BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/10 4.友情と年始の筋肉痛について

 

「ふはぁ……こうも雪が多いと参っちゃうな…。」

 

 

 

無事に年を越して早十日。厳かな雰囲気は何処へやら、降雪地帯であるこの都市に所在する私の研究所もご多分に漏れず、除雪の作業に追われていた。最近また少しずつ増えてきたぷちどりやフラグメント達の力を借りて毎日熟している訳だが、こうも連日続かれると流石に厳しいものがあるのだ。

ぷちどりという自分の娘の様な存在が出来たこともあり、安全面への考慮から自走型の除雪機を廃止…それ故の人力除雪作業なんだが、如何せん腰にクる。腰の痛む箇所をとんとんと解し、自然と曲がっていく背筋を伸ばす私を見てケラケラ笑うぷちどりや、新雪に燥ぎ転げまわるぷちどり。個性というものが実に現れる光景だが、一人黙々と作業を手伝ってくれる者もいる。

 

 

 

「…さーや?取り敢えず道は出来たし、残りは午後にやろっか。」

 

「えー?こっち半分は良いとして、あっち側はやっちゃわない??」

 

 

 

全身をモコモコと私お手製除雪作業着で固めたぷちどりが、子供用サイズのシャベルを置いて振り返る。一旦の昼休憩を提案してはみたものの、彼女にはこの中途半端な状態が気に入らないらしい。

目の前の公道の方を指差し、まだ終われないと切り返す。

 

 

 

「あっちの方って、さーやの身長だと埋まっちゃうでしょ??どうやって雪押すつもりなの?」

 

「……でもさ、早く雪退かさないと今日の新聞も見られないでしょ?」

 

「あー……うん、まあそれは追々、ね?」

 

「その言葉は一昨日も聞きましたー。」

 

「はっはっは、さーやは手厳しいなぁ。」

 

 

 

BD-005S、名を「さーや」と名付けた彼女は、今ウチで暮らしているぷちどり達の中でも取り分け精神が成熟している個体であり、私でさえも時折母親の様な威厳を感じてしまう程のしっかり者さん。

他の子らもまるで姉や母親を見るかのように慕っている節があるし、こうして行動力や判断力もある。現状唯一私を叱りつける存在でもあり、物臭な私が積雪故に諦めている朝刊の回収をこうして完遂させようとするのだ。

正直、パンパンになった郵便受けに諦めすら抱いている私は、雪解けを待つ姿勢で居たのだが…。

 

 

 

「もー。○○ってばほんとだらしないんだから。」

 

「そうだね…。…分かったよ、じゃあここから…あそこまで。広さは求めずに、さーやくらいの幅で道を作るのはどう?」

 

「…んー。それって、○○通れる?」

 

「朝はさーやの方が早起きでしょ??…ついでに取ってきてよぉ。」

 

「…はぁぁ…。しょーがないな、じゃあその分朝食が遅れちゃうから、準備手伝ってくれる??」

 

「交換条件と来たか…!…うん、いいでしょう。分担は後で決めよ?」

 

「りょーかい。…じゃ、さっさとやっちゃうよ?」

 

「はいはい…。」

 

 

 

どうやら、私も朝食準備の係に取り込まれてしまったらしい。朝が得意な訳では無い私は、いつもこころんに圧し掛かられるようにして起こされている。要はぷちどり達よりも遅く目覚める形になる為、朝食含む家事の殆どもこの子らに任せっきりなのだ。

頼んだ覚えも命令した覚えも無いが、自分たちの生命維持ないし生活の為にそれぞれが学習し取り決めたのだろう。研究結果としては大いに収穫のあるものであるし、彼女等に頼まれた装置やプログラムを組むことで私の技術力も上がる…と、何とも夢のような環境ではあるのだが。

 

 

 

「こら、何ぼーっとしてるの?早くやらないと終わらないんだからね。」

 

「…あいよ。」

 

 

ばしゅっ

 

 

「あうっ。」

 

 

 

