BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「○○くん…○○くん、私の声、聞こえる…?」
「ん…………?」
「○○くん……やっぱり、まだ近づけて無いのかな…?」
「んん…??」
「千聖ちゃんは「もうそろそろ何かが変わる頃だ」って言ってたのになぁ……。」
「……ん、んぅ。」
「……○○くん。私、待ってるからね。…ずっと、傍で見守ってるから…。」
「………君、は…?」
「…あでも、あんまり浮気しちゃだめだよ?」
**
「彩ァ!!」
懐かしい声を聴いた気がする。懐かしい温もりに触れた気がしたんだ。
自分の声の煩さに目を開けてみれば見慣れた天井があり、次いで見えた窓の外には日が傾き始めた日常が映っている。そうか、イヴと入れ替わる様にして布団に潜り込んだのが朝の八時半頃…時計がないこの部屋だが、感覚的に六時間程は眠っただろうか。
夢にまで見るとは、希望というのは本当に残酷なものである。…あいつが現れるまでは悲嘆に暮れる一方だったのに。
『昼過ぎの起床とは良いご身分ね。』
「…おはよ。」
『おはよう。…どう?聞こえたかしら?』
「……お前が噛んでんのか、あの夢。」
『その言い様だと、声くらいは聞こえた…って感じかしらね。』
珍しく大きい頭身…限りなく人間に近いサイズの全身像で枕元に立つ女神様。仰向けで寝ている俺の枕元に立っている訳だから、当然スカートの中身が
『こーら。いい度胸ね?』
「…じゃあそこに立たなきゃいいだろ。…で、さっきの彩の声は一体。」
『……小さな、とはいえ確かな変化があったの。』
千聖ちゃん曰く、女神界の方で報告が上がってきたのが数日前。若宮イヴによって引き起こされた世界改変が今までと違う方向に作用したとか何とか。
プラス方向に動き続けていたものが急激にマイナス方向の力量を持ち始めたとか…正直寝起きの頭にはキツ過ぎる話題をベラベラと展開してくれた。
『ここで注意が必要なのは、改変は起こり続けているという事。』
「あ?…プラスに変わり続けていたものがマイナス数値を出したんだろ?少し元の状態に戻ったわけじゃねえのか?」
『それは飽く迄例えの上であって…ああもう、本当にポンコツね、この駄犬。』
「絶対言い過ぎだと思う。」
だが何となく掴めてきた。恐らく俺の理論を図にすると、
→→→…→"←"となれば最後の"←"分事態が収束しているのではないか、ということになり。
千聖ちゃんが説明するのはそうではなく、
→→→…と来るならば、"←"ではなく"-→"が生じなければ事態に収束は見られないという事になるわけだ。意味が分からないって?同意しよう。
「…つまりはアレだ、やり過ぎちゃったことに対して無茶な修正をしようとした結果…って訳か。」
『若宮イヴに修正の意思があったかはわからないけどね。…けれども奇しくも、事態は始点に近付いたのよ。』
「……それと彩の声に、関係が?」
雰囲気は把握できたが、イマイチその世界改変と彩の関係性が見えてこない。結局若宮イヴという特異点をどうにかしなければ最愛の彼女にも会えないのだろうし。
『前にも言ったでしょ。彩ちゃんは居るのよ、あなたの傍に。』
「…そう言われてもな。」
こちとら数カ月に渡り廃人生活を余儀なくされるほど落ち込んでたんだ。今更そんなことを言われてもいまいち信用できない。
『…今は何も聞こえないのでしょう?』
「うん。」
『……なるほどね。睡眠中…それも夢を見ている状態って、精神の存在が曖昧になるのよ。…だから、ほんの揺らぎ程度の要素でも干渉できる。』
「その揺らぎってのは、彩のことか?」
『ええ。マイナス方向の改変だなんて、ある種珍しいもの。あなたも大好きな彩ちゃんの声が聞けて、win-winでしょ?』
「ううむ……。」
その説明が先に在ればと、悔やんでも悔やみきれない。知っていれば、分かっていれば…少しでも言葉を掛けてあげることが出来たろうに。
歯噛みする俺に対して、珍しくも優し気な女神が静かに説く。
『……あなたの声は、いつだって彩ちゃんに届いているのよ。』
「…だから?」
『筒抜けだって言ったでしょ。今だってあなたの傍に居るんだから、伝えたいことがあるなら言ってあげなさい。言い辛ければ…私は少し姿を消すから。』
…この子、気遣いとか出来たのか。
『…ちょっと、いいシーンなんだから失礼なこと言うんじゃないわよ。』
「思考まで筒抜けなのはどうなのかと思うぞ?」
『……女神だもの。』
「…まあいいや。それじゃあ今は一言だけ。…彩、お前に言いたいことは沢山ある。…だが、全部お前を見つけ出してから、真正面からぶつけてやるつもりだ。」
『………。』
「…それまで、見守っててくれ。」
全てが終わった後でなきゃ意味がない。…それに、今吐き出したら俺も潰れてしまいそうだし。
折れるわけにはいかない…世界がどうとかは知ったこっちゃないが、お前の居ない毎日なんか…!
