BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/08/16 Soggetto principale

 

 

 

「今日は大事なお話があるの、お兄ちゃん。」

 

「……なんだぁ?改まってからに。」

 

 

 

特にこれといった事件もなく、まったりとした日々を送っていたある日のことだった。

いつものように帰宅後の着替えまでを俺に任せきりの友希那だったが、部屋着に着替えるや否や神妙な面持ちで切り出す。

神妙…だよな?相変わらず無表情だけども。

 

 

 

「ここすわって。」

 

「普通大事な話って向かい合ってするもんじゃ――」

 

「いいから。はやく。」

 

「……。」

 

 

 

ベッドに腰かけ、隣の敷布団をぽふぽふと叩く。向かい合う位置に勉強机があるわけだが、どうやら背凭れは使わせたくないらしい。

仕方なく指定された部分を軋ませたら、さも当然という風にのしかかってくる妹の36.8℃(たいおん)44kg(そんざいかん)

 

 

 

「……ンフー。」

 

「えっと…友希那?」

 

「なあに。」

 

「椅子になってほしいならそう言えばいいんじゃないか…?」

 

「……ち、違うのよ、大事な話なの。」

 

「忘れてたろ?」

 

「…………えっとね、最近思ったんだけど」

 

「失敗から目を逸らすな。」

 

 

 

顔こそ見えないが焦りようはわかる。満足げな鼻息も聞こえたし、すっかり定位置となったこの場所に一息ついてしまったんだろう。

エフンエフンと、わざとらしく咳込んだ後に体の向きを反転させる妹。正面から抱き合う形になり、その目立たないながらも整った顔が必然的に近くなる。

……正直、妹でなかったら危なかった。

 

 

 

「あのねお兄ちゃん。私、思うのだけど。」

 

「ん。」

 

「いろいろと、見失っている気がするのよね?」

 

「……んん??」

 

 

 

はて。

見失っているとは、いったい。

 

 

 

「どういうこと?」

 

「その……最初の日…えと、私が、お兄ちゃんの、妹になった日。言ってくれたじゃない?」

 

「何を。」

 

「協力してくれる…って。」

 

「…………。」

 

 

 

あぁ…。

いや、忘れていたわけじゃないぞ?

つまりはあれだ、すっかり慣れ親しんでしまったこの状況――友希那と兄妹関係になる――の発端である、友希那の父親の離婚・再婚問題。そいつについて解き明かし、友希那の願いも可能なら叶えるっていう…いうなればこの関係の本筋だ。

確かに思い返してみれば父親(あの人)のスランプは解決しちゃいないし、それどころか音楽関係の仕事をしているようにも見えない。この前なんか某tuberになったとか自慢してたくらいだし。

 

 

 

「…たた、確かにっ?そそそろそろ動いてもいいかもな。」

 

「お兄ちゃん?どうしてそんなに汗をかいているの?」

 

「それはそうと、何だって急にその話を?」

 

 

 

勿論、引っ掛かっていながら何も考えていなさそうな兄に言い出せなかった可能性は大いにあるが。

胡麻化し半分で投げかけた問いに、心なしか表情を曇らせる友希那。

 

 

 

「………んぅ。」

 

「?」

 

「さっき。……学校帰り、用事があってスタジオの方に寄って来たの。」

 

「Roselia絡み?」

 

「ええ。…そこで……お母さん、を、見かけたの。」

 

「……!」

 

 

 

嬉しくもあり、寂しくもあるような、そんな表情。そりゃそうだ。

大好きな、ただ一人の、本当の母親。まだ高校生の、こんなに華奢な体で背負わなければいけない親の勝手な都合。

そうだった。そのあまりにもあんまり過ぎる境遇に、俺は虚しさを覚えたんだった。

 

 

 

「ねえお兄ちゃん。」

 

「うん。」

 

「私…やっぱりお母さんが好き。一緒に暮らしたいのは、私のお母さんなのよ。」

 

「……ああ。そうだよな。」

 

 

 

妹の願いは聞いた。ならそれを導いてやるのが兄貴の役目だろう。

例え血の繋がらない間柄だろうと、例えそれが一時のものだろうとだ。

 

 

 

「俺に任せとけ。友希那。」

 

「……ん。」

 

 

 

**

 

 

 

「とは言ったものの…。」

 

 

 

手始めに、改めて友希那から大体の事情を聴いてみた。といっても、本当に"大体"でしかないわけで。

当たり前だが、あの日聞いた内容と特に変化はなくどうにも核心を掴みかねる話だ。

 

 

 

「そもそも、自分の旦那がスランプってだけで離婚にまで発展するかね?」

 

「……わからないわ。お母さんが、あの人のどこに惹かれたのかだなんて、聞いたこともないもの。」

 

