BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2020/08/31 ああ、ほわっとしてる
今日も疲れた。全く、人間社会とは厄介なものである。
たかが早く産まれただけで偉いと思っている老人連中には気を遣わなければいけないし、気を許せるはずの同期にも気色悪い上っ面を貼り付けて過ごさなくてはいけない。
会社とは?生きていくために賃金を求める、ただそれだけでは許されないものなのだろうか?
……ああだめだ。折角就業時間まで耐え、唯一の癒やしと言っても過言ではない自由な時間を迎えたというのに。
社会は人を闇に染める。いや、これはあたしに限った話かもしれないけど。考えることすべてが昏い方へと惹かれてしまうように、そのうち性格も、表情も、発言もネガティブに……。
「ただーまぁ……。」
元一人暮らしのアパートの一室。特に洒落た繁華街の近くにもなければ、笑ってしまうほどの田舎でもない、そんな中途半端な立地に構えるのがあたしの
まぁ、周りの治安がいいことは取り柄かな。
疲れ切ったあたしの声に反応するように、さして長くない廊下の向こう――リビングからぱたぱたと軽快な足音が聞こえてくる。
「おかえりなさぁい、〇〇ちゃん!」
「んー……。」
出迎えてくれたのはルームシェア……いや、正しくは居候か。そんなよくわからない関係の女の子。
……この香り、風呂上がりか。目の前まで距離を詰めてきた彼女からは甘いマシュマロのような香りがした。
「ごはん、食べる?」
「んー……先に風呂かなぁ。」
「そか。いっぱい歩いて疲れてるもんね。」
「ん、汗かいちゃってさ。」
「ふふ、お疲れ様だねぇ。」
自然な流れでビジネスバッグを回収され、リビングまでの道のりを先導される。
自分が男だったら今すぐにでも抱きついてしまいそうなほど無防備な後ろ姿を眺めつつ、思ったよりも凝っていた首を鳴らす。
「わ、骨の音。」
「……一日中パソコン見っぱなしだし。凝るよね。」
「すごい音だよ?」
「んー……自分でも引くわ、これは。」
ゴキゴキ、というよりかはゴリゴリに近い音だった。確かに凝っているとは思ったけども、こりゃ重いわけだ。
体の不調から精神的に病んでいく、といった話も聞いたことがある。あたしの最近のネガティブな発想は、ここから来ているのかな……?
「じゃ、お風呂上がりにマッサージしてあげる!」
「……え、できんの?」
「うん!」
予想外の提案に、甘えたさ半分疑い半分で思わず問うてしまった。何せこの子……
「前に、肩もみしてもらったときは悪化したけども。」
「あ、えと、それは」
「そのあと湿布貼ってもらったときも、間違えて冷えピタ貼られるし。」
「あ、あぅ」
「慌てて剥がしたかと思えば壁に放り投げちゃって、テレビの裏の壁紙は無残にも……」
「うぅぅぅ……」
この子、
まあ、そのハチャメチャっぷりに気持ちを救われていないこともなく、なんだかんだで可愛がっている訳だ。
「……じゃ、風呂上がり、期待してるよ?」
「っ!!……う、うん!頑張る……よ!」
あたしもやはり疲れているんだろう。いじめるのも程々に、あうあうと涙目になる香澄に慰めの言葉を残し、早足気味で浴室へ向かった。
**
「ふぃぃ……。」
やはり短髪はいい。
少し前までは美容室に行くのもかったるく、腰ほどまであった思い長髪も思い切って肩上に切り揃えてみれば洗う手間が
年頃の女子であればツヤだの纏まりだの、トリートメントがどうだの何だのと努力する可愛げもあったのかもしれないが、社畜にランクアップしてしまった今のあたしには不要。
とにかく効率を、時短をと求めてたどり着いた姿は、まさに究極の面倒くさがりスタイルであった。
何が言いたいかというと、とにかくあたしは髪を切った。おかげでこうして、のんびり湯に浸かり深部体温の上昇を感じる余裕が生まれたというわけだ。
中折れ戸タイプの浴室の扉、その向こうから間延びしたような声。
大方暇になったか、いつにも増して長風呂なあたしが気になったのか……香澄はいつもこうして、入浴中のあたしと会話をしようと脱衣所までやってくる。
