BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/19 Fratello e sorella solitari

 

 

 

「お兄ちゃんって、学校ではどんな人間なのかしら。」

 

「どうもこうも、普通だよ。今見てる俺そのものだ。」

 

「…でも、私が見てるのって"私のお兄ちゃんになった以降の"お兄ちゃんでしょ。…言うなれば、素の状態のお兄ちゃんを知らない訳なのよ。」

 

「"お兄ちゃん"がゲシュタルト崩壊しそうだ…。…そうだなぁ…学校での俺か…。」

 

 

 

夕食時、相変わらずおかずから野菜だけを弾き出していた友希那を咎め、両親が去った食卓で「完食するまで部屋に行けま10(テン)」を敢行していた俺達。一つ口に運ぶ度にしょうもない雑談で空気を濁そうとする友希那に付き合ってやるのがすっかり習慣となってしまったが、訊かれた事にはちゃんと答えてやるのが俺の描く兄貴像だ。

話しながらでもちゃんと食べるように釘を刺し、日中の…学校生活を送る俺の話でもしてやることにした。

 

 

 

***

 

 

 

「よう誠司。」

 

「……ん、武者小路か。何だよ。」

 

「今はもう湊だっつったろ。」

 

「………あぁ、再婚だっけか。随分さっぱりした苗字になったな。」

 

「格好良さは無くなったがな。」

 

「まあいいだろうさ。…俺は湊って苗字、良いと思うぞ。」

 

「…マジ?…誠司の苗字、高宮も中々に格好いいよな。」

 

「そうかよ。普通の苗字だろ。」

 

「いやいや、なんつーかこう…シュッ!としてていいじゃんか。お前らしくて。」

 

「お前、独特な感性してるよな。」

 

「はっは、褒めんな褒めんな。」

 

「褒めてねえよ馬鹿。」

 

「あぁ?馬鹿とか言ってんじゃねえよ馬鹿。」

 

「…………で?」

 

「で?とは?」

 

「武者小路、お前さっきの休み時間も俺のとこ来てたけど、ボッチなのか?」

 

「だからよ、今は湊なんだっての。」

 

「ああもう…ややこしいな…」

 

「おいおい、イケメンの癖にそういうトコお茶目かよ。」

 

「イケメンじゃねえし…。」

 

 

「あの二人、休み時間の度に一緒に居るわよね。」

 

「えっ、もしかして付き合ってるんじゃ…」

 

「何それ捗るんだけど…!!」

 

 

「………。」

 

「…………。」

 

 

 

**

 

 

 

「よっす。」

 

「お?…おー!!……ええっと…」

 

大樹(ひろき)だ!いい加減覚えろや!」

 

「そうだったそうだった。…隣のクラスから態々なんだよ。」

 

「…ええと…ジャージ貸してくれ。」

 

「はぁ?また忘れたんか。」

 

「洗濯忘れてな。…つか、さらっと常習みたいに言ってんじゃねえよ。初めてだわボケが。」

 

「口悪ぃな大樹…。で、何で俺なんだよ。」

 

「あぁ、クラスの奴に訊いたら「湊なら背格好似てるし…」って言ってたからよ。」

 

「…まぁ、モデルにしてる人間が同じだから仕方ないよな。」

 

「湊、そういうことは言っちゃいけねえ。」

 

「…貸すのは別にいいけど、汚すんじゃねえぞ?」

 

「汚さねえよ。」

 

「俺と似てるところあるから心配でよ…。」

 

「お前は人から借りたジャージを汚して返すのか?」

 

「うん。…なんつーか、自分で洗わなくていいって思うと無性に汚したくなるっつーか。」

 

「屑か。」

 

「でも、何となくその気持ちわかるだろ?」

 

「…まぁ、モデルにしてる人間が同じだと仕方ないじゃんよ。」

 

「大樹、言ってる言ってるお前も。」

 

 

「あの二人、別のクラスになってもよく一緒に居るわよねぇ。」

 

「後ろ姿とか雰囲気も似てるし、兄弟とかなんじゃない?」

 

「…兄弟っていうより、カップルっぽさも出てるけど。」

 

「いつも常盤(ときわ)くんの方から来るもんねぇ!」

 

「既に…ラブラブ…ってこと…!?」

 

「やだぁ~それもアリ寄りのアリだよねぇ~!!」

 

 

「…。」

 

「…………。」

 

 

 

**

 

 

 

「おいコラ小笠原。」

 

「あでっ。…武者小路っす先生。」

 

「湊だろ馬鹿。」

 

「わかってんなら間違えないでくださいよ。」

 

「…まあいい。湊てめぇ、昨日面談やるっつったろ。」

 

「そうでしたっけ。」

 

「そうだよ。二者面談、終わってないのてめぇだけだからな。」

 

「だって、個室にオッサンと二人きりって何か嫌じゃないすか。」

 

「まだそんな歳じゃねえだろてめぇ。」

 

「アンタだ、アンタ。」

 

「あぁ?…まぁ冗談は置いといてだ。最近やけに急いで帰るが、放課後何かしてんのか?」

 

「まぁ、妹の面倒見なきゃなんで、ダッシュなんすわ。」

 

「………やっぱ、二者面談、早めにしないと。」

 

「何なんすかそんな憐れむような眼で…」

 

「いいか湊。お前が一人っ子で寂しいのは分かったが、居もしない妹の幻影を見るようになっちゃあお終いだ。」

 

