BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【女神】イツモミテルカラ
2019/11/07 降臨


 

 

 

俺には、女神が見える。

…あ、今「こいつ頭おかしいな」って思った人、素直に挙手。……うん、うん、全員降ろしてよろしい。

この日記は、俺にしか見えない女神と、女神に全てを委ねた俺の記録。

 

…や、だから本当に、危ない奴とかじゃないから!!

 

 

 

**

 

 

 

『○○……○○……起きなさい。』

 

「……ぉ"あ"?」

 

 

 

我ながら凄い声が出た。車に揺られること一時間弱…ここ数日大して睡眠も取れていなかった為か、独特の揺れに眠ってしまっていたらしい。

乾燥した車内を見回すと隣に座っていた直属の上司が訝しげな顔をしていた。

 

 

 

「だ、大丈夫かい?風邪??」

 

「あー…大丈夫っす。乾いてるだけかと。」

 

「そっか。…もうちょっとかかるからねぇ。何なら、スマホ弄っててもいいんだよ?」

 

「了解っす。…まぁ、適当に過ごしますよ。」

 

 

 

車内には全部で五人。運転中の頭を刈り上げた先輩に、助手席でスマホゲームに夢中の…俺とは違う部署の年寄りマネージャー。それに俺の右側に座るふくよかな上司…肩書きはチーフだったかリーダーだったか…。

あと、後部座席で茶を飲んでる所謂お局だ。…あんまりこう言う表現はどうかと思うけど、俺はこのおばさんが好きじゃない。

 

 

 

「……もうちょっと、なぁ…。」

 

『○○、私が見える?』

 

「っ!?……あ、あなたは。」

 

「??どうしたの、○○くん。」

 

 

 

目の前、自分が投げ出した足と前の助手席の間にあるスペース。大凡人一人が収まる幅は到底無いのだが、そこに薄ら光る輪郭を持つ金髪の少女の姿が浮かび上がって見えた。

…あぁ、まただ。

今年に入ってから、このような現象が頻発するようになった。眠っている時、起きている時、仕事をしている時、食事をしている時、風呂に入っている時…いかなる時であろうと、唐突にその声は聞こえ、姿が見える。

今日はこの金髪の少女だが、たまに他の少女が現れることもある。…俺、疲れてんのかな。

 

 

 

「……またあんたか。」

 

『仮にも女神に向かって「あんた」とは…敬うって言葉を知らないみたいね。』

 

「そう言われてもな。女神感がねえんだよな。」

 

『女神感…。ふふん、だったら見せてあげようじゃないのよ。』

 

 

 

そう言うや否やフッと姿を消す自称女神。新手のホログラムか何かなんじゃないのか…。

一体どんな女神っぷりを見せてくれるのかと楽しみに待っているのだが、待てど暮らせど何も起こらない。あまりにそわそわし過ぎたせいか、後ろのお局も怒り心頭だ。

 

 

 

「……おい女神、何も起きねえじゃねえか。」

 

『いいから待ちなさい。……ほら、そろそろ変化が出てきた頃よ?』

 

「変化て……つか姿見えないのに声だけ…どうなってやが……ん!?」

 

 

 

脳内でドヤ顔を繰り出す金髪に、相変わらずの不信感を剥き出しにしていたところ…確かに唐突な"変化"が現れた。

…俺の体に。

 

 

 

『どう?…人間風情には抗えないものでしょう?』

 

「…やってくれるじゃねえか…女神さんよぉ…。」

 

『ふっ、せいぜい苦しみなさい。』

 

 

 

尿意。

それも、満杯のダムが決壊しそうな…そんな逼迫したレベルでの尿意。確かにこれは俺たち人間にはどうしようもない問題。

嗚呼、人とは斯もか弱き存在なのか。…尿意の前に人は、無力だ。

 

 

 

『…信じたかしら?』

 

「あぁ!信じた!信じたともさ!!」

 

『…よろしい。』

 

「…お"っ!?」

 

 

 

女神の存在を信じざるを得ない状況の中、彼女を肯定することにより、あれほど差し迫っていた尿意がまるで真夏の蜃気楼であったかのように消え去った。

それに伴い、俺の口からはまたしても変な声が漏れたが…社用車を洪水にしてしまうよりかはいいだろう。だからお願い…上司たちよ、あまり変な目で俺を見ないでください。

 

 

 

『…わかったなら、私のことは千聖(ちさと)様とお呼び。』

 

「は?嫌だけど。」

 

 

 

唐突に何を言い出すんだこの女神は。

 

 

 

『……あ?』

 

「千聖って、名前?」

 

