんだ我儘だと思ったけど、その我儘をぶつけてもらえなくて悲しむ人が居てくれるって、幸せな事なんだと思う。
だからこそ、せめて自分で立てた誓いくらいは守り抜かなければいけないと…胸に飛び込んできた温もりを確かめながら決意した。
「……あとね、○○くん。」
「……うん?」
「今度、お姉さんに会わせて?」
「………うん??」
「だって……付き合う事になったって事伝えなきゃやし、浮気も許せへんし。…だから一回お話させて?」
「…………ええと」
「またハッキリしてくれんの…?」
「うっ……れ、連絡しておきます。」
りみこそ、僕に何か隠してるんじゃないか…?そういう、勢いとかさ。
難しい。
<今回の設定更新>
○○:つまりはそういうこと。
意外と押しに弱いらしい。
りみ:強い。愛故の行動か、それとも…?
まりな:深まる、謎。