BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/03/18 加速編・複雑なRock

 

 

 

「い、いいんでしょうか…私までご一緒してしまって…。」

 

 

 

最近思うことがある。

 

 

 

「何言ってんの。アンタだってウチの一員なんだから、食事会にだって参加する…当たり前じゃないの。」

 

「あぁもう院長、そんな言い方してたらハラスメント扱いされちゃいますよ?最近世間も敏感なんだから。」

 

「む。…じゃあそういうフォローはこれからレイヤがやりなさい。私より口が上手なんだからぁ。」

 

「ごちゃごちゃうっせぇ。早くグラス持てよ、二人とも。」

 

 

 

…俺に、プライベートなんか無いんじゃないかって。

 

 

 

「○○さん??考え事です??」

 

「え、あ、あぁ、いや、ちょっとね。」

 

「…ぱれおのとなり、嫌だったです??」

 

「う、ううん!そんなことあるわけないじゃないかー!」

 

 

 

どうしてこう、俺を巻き込みたがるんだろうか、この病院は。

勿論嫌な訳じゃない、数少ない通院患者だと言われて、まるで仲間みたいに扱われて、それなりに仲良くやっていけている。

…寧ろ心地よすぎて困ってるんだ。

 

 

 

「それじゃあDrinkは行き渡ったわね。…ロック、KANPAIをかましなさい。」

 

「え、えぇ!?わた、わたしれすか!?」

 

「あぁ?文句あんのか?」

 

「ひぃ!よっぽどハラスメントですよぅ…」

 

「ようしっ!かんぱ」

 

「花ちゃん、まだ早いよ?…って、どうしてもうグラス空なの?」

 

「げぇぷ。」

 

「うっそでしょ…。」

 

 

 

すっかり居場所になってしまったこの騒がしい面々と共に、今日も俺は居酒屋に連れ込まれている。

いやまあいいんだけどね。仕事終わりで、糞みたいな職場から持ち帰ったストレスを浄化してもさらに余りある程の恩恵を受けられるここは、俺にとって最早実家みたいなもんだし。

 

 

 

「そ、そそそ、それじゃあ……か、かんぱいです…っ!!」

 

 

 

グラスの音は始まりを告げる。

 

 

 

**

 

 

 

「――つかよぉ、○○は結局何なんだぁ?」

 

 

 

一時間ほど経ったろうか。車で来ている俺を置いてけぼりに、恐ろしいほどのピッチで飲み進める佐藤先生が後ろから絡みつく様に凭れ掛かって来る。ふわっと香るアルコールの匂いを纏って、耳元に口を寄せてくる姿は傍から見れば情事…に見えなくもないだろうが。

残念ながらそんな淫靡な物ではなくただの拷問であることを俺は知っている。酔った佐藤先生は言動が恐ろしく飛躍する。「お前は何なんだ」…唐突な哲学である。

酔ったこの人が寄ってくるとれおなちゃんも逃げて行ってしまうし、早めに抜け出したところではある。

 

 

 

「なんつー質問してんすか。不躾に。」

 

「いやぁ、お前さ。ウチのスタッフ次々に堕としてるだろぉ?…こりゃ、あーしもウカウカしてられないと思って…」

 

「何なんすかその人聞き悪い言い方。」

 

 

 

それじゃあまるで俺がタラシ回っているみたいじゃないか。そして申し訳ないが佐藤先生にはこれっぽっちも興味はない。

 

 

 

「……でもさぁ、マジでお前、そのうち刺されると思うぞ?」

 

「いやいや、そんな恨まれるような事」

 

「無駄よマスキング。」

 

「んぁ…?」

 

 

 

以前の様な洒落た格好ではなく、クソダサいTシャツに子供の様なひらっひらのスカートと、何かを間違えてしまったかのようなある種背徳的な服装のチュチュ院長が現れた。

何故か頭のテンコツの辺りで搔き上げた前髪をピン止めし、デコッパチを強調するような髪型と…今日は随分はっちゃけている彼女だが、フォローでもしてくれるというのだろうか。

 

 

 

「悪い大人、だものソイツ。」

 

「はぁ?」

 

「………っあー、なるほど。…そりゃパレオも酷いもんに引っ掛かったってワケだ…。」

 

 

 

意味が分からない。悪い?善良な市民の間違いだろう?

