BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/30 Kraftvoll blühende Blumen

 

 

 

「違うわよ。もっとこう…熱く燃え盛るように。」

 

「そう言われてもな。感覚的によりこう…「腹筋を」とか「喉を」とかそういう技術面の方がしっくりくるんだけどなぁ。」

 

「お兄ちゃんはそれ以前の問題だもの。感覚の方がよっぽど伝わりやすいと思うけど。」

 

 

 

妹に歌を教わる兄貴の図である。

色々あって歌を一曲歌い上げ収録しなければいけなくなった俺だが、こと歌に関してはとんと無縁なのだ。カラオケにはたまに行くが、一曲作品として仕上げる…となると、なかなかに難しい。

それに輪をかけて大変なのが俺の余計な凝り性で。「作品」「発表」という言葉が絡むとどうも完璧を求めてしまう。

そんな中、友希那が歌についてはプロフェッショナル級の実力を持つと親父から聞いて…現在に至るというわけだ。

 

 

 

「あのね、Roselia(ロゼリア)って、もっとこう情熱を孕んだバンドなのね。今のお兄ちゃんみたいにふわふわなよなよじゃ絶対歌いきるのなんか無理だと思うの。」

 

「そう言われてもなぁ…。」

 

「…今からその曲って変えられないのかしら?」

 

「無理だな。担当は決まっちまった。」

 

「そう……なら、もっと覚悟を決めて打ち込んでもらわないと。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

 

 

普段おっとりまったりな友希那がこうも目を輝かせて活き活きとしている…新たな一面ではあるが、どうやらこの妹は歌や音楽に対して並々ならない何かを持っているようだ。

因みにRoseliaというのは俺が歌わなければいけない楽曲を作り奏でるバンドだ。これも知らなかったが友希那が教えてくれ、色々調べることでぼんやりだが概要を掴めた存在である。

 

 

 

「じゃあもういっかい歌ってみるよ…。」

 

「ええ、かけるわね。」

 

 

 

流れ出すピアノの音色。割かしアップテンポでありながらしっかり聴かせるフレーズに重厚感のあるそれぞれの楽器が重なり、威圧感とも言える程の波が耳を通して心に届き…

 

 

 

「「私を動かすのは…この居場所…少しずつ…明ける空に…」…いや、なんか違うな。」

 

「ストップ。……一度休憩にしましょ。」

 

「うむ…。」

 

 

 

どうもしっくりこない。やはり俺には歌なんて…

 

 

 

「顔が死んでいるわよ、お兄ちゃん。」

 

「うーん……やっぱ俺には無理かもなぁ、これ。」

 

「無理って言ってもやるしかないでしょう。担当になっちゃったんだから。」

 

「でもほら、こういう表現系のものって気分で出来が左右されるっつーか」

 

「そんな大層なミュージシャンでもないでしょう?まずは兎に角歌いこむしかないわ。」

 

「回数こなしたってなぁ…」

 

「グチグチうるさいお兄ちゃんね。……ところで、歌詞の意味、わかってる?」

 

「意味?……あいや、そういやちゃんと読んだことなかったな。」

 

 

 

確かに歌を理解する、其の物の生い立ちを意識することでも友希那の言う感覚的な没入による歌い込みができるかもしれない。やれやれといった表情の友希那から意識をそらすようにスマホで歌詞を調べる。

…ふむ。静かながらも力強い言葉の羅列…歌詞をざっと読んだだけじゃ意味まではよくわからないが…というか難しい表現もあってイマイチ解読が捗らない。

 

 

 

「この歌はね…」

 

「ん。」

 

「…Roseliaのキーボード担当の白金(しろかね)燐子(りんこ)の成長の歌なの。」

 

「成長…?」

 

 

 

そうだった。バンドの存在すら知らなかった俺が一から調べるより詳しい友希那に聞けばいいじゃないか。

 

 

 

「ええ。彼女、途轍もないピアノの実力者なのよ。それに目をつけられてRoseliaに引き入れられたのだけれど…彼女は恐ろしい程に内気でね。」

 

「内気。」

 

「そう。バンド内での打ち合わせでもじっと黙って話を聞いているタイプなのよ。感情を表に出さないというか。」

 

「ふむふむ。」

 

「内気な上に臆病で、引っ込み思案で。恥ずかしがり屋にコミュ障も足そうかしら。」

 

 

 

ボロクソじゃないか。

 

 

 

「そんな燐子だったけれど、ある日ピアノコンクールに出場するって言い出してね。」

 

「なるほど、腕前を試すってことね。」

 

「真意はわからないけれど、どうやら昔色々あったコンクールらしくって。…その挑戦する気持ち自体珍しいことなのだけれど。」

 