「自分の親の馴れ初めとか、知らなくて当然だもんなぁ…。」

 

 

 

勿論俺も知らないし、知りたいとも思わない。そもそも親父に至っては顔も知らないし、正直あまり関心がない。

だとしても、友希那から聞かされる要因にはどうにも違和感があった。

 

 

 

「んで、そこでウチのババアが出てくるのもまた謎だ。」

 

「そうなの?」

 

「仮に、友希那の兄になるような息子がいるシングルマザーなんざ、世の中には腐るほどいるだろ?」

 

「……ええ、まあ。」

 

「近場で済ませたかったか或いは…」

 

 

 

特別な繋がりが元よりあった、か。同窓生や仕事関係、何らかの趣味や組織・自治体を通しての顔見知り。可能性だけならほぼ無限にあるといってもいいが、だからと言ってアレを選ぶ程の要因があるようには思えない。

やはり謎だ。何なんだあのイケメンは。

 

 

 

「あっ。」

 

 

 

小さく声を上げた妹に目をやれば、ポケットから取り出したスマホに目を落としていた。グー〇ル先生は親の離婚理由まで把握しちゃいないと思うが…何だろうか。

 

 

 

「どした。」

 

「……ごめんなさい。私、今日練習があるってすっかり忘れてしまっていたわ。」

 

「さっきスタジオに行ったんじゃなかったのか?」

 

「行く最中にお母さんを見かけたんだもの。……そのまま、つい、帰ってきちゃったの。」

 

「お馬鹿さんか…。」

 

 

 

いや、気持ちはわからなくないが。こういう少し抜けているところも、愛嬌なのだろうが。

脇の下に両手を差し込むようにして、友希那を俺の膝から降ろす。出かけるとなればまた準備が必要であり、すっかり妹属性が身に染みたこの子は世話を焼かれることに馴染みすぎてしまっている。

「んっ!」と両手を広げ、着替えさせろのアピールをしてくる。できることならば、部屋着に着替える前に思い出して欲しかったなぁ…。

 

 

 

「わかったわかった。荷物……はさっきのままでいいか。何着る?制服?」

 

「ええ。」

 

「せめて脱ぐくらいは自分でせえよ。」

 

「や。ぬがせて。」

 

「……年頃の女の子だろうに。」

 

「はやく。リサが迎えに来るの。」

 

「何から何まで…お姫様だな、本当に。」

 

 

 

女物なぞ触ったこともなかったのに、脱衣着衣の手際が良くなってしまっている俺も人のことは言えないか。

この前も香澄ちゃんに驚かれ…いやあれは引かれたと言っても過言ではないな。

付き合いたてにしてはスムーズに脱がせ過ぎたのはまあ、反省点か。

 

 

 

**

 

 

 

「それじゃリサちゃん、よろしくな。」

 

「はぁい。任せといてー。」

 

「終わったら、連絡するわね。」

 

「ん。ちゃんと小まめに給水するんだぞ?」

 

 

 

準備を終え、玄関先で待っていたリサちゃんに友希那を預ける。ぱたぱたと手を振りながら引き摺られる友希那をそのまま見送り、角を曲がり姿が見えなくなったところで家の中へと引き返した。

 

 

 

「お?○○一人かぁ。」

 

「……お父、湊さんか。何か用?」

 

「つれないなぁ、いい加減お父さんと呼んでくれ給えよ。」

 

 

 

そこで鉢合わせたのはまさに渦中の人。友希那の実の父親であり、今現在は俺とも戸籍上で親子関係にある優男。

にこにこと柔和な笑みを浮かべ両手を広げて迫ってくるが…正直俺はあまり得意としていない部類の人間だ。友希那曰くお袋と再婚するまで見たこともなかったらしい完璧な笑顔は胡散臭すぎるし、そもそも父親という存在にいい印象もない。

友希那の苦悩の種ともなれば、もはや恨みを抱いているといっても過言ではないのだし。

 

 

 

「まあ、そのうちにでも。……友希那ならRoseliaの練習に向かったところだけど?」

 

「そうかそうか、いや、頑張っているようで何より。」

 

「……暇なのか?今日も一日家にいたみたいだけど。」

 

「まぁ、ね。活動をやめてからこっち、特にすることもないしね~。…あ、もちろんお金の心配はないよ?収入が絶たれたわけじゃないし、全くの無職ってわけでもないから。」

 

 

 

トコトン友希那には似ていないと思う。

へらついた様子を隠すこともなく、何が目的なのかもわからない。友希那は居合わせていないが、あの子は一生この父親に対してムーブを掛けることもできないのだろうか。

割とズバズバ物を言う友希那でさえ問うことの出来ないデリケートな問題。果たして俺が介入してもよいのだろうか。…正直葛藤はある、が、力になると宣言した手前、何もしないというわけにも行くまい。

