BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「…で、歓迎会に何故俺も?」
「なに、不満なの?」
火曜日の夜。俺は例の如く羅須歯科の面々の中にいた。
何でも、六花ちゃんの歓迎会をやるとかで招集がかかったのだ。仕事中に病院から連絡が来たから何事かと思ったが、厭に上機嫌なチュチュの「今日は飲むわよぉ!」の一言により逃げられないことを悟ったのだ。
どうやら前に飲み会を開催した店はお断りされたようで、全室座敷タイプの個室になっている羅須歯科行きつけの店(らしい)での開催だ。これならスペース的にも無茶な騒ぎにはなるまい。…それは必然的に、逃げ場もないことを示しているのだが…。
「不満じゃねえけど…こういうのって身内だけでやるもんじゃないの?」
「ええそうね。…だからアンタも呼んだんじゃないの。」
「話聞いてた?俺、只の一患者じゃん?」
「つべこべ言わないで飲めお前は。」
「あっ、佐藤先生そんな…!」
既にビールが半分ほど入っているジョッキに謎の液体を注がれる。この人、最初何頼んでたっけ…?
「ちょっ何入れたんすか!」
「ひっひっ、いいからいいから、気にしないで飲んじゃえよぉ!」
「いやいや、得体の知れないもんは飲めないですって…」
「○○さん、無理して飲まなくていいですよぉ。何だったらパレオが飲んで」
「アンタは未成年でしょうが。…○○、イッキしなさい。男でしょ。」
アルハラの上にセクハラじゃないか…何ならパワハラもありそう…。
れおなちゃんに飲ませるわけにはいかないので、仕方なくここはチュチュに従っておく。…………なんだこの味、絶対酒だけじゃねえ。
「先生、これ何混ぜたやつっすか。」
「あー?そりゃあれだ、あーし特製ドリームカクテル。」
「どりーむかくてるぅ…?」
「あぁ、安心してください○○さん。マスキング先生は甘党だから、多分ソフトドリンクを混ぜただけだと思いますよ。乾杯はいつもノンアルコールだからこの人。」
「なるほど。…ところで、レイさんは何飲んでるんです?」
苦い顔をする俺に丁寧に教えてくれるレイさん。正直この面々、レイさんが居ないと誰ひとり素性は掴めない。誰も説明すらしようとしないのだから。
この人、本当に必要な人材って感じがして何か格好いいわ。
「ん。……私はこれ、ピーチフィズ。」
「あぁ、可愛らしいの飲んでますね。…お酒は苦手で?」
「んー…飲もうと思ったらイケるけど、花ちゃんの面倒みないといけないから…ね。」
「なるほど。…院長や先生の面倒も見なきゃですもんね。」
「…みんな、私のことお母さんか何かと勘違いしてるんじゃないかな…。」
「はははっ、ほら、レイさんだけまともな大人だから!!」
いいなぁこの人。なんかほんわかする。
割とクール目な外見してるんだけど、お酒の場ということもあって砕けて話せると落ち着くなぁ。病院だとせかせか動き回ってるイメージしかないけど。
「レイ~、みてみて、新しいスイーツ。」
「んー?……あぁもう、食べ物で遊んじゃダメだよ花ちゃん。」
見ればいちごフロートにフライドポテトを刺して一人盛り上がっている花園さん。いちごフロートってのはあれだ、イチゴシロップで作った炭酸飲料にバニラアイスが浮かんでいるもの。メロンフロートになるとチェリーがつくんだよな。
正直見た目としては中々にシュールだが、俺は知っている。生クリームとかソフトクリームとか、クリーム系のものはポテトと合うんだ。俺も昔ウィンナーコーヒにシューストリングを刺して楽しんだもんだ。
レイさんが一本ずつ引き抜き叱っている横で、改めて面々を見回す。
右側の方ではチュチュとれおなちゃんが弄り合っていて、れおなちゃんは相変わらず可愛くて。
…つかあいつ、"様"付けで呼ばせてんのか…引くわ。
こちらも騒がしい大人の方々。視界で言うところの左半分から正面の連中だが、思いがけず佐藤先生の可愛らしい一面を見てしまった。あの人の花嫁姿…ううむ、いつものスカジャン姿からは予想つかないな。いい加減仕事中くらいは白衣とか着てくれねえかな。
あと、花園さんって酔うと脱ぐ癖があるらしい。今日に至ってはジュースしか飲んでいない気もするけど、前の飲み会の時も脱いでたしな。…何とも大人びたぱんt…足が綺麗だった。
「えとあの、グラス空ですけど、お次は何飲みますっ?」
「ん。…そうだなぁ……って、六花ちゃん、隣に座ってたんだね。」
「えぇ!?ずっといたじゃないですかぁ!」
「ちっちゃくて見えなかった…とは言えないなぁ。」
「き、聞こえてますっ!酷いっ!」
