BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/23 進展

 

 

『待たせたわね。』

 

「ほんとだよ。」

 

 

 

最近見ないと思えば何処にいたのやら。久々に自分のデスクの空きスペースで仁王立ちしている小さな千聖ちゃん。

あれから――イヴの一件があってから『待ちなさい』の一点張りで俺の近くに現れることもなかった女神さんだが、久々に見てもイマイチ崇める気にならない顔をしている。

 

 

 

「…で、進展はあったのか?」

 

 

 

あぁ、普通にデスクに向かって話しかけている俺に対しての周囲の視線が痛い。上司なんかは「また始まったよ」とでも言いたげだ。

ごめんな、暫く普通に過ごしてたんだがな。

 

 

 

『進展があったから出てきたんでしょ。』

 

「あそ。…で?」

 

『結果から言うとね、アナタの同棲相手…若宮イヴも私たちと同じような存在なの。』

 

「…女神ってこと?」

 

『詳細には女神ではないのだけれど…』

 

 

 

そりゃ、俺に対して尽くしてくれる様や完璧に身の回りの世話をしてくれる姿は女神のようだ。だが本当に人間じゃなかったとは。

…ありゃ?でもご近所さんとかはイヴのこと認識できていたと思うが…。

 

 

 

『方向性は似てるのよ。ただ完全に人間じゃないってわけでもない。』

 

「…ハーフ的な?」

 

『あら、犬にしては察しがいいじゃない?』

 

「そのイジリまだ続けんの。」

 

『ふふっ、冗談よ。…まぁ半人半神ってところかしらね。人の身には大きすぎる力を何らかのきっかけで手に入れてしまった()人間…。』

 

 

 

そうか、ベースは人間なのか。そしてその体のまま能力だけ手に入れてしまったと。

力というのはきっと時折千聖ちゃんが披露してくれるぷち超能力のようなものなんだろうが…。

 

 

 

「その力…ってのは結構影響力すごいもんなの?」

 

『そりゃね。暫くアナタから離れて世界()()()()の在り方を見てきたの。』

 

「意味がわからない。」

 

『まあ聞きなさい。…じゃあそうね、今あなたが存在している世界を一つの陶器の壺…水瓶のようなものだと思ってね。』

 

 

 

ほう。

 

 

 

「あのー、○○くん?」

 

 

『本来であればその水瓶は、注がれた水を溜める⇒必要に応じて注ぐ…だけの役割なわけで、それ以上もそれ以下もあってはいけないの。』

 

「ほうほう。」

 

『まぁ、世界が勝手にアレコレ考え出したらまずいでしょって意味ね。理に則って調和を取る事が世界の役目なんだから。』

 

「うん?うん、まあいいか。」

 

 

「…聞いてるかい?○○くん。」

 

 

 

成程な、地球は回り続けることが正解だ、みたいなもんか。…ドヤ顔の千聖ちゃんはちょっと可愛いな。

 

 

 

『ところが、私が先日見てきたものは…ええと、明らかに付け足されたような取っ手が付いている水瓶の姿だった。それもその中を水が通らないタイプのね。』

 

「水が通らないタイプ……あー、世界が干渉できていない…的な?」

 

『そうそう、そんな感じ。』

 

 

 

この子、思ったより頭良くないのかな。微妙に説明がわかりづらい。

 

 

 

『継ぎ目も丸分かりだし存在も不安定でね。…素人の仕事って感じよ。』

 

「ふむ。」

 

『それを根拠としてあちこちあたってみたら案の定…最近矢鱈滅多に世界変革の能力を使いまくってる輩がこの辺に居るってことでね。』

 

「…やべぇな。」

 

『それが私たちの母体でも把握できていない個人のものらしくって…最近力に目覚めた人間の仕業、という線が浮かんできたのよ。』

 

「よくわからんがわかった。…で、俺はどうすればいい。」

 

 

「…だめだ、また例の病気だ。もちょっと待ってね、ごめんね。」

 

「いえ、お気になさらず。」

 

「ごめんねぇ…。」

 

「だ、大丈夫ですっ!待てますっ!…ねっ、はーちゃんっ!」

 

 

 

結局のところ女神やら何やら、諸々の超常的な存在に対しての疑問や疑心は消え失せていた。…それどころか、次から次へと出てくる非日常の予感に寧ろワクワクしていた。

外野の声など聞こえないほどに。

 

 

 

『私ではまだ世界の内包物…要はアナタの身の周りの人間には干渉できないから…アナタには少しずつ若宮イヴの正体を暴いて欲しい。力に目覚めたきっかけやそれを行使する目的……そして、彩ちゃんをどうする気なのかを。』

 

「ッ!!」

 

 

 

久しぶりに聞いた。…懐かしくも愛しいその名前。思わず語気が荒くなってしまうのも許して欲しい。

 

 

 