腰に手を当て仁王立ちのさーやの顔面に柔らかく丸められた雪玉が弾ける。なんとも間抜けな声で尻餅をつき、ブルブルと首を振って水気を切る姿はまるで犬のようで可愛らしいが…後ろであわあわと過失を悔やむ犯人に目を向ける。

 

 

 

「かーしゅーみー?」

 

「ひぅっ!…ち、ちがうの、ありしゃちゃんがすっごいの投げてくるからね、わたちも負けないよってやったんだけどねっ、ありしゃちゃんは足がびゅんってしてるからね、それでね」

 

「間違えてぶつけちゃった時はどうするんだったっけ?」

 

「えぅ、あう……その…」

 

 

 

まるで猫の様な何とも特徴的なシルエットを形作る髪型の少女、BD-001K「かしゅみ」がその小さい体を一生懸命に使って必死の弁明をする…が、ここは保護者として、過ちを犯した時の対応を教え込まなければならないのだ。

少し顔が怖かったのか、ビクリと体を震わせ近づいて来る彼女は最早泣き出しそうだ。当のさーやはマフラーで顔を拭き終え、特に怒ったり悲しむ様子も無くかしゅみを見ている。さーやのことだ、本当は笑顔で迎え入れたいだろうに私のやろうとしていることも察しているんだろう。

 

 

 

「かしゅみ?なあに??」

 

 

 

もじもじと体を揺らすだけで何も言い出せないかしゅみに、さーやが優しい声で問いかける。

直後、ぶわっと溢れ出す双眸からの涙と謝罪の言葉。

 

 

 

「あ、あの"ね"…わたちね、えっとね、さーやちゃんにね、痛いことしようとしたわけじゃないんだよ、でもね、まちがってもね、さーやちゃんにぶつけちゃったからね、えっとね……ご、ごべんなざいな"の"ぉ…」

 

 

 

言い終える直前、最後の「えっとね」のあたりからほぼまともな声になっていなかったが、「悪い事をしてしまったら謝る」というプロセスは実行できた。崩れ落ちる様に泣き出すかしゅみを尻目にこちらに視線をやるさーや。頷きで返すと、泣き声を一生懸命抑えようとしゃくり上げるかしゅみの体を包み込む様に抱いた。

 

 

 

「うん…ちゃんと謝れて偉いね。…私は、怒ってないから大丈夫だからね。今度は近くに誰も居ないところで思いっきり投げようねえ。」

 

「うん……うん………うん……!!!…ごめんなざぁいぃ!さーやちゃぁあぁん!!ああぁぁあん!!!!」

 

 

 

許されることで大きくなる泣き声は安心に包み込まれることが由来するんだろう。ここまで優しく諭された経験のない私にはよく分からないが、さーやはきっといい母親になる。…と思う。

ところでぷちどりに子供は出来るんだろうか…と脱線した考えに及んだところで、木陰からじっとこちらを観察する小さな影を見つけた。さらりと零れるような金髪は隠せておらず、釣り気味の目は真っ直ぐにさーやとかしゅみを見詰めている。

その不審人物の死角をキープする様に近づき、後ろからひょいと持ち上げてみる。

 

 

 

「こら、ありしゃ。何してるのこんなところで。」

 

「や、やべー!…なにもしてないけど?」

 

「嘘おっしゃい。今、かしゅみから全部聞いちゃったんだけどなぁ。」

 

「………くっ。」

 

「正直に言ったら怒らないでいてあげるけど?」

 

「……………ありしゃは、かしゅみと雪遊びしてただけだし。」

 

「…だろうけど、かしゅみが泣いちゃってるよ?行ってあげなくていいの?」

 

 

 

眉間に皺を寄せ、視線だけをあちらこちらとふらふら彷徨わせるありしゃ―型番はBD-002A。もちもちの頬は霜焼けで真っ赤だ。

もごもごと言い辛そうにしていたが、体格差もあり逃げられないと悟ったのか小さく呟く。

 

 

 

「だって、今はさーやがいるじゃんか。」

 

「さーやが居たらどうして行かなくていいの?」

 

「う、うっせー!かしゅみはさーやの方が好きなんだろ!ありしゃはお呼びじゃないもん!」

 

 

