BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/11/03 祝うということ

 

 

 

「○○さーん。あれ、聞こえてるっすかー?○○さぁーん。」

 

「…相変わらず朝からうるせぇなお前は…。」

 

 

 

日曜の朝、喧しい着信音に安眠を妨害されご機嫌とは言い難いテンションで目覚めさせられる。画面の表示を見ずにハンズフリーのまま通話を繋いでしまった俺にも責任の一端はあるのだが、予想外の相手からの着信に不機嫌さを隠すことなく載せた返答をしてしまったようだ。

 

 

 

「…あれ、朝から御機嫌斜めっすねぇ。」

 

「休みだぞ?何の用だってんだ。」

 

「ふっふっふっふ……実は、今日ジブンの誕生日なんっすよ!」

 

「あそ、おめでと。おやすみ。」

 

「あ、ちょちょっ」

 

ピッ

 

 

 

ったく…朝から電話で起こすたァ何事かと思えば誕生日だぁ?……誕生日?

未だ触れていなかったスマホに手を伸ばし、改めて日付を確認する。

 

 

 

「……ったく。」

 

 

 

履歴を呼び出し折り返し発信する。……話し中か。

大方、慌てて再発信した麻弥と俺の折り返し電話が重なったか何かだろう。割とよくある現象である。

そのまま五分ほど待ち再度発信。

 

 

 

「…………………あー、なんだ、その…」

 

「フヘヘヘ、今度はちゃんと起きてるっすかー?」

 

「あぁ、悪い。性質の悪い悪戯電話かと思って。」

 

「…なっ!誕生日主張してくるイタズラ電話って新しすぎませんかね…」

 

「…だな。……で?今年の誕生日は何すんだ?」

 

 

 

確か去年も似たようなことがあったような…。あの時は電話じゃなくたまたま一緒にいる時に言われた気がしたが。

 

 

 

「あ、それなんですけどね…。」

 

「??」

 

「……実は、○○さんに切られた後にクラスの子から電話がありまして…。」

 

 

 

どうやら、先程の話し中はマジモンの話し中だったらしい。麻弥曰く、クラスの一軍グループ――俺と麻弥がそう揶揄している――に誕生パーティをするから、と誘われたらしいのだ。

普段ほぼ話したことすらない面々に困惑ながらも、会場を抑えてしまったと言われ断りきれず…といった流れらしい。どうにもきな臭い話だとは思うが、俺がどうこう言う問題でもないし…。

 

 

 

「…良かったんじゃないか?普段絡まないやつと仲良くなるチャンスだ。」

 

「へへ……○○さんも来ません?」

 

「誘われてないし俺。……お前の誕生日なんだから、頑張って楽しんでこいよ。」

 

「……そっすか……。じゃあ、一人で楽しんでくるっす。」

 

 

 

…通話終了。さて。

 

 

 

「……こっちはこっちで準備するか。」

 

 

 

麻弥を送り出した姿勢のまま、イマイチ頭数にならない後輩へ発信。

 

 

 

「……んぁー?せんぱーい?」

 

「おう青葉、ちょっと付き合って欲しいんだが…」

 

 

 

**

 

 

 

「せんぱーい……。」

 

「こらこら、お前は目を離すとすぐ口に物を入れるな…。」

 

「おいしくなぁい。」

 

「当たり前だろ、造花を食うな。」

 

「ピンクだったから美味しいのかと思ってー。」

 

「……ピンクボールに食われちまえ。」

 

 

 

夜。自室で相変わらず不可解な行動をする後輩とダラダラしていると、朝と同じようにけたたましい着信音がなる。

 

 

 

「うなー…せんぱぁい、うるさーい。」

 

「…なら出るかパスよこせ。」

 

「んー………もしもぉし。」

 

 

 

出るんかい。

 

 

 

「んーむ。……おー、ついにですかー?………やだなぁー、分かってるくせにぃー。」

 

「……誰からだ?」

 

「……んー。」

 

 

 

結局手渡すんなら最初から出るんじゃないよ。

 

 

 

「もしもし?」

 

「…ぁ、○○さん……。」

 

「どした、エラく疲れた声してんぞ?」

 

「えぇ…まぁ…。」

 

 

 

どうやら例の誕生日会からは、つい先ほど夜二十一時を以て解放とされたらしい。結局知っている人間もほぼおらず、盛り上がる会場にひたすら気を遣い続ける数時間だったようだ。

 

 

 