 

 

 

「……あんた。」

 

「んん??」

 

「友希那のこと、もうちょっとちゃんと見てやれよ。」

 

「…………。」

 

「あいつが、本当に兄貴を欲しがったと思うのか?俺みたいな素性も知れない人間を引き合わせて、挙げ句兄貴と呼ばせて。……それで本当に、今のあいつが幸せだとでも思ってるのか?」

 

 

 

笑顔が消える。

お前に言われる筋合いはないと突っ撥ねられるだろうか。お前に何が分かると嘲笑われるだろうか。

結局のところ、血の繋がりも愛情もない俺とこの男は他人なのだ。母親には悪いが、最悪関係が拗れたとしても俺にも引けない時がある。

 

 

 

「……何が言いたいんだね?」

 

「友希那は、母親を欲してんだ。ウチの小汚えババアじゃねえ、あんたの元の妻……本当の"お母さん"をだ。」

 

「〇〇。……無理を言っちゃいけない。友希那から何処まで聞いたかは知らない。が、大人にも色々あってね。双方の気持ちだったり、事情が――」

 

「どんな事情があったって、あいつを苦しませていい理由にはならないだろ!!」

 

「…………。」

 

 

 

沈黙。一瞬見えた素の表情は、いつもの余裕ぶった薄気味悪い笑顔とは違って、確かに感情の籠もった生の顔だった筈なのに。

悔しいような、やりきれないような、そんな顔。

なのに、俺を諭しにかかった顔は、取り繕った憐れみを込めた表情だった。

色々ある、だ?我慢ができなかった。

 

 

 

「せめて説明してやれよ!納得行くまで、諦めが付くまで全部教えてやれよ!!親だろ!?父親なんだろ!?」

 

「〇〇!!」

 

「ッ!!」

 

 

 

すっかり頭に血が上っていた俺を止めたのはリビングから顔を覗かせた母親で。今にも軋み出しそうなほど歯を食いしばった俺とは対象的に、冷たくも強い声で呼んだ名前は、俺にそこまで責める権利がないことを暗に示しているようだった。

"父親"を見れば相変わらず気に入らない「やれやれ」とでも言いたげな薄い笑み。母親がその辺の事情を知っているのかどうかはわからない。

それでも、汚い大人の醜い事情が満ちているこの家には居たくなくて。

行き場を失った怒りを引き摺るように、家を飛び出した。

 

 

 

**

 

 

 

「そう……ですか。」

 

「いやごめん。君にこんなこと愚痴っても、仕方ないことだった。」

 

 

 

夜の公園。ブランコに乗る歳ではないと思い腰掛けたベンチで、思いの丈を吐ききってしまった自分に多大な嫌悪を抱きながら。

左手の甲を摩り続けてくれている恋人に、幾分か遅すぎる謝罪の言葉を。

 

 

 

「そんな!謝らないでください…!何なら、すっごく嬉しい気分っていうか…うまく、言えないですけど。」

 

「……嬉しい?」

 

「はい!だって…いつも〇〇さんにはお世話になりっぱなしだし、初めて、頼って貰えたっていうか……初めて、恋人っぽいこと出来たかなって。」

 

「……相変わらず変わってるな、香澄ちゃんは。」

 

 

 

さすが、誠司が目も離せないだけのことはある。こんなことを言って回れば、悪い虫がつかないかそりゃ心配だろう。

…勿論、俺がそうじゃないかと言われたら強く否定もできないわけだけど。

家を飛び出して後、無意識のうちに向かっていたのがこの公園だった。何度か香澄ちゃんとデートで訪れた程度であったが、落ち着いた雰囲気と常に閑散としている感じが妙にお気に入りなのだ。

香澄ちゃんにはその姿を偶然目撃され、問い詰められた挙げ句全てを話してしまったわけだが…。

プライベートもプライベートな話題だったことと、感情に任せて愚痴の限りを吐き出してしまったことが何よりも申し訳ない。

後悔先に立たずとは言うが、年下の、それも俺なんかを好いてくれる特異な子にこんな事…全く情けない限りだ。

 

 

 

「えへへ…誠司くんにも、よく言われます。」

 

「変わってるって?」

 

「はい。「香澄は普通の子とちょっと変わってる所あるから、変な人にはついて行っちゃだめだよ」って。」

 

「お父さんかアイツは…。」

 

 

 

同感、だけども。

 

 

 

「……でも、知らなかった。友希那さん、そんな事になってるなんて。」

 

「そっか、バンドで繋がりあるんだっけか。」

 

「はい!Roseliaにも友希那さんにも、色々お世話になっちゃってるので…。」

 

「……。」

 