 

一体どこで覚えたんだそんな表現…。

どうやら、つまらない意地を張っているらしい。当の本人に"つまらない"などと言ってしまえば怒らせてしまうだろうけども。

こんな時、きっとさーやなら上手い事円満に解決できるのだろうが、生憎と私にはそんな語彙力も発想もない。出来る限りの優しい言葉で、さーやにパスを回すとしよう。

 

 

 

「あのねありしゃ。かしゅみはありしゃが好きだから一緒に遊んでたんじゃないの?」

 

「……でも、今はさーやといっしょにいるだろ。」

 

「それはさーやに間違えて当てちゃったからでしょ?痛い事したら謝らなきゃ。」

 

「…かしゅみ、今あやまってるの?」

 

「そうだよー。いっぱい泣いてるけど、ちゃんと「ごめんね」って言えたから、今仲直りしてるんだよ。」

 

 

 

元から仲違いはしちゃいないが、表現としては間違えてないだろう。

 

 

 

「……。」

 

「ありしゃも、一緒にごめんねって言って来たら?」

 

「なっ……だ、だって、ありしゃはぶつけてないし…!」

 

「でも、さーやの方に逃げて行ったからかしゅみがそっちに投げちゃったんだよね?」

 

「う………。」

 

「……ありしゃは、かしゅみのこと好きかい?」

 

 

 

すっかり抵抗の体は辞め、落ち着いた様子で考えつつ抱き合う二人を見詰める。どこか寂しそうで、何かを我慢したようなありしゃに少し違う角度でのアプローチを試みてみる。

この、"攻める角度を変える"という発想は科学にも共通しているもので、そういった視点の転換であれば私にもできる。

 

 

 

「……すき。」

 

 

 

霜焼けの頬を更に赤く染め、消え入りそうな声で返事を返す。

手応え、あり。

 

 

 

「そっか。…それじゃあ、さーやのことは?」

 

「………すき。」

 

「うん。そうだね。…それなら、ありしゃも「ごめんね」ってできるかな?」

 

「……………ん。」

 

 

 

こくんと小さく、確かに頷いたのを確認し、雪の少ない場所へ降ろす。ついでに走り回ったせいで解けかかった緑のマフラーを直し、ポンポンと頭を撫でてやる。

 

 

 

「……いっといで。」

 

 

 

わーっと走り出すありしゃに気付いたのか、両手を開いて迎え入れるさーやとかしゅみ。収まりかけていた泣き声が二重奏にアップグレードされたのを聞きつつさーやを見れば無言のサムズアップ。

…わかったよ、仕方ないがここからは一人で頑張ろう。

 

 

 

「さぁて、もうひと頑張りしますかぁ。」

 

 

 

歩き回ったお陰で背中の凝りも幾分か気にならなくなったところで、先程近くの雪塊に刺しておいたスコップを引き抜き、ポストへの道を再び掘り出したのだった。

…あぁ、次は除雪用のパワードスーツでも造ろうかなぁ。

 

 

 




雪の日の一コマ。




<今回の設定更新>

○○:除雪作業から来る筋肉痛や凝りに若さは関係ない。
   ネーミングセンスが謎。

さーや:正式名称BD-005S。みんなのお姉さん、若しくはお母さん。
    異常な程面倒見が良く、落ち着きもある。
    理解力も半端じゃなく、主人公もテレパシーの研究を始めようと
    思ってしまう程。
    ポニーテールが可愛い。

かしゅみ:正式名称BD-001K。精神年齢的にもまだまだ幼く、すぐに泣く。
     髪型は猫耳のようにツノが立った独特な物…だが、恐らく原因
     は生成時に興味本位で入れた金平糖。
     この主人公、すっかり遊び感覚で命を創造している。

ありしゃ:正式名称BD-002A。かしゅみの姉妹体のように、同じ設計図で
     生成された経歴を持つ。こちらは金平糖ではなく固ゆでの
     ゆで卵を投入された模様。主人公曰く、
     「ハードボイルドになるかと思って」だそうだが…何故か出
     来上がったのは素直になれないツンデレ娘だった。

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