BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/21 3.血縁と特質の共存質について

 

 

机の上で先程誕生したばかりの生命にまた新たな実験の成功を感じ、思わず小さくガッツポーズをした夕刻。

そもそもこの実験に手を出したのは、BD-010Aの一言があったからであり、BD-010Aもまたかのんと同じように知人をベースに人格再現を試みた個体だった。…正直なところ、今日の実験のきっかけとなった一言が出るまでは人格再現すらも失敗していたかと悲嘆していたところなのだが。

 

 

 

『きんきのそうぞうしゃ○○よ、おはなしをききたまえ。』

 

『そらまた仰々しい御名を頂戴したものだね。』

 

『ええと、ええと…』

 

『普通に喋ってどーぞ。』

 

『あこね、あこはね、なんだかさびしいきがするんだぁ。』

 

『…寂しい?』

 

『うん!…よくわからないけれど、あこはいっっっっっつもだれかといっしょにいたきがするの!』

 

 

 

朝食を終えた後、ぷちどり達の健康状態をチェックしていた時の事。紫髪をいつもの様にコテで丸めていると、BD-010A――通称「あこ」は唐突に始めた。

あこ、というのは古い知人の妹さんを再現しようと試行錯誤した結果に生まれた個体につけた名前で、モデルとなったその妹さんからそのまま貰ってきている。今回の人格再現は少し特殊で、私自身にあまり関りの無い人間の創造が目的。

私が思うに、近しい人間を造り出すのは再現であろうと創造であろうと少し易しい。再現であれば正解を知っている試験を受け直すようなものだし、創造するにしても自分を人格形成に関与させられる為に楽なのだ。…だがそれが無い場合。つまり、自分の与り知らぬ部分が多い生命体を創造或いは再現する場合は、大部分を想像や予測で埋め合わせなければならない分完成形が理想と大きくずれることが多い。

何せ正解を知らないどころか問題文すら無い物を解き明かさなくてはならないのだから。

そういった経緯を踏まえると、あこのその発言に辿り着いた時点で私の想像力の勝利なのである。…まぁ、何かに取り憑かれた様な痛々しく芝居がかった口調を時折使うのは残念な部分なのかもしれないが。

 

私の古い知人――モデルとなった「あこちゃん」の姉にあたる――はよく言っていたものだ。

 

「あこはアタシのただ一人の妹だからな。」

 

そう言っていた彼女も、今ではどこで何をしているのやら。私が研究所を追われる少し前に、あこちゃんを残して友人たちと出かけたまま消息を絶ってしまった。

BD-010Aの人格形成に大きく影響しているあこちゃんのイメージは、昔知人宅を訪れた時のべったりな"妹感"溢れる彼女と、大切な姉の帰りを一人待ち続ける強がりな彼女の二面である。たったの二面。…それでも、彼女の大部分は埋め尽くされていたんだろう。

私に、ここまで人を強く想う事が出来るだろうか?いや、出来ない。

 

 

 

『……誰か、か。…名前とかは思い出せないのかい?』

 

『うぅむ……あのね、このへんまででかかってるんだ!でも、ここからなまえがでてきてくれないんだよね!』

 

『…ん。きっと名前は、一度聞いたら忘れられなくなると思うけどね。』

 

『○○はしっているのか!?…さすがはぜんちぜんのうの…えっと……しってるならおしえてよぉ!』

 

『私じゃなくて本人から聞くべきだよ、それは。』

 

 

 

そのせいか無性に、この子の寂しさを埋めてあげたくなったのだ。

その心は、モデルのあこちゃんへの罪滅ぼしか、はたまた持たざる者である私から彼女への羨望の気紛れか。

 

 

 

**

 

 

 

「さてと、ここまでの手順はもうすっかり手慣れたもんだ。」

 

 

 

禁忌と言えど、こうも繰り返せばその準備などは当たり前のように熟せる様になってくる。シミュレーターを前に、且つての知人のデータや記憶・その他人格形成に役立ちそうなものを入力していく…が。

 

 

 

「成程、"特質"…か。」

 

 

 

