BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/02/05 5.才能と創造の極限値について

 

 

 

「○○っ!」

 

「どしたんこころん。」

 

「あたし、じょゆーになるわっ!」

 

()()()()……?あぁ、女優か?それまた急だね…。」

 

 

 

それは唐突の宣言。丁度先日開発した「人生楽々一生引き籠りセット」の発注受注転送装置を改良している時の出来事で、正直こころんが私の背中をよじ登っていた辺りで何か来るとは思っていた。思っていた…が。

女優とは書いて時の如く俳優業の女性を指す。ぱっと思いつくのはドラマや映画など演技表現の場での活躍。それにテレビを点ければCMや番組の華として見掛けることもあるだろう。…個人的な意見としては業務内容の掴み難い職業名だとは思うのだが、要は様々な要素を内包したタレント…観衆の心を動かす為の道具や歯車のようなものだと私は思っている。

そこをこころんが…ぷちどりが目指すと言うのだ。まぁこころん自体影響されやすかったり思い付きで物事を決める癖があったりするのは事実だ。だがそれなりに何かを感じて言っているのは間違いないだろう。

 

 

 

「急なのは相変わらずだけど…今度は一体何を見たの。」

 

「んとね、さっきテレビを見てたのね!…あ、勿論みっしぇるも一緒だったわ!」

 

「ずっと抱いてるもんねぇ。」

 

 

 

そこが定位置であるかのようにこころんの腕の中で大人しく脱力しているクマ。こころんはいつもこのみっしぇるを抱いて行動してるんだよね。

 

 

 

「そうしたら子供の将来の夢ランキングっていうのがやってたのよ!」

 

「あぁ、巷で調査しました的な奴だ。」

 

「…ちまたっていうのは…ごはん?おいしいやつ?」

 

「………こころん、ちまきとごっちゃになってない?」

 

「あのおにぎりみたいなご飯よね!」

 

「ちまきはね?巷っていうのは……ええと、何だろう、まぁアレさ。「その他大勢の人間の世界」ってかんじかな。今回で言うと、一般の子供たちに訊きましたーって感じ。」

 

 

 

厳密な意味など知らないが、大体の雰囲気さえ伝わればいい。こころんは頭の良い子だし、きっとニュアンスが伝われば後は自己で完結できるだろうし。

ちまきはこの前差し入れで貰ったものを皆で分けたから記憶として新しいだけだろうし…美味しかったけどさ。

 

 

 

「じゃあじゃあ、その他大勢の人はみんなじょゆーになりたがってるの?」

 

「あくまで人気職ってだけさ。子供なら子役って言う手もあるし。」

 

「あたしもなれるかしらっ!こやくっ!」

 

「こころん、女優って何する人か知ってる?」

 

 

 

そもそもの前提条件だが相手はぷちどりだ。寧ろ日常での会話やら感情表現が出来ている事も中々に不思議の塊状態なのだが、どこまで出来てどこからが出来ないのか、そこはまだ研究途中となっている。

体内のスキャンデータによると、人間の脳にあたる部位はほんの十数グラム程しか存在して居ないのだから、女優が何なのかすら把握できずに口が動いていることさえある。

 

 

 

「しらないっ!でも、皆を笑顔にしたり感動させたりするお仕事ってテレビで言ってたわ!」

 

「なるほどね。」

 

 

 

こりゃその部分から教え込む必要がありそうだ。とは言え私本人も交流のある人間も、芸能とやらの分野に関しては全く以て明るくない。

何せ生活の殆どを科学と研究に浸して生きているのだから、広がる人脈だってそう遠くないものになってしまうのだ。私は思い浮かべた中で最も外界に興味を持っていた且つての友人に連絡を試みることに。

 

 

 

「ま、何かを目指すってのはいいことだ。…私も女優とかについては調べてみるからさ、少し時間を頂戴な。」

 

「わかったわ!それじゃあ○○がじょゆーになるまで、あたしとみっしぇるもお稽古してくるわね!」

 

「…私が女優になる訳じゃあないんだけどなぁ…。」

 

 

 

元気に走り去っていく背中は、今日も可能性に満ち溢れているようで。

私は私の生み出した結果に、今日もニヤニヤが止まらなかった。

 

 

 

**

 

 

 

『誰かと思えばアンタか。電話の使い方知ってたんだな。』

 

「出ていきなりそれは失礼なんじゃないの?」

 

『電話越しにアンタの声聞く日が来るとは思ってなかったからな…で、急にどしたよ。』

 

(あおい)くんさぁ、アイドルだの女優だのと仲いいでしょ?」

 

 

 