「…いやいや。」

 

「悪いことは言わねえ。…早いとこ病院に」

 

「できたんすよ、妹。」

 

「………まさかぁ…」

 

「丁度苗字が変わった時にね…ほら写真」

 

「………え、これマジ?…本気で言ってんの?」

 

「ええ、友希那って言うんす。」

 

「…………くっ、こ、これで勝ったと思うなよな?」

 

「めっちゃ表情豊かじゃないすか。」

 

「うるせぇ!絶対お前と二者面談してやるからなぁ!体洗って待っとけ!!」

 

「首だろ…大まかに指定してんじゃねえぞ…。」

 

 

「○○くんって教師もイケるクチなのかしら。」

 

「きっとそうよ…!魔性の男ね。」

 

「先生も満更でもなさそうだし…」

 

「教師と教え子…禁断の…!!」

 

「ちょっとぉまだ昼間よぉ!!」

 

「勝手にディープな想像してるのアンタでしょぉ!!」

 

 

「……。」

 

 

 

***

 

 

 

「…あれ。俺って客観的に見るとこんななの…?」

 

「…お兄ちゃんは、男の子が好き?」

 

「んなわけあるか!」

 

「じゃあ女好き?」

 

「言い方ぁ!」

 

 

 

相変わらず無表情で淡々ととんでもないこと言いやがる。ホモor女好きって究極の二択辞めろ。俺は丁度いいところが好きなんだ。

…普通で良いだろ、普通で。

 

 

 

「ホモホモしい人っていうのよね。」

 

「妹よ、どこでそんな言葉を…」

 

日菜(ひな)から聞いたわ。」

 

 

 

はて。ひな、ひな……うん、少なくとも俺の知り合いの中にはそんな名前は無い。恐らく友希那独自で構築している人間関係のうちの一人だろう。

少なくともあまりまともな方向に進んでいる人間じゃない事は、その授けられた単語から察せられる。

 

 

 

「…その日菜って子は、意味も教えてくれたかね?」

 

「ふふん。流石の私もそれくらいわかるわよ。」

 

「…ほう?」

 

 

 

大して無い胸を張り、自慢げに目を瞑る。…多分分かっちゃいないんだろうけど一応説明を促す。

 

 

 

「教えてもらおうか。」

 

「……要するに、男の人同士で繁殖できた頃の原始人って事でしょう?」

 

「」

 

 

 

想像以上だった。まず、"男の人同士で繁殖出来た頃"…そんな頃あってたまるか。わしゃアメーバか。

そして原始人って…おそらくホモと聞いてサピエンス的な方面に思考が飛んで行ったんだろうけど、ありゃ原始人の名前じゃなくて割と広い範囲の人類を指すんだぞ妹よ。…何なら君もそうや。

…今日まで友希那と暮らしてきて、変わったところはあるがバカではないと思っていただけに少し衝撃が強すぎた。…日菜とやら、あまりウチの妹をおかしい道へ引っ張って行かないでくれ。ネタ要因はいらんのじゃ。

 

 

 

「あのなあ友希那。」

 

「……ん。せいかい??」

 

「いや、そもそもそういう思考自体が…いや。」

 

 

 

違うな、俺が言いたいのはそんなことじゃなくて…。

 

 

 

「お前のお兄ちゃんは、女の子が程々に好きな男の子だ。……ただモテなくて、男とばかり一緒に居るっていう…それだけの。」

 

「……………ふっ。」

 

「…おい何で鼻で笑った。」

 

「別に。何でも無いわ。」

 

「何でもないってことはねえだろ?」

 

「……ただ、私と似てるなって、思っただけよ。」

 

 

 

俺と友希那が似てる…いやまて、ということはだぞ。

学校であまりモテない友希那は女の子達と百合百合した学校生活を送っている…と…?

 

 

 

「おい友希那、それって……そんなに素敵な学校生活を送っているって言う事かい。」

 

「…お兄ちゃんは、自分の学校生活が素敵なものだと思ってるの?」

 

「うーん……別段そうは思わないかな。」

 

「つまり、そういうことよ。」

 

 

 

なるほど、わからん。

だが、どうやら俺達兄妹は二人揃って異性に縁が無いらしい。…一生魅力的な異性とは巡り合う事すらできないのだろうか。

交際まではいかなくとも、せめて知り合ってお喋りして、遊べるくらいの関係にはなりたいものだ。

 

 

 

「…でも、最悪お兄ちゃんと結婚するからいいわ。」

 

「冗談はほどほどにしなさい。」

 

「あら、割かし本気だったのだけれど。」

 

「…兄妹で結婚は出来ません。」

 

「……つまらないわね。」

 

「そうだね。…ほれ、話も長引いちゃったし、そろそろ寝ないと明日に響くぞ。」

 

「…ええ。…今日は私が手前で寝たいから、お兄ちゃんが先にお布団入って。」

 

「そのポジションの拘り何なん。」

 

「いいから。」

 

 

 

 




オチなし




<今回の設定更新>

○○:男にモテるタイプ。
   女性陣は烏滸がましいとかいう謎の理由で近寄ることさえない。
   素敵な芸術品は、触れられないからこそ美しくあり続けるのだ。

友希那:色んな女生徒から可愛がられ世話を焼かれる。
    数少ない男性の知り合いは恐れを成して近寄ってこない。
    渾名は"よちよち歩きの劇薬"。

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