 

 

 

「あの、ちゆちゃん?」

 

「…ま、また名前で呼ぶし…」

 

「だってよぉ、チュチュって発音しにくいんだもの。あと同名ですっごい好きなキャラが居るせいでややこしい。」

 

「むぅ……。」

 

 

 

それはそれは可愛らしい二次元のキャラクターを頭に思い浮かべながら、口を尖らせる院長を眺める。後ろに組みついている佐藤先生も唸っているし、俺そんなに悪い人間なのかな。

 

 

 

「うーむ……お前が弄ばれるってのも珍しいよなぁ、チュチュよ。」

 

「…全く以て心外だわ。」

 

「弄んでなんかいねえわ。」

 

「ま、そういうところも変に大人なんでしょ。」

 

 

 

腑に落ちないがまあいい。食事の席だし、無駄に重苦しい空気を作るのも何だ。

話題を変えようと、まるで突っ込み待ちにも見える院長の服装について突いてみることにする。

 

 

 

「ちゆちゃん、今日は一体どうしちゃったわけ。」

 

「何がよ。」

 

「服。…そのシャツは何のプリント?」

 

「あぁ、それあーしも訊こうとしてたんだ。」

 

「これ?………ジャーキーよ。」

 

 

 

……なんだって?

 

 

 

「じゃーきー…ってのは、あのジャーキー?」

 

「犬のおやつだろ?」

 

「何よ、文句あんの?」

 

 

 

無い胸を張り、その珍妙なデザインを見せつけてくるちびっ子。クリーム色のシャツに、木目が綺麗なテーブル、青いラインが一本走った白い丸皿、そこに盛り付けられたスティック状のジャーキーが無数に散りばめられている。

製品としてGOサインを出す方も馬鹿げているが、それを堂々と公衆の面前で着ようとする度胸も大したもんだ。

 

 

 

「………。」

 

「文句はないけど…それにそのスカートは何なんだ。お前、小学生だったのかぁ?」

 

「誰が小学生よ。」

 

「「ん。」」

 

 

 

二人分の人差し指を向けられ小さく溜息を吐く。

 

 

 

「はふぅ……服が無かったのよ。」

 

「…いやいや。」

 

「いい?○○。…病院って忙しいのよ。それで、夜遅くに帰ったら洗濯とかも面倒じゃない?だから服が足りなくなっちゃって…おまけに休日は寝なきゃいけないし。」

 

 

 

あの病院でなにをそんなに忙しくこなすというのか。暇すぎて予約名簿に落書きしてるような奴が、服が足りなくなるまで洗濯をさぼるんじゃないよ。

まったく、本当に子供なんじゃないだろうなこのちびっ子は。

 

 

 

「…それならそうと言ってくれれば洗濯くらいしに行くのに。」

 

「うぇっ!?」

 

「…いやそんな驚かんでも。」

 

「だ、だだあだだだだ、だって、そんな、駄目じゃない!?ダメ、なんじゃ、ないの!?あーん!!」

 

 

 

テンパり様が尋常じゃない。どうしたどうした。

一先ず落ち着くのを待とうと、両手をばたつかせているちゆちゃんから目を切り手元のグラスを呷る。たまに無性に飲みたくなる炭酸飲料…今は爽やかな水色が素敵なラムネを飲んでいる。うーん思い出されるは少年時代…。

 

 

 

「…お前、やっぱすげぇわ。」

 

「何すか佐藤先生。もう虫歯治ったからいいでしょ、サイダーくらい。」

 

「そうじゃな……ああいや、そういうとこだよ。」

 

「??」

 

「………○○って、たまに突拍子もない事言いだすわね。」

 

「どこでそう思ったん。」

 

「洗濯って……しっ、しし、下着…とかもあるのよ?させるわけないじゃないの…ばかぁ。」

 

 

 

それだけあんなにテンパるかね。…それに、

 

 

 

「下着くらい、今更だろ。」

 

「何だって!?」

 

「……まあ、確かにそうかもしれないけど。」

 

「チュチュ!?」

 

 

 

勿論本気で洗濯を代わってやろうなどと思っちゃいない。その場の、話の流れ…的な?