枢木(くるるぎ)葵。彼と出会ったのは昔々のそのまた昔、私がまだ真っ当な科学者をやっていた頃の話。

十一歳で心を持ったAIを作り天才キッズとして注目されていた私がテレビに出る機会があったのだ。世界中の"特殊な"子供を集める特番か何かだったと思う。その番組のMCをやっていたミスだらけの新人アイドルが居て、収録後にその子を迎えに来たのが葵くんだった。

まだあの頃は人間に対しても興味を持てていた私はそのアイドルに絡みに行った。サインをもらうという名目で。そうしたなら案の定テンパってわたわたと百面相するものだから面白くなって…迎えに来た彼に「本当に十一かぁ?前世の記憶持ってるとか、ロリババアだとか、そういうんじゃねえだろうな。」と不本意な疑いを掛けられたりもしたが、何だかんだでそれ以来も交流は続いている。結局のところ、男の子はメカやマシンの類にロマンを感じるらしい。

 

 

 

『……面倒事頼もうとしてるだろ?』

 

「面倒ってわけじゃあないけどさ。身近な女優さんとかいない?」

 

『どんな質問だそりゃ。』

 

「……アイドル侍らせて暮らしてるんっしょ?アヤピから聞いたよ。」

 

『…あのバカ…!』

 

 

 

アヤピ…と呼ぶ程仲良くなった彼女こそ、出会いのきっかけになった例のポンコツ…あぁいや、元・ポンコツアイドル。名を丸山(まるやま)(あや)といって今や売れっ子の国民的アイドルに成長した素敵な女性だ。

実は彼らは従兄弟同士らしく、共に暮らしていた期間も長かったとか。アヤピの話だと今は同棲人数も増えてそれはもう乱れに乱れているとか……乱れる云々はこちらの勝手な想像だが。

 

 

 

「フヒヒ……で?」

 

『……まぁ、確かにウチに一緒に住んでる奴で女優はいるよ。』

 

「マジか。」

 

『…わかってて訊いたんじゃないのか?』

 

 

 

まさかこうも簡単にビンゴを引くとは。女優の卵の一人でも知り合いにいればと軽い気持ちでかけた電話だったが、この少女たらしは中々の結果を導いてくれたようで。

斯くなる上はすぐにでもその人物に引き合わせてもらって―――

 

 

 

「いや待てよ。」

 

『…あん?』

 

「…………ふふ、ふははっ!私は天才かぁ!?」

 

『……あんだってんだよ。』

 

 

 

―――引き合わせてもらうだって?そしてそこから地道に"女優たるや"を学ぼうって?

…そんなのは昔の私の考え方だ。昔からの知り合いに頼ったからといってやり方や考え方まで古くなってしまってどうする。今の私の持てる全てで以てして、今できる最善の選択で最良の手段を利用してやればいいだけなのに。

今の私には"創る"ことができるじゃないか。会うことが叶わなくとも、話すことが難しくとも、()()()()()()()()()()()してしまえばいいだけのこと。

 

 

 

「葵くん。その女優さんだけど。」

 

『あぁ?』

 

「プロフィールとかボイスサンプルとか写真とか、すぐに用意できるだけのモノを送ってくれはしないかい。」

 

『バカ言え、知り合いっつったって事務所とは何の関わりもない人間だぞ?流出だ私的利用だってクソうるせぇこの世の中でお前…』

 

「葵くんさぁ、私が外界と関わり持たない人間だって知ってるっしょ?それにほら、使()()()()()()()()()()()()()()()人間だってこともさ。」

 

『そらそうかもしれんが……あぁもう、今度は何やらかそうってんだよ?()()()だってアンタ、散々な目に遭ったじゃねえか。勿論彩だって悲しんだし、俺だって気持ちのいいものじゃ…』

 

「葵くん。」

 

『…ッ。』

 

「私はさぁ…もう一生分の業は背負っちゃったわけよ。もう……引き下がれないわけなんよ。」

 

『………。』

 

「今の私にはあの子達しかいない。だからあの子達が望むなら…またっ、【禁忌】にだって…!」

 

『わかったわかった。どうやってそっちに送りゃいいんだ?アンタのことだし、メール便だ何だって訳じゃねえんだろ?』

 

「……私は、君のような友人を持てて実に幸せだよ。」

 

『うるせぇ馬鹿。俺は彩の泣き顔が死ぬほど嫌いなだけだわボケ。』

 

「…相変わらずアヤピの事となると口が悪くなるようで。ククッ。」

 

『だーもう!早く教えろ!何だって送ってやるから!!』

 

「アァ――ッハハハァッ!!!」

 

『後で怒られんの俺なんだからな…。』

 

 

 