『そうよ。恐ろしく素敵に可愛らしい名前でしょう?』

 

「……似つかわしくないレベルでな。」

 

『地獄に落とすわよ。』

 

「そういう言動が女神っぽくねえんだ…。」

 

『…じゃあ、千聖ちゃんでもいいから。』

 

「エラく落とすじゃんかよ。…もう一声って言ったら呼び捨てとかに」

 

『ならないわ。』

 

「そっかぁ…。」

 

 

 

どうやら"ちゃん"付けまでが限度らしい。

どういう経緯で気に入られたのかわからないが、俺はこの女神様とやらに憑かれてしまったらしい。結局この日も、事ある毎に千聖ちゃんが顔を出したせいで、大して商談も纏まらずに帰宅してしまったわけだが…。

 

 

 

**

 

 

 

「お帰りなさいでーす!!」

 

 

 

仕事以外の疲れのせいで精神的にヘロヘロになって帰宅した俺を迎え入れてくれるのは、もう二年程俺の面倒を見続けてくれている…さらに言うなら、半年前からは同棲している銀髪の美人。名前をイヴという。

…うむうむ、日本とフィンランドのハーフということもあって、相変わらずの美人っぷりだ。エプロンも似合っているし…ハグの強さも程よい。

 

 

 

「はいはいただいま…。」

 

『ふぅん……こちらは、どういった関係の女?』

 

「…まーだ付いて来てんのか。つかなんつー言い草だそれは。」

 

「??なんですか??」

 

 

 

人が玄関先でイチャついてる間に隣でジロジロと観察している女神。お?羨ましいか?羨ましいのか?

 

 

 

『…私のほうがいい女ね。』

 

「舌引っこ抜くぞてめぇ。」

 

『なっ……相変わらず女神を舐めきってるわね…。』

 

「…誰と話してるです?」

 

「あ、ああいや…。取り敢えず、風呂入ってもいいかな?」

 

「違うですよ?…コホン。…○○さん、ご飯にします?お風呂にします?それともせ・っ・しゃ??」

 

「その間違った和文化はまだ治らないんだな…お風呂いただくよ、イヴ。」

 

「いえっさーです!」

 

 

 

俺は浴室に、イヴは恐らく何らかの家事をこなしに行った。疲れを癒すにはまずは熱い風呂に入るのだ。大体の疲れはそれと、上がってからイヴと過ごすことで浄化される。

疲れを取るための入浴ということもあって、毎日の風呂は長引くことが多く、最初のうちはよくイヴも拗ねていたもんだっけか。湯気を纏い温度の上がっていく身体を感じつつ、凝り固まっていた体中が解れていく様な気がした。

 

 

 

『…色気のない入浴シーンね。』

 

「お前、風呂にまで付いてくるのか。」

 

『勿論。貴方に憑いてる女神様よ?』

 

「自分で憑いてるって言っちまったよ…。」

 

『それにしても粗末な物ね…』

 

「うるせぇ!」

 

『貴方ね…』

 

「第一、どうして女神さま程の方が俺なんかの所に出てくるんだよ。」

 

『…それは……。』

 

 

 

ここまで来て初めてもごもごと口籠る千聖ちゃん。

そんなに言い辛い理由があるとでも言うのだろうか。

 

 

 

「……何だよ。もっと偉い神様からの命令か??」

 

『はぁ…。あなたの馬鹿さ加減には呆れてモノも言えないわね。』

 

「べらっべら喋ってんじゃねえか。」

 

『……(あや)ちゃん、と聞いて何かわかるかしら?』

 

「………おい、そりゃお前…」

 

 

 

突然出たその名前に、俺は思わず激しい水音と飛沫を上げてしまった。

だってその名前は――

 

 

 

『私は、彩ちゃんからの指令をうけてここにいるの。…あなたの監視も兼ねて、ね。』

 

「監視…?…いや、あいつはもう」

 

『彩ちゃんは確かに存在しているわ。間違いなく、この世界に。』

 

 

 

――二年程前、俺との結婚式前日に失踪した、死んだと伝えられていた恋人の名前だったから。

 

 

 

 




新シリーズはちょっとミステリアスなギャグ調を目指します。




<今回の設定>

○○:25歳独身。二年前の衝撃的な事件をきっかけに精神面が著しく不安定に。
   その時同僚だったイヴに支えられる形で廃人にならずに済んだ。
   女神には頭が上がらないが…?

千聖:千聖ちゃん。ホログラムのような映像として視覚から情報伝達をすることも
   声だけを思念として伝えることもできる。
   様々な奇跡を起こせるが、MP制。
   あまり笑わない。

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