別にちびっ子の下着なんぞに興味はないが、変な服を着て外に出られる大人には興味もあるし。ただそれだけの話だ。

 

 

 

「え、え、なに、こわい、お前等付き合ってんの?」

 

 

 

困惑の佐藤先生。いつも嬉々としてドリルを振り回しているだけあって、こういう表情は本当に新鮮で面白い。

酔いもあるんだろうけど、リアクションも大きい気がするし。

 

 

 

「ばっ、そんなっ」

 

「はっははっ、まさか、そんなわけないでしょ!」

 

「ッ…!……………。」

 

「先生、いくら酔ってるっていってもボケが雑ゥ!」

 

「…………。」

 

「…チュチュ。」

 

「ええ、まあ、こういうヤツなのよ。」

 

「想像以上に酷ぇや。」

 

 

 

どうしたら俺とちゆちゃんが付き合う流れになるって言うんだ。いいとこ友達止まりだろうし、互いに気心の知れた知り合いってところだろう。

佐藤先生もそんな突飛な発想になる程困惑しなくてもなぁ。

何だか妙にしゅんとしたちゆちゃんが少し離れた先の自席に着くと、微妙な表情の佐藤先生も付いて行ってくれた。漸く解放された俺の背中はじっとりと汗ばんでいて、佐藤先生の体温の高さを改めて実感できた。

 

 

 

「…やっと離れたです。」

 

「お……れおなちゃん。いっぱい食べてるかい?」

 

「はい。……○○さんは、チュチュ様と仲良しですか??」

 

 

 

二人が離れたのを確認して、戻って来るれおなちゃん。ピトッと隣にくっついて、腕を絡ませたところで漸く定位置である。

こちらを見上げる表情はどことなく不安げにも見えて…。

 

 

 

「…仲良し…じゃない方がいい?」

 

「そ、そんな、そんなことはないです……けど…。」

 

「…けど?」

 

「この前、ぱれおと同じデートコースをチュチュさまも辿ったと聞いたです。」

 

「…あー……。」

 

 

 

筒抜けなのは両方ともなのか。()()()とは言うものの、その回数も一度や二度ではなく。ちゆちゃんは、れおなちゃんからデートの報告を受けるや否やすぐにリプレイを所望するのだ。

嫌がらせ目的なのかもと不仲の可能性を疑いもしたが、最近はもう"そういう性癖"なのだと割り切る様にしている。俺にとってみれば役得なのもあり、だいぶ気楽に考えてはいたのだが…。

 

 

 

「…もう、ぱれおは要らなくなっちゃったですか。チュチュさまの方が良きです?」

 

「んな訳あるかい。…どっちの方がいいとか、必要とか不要とか、人間関係ってのはそういうもんじゃない。」

 

「………。」

 

「いいかいれおなちゃん。俺にとって、れおなちゃんは最高に大事な女の子で、ちゆちゃ…院長も、最高な友人さ。」

 

 

 

どちらも欠けていい存在じゃない。今の俺にとって、ここまで形成してきた人間関係という確かな絆は、簡単には手放せない程大事な物なんだ。

その想いを、正面かられおなちゃんの目を見詰め伝える。その言葉にれおなちゃんは、「ぱれお…だいじ…チュチュさま…ゆうじん…」と言葉を転がすように小さく呟き、やがてにっこり笑った。

 

 

 

「えへへへっ。ぱれおも、○○さんが大事ですっ。さいこーに大事です!」

 

「おぉ、有難い言葉だねぇ。」

 

「…えっと、○○さんは、ずっと傍にいてくれるです?ぱれおの。」

 

「ん?…あぁ、勿論。ずーっと傍で、ずっと大事にし続けるよー。」

 

「ほんと?ほんとにほんとです?」

 

「うんうん、ほんとにほんとさー。」

 

 

 

ひしっとしがみ付く力が増し、一生懸命に訊きなおしてくる姿がまた可愛くて、つい頬が緩んでしまう。

きっと今の俺は気色悪い位にデレデレしていると思うが…この際仕方ないだろう。どんなにキモイと言われようが、この幸せで打ち消し――

 

