BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

34 / 278
2019/11/06 Unschuldig und unwissend

 

 

 

「ほうら友希那、好き嫌いはダメだぞー。」

 

「チッ…調子に乗りくさって…」

 

「何か言ったか??」

 

「!!…う、ううん??私、苦いのはダメなのぉ、お兄ちゃん。」

 

 

 

夕食時。食卓でにこにこと団欒を演じている俺たち家族。平皿に盛られた野菜炒めから挽肉以外全ての野菜を端に避けている友希那にすかさず一発かましてやったんだが…。

慌てて取り繕った妹に酷く睨みつけられてしまった。

 

 

 

「そっかーしょうがないなぁ。…じゃぁ、お兄ちゃんが食べさせてあげるからなー?」

 

「いっ、いいよぉ別に。自分で…そう、後で食べるから…。」

 

「そんな悲しいこと言うなよ~。兄妹のふれあいだろ~?」

 

 

 

一向に食べようとせず、チマチマと選別作業を続けている妹に、まとめて掴み上げた色とりどりの野菜を差し出してやる。

兄直々に「あーん」をしてやろうというんだ、ありがたく口を開け…

 

 

 

「………こ、殺すわよ、お兄ちゃん。」

 

「…漏れてる、漏れてるぞ友希那…。」

 

 

 

どうやら憎しみのあまり素が隠しきれなかったようだ。

 

 

 

「あんたたち、仲良いのはいいけどご飯はちゃんと食べちゃいなさいね。」

 

「は、はーい…ママ。」

 

 

 

そう言えば、友希那はウチのお袋のことを"ママ"と呼ぶなあ。父親のこともパパと呼んでいるようだが…。本当の母親のことは"母さん"と呼んでいたらしいが、何か友希那なりに線引きがあるんだろうか。

 

 

 

「……ごちそーさん。」

 

「ん。食器はちゃんと水に浸けておきなさいよ。」

 

「わーってるよ。……うっし、じゃあお先だー友希那。」

 

「…ん。」

 

 

 

最近分かったことだが。

俺の妹は食うのが遅い。

 

 

 

**

 

 

 

ガチャリ、と部屋の扉が開けられる。

 

 

 

「…おう、遅かったな。」

 

「…………。」

 

「…なーにをそんな膨れたツラしてんだ。」

 

 

 

無言のままスタスタと部屋に踏み入ってくる妹。何が気に入らないのか、その小さな顔はフグのようだ。

そのままベッドに腰掛ける俺の前に立ち、相変わらず表情の読み取れない黄土の瞳で見下ろしてくる。

 

 

 

「……お兄ちゃん、馬鹿なの。」

 

「おいおい随分な言い草だな。」

 

「欠点の一つや二つ、可愛いものでしょうに…。」

 

 

 

一つや二つって、お前野菜全般食えねえじゃねえか。

 

 

 

「一つや二つで済むのか?」

 

「いいのよ。……野菜の食えない女、ミステリアスだわ。」

 

「ガキなだけと違うんか。」

 

「ああ言えばこう言う…。」

 

 

 

お互い様だなそりゃ。

 

 

 

「…で?いつまで兄ちゃんに影を作る気なんだ?…兄ちゃん光合成できないと死んじゃうんだけど。」

 

「蛍光灯の灯りに何を言うのよ馬鹿。」

 

「…選ばれしボディなんだ。」

 

「……今朝は「陽の光を浴びると灰になる」って言ってたじゃない。」

 

「…ああそうさ、俺は選ばれしヴァンパイア…選ばれシンパイア!!」

 

「うるっさ…。」

 

 

 

心底面倒臭そうな顔をされた。そりゃ至近距離で唾を浴びせられりゃそうもなるか。

 

 

 

「……何だ、今日は特に冷たいな。」

 

「お兄ちゃんが私に変なものを食べさせようとするからでしょう。」

 

「ピーマンと人参と…ありゃもやしだったか?…変なものじゃないだろうに。」

 

「あんな物は全部敵よ。…人類の…敵だわ…!」

 

「苦いってだけでそこまで言うことないだろう。栄養たっぷりだぞ?」

 

「アレを食べないと摂れない栄養なら、それを必要としないくらいの進化をしてみせるわ。」

 

 

 

ものごっつ真剣な顔して言ってますがね。…こいつならやりかねんから恐ろしい。

このままだと本気で野菜相手の戦争を始めかねないので、突っ立ったままブツブツと呪詛を零す妹君をベッドに座らせる。

 

 

 

「馬鹿なこと言ってないで座れ。…まぁ好き嫌いなんざ、追々克服すりゃいいんだ。」

 

「…そう。……それで、あの。」

 

「なんだ。」

 

「…今日はその…一緒に寝てくれないの。」

 

「…あのなぁ。まずいだろ色々。」

 

 

 

何の準備もせず、急に始まった再婚生活のせいで家具や生活用品は色々と不足していた。…元々広くもないただの民家だ。何なら部屋の数だって足りちゃいない。

今、兄妹ふたりの部屋として俺の部屋を使っているんだが何せ寝具も一つしかないんだ。

 

 

 

「おに…あなたをずっと床に寝かせておくのは何だか申し訳なくて…。」

 

「いーんだいーんだ、気にするこたぁないさ。…俺は男で兄貴、お前は女の子で妹な?ならベッドで眠るのがどっちか、考えるまでもないだろ。」

 

「だから、一緒に眠ったらいいじゃないの。」

 

「兄妹っつっても結局は他人だぞ?間違いが起きちゃ困るだろ。」

 

「間違い?……枕に、足のせちゃうとか?」

 

 

 

途轍もなく純粋無垢な顔をして質問してくる。…そうだった。こいつは下ネタの一つも通用しない。

恐らくその類の知識が欠片もないんだろう。弄るつもりの下ネタじゃなくて、大切な貞操観念のお話すら通じない点は困ったところだな。今時小学生でももっと知ってるぞ…。

 

 

 

「ええと……ほら、男の子と女の子が一緒の布団で寝ると、な?」

 

「…暖かくていいじゃない。」

 

「……んー……。」

 

「お兄ちゃんは暑がりさんなの?」

 

「ううむ……。」

 

 

 

どうやら、こいつにはまず男女の体の違いから…

 

 

 

「やっぱり私…迷惑だったのかしら。…協力しろだなんて…嫌われて当然よね…。」

 

「ああいや……わかった。今日だけ一緒に寝てみよか?」

 

「……ふふ、今日は寂しくて目覚めることもなさそうだわ。」

 

 

 

教えられるわけ、ないよなぁ…。

 

 

 

 




かわいい妹。




<今回の設定更新>

○○:意外と紳士的かもしれない。
   友希那が来てから、毎日床で適当に寝ている。
   好き嫌いはない。

友希那:部屋に誰が一緒にいようと大して気にならない。
    枕が替わると眠れない体質らしく、未だに寝不足が続いている。
    殆どの野菜が食べられない。トマトは好き。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。