BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「成程、話は分かりました。」
「ええ、それはよかったわ。」
「だとしても…その、何ですか、それは。」
「?」
膝の上できょとんと眼を開けている我が妹。そして妹がさっきから目線もくれずに喋っていたのは友達…?っぽい子。
珍しく友希那の方が遅く帰ってきたと思えばこれだもんな。友達いたのかこいつ。
「えっ、あ、あの、お兄さん…って、本当のお兄さん、ですか?」
「……それは実在するかどうか…ってこと?」
「や、そーゆーんじゃなくて、その、湊さんに兄弟が居るってこと自体知らなかったので…。」
「あぁ…。友希那、説明してないのかい。」
「……………。」
「友希那?」
「………え?」
「聞いてた?」
「何を?」
「…一回動画止めなさい。」
「えっ、あっ………もう、お兄ちゃんのばか。」
「湊さん?」
ほら見ろ。人の話も聞かずに兄の膝の上でPCに夢中になっていた友希那。一体何周する気なのかとツッコミを入れたくなる気持ちをぐっと堪え、クセの強い三つ子が暴れまわるアニメの再生を停止する。
直後に出る最近の友希那の素。それはお友達も困惑することだろう。
「…何かしら、
「いや、だからあの、お兄さんが居るなんて言ってなかったじゃないですか。」
「??訊かれてないもの。」
「だとしても……えぇー…?」
わかる。わかるよ美竹ちゃん。前に遊びに来た
要するにアレだ、今までの友希那とギャップが凄すぎるのだ。この、無駄にお兄ちゃんっ子になってしまった友希那は。どうしてここまでキャラクターないしアイデンティティが崩れ去ってしまったのかは俺も分からない。ただあの一件、「自分がRoseliaのボーカルである」という事をカミングアウトしたあの日以来、パーソナルな部分について赤裸々に話す様になり、同時にべったりするようになった。
こうして帰宅して早々俺を椅子にするような真似も以前は無かった筈なのに…。
「兎に角、湊さんがそんな体たらくになってしまっては
「あら、別に腑抜けている訳では無いもの、問題ないわ。今度の対バンだって、目にもの見せてあげる。」
「………全然説得力無いんですよ、その…そういう体勢で凄まれても。」
「だろうな。」
「もー、お兄ちゃんは黙ってて。」
「はいはい。」
「湊さん?」
こんなことになるなら玄関まで迎えに行かなきゃよかった。
**
遡る事一時間ほど前。玄関から聞こえる「ただいま」の声に、俺はいつも通り迎えに行った。何故って、そりゃこの時期コート位着るだろう?友希那は自分でコートが脱げない(と言い張っている)からさ。
そもそもその用事が無ければこの子は「ただいま」すら言わない。
だが油断しきっていた俺を待ち受けていたのは見ず知らずの女の子の姿だった。
『あ、ドモ、美竹といいます。…えと、湊さん……のお知り合いの方?ですか?』
この瞬間。
「あっ、この妹、友達居たんだ」と「こいつ何も説明してねえ」が同時に物凄い勢いで脊髄を駆け上がる感覚があった。その感覚に震えている間にも、玄関の土足エリアと室内エリアを隔てる段差に座り込んだ友希那は無言で見上げる体勢に。
あぁ、これは靴を脱がせろと言う無言のアピールだ。靴ひもが面倒ならマジックテープにしろと何度も言っているのだがどうにも皮の感触と匂いが好きらしい。お陰でこれも習慣化されてしまった。
『美竹さん…だったっけ』
『はい』
『今すぐ友希那も向かわせるから、取り敢えず真っ直ぐ行った突き当りのリビングでソファにでも座っといて』
『あ、はあ…』
思えばこの瞬間から違和感はあった。刺さる視線の「何だこいつ感」が尋常じゃないというか。いや、「何だこいつら感」かもしれないが。
結局自分の靴を脱ぎ終え来客用のスリッパに履き替えたところで待っていた美竹さんと共に、全ての外套をパージした友希那を友希那の部屋へ誘導する。何故俺が、とも思うのだが、友希那は玄関で一度座り込んでしまうともう何もしない。
友人への案内など以ての外だし、いつもおんぶの格好で部屋まで連れて行くのだから。
『や。お兄ちゃんの部屋がいい。』
『!?』
そんでもって最近できた友希那用の部屋まで連れて行けばこれだ。友希那用とは言え、物置になっていた部屋を片付け無理矢理個室として仕立て上げただけの場所であり、普段からあまり友希那が居るイメージは無いのだが。
頬を膨らせてそんなことを言われたらもう何も言えず。…仕方なく美竹ちゃんに俺も同行していいか了承を得た後に今に至ると言う訳だ。
**
「対バン…ってことは、美竹ちゃんもバンドマンなの?」
「えぇまあ。Afterglowって名前のバンドで。」
「へぇ…。格好いいねぇ。」
「はぁ。」
「……。」
なんという塩対応。この子、確かに髪にも謎の赤いメッシュが入っているし、真面目そうに見えて案外不良なんだろうか。あまり話しかけない方がいいとは思うが、肝心の友希那がふにゃふにゃしていて気まずいのだ。
「あの、湊さん。」
「ん。」
「あ、お兄さんじゃないです。」
「だよね、知ってる。」
「湊さん。」
「………。」
声は出さずに目線だけを美竹ちゃんに向ける友希那。
「まさかとは思いますけど…この前聞かされた"RingingBloom"を歌ってた男の人って」
「みみ、美竹さん。あなたこそ最近どうなのかしら。」
「…どう、とは?」
友希那よ。アレを他人に聴かせたのかい。そしてその人を本人の目の前に連れてきたのかい?どういう評価かは知らないけど、めっちゃ恥ずかしいよ?