かのん・ふらんの件から再度システムを見直した私は、シミュレーションの時点でより精度を上げ選択肢を広げるための項目をソフト内に追加していた。それが"特質"。物質や物体、データや音・光といった形の無いものまで何であろうと取り込み、遺伝子レベルで組み込むことができる。

この項目により、より人格再現の精度が高まったと共に"微妙にコレジャナイ感"を伴う個体も生み出せるようになってしまった。今まで「形になるか否か」だったものが「形になること」を前提とした精度の差が付くようになったと言う訳だ。これはこれで挑戦し甲斐があるし、創り出した後の充足感も一入なのである。

 

 

 

「あこも、なにかおてつだいすることあるー?」

 

「そうだねぇ…。」

 

「あこにできることなら、なんでもするよっ!」

 

「………。」

 

 

 

恐らくあこは、今から何をしようとしているかもあまり理解はしていないだろう。姉の存在を示唆するような発言もしたくない…糠喜びというのは本当に純粋さに傷を入れる行為だと思っているからね。

ただ手伝いたいというその意向も無下にしたくは無いので、一つ提案をしてみることに。

 

 

 

「あこはさ、ずっと一緒に居るとしたら、どんな人が良いかな?」

 

「えっとねー……あっ、おねーちゃん!」

 

「っ!!!……そっかぁ、お姉ちゃんかぁ。」

 

「うん!つよくてぇ、かっこよくてぇ、やさしいの!!」

 

「そかそか…。」

 

 

 

これはもう十分と言っていい程の成功例かもしれない。元のあこちゃんがどんな子だったか完璧に把握している訳では無いが、姉の方のイメージはまさにそんな感じ。

少々ガサツなところもあるが面倒見は良いし、常に男が途切れないくらい美人な癖して髪がショートの時期なんかは女性にまでモテてたっけ。…私の思い描く彼女を作るのはそう難しい事ではないが、直接関係を深めていくのはBD-010A(あこ)だ。この子の思い描く姉像に出来るだけ近づけてやりたいと思う。

 

 

 

「なんかね、どぉーん!ってなって、ばぁーん!ってかんじなの!!」

 

「……どーん、ばーん…???」

 

「そうだよ!それはまさに、しっこくのやみよりうまれいづる、しんえんのまおうのみゃくどうのような…」

 

「心臓の音…って感じかな?」

 

「ぴんぽーん!おっきいどきどきがずんずんってなって、あこはなんだかうれしくなるんだぁ!」

 

 

 

どーん、ばーん、ってなってズンズン心臓に響く…と言ったところだろうか。花火…ロックバンドのベース…コントラバスなんかも連想されるが。

肝心なのはその要素をエッセンスとして掛け合わせたときに、辿り着きたい人物像にどれだけ近づけるかという事。要するにあこのフィーリング次第と言う訳だ。

 

 

 

「花火とか…そういう「どーん」?」

 

「んぅ…ちがうんだよなぁ。」

 

「ふむ。……どーん、ばーん…。」

 

 

 

破裂音、或いは衝突音とも呼べるか。分類するにはかなり幅広く分布する"音"ではあるが…身近にそういったものがあったろうか?少し住処の中を探そうと色々部屋を回ってみることにする。

大掃除の最中に今の部屋が終わっていないまま隣の部屋に手を付ける様な、まるで宛ての無い作業ではあるが、かのんの時も些細なリフレッシュから鍵を見つけたのだから…強ち軽んじる訳にもいくまい。

呟きながら突如として立ち上がった私を心配する様に、その30cm弱の体躯を揺らしながらBD-010Aもついてくる。とてとてと聞こえるコミカルな足音も心なしか不安げに響いている。

 

 

 

「ここには何か…いやそう簡単にはいかないか…?」

 

「○○はなにをさがしちゅうなの?」

 

「あこのお姉ちゃんっぽいものだよ。どーんって感じのをさ。」

 

 

 

キッチン・浴場・トイレ…と、無駄に水回りを経由した後に訪れたのは沢山の玩具が散らかっている部屋。私は滅多にここを訪れることは無いが、ぷちどりたちは遊び場としてよく過ごす場所らしい。夜になるとリサとかのんが一生懸命片付けやら掃除やらをやってくれていると聞いた気がするな…。