「私にも、何かお手伝いできること、ありますか?」

 

 

 

摩る手を止め、真っ直ぐな目で問うてくる。この子のことだから、俺が恋人だからとか友希那と知り合いだからとか抜きに、純粋な気持ちでそう言っているのだろう。

至って真剣なその目に、いつだったか、何度目かの告白の日にも負けたのだ。

だが、俺自身本質を掴みかねているこの状況で彼女の手を借りることはあるだろうか。あの男が何を思っているのか、どうしていくつもりなのか…何もわからない状況で。

だからこそ、彼女に返せる答えは一つ。

 

 

 

「そう…だな。これから、もしまた俺がテンパっちまった時…悔しかったり、どうしようもなく泣き言を言いたい時。……今日みたいに、話聞いてもらっても、いいかな。」

 

 

 

迷惑はかけたくない。ウチの内情に巻き込みたくもない。

それでも、力になりたいと思ってくれるこの子を無下にも出来ない。現に今日は救われているのだから。

迷い半分で伝えた言葉に、握っている手と同じくらいの温かい笑顔を返してくれた。

 

 

 

「えへ、任せてください。いつでも、そばに居ますから。」

 

「……そうか。」

 

 

 

誠司、この子めっちゃいい子だわ。

心の中で誠司に手を合わせている丁度その時、公園の入口の方から見覚えのあるちっこい影が近づいてきた。

 

 

 

「……友希那?」

 

「お兄ちゃん。帰ったらおうちに居ないんだもの。一体……戸山さん?」

 

 

 

珍しく眉尻を下げて、まるで心配でもしているような表情の妹だったが、隣でにこにこと眺めている香澄ちゃんに気づき近づく足を止めた。

 

 

 

「何、してるの?」

 

「友希那さん!私、応援してますから!!」

 

「んぇ??……え、ええ、ありがとう??じゃなくって、どうしてそんな、くっついて…ええ??」

 

 

 

香澄ちゃんの状況説明とは程遠い一声も相まってか、思考が追いついていない様子。

そういえば、香澄ちゃんと付き合ってること、言ってなかったっけ。

 

 

 

「探してくれたのか?」

 

「え、あ、うん。だって、帰っても一人じゃつまらないし、夕飯はできていたし。」

 

「そかそか。ごめんな、急に出掛けたりして。」

 

「うゅ……別に、見つかったから、いいのだけれど。」

 

 

 

香澄ちゃんの温もりに包まれている手を放し、棒立ちの妹に近づいて髪を撫でる。幾分か擽ったそうに身を捩るが眉尻は元の位置に戻っていった。

そのままの流れでいつものように手を繋いだところで、ハッとしたように友希那が顔を上げる。

 

 

 

「お、お兄ちゃんっ。」

 

「なんだよ。」

 

「さっき、戸山さんと、手、繋いで…」

 

「落ち着け落ち着け。繋いでいたが、どうした??」

 

「……私だけじゃ、なかったの?」

 

「??」

 

 

 

はて。俺の手の所有権に関して決まり事は無かったはずだが。

しかしこの心底心配そうな表情。先程俺を探していたときの顔より余程重篤な問題を前にしているように思える。

もしかして俺は、友希那とも付き合っていた…?

 

 

 

「うぉぉ……友希那さんって、めっちゃお兄ちゃんっこですね!!」

 

「なっ……だ、黙りなさい、戸山さん!そんなことないわ!!」

 

「だってぇ…えー?友希那さん可愛い…!!」

 

「かわっ……お兄ちゃん!お兄ちゃんからも何か言ってやって!!」

 

「……友希那は可愛いよな?」

 

「お兄ちゃ………うぅぅぅぅう…!」

 

 

 

結局香澄ちゃんの乱入により妹の言いたかったことは話題の波の彼方へ。

その後は三人して茶化し合いながら帰路を辿り。妹と我が家に着いたのはすっかり闇の帳が降りてからだった。

 

 

 

「お兄ちゃん。」

 

「なんだよ、揶揄ったのは悪かったって。」

 

「……もう、急に居なくなったりしちゃ、嫌だから。」

 

「……ああ。」

 

 

 

否が応でも帰らなければいけない自宅。可愛い妹。

明日からもこの現実と、理不尽な問題と向き合っていかなければいけない。

心強い恋人の協力も得た今、俺はなんとしても友希那を救わねばならんのだ。

 

 

 




すっかり忘れていたお話。




<今回の設定更新>

〇〇:忘れてたわけじゃないからね?
   なんだかんだで、香澄とはヨロシクやっている。

友希那:外と家とのギャップが凄い。
    リサはある程度の状況は理解してくれているようだが…。
    痩せ型。

パパ:一体何を考えているのやら。

香澄:天使。
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