「それでその…お恥ずかしい話、○○さんの声が聞きたくなっちゃいまして…」

 

「ほほー…そりゃお疲れさんだな。……俺の声聞くのもいいんだけどさ、これからって時間あるか?」

 

「うぇ!?……こ、これ以上何か試練があるんすか…?」

 

 

 

あ、今試練つったな。

そんなキツかったんか。

 

 

 

「いや?別に、何となく暇だからウチでゲームでもしねえかなーってだけだけど。」

 

「あ、あぁ…成程。迷惑にならないなら…行っちゃってもいいっすかね…?」

 

「おう。場所は今更言わんでもいいな?」

 

「ええ、はい、まぁ…。」

 

「おっけ、んじゃあ着いたらいつも通り上がっちゃっていいから。」

 

「りょ、了解っす!」

 

 

 

…さて、と。これで誘導は完璧だ。

 

 

 

「あー、せんぱい悪そうな顔してるー。」

 

「顔が怖いのは元からだ。ほら、青葉も準備しろ。」

 

「あいあいさー。」

 

 

 

すっかりだらしなく部屋着を着崩した後輩を追い立てるように台所へ向かわせる。アイツには運搬係をやってもらうとして、俺は部屋の掃除に取り掛かろう…。

卓袱台を出し再度きれいに掃除、部屋にもコロコロした粘着テープのアレを走らせ、準備を整える。先ほど青葉と二人で作った料理も並べ終え、飛び道具の開封作業をしている頃。

 

 

 

「やー、結構な準備でしたなぁー。」

 

「あー?これくらい友達なら普通だろ。」

 

「モカちゃんの時もやってくれますー?」

 

「当たり前だろ。…ほら、まだ引かないように持っとけよ。」

 

「りょー。」

 

 

ピンポーン

 

 

「お!……青葉、シー。シーだぞ…。」

 

「しぃー…。」

 

 

 

口に人差し指を当て青葉を黙らせる。真似をして何故か姿勢を低くする青葉を尻目に部屋の電気を消し階段を上ってくる足音を聴く。

 

 

 

「し、失礼するっすー」

 

「おーう、入れー。」

 

 

 

二秒ほどの間の後、遠慮がちに部屋の扉が開かれる。

 

 

 

「……あれ?暗…」

 

パンッパパンッ!!

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

 

我ながら息ピッタリのコンビネーションで発砲される計三つのクラッカー。小気味よい破裂音と飛び交っているであろう紙テープ。

麻弥が驚いたのを確認して、部屋に明かりを戻す。

 

 

 

「……うなー!」

 

「…いらっしゃい&おめでとう、麻弥。」

 

「めでとー。」

 

「……へ?」

 

 

 

ポカンとしている麻弥。……まぁ、同じ日に二度も祝われてもって所はあるよな。

頭に乗っている紙吹雪と紐の残骸を払いつつ、手を引いて部屋に招き入れる。

 

 

 

「…夜なのに呼んじまって悪かったな。」

 

「…○○、さん…。」

 

「ほら、昼間はお前も色々大変そうだったし、俺たちもその……」

 

「○○さぁんっ!」

 

 

 

突然のダッシュ&タックル。さすがの俺も床に崩れ落ちるように体勢を崩す。受け止めきることはできたので麻弥に怪我はないはずだが……。

 

 

 

「急だとビビるだろうが…。怪我ないか?麻弥。」

 

「………ぅぅ、ぅぅうう。」

 

「…どっかぶつけたか?…なんで泣いてんだ。」

 

「○○さぁん!!」

 

 

 

顔を上げた麻弥は泣いていた。…お、今日はメガネじゃないのか。

 

 

 

「ジブン…ジブン、間違ってたっす!」

 

「何が。」

 

「ジブンには、やっぱり○○さんしか居なかったっすよぉ…」

 

「…わけがわからん。」

 

「うわぁぁぁ…○○さん、○○さん!大好きっす!!」

 

「はいはい、俺も嫌いじゃないよ。…取り敢えず、離れてな?…ほら、腹減ってないかもだけど飯もあるからさ。」

 

 

 

暫く時間を置き、未だえぐえぐ言っている麻弥を引き剥がす。泣き止んでも尚、何故か服の裾を掴んで離さないのでそこはもう諦める。

隣に並ぶようにして卓袱台の前に座ると、麻弥の居ない側に青葉が寄ってきた。

 

 

 

「…ぉわぁ…。」

 

