BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「お兄ちゃん。」
「ん。」
「今日は何の日か、わかる?」
「………??」
背後から圧し掛かる様に体重を預けてくる友希那。耳元でぼそぼそとそんなこと囁くものだから、くすぐったくて敵わん。
とは言え「今日が何の日か」かぁ。妙に友希那がご機嫌なのも分からないし、四月一日に記念日なんかあっただろうか。
「…誰かの誕生日とか?」
「ぶっぶー。」
「親の結婚記念日…でもないしなぁ。」
「うん。」
「……友希那が初めて野菜を美味しいと感じる日?」
「…あ"?」
「違うよね。…なんだろう。」
そんなにドスの利いた声出さなくてもいいじゃないか。いい加減野菜も食べられるようになってくれないと、俺ベジタリアンくんになっちゃいそうなんだけど。飯の度に妹の食べ残しを押し付けられる身にもなって欲しいものである。
あとはエイプリル・フールくらいしか思いつかないが、態々それを言ってくるような…ちびっ子じゃあるまいし、可能性は無いに等しいな。
「…難しかった?」
「あぁ。お手上げだ。」
「……ふふっ、今日はね、えいぷりるふーるって言うのよ。」
「…………。」
ちびっ子じゃあるまいし?確かに前々から少し危なっかしい様子は見ていたけど、ここまでガチ目でヤバい子だとは。そしてそのドヤ顔は何だ。知ってるっつの。
「…まぁじかぁ。」
「何でも、いっぱい嘘をついた人が頂点へ上り詰められる日らしいわ。」
「誰だそんな知識教え込んだの。」
「リサよ。」
「リサ…ちゃん…ッ!?」
幼馴染の
「…と言う訳で、今日はいっぱい嘘を吐くわ。」
「だーめ。」
「むっ、私が頂点を目指すのが、そんなに気にくわないって言うの。」
「…そもそも、嘘は良くない事だろ?」
「………でも、誰かのためを思って吐く嘘は優しいものだとテレビで」
「誰の為を思って吐くのさ。」
「………………お兄ちゃん、好きよ。」
「本日一発目の嘘がそれかぁ!」
嘘塗れの一日が始まった。(夕刻)
**
「お兄ちゃん、私実は男だったの。」
「へぇ。」
「……引っ掛かった?」
「…。」
エイプリルフールを楽しむのはいい。頑張って嘘を吐こうとするのもまぁいい。だが如何せん下手すぎる。
ベッドで寝転ぶ俺から少し離れた位置…丁度部屋の入り口付近で腕を組みドヤ顔の友希那さんだが、もうどこから突っ込めばよいやら。部屋に入って来るなりいきなりこれだ。
話題のチョイスというか嘘の振れ幅というか、全てに於いて"加減"の概念がぶっ飛んでいる様に感じられるのだ。これではもうエイプリルフールを楽しむどころの騒ぎではなく悪夢のような一日になり兼ねない。
「……友希那。」
「なあに。」
「…俺、実は本当の妹が居てな?」
「……えっ?」
「………まぁ、小さい頃に養子として他所に貰われていったんだけども。」
「えっえっ、えっ??」
リアル目な嘘の手本というものを見せてやろう。
…まぁ、焦りに焦っている目の前の小動物の様な彼女を見るに、恐らく何を言っても信憑性100%で信じるんだろうが。
「う、嘘…よね?えいぷりるなのよね?」
エイプリルはただの四月だ馬鹿者め。
「…友希那とは正反対で、よく気が利くし懐いてべったりするしで可愛くてなぁ。何処へ行くでも一緒に付いて来たがって、まさに妹って感じの子だったよ。」
「…………。」
俺の脳内では某アニメーションの妹キャラが小躍りをしている。当然俺は昔から一人っ子な訳だし、そんな都合の良い妹なぞこの世に存在していないだろう。
だからこそ、ツッコミどころ満載で反面のリアリティが生まれるのだ。
「……うぇ」
「上?」
「うぇぇぇええええええええ!!!!!!!」
「お、おわぁ!?」
泣いた。
なるほどなるほど…この子の脳みそでは「認めたくない現実」と「リアリティのある嘘」の区別がつかなかったわけだ。知れば知る程、音楽以外はポンコツなんだと実感するなぁ…。