「勇気いるだろうね。」

 

「ええ。…ただ、コンクールの課題曲が彼女のトラウマになっているような曲で。」

 

 

 

…あぁ、それは辛い話だな。折角前向きに進んでいく決心をしたのにその心を折るような仕打ちだ。人生における壁というやつだろうか。

それでまたビビっちゃうとかそんな感じだろうか。

 

 

 

「結論から言うと、燐子は以前にも増して落ちていった。音楽と向き合う姿勢も、気持ちも、自信も…何もかもが折れてしまっていたの。」

 

 

 

やっぱり。

 

 

 

「…でもね。Roseliaってバンドはそんな彼女を見捨てるはずもなくて。気分転換に誘ったり相談に乗ったりして何とか燐子を立ち直らせようとしたのね。」

 

「優しいんだな。」

 

「まぁまだ若い女の子達だもの、友達が落ち込んでいたら心配でしょう。ただ、それだけよ。」

 

 

 

そういえばさっき調べたらまだ高校生らしいということが載ってたっけ。俺とそんなに変わらない世代の子達がこれ程に悩み考え、支えあって音楽を…そう考えると、歌詞に込められた意味や想いも親身に受け取りやすい気がしてきた。

 

 

 

「彼女は感じ取った…らしい。楽器というツールを使って一つの音を奏でていることで、その音を通して仲間の想いが伝わってくることを。」

 

「…………。」

 

「その中で楽しさを思い出し、さらには「自分がピアノを弾く理由」も再認識したらしいの。」

 

「…理由?」

 

「彼女…内気で思うように気持ちを伝えることのできない自分でも、ピアノの音色に乗せてなら感情も想いも表現できるって。…音楽に触れている時の楽しい気持ちを伝えるために弾いているんだって、気づいたのよ。」

 

 

 

音を楽しむ、とはよく言ったものだが…人によって成長をも促すツールになるのか。

事象に対しての接し方は人それぞれ、白金燐子というピアニストにとっては、音楽と仲間そして自身と切っては離せないピアノが掛け替えのない全てだったんだろう。

そしてそれに気づいたとき――

 

 

 

「彼女は芯の強い女性だったのね。コンクールもやり遂げることができて、自分の過去の悪しき記憶も存在を問う悩みも…乗り越えてみせたのよ。」

 

「すげえな…それで生まれたのがこの歌?」

 

「そう。まさに、「乗り越えた運命が燐子の未来を照らす様」を表した歌。…RingingBloomはこうして生まれたのよ。」

 

 

 

何だか熱い話だった。それだけのことを知っていれば、そりゃ感情も乗せて歌えることだろう。

白金燐子さんか…確か綺麗な黒髪が印象的な、スラっとして綺麗な人だった。Yaho○!画像検索でチラ見しただけだけど。仲間の絆も然ることながら、やはり人そのものの強さってのも生き方に表れるんだろうなぁ…。

 

 

 

「さ、お話はこれでおしまい。そろそろ練習に戻るわよ。」

 

「……………。」

 

「お兄ちゃん?どうしたの変な顔して。」

 

「そんな詳しい話知ってるほどのファンだとは思わなくてな。…こんなことならもっと早くその話を聞いておけばよかった。」

 

「そう?…まぁファン、といえばファンなのかもしれないけれど。」

 

「…にしても、見てきたように話してたよな。そういうのって全部ネットで載ってんの?」

 

 

 

臨場感があるというか、あまりに深入りした部分まで知っているかのような口ぶりだった。高校生ということもあって、もしかしたら身近な知り合いなのかもしれない。

 

 

 

「………お兄ちゃん、さっきRoseliaについて調べていたわよね。」

 

「ん、ああ。…でもそんな話載ってなかったぞ。」

 

「ほかのメンバーの名前、みた?」

 

「あー…悪い、メンバーの名前までは調べてないや。」

 

「…ボーカルの名前、調べてみなさいな。」

 

「ボーカル、ね……ええと…」

 

 

 

"Roselia ボーカル 名前"とワードを打ち込み検索する。結構なヒット数だが、取り敢えず一番上に出てきたこのリンクでいいか。

……………はい?出てきたメンバーの一覧。名前と画像を見て思わず固まる。

 

 

 

「出てきた?」

 

「………あぁ。」

 

「「湊 友希那」」

 

 

 

ふふふっと妖しく笑う妹。

……友希那、お前…何者なんだ?

 

 

 




いい曲。




<今回の設定更新>

○○:妹の知られざる姿を知ってしまった。
   音痴。

友希那:みんなの妹友希那ちゃん。
    なんということでしょう、その真の姿はRoseliaのボーカルだったのです。
    /(^o^)\ナンテコッタイ

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