歓迎会の主役、新入りの六花ちゃんの姿が見えないと思えば、隣で一人静かにメニューを眺めていたらしい。マジで気付かなかったんだよごめんな。
どのグループにもまだ属していないようだし、ここで仲良くなっておこうか。
「飲み物はいいとして…六花ちゃんはお酒いける方なの?」
「ぁ……わ、私、まだ成人してないんです…。」
「あーなるほど。…そんじゃ、一緒にソフトドリンク開拓していこうか。」
「えっあっ、の、飲まれないんですか??お酒。」
「俺は別に酒好きって訳じゃないからなぁ。…美味しいジュースも好きだよ?」
「そうなんですかっ!…パレオさんも花園さんも、あんまりお話できなかったんで寂しかったんです…。」
「酷い話だよなぁ…君の歓迎会だってのに。…おっ、このマグマドリンクってなんだろう。」
「いえいえそんな……なんでしょうね。真っ赤ですよ。」
身を寄せ合って一つのメニューを二人で眺める。ソフトドリンクも充実されている店のため、色とりどりのメニューを見ているだけでも相当時間を潰せそうだが…
この会が始まって早一時間少々、この子はずっとそうやって一人過ごしていたんだろうか。そう考えると、無性にこの子を放っておけないような気さえしてきた。
上手く自分から入っていけない引っ込み思案な子、こんな雰囲気の職場なら…それも初めての飲み会とあっちゃ、しんどいものもあるだろう。
「…大丈夫だ、ゆっくりやっていけばいいさ、六花ちゃん。」
「……??何のお話です??」
「いや。……頼んでみるか、このクッソ赤いやつ。」
「え"、…お兄さん、チャレンジャーですか??」
「開拓っていったろ??折角飲み放題なんだし、面白そうなものは試してみないとな。」
「ふぁ、なるほど……。それじゃ私は……うむむむ…」
眉間に皺を寄せて上から下へ、左から右へとメニューを読み込む。…そんなに真剣にならんでも、と思ってしまうくらいに一生懸命探しているので、また追い詰めてしまったような気がして。
気付けばぽんぽんと六花ちゃんの頭を撫でていた。
「う、うぇぇ??何事ですかっ?」
「いやぁこれは……その、癖みたいな?」
「お兄さんは女の子の頭を撫で繰り回す癖があるんですか…??」
「ちがうちがう。……あれだ、そんな一生懸命に探さなくてもいいよって。…気、遣ってるだろ?」
「あぅ…………そ、それはまぁ、少し…。」
「いきなり隣に知らないおっさんが座ったらそうもなるよなぁ…。」
「そ、そういうのじゃ、ないんですっ。ただその……○○さんは、この病院にとって特別な方のようだったので、私なんかが隣に座ってていいのかな…って。」
想定していなかった方向の気の遣いようだった。確かに特別な扱いを受けているとは思う。…だがそれは、他に患者のいない廃れた病院だからということであって、俺が特別な存在なわけじゃないと思うんだけども。
さて、このクソマジメちゃんをどう揉みほぐしていったものか。
「…あ、ところでさ。」
「はい?」
「飲み物、決まらないんだったらこのマグマドリンク二人で試さないか?」
「………え、二人同じものは面白みに欠けないですか?」
「試しだからさ。一つだけ頼んで、一口ずつ飲んでみるとかさ。」
「…あー、なるほどですね!美味しかったらもひとつ頼んじゃいましょう!」
「そうそう、それでいこう。」
たまたま近くを通りかかった店員さんに一つだけ注文。とても不安そうな店員の顔が気になったが、取り敢えず無視。ストローを二本セットで頼んでおいた。
「…私、注文とかも、上手にできないんですよ。」
「注文に上手も下手もないだろ。」
「いえ……つっかかっちゃうんです、言葉が。」
「あー…でもほら、今は普通に喋れてるだろ?これと同じ感じでいいんだよ。」
「緊張しちゃうというか、てんぱっちゃうというか…いつも、受付の時もそうなんですけど。」
初めて六花ちゃんに会った時のことを思い出してみる。…なるほど、あの吃り様はチュチュのせいじゃなかったって訳だ。
こればっかりは慣れしかない…と思うのは適当すぎるだろうか。
「他にもその、皆さんと違ってできないことばかりで……実は、もう向いてないかなーとかも考えているんです。」
「…人と話す、仕事?」
「はい…コミュニケーション、というんでしょうか…。どうしても、アガってしまってお話どころじゃなくなっちゃうんです。」
今めっちゃくちゃ喋ってることに気づいていないんだろうか、この子。少し早口気味で話す六花ちゃんだが、こうして吐き出すことで少しでも楽になってくれたら御の字なのだが。
そうこうしているうちに真っ赤なグラスが運ばれてくる。…パチパチ言ってるし底の方もドロッとしたものが渦巻いている。これ、洒落にならないモンスターを召喚してしまったんじゃなかろうか。