成程、ここなら何かしらあるのではないかと期待して――

 

 

 

「○○!!!これぇ!!!!」

 

「…………ほほう、確かにこりゃ「どーん」だね。」

 

「うんっ!!!」

 

 

 

――まさか部屋に踏み入れた時点で見つかるとは思っていなかったがね。あこのフィーリングに任せるとは言ったが、ここまで一直線に向かっていくとは思わなんだ。

ボールで遊ぶ犬の様にダッシュで戻ってくるあこと一緒に、私も少しワクワクしながらマシンへと戻るのだった。

 

 

 

**

 

 

 

「おねーちゃぁぁああああん!!!」

 

「あこおぉぉぉおおおお!!!」

 

 

 

もう何度目か分からないハグを交わし、グリグリと互いの頬をこすり合わせる姿に涙が出るほど笑った。笑い過ぎて、リサに背中を摩らせてしまう程、酸欠になる程感情を露わにしてしまった。

勿論純粋にその光景が面白かったこともあるが、目の前で起きる神秘と科学の発展に胸が躍ったのだ。自らの仮説と経験・直感に運が重なり出逢いは生まれる。それはきっとこれからも同じことで、その出逢いの数だけこの"日記"は頁を増していくだろう。

 

 

 

「○○。」

 

「あん?…なんだい。」

 

「アタシの名前…だけどさ。」

 

「…そっか、笑うのに夢中でつけ忘れてたね。」

 

「……見たことない位笑ってたな、お前。」

 

「何もかも見たことないでしょうに。あんたはまだ赤ん坊なんだよ?」

 

「…………そうだったな。確かに()()()()()()、赤ん坊か。」

 

「…………え?今何て」

 

「それよか名前だよ。…あるんだろ?お前のセンスが爆発してるヤツ!」

 

「あ、あぁ…ええと。」

 

 

 

BD-012T。…手元の、裏紙を束ねて作ったお手製のメモ帳にはそう記されている。だが例によって型番なんかで呼ぶつもりはなく、且つての"彼女"の名前に寄せた新たな名前は――

 

 

 

「……てょもえ。」

 

「あっはははは!!!なんだそれ!!」

 

「………うっさい、噛んだんだよ…。」

 

 

 

ともえ。…そう呼びたかったのに、興奮のあまり噛んでしまった。それをアイツみたいに大口を開けて笑うもんだから、つい。

 

 

 

「もう、そんなに笑うんなら知らない。本当に「てょもえ」って呼ぶからね。」

 

「ははははっ!いーぜいーぜ!全然いいよ!!センスも変わってないなーお前ー!!」

 

「…マジでうっさい。」

 

 

 

斯くして、あこには待望の姉が、私には昔なじみの顔がまた一人増えたのだった。

研究はまた一段階伸びしろを見つけ、今は興奮からまともに思考できない頭でも時間を置いてクールダウンした後に突き詰めていくだろう。

ただ純粋に喜んでしまって目を向けることも無かった、人格再現というおかしな事象に。

 

 

 




どんどんふえるぷちどりふぁみりー。




<今回の設定更新>

○○:意外と交友関係は広そう。
   どんどん禁忌を冒し、神の領域へと踏み入れていくご様子。
   ちなみに、まるで自給自足の様に振舞っている家庭菜園も研究の産物で、
   あらゆるエネルギー・食物・飲料はその他物質からの変換に成功している。
   最早創造神レベルだが、本編で触れる気は無いのでここで補足しました。

あこ:BD-010Aの型番を持つ紫髪のぷちどり。
   やたらと中二くさい言動を繰り返すが、知能故かどこかあほっぽい。
   姉が大好きで、モデルの記憶を呼び覚ますほど。

てょもえ:そいやそいや!そいやっはぁっ!
     せいせいっ!せいやぁ!あーやっはぁ!
     そぉいそいそいっ!そいやいさっはぁ!あーらよっと!
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