 

 

「うっわぁ見てレイー。○○さんすっごいキショい顔してるぅ。」

 

「だ、だめだよ花ちゃん、人様にそんな事言っちゃ…」

 

 

 

――前言撤回。胸にクるわ、これ。

 

 

 

「……ま、まぁ安心してくれていいよ。俺はずっとれおなちゃんと一緒に居る。」

 

「……えへへぇ。いまの、なんだか"ぷろぽぉず"みたいでしたぁ。ぱれおは赤くなってしまいます…!」

 

 

 

プロポーズ、か。()()()()()()()()()だろうけど、確かにその表現がしっくりくる言葉だったかもしれない。…まぁ、れおなちゃんも嬉しそうだしいいか。

 

 

 

「…なあチュチュ。」

 

「あによ。」

 

「涙拭けよ。」

 

「はぁ?何言ってんの。あいつはそーゆー奴なんだって。」

 

「…や、お前がいいならいいけどよ…」

 

「良く…は、ないけど、それも魅力の一つだと思うのよ。」

 

「……お前等みんな気持ち悪ぃ。」

 

「でしょうね。」

 

 

 

どうやらあの二人は何としてでも俺を悪人に仕立て上げたいらしい。今度そこについても問い詰めなければ…と。

 

 

 

**

 

 

 

久々の酒を伴わない居酒屋飯を終え、割かし悪くない気分で自宅へ戻ってきた俺。

勿論未成年組は家まで送り届けて来たし、支払いも俺持ちだ。紳士だろう?

 

 

ヴーヴヴッ

 

 

「ん。」

 

 

 

ポケットに感じた振動に愛機の画面を開いてみれば。

 

 

 

『おつかれさまです!』

 

 

 

先日眼鏡を新調したばかりだという六花ちゃんからのメッセージだった。

俺もまだ眠くないし、明日の準備をしながらメッセージを交わすことにした。

 

 

 

『おっつー』

 

 

『送って頂きありがとうございました!』

『今はもうご自宅ですか?』

 

 

『今帰ってきたとこ』

『何かあった?』

 

 

『特に用って程では無いんですが』

 

 

『んー』

 

 

『パレオさんと院長先生』

『どちらとお付き合いされてるんですか?』

『あ!言い難い事だったらすみません!』

『気になっちゃったもので…』

 

 

 

「…ふむ。」

 

 

 

どちらかと…或いは療法と付き合っているように見えたんだろうか。思い返してみれば今日はあまり六花ちゃんとも話せてなかったし、距離の近いあの二人を遠巻きに見るとそんな感じなのかもしれないな。

…あれ、もう一人やたら距離の近い先生が居たような…

 

 

 

『全然いいよ』

『どっちとも特に付き合ってはいないかなー』

 

 

 

すぐに既読。しかし返信が来ない。

しまった、言い方が雑過ぎただろうか。あまり仲も良くない相手に「ハイお前不正解!」と言われたら嫌な気持にもなるだろう。

…と心配している間に、ちゃんと返信は来た。

 

 

 

『そうだったんですね』

『すみません、勘違いでした』

 

 

 

考え過ぎだったか。

 

 

 

『ところで』

『今度お暇な時にでもお出かけしませんか!』

『二人で!』

 

 

 

「…まじかぁ。」

 

 

 

どうやら、この歳にして来てしまったらしい。

「モテ期」というビッグウェーブが…!

 

 

 

『いいねー』

『楽しみにしてるよー』

 

 

 

まぁ、誰かと深い関係になろうとは更々思っちゃいないだがね。

 

 

 




僕こういう男嫌い。




<今回の設定更新>

○○:みんなと仲良く、楽しく過ごせるならそれでいい。
   スキンシップに抵抗がなく、相手が誰であろうと遊べるタイプ。
   最近割かし甘党。

パレオ:かわいい。主人公に捨てられないか不安で仕方がないらしい。

チュチュ:かわいい。子供服も似合うと思う。
     主人公の良くない面も察しつつ魅力だと言い切る懐の深さ。
     よっ、流石院長!

ロック:ユクゾ…ッ

マスキング:思ったよりまとも

レイヤ:おかあさん

ガヤ:花園たえ

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