生身の人間と触れ合うのもたまにはいい。無論、彼の様に理解があって、無害な上に私の"生きる"邪魔をしない人間に限っての話だ、が。

 

 

 

**

 

 

 

「……あなたが○○ね。」

 

「お目覚めかい。……ええと、名前は確か…」

 

「しらさぎ、ちさと。きちんと覚えてもらっていいかしら?」

 

「はいはい、ちさとちゃんね。…ただ悪いんだが、ここでは名前は私が決める、いいね?」

 

「それが規則ならば従うわ。」

 

「ん、よろしい。…さてどうしたものか。」

 

 

 

机の上、綿とガーゼを敷き詰めた簡易的なベッドの上で目覚めた…いや目醒めた新しい生命。言語に関しての能力は軒並み平均以上、知力に関しても他とは一線を画している気がする。

反抗心も見えず問題なしだが、…オリジナルのフルネームを覚えているとは。…設計図を精密にしすぎるのも考えものということか。私が観測したいのは飽く迄も可能性の一途なのだから、完全にコピーを作ってしまっては何にもならず。禁忌どころの騒ぎでもない。

一先ず目の前の女優様に新たな名を冠してやらねば。

 

 

 

「しっかし、ダメ元で訊いたにしてはとんでもないものを引いたわ。」

 

「…なぁに?」

 

「あぁいやこっちの話。」

 

 

 

葵くんめ。白鷺(しらさぎ)千聖(ちさと)だって?

碌に外界に意識を向けない私でも知ってる超一流の女優じゃないか。何せ一部機器や生理用品等で使っている自作以外の"商品"、それらのPRやCMにだって起用されるほどなのだから。

大手企業が使いやすい、多用したいとし、どんなに難しい要求であっても難なく乗り越える…そんな彼女であれば女優の何たるかなぞ朝飯前だろうに。興奮のあまり嘗てない程の精度で設計してしまったよ。

実質葵くんにも何かしらの才能があるんじゃなかろうか。そんな大物やアヤピのような超絶可愛い子と平然と同棲してのけるのだから。…そのうち何かで感謝の意を伝えなければ、私の人としての僅かに残った部分すら許せなくなってしまいそうだ。

はて、彼であれば何を――

 

 

 

「あの、私の名前は?」

 

「…ん。…あぁ、ごめんね。つい考えに沈んでしまった。」

 

「そう。…自分の名前すらない状態というのは、何とも居心地の悪いものなの。早くね。」

 

「はは、それもそうだ。」

 

 

 

まるで人形のようにどこまでも澄んで綺麗な髪をまるで人形のような手で弄りつつ、上目遣い気味に恨み言をぶつけてくる小さな命。

ははぁ、これでは実際の白鷺千聖も中々に扱いづらそうである。葵くんあたりはどう手懐けているのか、はたまた敷かれているのか…。白鷺のような聖さと豊かに実る大き()()愛を持つ女性…なるほどなるほど。名は体を表す、とは斯く言うものか。

 

 

 

「…んじゃ、BD-017C。君に授ける名前は……"チサト"だ。」

 

「??……それじゃあ何も変わらないじゃないの。」

 

「あぁ。それ以上に君を表す言葉が見つからなかった…ということでね。ただ私は、親しみを込めて"ちーちゃん"って呼ばせてもらおうかな。」

 

「ちーちゃん?……随分と距離が近いように感じるけれど。」

 

「そりゃそうだ。私は君のお母さんだからね。」

 

「……まぁいいわ。あの男も私をそう呼ぶもの。」

 

 

 

…葵くん、やってんなぁ。

 

 

 

「それはそうと、君を生み出した理由だがね。」

 

「…ええ。」

 

「その…ただの女の子が女優になるにはどうしたらいいかな。」

 

 

 

厳密には()()()子ではない、けどね。それでも何も知らない小さな少女が目指すという意味では間違いじゃない。

ふわっとした問ではあったが、ちーちゃんは真剣に眉を寄せ…いや、これは、顔を顰め?

 

 

 

「それはまず無理でしょうね。」

 

「えっ」

 

「女優とは生まれるもので、作られるものではないもの。」

 

「それってどういう。」

 

「簡単なことよ。持って生まれる才能なの。あとから拾い上げたり、作り出すことなんてできないのよ。」

 

「………あー、その。」

 

「つまり私も、正しくは女優なんかじゃないのよ。創られた命、ある程度は都合よく貴女が"書き込んだ"ものなんでしょ?」

 

 

 

悲しげに、そして全てを悟ったような表情をこちらに向ける小さな大女優。何といったものか…送られてきた資料から一度読み込んだ白鷺氏の情報をもう一度洗う。

……あぁなるほど。今でこそ"頑張り"を観衆に見られることも多くなった彼女だが、出生から少なくとも数年間は完全に才能を感じさせる子供だったようで。まさに持って生まれた「天才型」。其れ故の考え方であるのだろうが…。