嘗てない程のギャン泣きにこっちまで動揺してしまうが、その滝のように流れ出す涙と鼻水を拭おうともせず、歩く屍の様に両手を突き出してゆっくり迫って来る姿が滑稽で噴き出しそうになるのを堪える。
泣き声を上げながらジリジリと近づいて来るその様はまさに「よちよち歩きの劇薬」。異名通りだ。
「あぁぁぁぁぁ……ん!!!…うわぁぁぁぁああああ!!!」
「……ンブフッ………ンフゥ、フゥ、ンフフフフッ……」
堪え切れていない気もするがしゃくり上げている友希那には関係ないようだ。
やがて上体を起こした俺の元まで辿り着くと、その水源を俺の胸元に擦り付けて泣き続けた。くぐもってはいるがその実、音量は三割増しだ。
服にしがみ付く両手以外を脱力させ「ここから動く気は無い」と表現しているかとも見れる妹を抱き寄せ、背中を摩り髪を撫でる。何もそこまでショックを受けなくても。
「…ぃっく……ひっく………。」
「………落ち着いた?」
「…………その妹さんは、私より可愛いの?私より好きなの?」
「…いや?」
「……ぐす……私がいちばん…?」
「んー……俺、ずっと一人っ子だからさ。そんな妹知らんし。」
どうネタバラシしてやろうかと考えていたが、こいつに小細工は無用だろう。…それよりも早いとこご機嫌を取っておかないと、後で親父にどやされるのは俺だ。
俺の一人っ子発言に涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて固まる友希那。
「エイプリルフールなんだろ?今日。」
「………ぁ、え……。」
「上手な嘘ってのは、こういうのを言うんだ。」
放心状態。両目は俺を見ているようで何処か遠くへ向けられていて、服を掴んでいた手もぼんやり開かれている。何よりもこの阿呆面…非常にレアで面白い。
思考回路がショートでもしているのか、暫く意味の無い音を口から発する玩具の様になってしまった。
「ま、流石に泣くとは思ってなかったけどさ。」
「…ぅ………ぅぁ……」
「そんなにショックだったんなら謝るよ。…やり過ぎたんだな、ごめん。」
「えぅ………ぃぁ……え…」
「…友希那?」
「……。」
そうかと思えば今度はグッと口を結び、睨みつけてくる。眉も心なしか吊り上がり気味だ。そして顔が近いぞ。
「……お兄ちゃん、嘘つくのは良くない事よ。」
「散々溜めて言う事がそれかね。」
「…傷ついたわ。」
「全部、嘘だかんな?」
「嘘でもよ。」
存外にナイーブらしい。今までまともに他人と交流してこなかったが故の防御力の低さ、これは今後考慮していくべきかもしれないな。…と思いつつ、困った時のウィークポイントとして覚えておく必要もあるだろう。
「…ごめんなぁ。」
「……私がいちばんの妹でしょう?そうよね?」
「まあ君以外に妹居ないし。」
参加人数が一人なら当然一位だろう。
「……うん。」
「…。」
「ん。」
「何だ?」
「だっこ。」
「…そんな、子供じゃないんだかr」
「ん!!」
「……はいはい。」
両手を広げる妹の脇に手を入れ持ち上げるようにして体勢を変える。太腿の上で向かい合わせになる様に乗せるや否や、勢いよくしがみついて来て…。
「撫でて。」
「…どこを?」
「あたま。」
「はいはい。」
「せなかも。」
「はいはい。」
泣いている最中の慰めがお気に召したらしい。抱き合う姿勢のまま頭と背中を摩ってやれば、満足げに「ンフー」と息を吐いた。
すっかり機嫌も直ったようで、いつ解放されるのかと一心に摩り続けていると。
「…私、えいぷりるふーる嫌いだわ。」
「……確かに、友希那には向いてないかもなぁ。」
「……でも、さっきの…う、ウソ泣きは上手だったでしょう?」
「いやあれマジのやつ…」
「嘘なの!えいぷりるなの!」
「……はいはい。」
もう、言ったモン勝ちである。
友希那編の終わりが見えない
<今回の設定更新>
○○:適度な嘘って難しい。
…これほどの美少女に密着されて変な気起こさないとかどこか
おかしいんじゃないか。
友希那:すげぇ泣くやーん。
嘘がよくわかんなーい。
リサ:黒幕。