美竹ちゃんめっちゃこっち睨んでるし、あれ、そんなマズいことしたの俺?必死に話題変えてるけどお兄ちゃん気付いちゃったからね、後で説教だよ。
「あああああなた、最近恋人ができたとかで、あまり練習に身が入ってないんじゃなくて?」
「みな、ちょっ、湊、さんっ!?」
「ふふん、図星ね。」
「だ、だれ、だれっ、からっ??」
「
「………ッ!!」
なるほどなるほど、美竹ちゃんには恋人ができたのか。そりゃめでたいことだ。でそれを共通の友人?か何かの戸山さんが教えてくれたと。…案外友達多いんだなぁ。
「な、なんて……」
「
「あぁもうやめてください!」
すっげえ照れてる。市ヶ谷さん、ってのが彼氏さんかな。まぁ恋人が出来て服装の趣味や方向性が変わると周りにすぐバレるらしいからね。結局自分で惚気てりゃ世話無いけど…。
その市ケ谷さんって人も随分ピュアな男の子らしい。これだけ可愛い彼女が出来たら自慢したくなる気持ちもわかるけど、こうして人伝で伝わる程ってのも中々にすごい。
「よっぽど愛されてるんだねぇ。」
「は?部外者が知ったような口を利かないでください。」
つい口を開いてしまったらこれだ。音速の切り返し…ゼロカウンターとでも名付けようか。
大人しく黙ることにしよう。
「お兄ちゃんはお喋りさんね。」
「もう黙ってるよ。」
「ふふ、そんな拗ねないの。…私の事、ぎゅってしててもいいのよ?」
「湊さん?」
「……する。」
「湊さんっ!?」
「んっ…。……んふぅ。」
後ろから腕を回しお腹の前でクロス。完全にバックハグ状態になると友希那は満足そうに鼻息を漏らした。
あぁ、相変わらず体温が高いなこの子は。
「……………帰ります。」
「えっ。」
その様子を見て小さく溜息を吐いたかと思えばスッと立ち上がり上着を着る美竹ちゃん。用が済んだのだろうが、あまりに脈絡が無さすぎる。
「あら、早いのね。」
「別に、どうでもいいでしょう。」
「……羨ましくなった?」
「ッ!……べ、別にそんなんじゃ…。」
後ろを向いているせいで顔は見えないが、きっと図星を衝かれ赤くなっている事だろう。声も肩も震えている。
大方この抱かれている友希那を見て、さっき話に出てきた市ケ谷さんに自分も抱かれたくなっただとかそんなところだろう。友希那の指摘にああなるってことは。
青春してんねぇ。
「じゃ、じゃあ帰りますからっ!また……また、ライブで。」
「ええ、楽しみにしてるわ。」
ぱたん、と静かに戸を閉めて遠ざかって行く足音を聞く。美竹ちゃん、不思議な雰囲気の子だった。
俺には敵意剥き出しだったけど。
「ん~。」
「なんだい。」
「続き、見たい。」
「アニメ?」
「うん。再生、押して?」
「はいはい。」
美竹ちゃんも市ヶ谷さんとやらの前ではこんな風にギャップを見せるのだろうか。そのギャップを目の当たりにしたなら、俺も困惑を体験することができるのだろうか。
再度流れ出したアニメの音声を聞きながら、友希那の旋毛を見てそんなことを考えた。
「美竹さんにもね、素敵なお兄さんが居るのよ。」
「マジかー。」
「あっちは本当のお兄ちゃんなの。」
「……そっか。」
本当の、か。友希那がどう思ってくれているのか分からないが、俺は今この子の兄としてやっていけているんだろうか。
アニメは佳境に差し掛かっているらしく、友希那の足は一層激しくぶらんぶらんと揺れていた。
足ぶら友希那ちゃん
<今回の設定更新>
○○:色々思うところもあり複雑なお兄ちゃん。
面倒見過ぎも良くないのだろうが、可愛い妹の為に何でもしてあげ
たい。
友希那:べったり甘えモード。
紗夜に見られたときは病院へ連れて行かれそうになった。
何も言わなくても意思疎通が図れるうえ身の回りの世話に於いて
有能な兄が大好き。
蘭:美竹蘭編「妹よ、どうした。」と世界観を共有しています。
最近有咲と付き合いだした模様。切り替えが利き、メリハリのある
プレイスタイルで今日もデレデレしている。