同性とは言え決して扉は開けないところに良識を感じるが……少しもどかしくもある。
「香澄ぃ?」
「……香澄ぃぃ??」
とは言え、こうして毎日顔を合わせている上に片方は引きこもり、片方は社畜。特に盛り上がる話題もなく。
山彦のように名前を呼び合って過ごすのだ。
「あ。」
「あたし、お茶作って行ったっけ?」
「昨日寝る前に結構飲んで……朝作っていかなきゃとは思ってたんだけど……」
「お茶で何が育つってのさ。尿意?」
冷蔵庫に二本入っている角型の水筒。いつもそこに、麦茶とほうじ茶を作って置いているのだが……今考えてみれば朝はバタバタしてそれどころではなかったかもしれない。
なんてこった……風呂上がりに飲むあの一杯が美味いってのに。
香澄は基本的に冷蔵庫を開けたりはしないし、飲むのも主にあたしだけだし。……くそう。
「そっかぁ……作ってないかぁ……」
「いいっていいって。」
「いや、そうじゃなくてさ。」
気を遣わせてしまったかと咄嗟に出した返事がまずかった。一生懸命に探りながら発した香澄の言葉を遮る形になり、続く言葉が明らかにトーンダウンしてしまった。
いやしかし、何も香澄の気持ちが嬉しくなかったわけでも余計なお世話だと感じたわけでもない。
「……香澄あんた、一人で外出られないでしょ。」
香澄は一人で玄関の扉を開けられない。勿論物理的な問題は何もなく。
――さて、そろそろいい感じに体が火照ってきた。次に求めるのは内部の癒やしだ。
浴槽の栓を引っこ抜くと同時に立ち上がり、湯に浸かっていた髪の先を軽く絞る。急に立ったせいか少しの立ちくらみをを覚えるが、誰にともなく誤魔化すように浴室の扉を開け――
「よし。髪乾かしたら自販まで散歩しよ。」
まだ暑さの残る時期だというのに肌の露出が殆どない同居人に、一糸纏わぬ姿で提案するのだった。
**
「〇〇ちゃん、いっつもそれだね。」
「まあね。やっぱ風呂上がりと残業明けにはこの炭酸が……ふはぁっ!!……効くんだよ。」
「えへへ、そっかぁ。〇〇ちゃんは格好いいなぁ。」
「あん?」
都心に近いとは言え、このあたりも深夜一時を回ると人通りは無くなる。
元より少ない商店は日のあるうちに閉まるし、娯楽系の施設はまるで遠いし。
十数メートルおきに並ぶ街灯の下を、香澄と寄り添って歩いた。
「香澄こそ、いつもそれだよね。」
「うん。これ一つで、ジュースとゼリー両方味わえちゃうんだよ!お得だよねぇ。」
「ははは、所帯じみてんな。」
「む!……〇〇ちゃんも飲んだらハマるよ!」
「あたしは甘いのは勘弁。」
「むぅ……だって、だってね。ちょっとしか振らなかったら、ゼリーがごろっ!ごろっ!って口の中に入ってきて、いつもよりすこーし多めに振ったら、噛まなくても飲めちゃうくらい小さなゼリーになって……!」
「はいはい、あんたの
「ぜったい、〇〇ちゃんにもオススメなのになぁ……。こんなに、美味しくて、楽しいのになぁ……。」
ちらちらと恨めしそうにこちらを見上げる香澄。
まるで飲まない意味が分からないといったその様子にあたしは、残り少なかった無糖サイダーを飲み干し件のゼリー飲料が入った缶を取り上げるようにして呷った。
……うぇ。軽く一口飲み込んだだけだというのに、この咽返るような甘さは……。
「ぁ……。」
「……うん、やっぱ甘いなこれ。」
「……えへへへ。間接キス……だね??」
「……。」
女同士で何が嬉しいんだか、そんなに顔を綻ばせて。
……ああ、こんなにも甘すぎるなら、お茶も買って来るべきだったかなぁ。
「二人で飲むと美味しいねぇ。」
「……ほら、湯冷めしないうちに帰らないと。」
「えへへ、そうだねぇ。風邪引いたら大変だもんねぇ。」
あたしの人生初のルームメイトは、何とも間のずれた、可愛い女の子なんだ。
<今回の設定>
〇〇:久々の女主人公。社畜。
とある事情から香澄と暮らすようになり、幾分かストレスも和らいだようだ
が……?
どっちもイケるタイプ。
香澄:何だかほわほわした感じの香澄ちゃん。
原作とはだいぶ違って大人しい……どうやら私が書く香澄はこうなり
しい。