「だからその、転職とかも……うわぁ!すっごい赤いぃ!」
「強烈だよな…六花ちゃんからいく?」
「えっ!!……いやぁ、そんな度胸無いですよぉ…」
「…ふむ。……ようしじゃあ俺から行くぜえ。」
これが最高にうまいドリンクで、六花ちゃんに少しでも元気が戻ればとストローを開封する。少し掻き混ぜてみると全体的に粘度が増したような気がする…。
断言しよう、これ絶対ゲテモノの類だ。
「……………。」
「……ど、どうしました?」
「見とけよ六花ちゃん……。んっ……!!!!」
勢いよく吸い上げた結果、ドロドロとした刺激――熱と激痛――が駆け上がってくる。舌と口腔内の灼けるような感触に慌てて飲み込むもまた地獄。
思わずグラスを置き無言で俯き、震える体を抑えた。心配そうに覗き込む六花ちゃんに大丈夫だというジェスチャーをし、グラスをスライドし渡す。最初こそ俺とグラスを見比べていた彼女だったが、やがて意を決したようにストローに口をつけた。
「ぇぃっ…………!?…んむっむぅうう!!!!」
ガアン!と荒々しくグラスを置き、顔を真っ赤にのたうち回る。メガネを放り出し、髪を振り乱し…まるでヘッドバンギングのようだ。
流石に他の面々も放って置けなかったのか、なんだなんだとそれぞれの表情を向けてくる。特にお母さ…レイさんなんかはすぐに介抱に向い、大丈夫かと声をかけれおなちゃんもそれに追従しているようだ。
少し口の刺激が収まり六花ちゃんを観察する余裕が出てきた俺のもとにニヤニヤと意地悪げに笑うチュチュが近づいてくる。
「アンタ、うちのロックになにしてくれてんのよ。」
「あん?…ロック?」
「私が授けてあげた名よ。ウチのスタッフには皆そうしてニックネームをつけるの。」
「ほへぇ…俺にもくれたりする?」
「何言ってんの、アンタはウチの仲間じゃないでしょ?このコードネームはウチの大切な一員であることの証明なんだから。」
「…さっきニックネームって」
「細かいところまでうっさいのよ。」
「なんだ、ちゃんと認めてたんだな。六花ちゃんも仲間だって。」
「当たり前でしょう。ロックはよくやってくれているし、頑張り屋さんよ。できることならいつまでも一緒にいたいと思うわ。」
年の割に大人びた表情を見せるチュチュ。とはいえこの子の本当の年齢を俺は知らない…が、精神的にきちんと成熟した部分もあることは十二分にわかった気がした。
それと同時に、六花ちゃんの居場所がちゃんとあることも。
「てかアンタ、アンタこそ随分仲良くなったじゃない?いつの間にか名前呼びになってるし…。」
「あぁ…何か放っておけなくてさ。上手く打ち解けられていないみたいだし。」
「ふーん…?……お節介焼くのもいいけど、パレオを悲しませたら承知しないわよ?」
「そりゃ勿論、俺だってそんなことするつもりはねえよ。」
「…だといいけど。ま、ロックのことは任せておいてちょうだい。面倒見のいいレイヤは勿論、マスキングだってああ見えて可愛がってるんだから。」
「ほー。……おっ、もう大丈夫そうだな、六花ちゃん。」
レイさんの介抱もあってか、落ち着きを取り戻した六花ちゃん。涙目ながら皆と楽しそうに話しているようだ。
かなりの荒療治だったが、結果オーライってことでいいだろう。
「そうね。……ねえアンタ、少し私にも付き合いなさいよ。」
「飲み?」
「そうよ。まだ全然酔ってないじゃない。」
「そだな。…別にいいけどさ、あんま飲んだら明日に響くぞ?」
「ふふん、大丈夫よ。潰れたら○○に世話してもらうもの。」
「なんだよそれ…」
「私にもお節介焼かせてあげるって言ってんの。…ほら、角ハイ追加よ!飲み比べしましょ!」
「おま…」
あの子はきっと大丈夫だろう。
目の前でこれから潰れようとしているちんちくりんの馬鹿は知らんが。
ロックかわいいです。
<今回の設定更新>
○○:酒は別に好きじゃない。
会社の飲み会等は極力断っているが、このメンツが相手だとどうにも断れない。
ロック:かわいい。
メガネが似合う。一番下っ端でかなり気を遣っている。
ストレスも溜まっていそうだが…?
チュチュ:院長様。パレオには様付で呼ぶよう指示している。
猫耳っぽいヘッドホンを複数所持しており、気分で色や形状を変えている。
パレオ:今回は影が薄い。一番可愛い。最強。
マスキング:かわいいものすき。
きっと六花ちゃんもかわいがってもらえるでしょう。
レイヤ:お母さん。
一緒にいると凄く落ち着く。結婚して欲しい。
おたえ:(´・ω・`)オタエ
(´・ω・`)アツイカラ、ヌイジャウノ