「どんな声出してんだ。…すまんな、少し作りすぎたかもしれん。」

 

「こ、これ、○○さんが作ったっすか?」

 

「去年もそうだったろ。」

 

「そっすけど……また、腕上げたんすか。」

 

「まあ、他に趣味のひとつもないしな。」

 

「…食べても?」

 

「あぁ、お前が食べ始めないと青葉が餓死しちまうから早めに頼む。」

 

 

 

すっかり涙も引っ込んだような麻弥が置かれている料理に手を伸ばす。…青葉、もうちょいだけ待て、だぞ。

 

 

 

「……美味しい…グズッ」

 

「…また泣き出してお前は…クラスの連中に酷い扱いを受けたのはなんとなくわかったけどよ…ほら、今は俺らが居るじゃねえか?」

 

「うなー…おなかすいた…」

 

「あぁ、お前はもう食っていいぞ。」

 

「ほんとー?…っただきゃーす。」

 

 

 

言うや否やがっつき出す青葉。お前はいいなぁ、能天気そうで。

暫し無言で料理を突く麻弥だったが、やがて…

 

 

 

「あの、○○さん…。」

 

 

 

箸を置き、こちらに向き直る。

 

 

 

「正直、今日のことはジブンにも非があったかと思うっす。」

 

「………そうかね。」

 

「ええ、簡単に人を信じちゃいけないと、勉強になったと思って引き摺らないようにするっす。」

 

「おう。」

 

「…○○さんは、…いえ、○○さんと青葉さん、おふたりは信じてもいいっすよね?」

 

「…当たり前だろ。俺をあの連中と一緒にすんなよ。」

 

 

 

俺がその場に居た訳ではないから詳しくは分からないが、少し聞いた話とその話しぶりから大凡の雰囲気はわかる。…前にも似たようなことがあったしな。

きっと、曲りなりにも芸能人である麻弥と取り敢えずお近づきになりたいとか、祝ってやれば話題にしてもらえるだろうとか、そんな浅はかな考えに利用されただけだろう。

以前も……いや、この話はいいか。

 

 

 

「……ジブン、ずっと○○さんと一緒に居たいっす。○○さんだけ、ちゃんとジブンを見てくれるっすから。」

 

「おう、満足するまで居たらいいさ。…何せ俺もクラスじゃ浮いてるようなもんだ。」

 

 

 

俺も青葉も純粋に麻弥が()()()()()()()()()ことを祝福したいだけだからな。名目だけ祝えば仲良くなれると勘違いしてる有象無象のバカとは違う。と、思ってる。

 

 

 

「ふへへ…そっすね…。…なら、末永く」

 

「うーなー!!麻弥せんぱい告白してるー??」

 

「へっ!?あ、あわわわ、違うっす!違うっすー!!」

 

 

 

いつの間にか麻弥の後ろに廻っていた青葉が組み付く。そのまま慌てふためく麻弥の匂いを嗅いだり耳を噛んだりと、もうやりたい放題だ。

 

 

 

「ちょちょ、そ、そこはやめるっす!!」

 

「よいではないかーよいではないかー。」

 

「あっ、あっはははは!!!いひひひ……」

 

「意外と弱いところが多いんですなぁー。」

 

 

 

世の中で"誕生日を祝う"ということがどんな行為を指すのかは知らないが。

昼間のアホ連中のように会場を抑えて見ず知らずの頭数を揃えて祝いの言葉()()をぶつけるのが祝福だと思ってる奴もいれば、俺らみたいなチープで小規模なバカ騒ぎをプレゼントする奴らもいる。

 

 

 

「も、もう!○○さんも見てないで止めて欲しいっす!!」

 

「うーなー!モカちゃんぱわー!!」

 

「あっひゃははは!!」

 

「お前ら、程々にしとけよ…。」

 

 

 

数少ない大事な友達を祝うんなら、そいつ自身が笑ってなきゃ…な。

 

 

 




すっごく遅れてすみません。




<今回の設定更新>

○○:暇人はこういうとき強い。
   以外にも料理もできることが判明した。
   サプライズは基本嫌いだし、不特定多数とつるむのも嫌い。

麻弥:おめでとうございます。
   人との距離があまりわからず、友達もイマイチ選べない身だが今回のことを皮切りに
   主人公だけ居ればいいと思うようになったとか。
   耳と脇腹が弱い。

モカ:うなー?うなー。うーなー!
   轟け、モカちゃんぱわー。

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