 

 

 

「それは申し訳ないとは思う。」

 

「まぁ、謝ってもらおうと思っているわけじゃないの。科学ってそういうものよね。」

 

「そう。」

 

「別にいいわ。…折角授かった命だもの、楽しんで生きるとするわ。」

 

「ん。まぁわからないことがあったら何でも聞いて。他の子達もいい子だし。」

 

 

 

大人びすぎている印象のせいで、仲良くやれるかどうかは何とも言えないけど。でもまぁ、さーやのような子もいるし、何とかなるだろう。

科学者の身でありながら希望的推測で話をするのはどうかとも思うが。

 

 

 

「あ、○○っ!…と、そちらはどなたかしら??」

 

「おやこころん。」

 

「はじめましてっ!あたしはこころんっ!あなたは…」

 

 

 

またいつの間にやら机の上までよじ登っていたこころんが軽快な足取りでちーちゃんに近づく。そういや二人とも、引くほど綺麗な金髪だなぁ。

 

 

 

「……○○、この子が例の?」

 

「あっ…そ、そうなんだよね。」

 

 

 

雰囲気で察したのか何かしらの特殊な能力があるのか…一目見た段階で早くも空気を読む姿勢になったちーちゃん。女優の成せる技なのか、完成度からくるスキルなのか。

できれば純粋なこころんの夢や憧れを打ち砕かないように程よくマイルドに事実を伝えて欲しいのだが…

 

 

 

「ふふっ…よろしく、私はチサト。ちーちゃんって呼んでね?」

 

「わかったわっ、ちーちゃんっ!」

 

「よろしくこころん。…ところで、こころんは何かやってみたいこととかあるの?」

 

 

 

おあぁ…ストレートに行ったなぁ。大丈夫か。

こういった科学に基づかない心理的なものは苦手な分野だ。手に汗握り見守ることしか出来ない。

 

 

 

「??…特にはないわっ!…あ、あたしお歌が好きなの!!」

 

「歌?…ええ、歌はいいわね。今度一緒に歌いましょっか。」

 

「えぇ!楽しみにしてるわっ!……あれれ?あたしみっしぇるをどこかに置いてきちゃったみたい。」

 

「おや、それは大変だね。探しておいで、こころん。」

 

「そうするわっ!…それじゃあ、またねちーちゃんっ!」

 

 

 

走り去っていく元気な背中は数時間前と何ら変わってはいない。…だが、女優云々はどうしてしまったのだろう。

また深く考え込んでしまいそうになる私にちーちゃんがニヤついた顔を向けてくる。

 

 

 

「ね、○○。」

 

「ん。……なーんだその悪い顔…。」

 

「子供ってね、あんなものなのよ。」

 

「…子供みたいな等身でえげつない事言うね。」

 

「あの男も貴女に対して同じ事を言っていたわよ?」

 

「……葵くんめ…。」

 

 

 

未だに同い年か年上のように扱ってくるもんな。十は若いってのに。

 

 

 

「ふふ、私たち、仲良くなれそうね?」

 

「そんな同志はいやだなぁ…。」

 

 

 

 




少し異色のぷちどりが増えましたね。




<今回の設定更新>

○○:よりマッド感を深めていく方針のサイエンティスト。
   意外にも交友関係は広く、様々な分野や世界(世界線)で活躍する人物との交流
   がある。
   彩とは愚痴を交わす仲。

チサト:BD-017Cの型番を持つ少し異様な雰囲気を持つぷちどり。
    いつも主人公が適当に放り込んでいる設計図や素材を究極に練りこむとこうなる
    模様。
    ほぼ本人のクローンのような完成度を持つ彼女は、当然のようにオリジナルの
    知識や記憶を引き継いでいる。

こころん:可愛い。記憶が飛ぶ時間については興味の強さとの関係性を調査する予定。

葵:枢木葵。アラサーになり本格的に結婚を意識し始めたらしい。
  現状Pastel*Palettesの五人と同居している形になるが、部屋数の都合から
  従妹である丸山彩と同じ部屋を個人スペースとして利用している。
  千聖ともそこそこにいい関係を築いているらしいが、この期に及んで人生の伴侶
  を選びきれない事で日々説教を食らうらしい。

みっしぇる:きせかえセットが今のところ八種類ある。
      タキシード、エプロン、ピエロ、ウェディングドレス、オーバーオール、
      ウェスタン、ポリス、セーラー服の八種類。
      全てリサの手作り。

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