「やっぱアイツも絡んでんのか…!おい千聖ッ!!俺はどうしたらいい!?俺は、アイツのためにどうしたらっ!?」

 

『あぁもう落ち着きなさい…。私も勿論彩ちゃんの為にできることはしたいもの!…今はまず落ち着いて、話を聞きなさい。』

 

「……あ、あぁ…すまん。」

 

 

「今日は一段とひどいねぇ…。」

 

「ちさと??」

 

「あぁうん。彼はよくその名前を呼ぶねぇ。」

 

「…………。」

 

「まぁなんだ、彼もぼっち歴長いから…仕方ないのかも…しれないんだけどさ。」

 

「しってますっ!いまじなりーふれんどって言うんですよね!!」

 

「そうなんだぁ。おじさん、そういうのは詳しくないからなぁ…。」

 

 

『さっきも言ったように、私は人間に干渉できない。だから大部分はアナタに動いてもらうことになるのだけれど…』

 

「あぁ。」

 

『それじゃああまりに心許ないし、今回のような事例は私たちの管理にも問題があったということで…ね。』

 

 

「○○くん!!いい加減に話を聞きたまえ!!」

 

 

「のわっ!?」

 

 

 

急に肩を掴んで揺さぶられる。千聖ちゃんが上下に分身した姿をみて間抜けな声を上げてしまった。

自分を呼び激昂する声の方を見れば禿げかかった頭を真っ赤にして怒り心頭の上司と、見たことのないスーツ姿の女性が二人、それぞれの気持ちを表した表情で立っていた。

 

 

 

「…ち、チーフ!?…何なんすかいきなり大きい声出して…」

 

「何なんすかじゃないよぉ!さっきから何度も呼んでいるのだがね!今日はキミが部下を持つ日だと言ってあったろうに!!」

 

「……ぁ。」

 

 

 

確かに、言われてみたら今日はそんな予定があったような気がする。だがこっちはそれどころじゃない。かつての嫁が大変なのだから。

…おまけに女神からミッションを貰ったときた。そんなの真面目に仕事なんかしている場合じゃ…ありゃ、さっき何か言いかけてたな千聖ちゃん。

 

 

 

「ま、まぁいい…ずっと待たせてしまって悪かったね二人とも。それじゃあ自己紹介を。」

 

「は、はい!!」

 

 

 

直前に叱られていたとは言えここから仕切り直しだ。改めて襟を正し、彼女らと向き合う…名刺の準備もしておこう。

まずはいかにもフレッシャーといった感じの幼い女性が一歩前へ出る。

 

 

 

「わ、私っ、今日からお世話になりますっ!い…市ヶ谷(いちがや)香澄(かすみ)ですっ!よろろ、よろしくおねがいしますっ!」

 

「…ふむ。」

 

 

 

市ヶ谷さんね…。薬指に光る真新しい指輪から察するに新婚さんなんだろうか。これだけ若そうなのに共働きで頑張ってくれるというのだから、旦那さんもさぞ幸せだろう。

…さて次。

 

 

 

戰場(いくさば)(はかな)です。……貴方の事は、千聖様よりお伺いしております。」

 

「………はい?」

 

「詳しくは、後ほど。…一先ず…ん"んっ。あたしっ、こーゆーお仕事初めてなんですけどぉ、精一杯頑張るのでよろしくっですぅ。」

 

「………。」

 

「………。」

 

「……………。」

 

 

 

何だろう。すげえ量の情報が一気に流れ込んできて頭が動かなくなったぞ。

 

 

 

((そう、そこの戰場を遣わせたから上手くやんなさい。彼女も若宮イヴと同じ、力に目覚めた人間だから。))

 

 

 

こいつ…脳内に直接…ッ!

 

そうして、俺に可愛い部下と頼もしい仲間?ができた。

上司は腑に落ちない顔をしていたが、どうやらここから俺は何かデカい物を相手に戦っていかなければいけないらしい。




さすがは女神の行動力




<今回の設定更新>

○○:傍から見たらすっかり異常者。
   ここ暫くまともに働いていただけに、そろそろ本気で入院させられそう。

千聖:可愛らしい女神。女神の中では中の上くらいの地位。
   この世界の生き物には干渉できないが事象や無機物にはある程度できるらしい。
   儚ちゃんとはそこそこに仲良し。

香澄:22歳。新婚さん。
   儚のことははーちゃんと呼び、可愛がっている。…と言っても、出会ったのは
   今日が初めて、それも会社の玄関からの数十メートルのみだが。
   設定としては、かつて香澄編のハロウィン回で登場したあの香澄。
   市ヶ谷有咲の兄・大樹と結婚している。
   笑顔が素敵。

儚:20歳(オリキャラ)。
  恐ろしく豊かな表情と声色は作りこんだキャラクターであり、社会を生きる上で
  無くてはならないものらしい。
  素は真逆で、表情も感情もほぼない。
  かつての事件をきっかけに千聖を盲信している。

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