BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「りみー…見てこれー…」
「んー??」
今日からサービスが始まった新しいスマホ用リズムゲーム。昔まだ元気だったころの僕がハマっていたアプリの新作で、デザインやシステムも一新されたことでより一層魅力が増している。
ベッド脇で何やら作業をしていたりみを呼び、たった今引き終わったガチャの結果を見せる。
「がちゃ回したん?」
「うん。この子、可愛くなぁい?」
「まー…可愛いのは確かだけど、○○くんが褒めるのはあんまり見たくないかなぁ。」
「えー……ずっとね、推しだったんだよ、昔。」
「…ふーん?○○くんはこーゆー、スタイルも良くて露出も凄いのがタイプなん?」
画面に映っていたのは兎の耳を生やして胸元や肩や腿を露出したようなドレスを着た少女。成程、りみから見るとそういうところが目に付くのか。
かわいいのに。
「タイプっていうか…まぁ、キャラクターだしね。」
「ふーん。」
「………りみ、おこってる?」
「べつに。」
「……えー…。」
絶対怒ってる。
僕がベッドからあまり動けなくなってからというもの、ほぼ毎日の様にお世話をしに来てくれているりみ。なんなら泊って行く日もある程で…それだけの時間りみを眺めているんだから、表情を見れば怒っているかどうかくらいすぐに分かるというもんだ。
すっかり力の入らなくなった右手で、顔を背けたりみの癖のある後ろ髪を撫でる。たまに絡んで困るとか何とか彼女は言うけど、この柔らかい触り心地が僕は好きだ。同じように、彼女も僕に髪を触られることを好むようで。
「んっ……もう、大人しくして無いと体に障るよ?」
「えへへ…触りたくなっちゃって…。」
「もー。…後ろ側、○○くんが触り過ぎるせいで癖が強くなってきたかもやんなぁ…。」
「そんなことないでしょー…」
「ふふっ、冗談冗談。」
尖っていた口も漸く緩めてくれたようだ。りみにはやっぱり、少し困った様な下がり気味の眉とその表情が似合うから。
「他にはどんな子が居るの?」
「えっとねぇ……ちょっと、持っててもらってもいい?」
「ええよ。」
長時間腕を上げていることも辛くなってきたので、りみにスマホを手渡して…すいっすいっ、と画面を切り替える。今日だけでも六十回は回しているし、当たりだと思われるキャラクターもそれなりに出た。
…その途中で、赤髪の不良っぽい男性キャラクターが写った時に、りみの手がピクリと反応した。
「あっ…。」
「???……この人がどうかした?」
「…か、格好いいキャラクターもいるやん…。」
「…うん、女の子ばっかりじゃないからね。」
「ふーん……わ、私も始めてみようかな。」
これは驚きだ。今までまともにスマホでゲームをしているりみを見たことは無い。僕がどんなゲームを勧めようと、「私はあんまり分からないから…」とやんわり断られるのがいつもの流れだったが、まさか自分から食いつくなんて。
…余程このキャラクターが魅力的だったと見える。
「………。」
「……○○くん?」
何だか無性に面白くない。
僕以外のモノに露骨に興味を持ったのが初めてだったからか、相手がキャラクターとは言え男性だったからか…うまく言葉にできそうになかったけど、胸の奥がモヤモヤと翳る感じがした。
「…始めて見たら?…結構面白いって思うかもね。」
「どうしようかなぁ…。」
「……その赤い人も出るかもしれないしね。」
「…………○○くん?エラい棘のある…」
「しらなーい…。」
ははあ、これが要するにあの嫉妬とかいうやつか。
でも悪いのはりみだし。僕が変に重い奴ってわけじゃないし。…ないよね?
「…あっ。…もしかして○○くん、私に対して妬い」
「しらなーい。」
「……んふふふふふ。」
「…なあに。」
「……私の気持ち、ちょっとはわかったやろ?」
「……………。」
これが、僕が何か意地悪をする度にりみが感じていた感覚。成程、目の前のイジワルそうに笑うりみの顔も、何だか憎たらしく見えるぞ。大好きな笑顔の筈なのに。
「…怒っとるん?」
「………ちょっと。」
「…ん。……私もさっきはそうだったんだよ?」
「……うん。ちょっと勉強になった。」
そして、ちょっと苦しい。
「…これは、結構辛いやつだね。」
「……うん。でも、そう思うってことは、私も好かれてるんだねぇ。」
「…………まあ、別に世界で一番くらいには、大好きだけど。りみのこと。」
「ッ……そ、そういう不意打ちは健在やんな…。」
顔を赤く染めるりみ。恐らく僕も今似たような顔色をしている事だろう。
二人の間を少しの間沈黙が通り抜け、やがてりみが小さく笑いながら抱き締めてくれた。
「…でも、安心してな?別に本気でゲームやろうとか、その人が好きーって言ってるわけじゃないから。」
「……そうなの?」
「うん。○○くんが嫉妬してくれただけで満足やもん。」
「……。」
それはそれで少し悔しいんだけど。
「それに……私は、○○くんが楽しそうにゲームしてるとこ、見てるだけで幸せなんやよ?」
「……そ…っか。」
「だから安心して。もう、嫉妬させることも無いくらい、○○くんしか見てないから。」
「…………。」
くすぐったくて、嬉しくて。でもやっぱり残念なこともあって。
抱き締め返そうと体に力を入れたけど起き上がることも出来ず…結局、握られた手を出来る限りの力で握り返しながら、小さな声で返すことしかできなかった。
「…りみの楽しみ…奪っちゃってごめんね?」
「……そんな、○○くんが悪い訳じゃないんやよ。私は一緒に居られるだけで幸せやから…!」
一瞬置いて、りみの流す暖かい滴が僕の首筋に落ちる。
そうだ、だから僕の出来る限りのこととして、歌を練習…君にプレゼントすると決めたんだ。
…僕の体は、もうリズムゲームを楽しむこともできない。
もうすぐ、おわります
○○:受け入れた。
りみ:覚悟しつつも愛情は増す一方。