「…誰とおしゃべりしてるです??」
「!!」
寝室に入って来るイヴ。つい癖で通常ボリュームの会話を繰り広げて仕舞っていたが、リビングにまで聞こえて居たというのか。
その目にはいつもの様な活力は見えず、ドアから顔を覗かせただけで入ってこようとはしない。
「…ど、どした?イヴ?」
「……別に。ただ楽しそうなおしゃべり声が聞こえたもので。」
「……そ、そうかなぁ!?…いやぁあははは、最近独り言が大きくてさぁ!」
「…それより、随分と早起きですね。」
「それはその…ほら、幾ら長期の休暇とは言え、昼夜逆転が続いちゃマズいだろ!?少しずつ直していかないとなーなんて!」
今は只管に怖い。千聖ちゃんの提案もあり、ある程度イヴの調査と改変の手掛かりが見つかるまでの間休暇を取っている俺。勿論趣味やら友人との交流に割く時間もある訳で、気付けばすっかり夜型になってしまっていたのだ。
そう考えてみると、十四時台の今俺が起きているのは非常に珍しい状況と言えよう。
「…じゃ、じゃあ、夜一緒に寝てくれるです?」
「…はぇ?」
少しハイライトの戻った瞳でここぞとばかりに上目遣いを披露する、イヴ。くそぅ、反則級の可愛さだ…というか、そこが理由でここ数日機嫌悪かったのか…。
『…どうするのよ。』
「どうもこうも、どうしようもないだろ。」
ただ単に夜型だったわけではなく、イヴが寝た後の方が気兼ねなく千聖ちゃんと情報共有ができるというメリットもあったのだが。
不審そうに眉を顰める女神さまの姿に、言い様も無く後ろめたい気持ちになる。
『…彩ちゃん、見てるのよ?』
「わーってるっての…」
「む。また一人でおしゃべりしてるです…。」
「あ、ああ!いや、その…」
「むぅ……そんなに私と寝るのは嫌ですか。」
「嫌って言うか何と言うか…」
「…それとも、そこに居る金髪のお姉さんと関係があるですか。」
「!?」
慌てて姿を消す千聖ちゃん。俺の目の前、千聖ちゃんが立っている空間をジィーっと凝視していたイヴだったが、暫くしてくしくしと目を擦るとその目を丸くする。
「…ぁ、すみません。私の見間違いでした。…透けてる女性のマボロシを見るなんて…それもこれも、○○さんが放っておくせいです!責任取るです!」
「………ぁ…ぁ……!」
「あ、え、あ、すみません!責任は言い過ぎでした。…「イヴさんは重い所がある」って、イクサバさんにも言われたばっかりでしたのに…。」
勝手に自己完結してくれる彼女に少し救われたところもあるのだが、どういう事だろう。彼女に神の存在は認知できないんじゃ?
テンパりつつも何とか事態を収束させようと、ここは要求を呑んでおくことに。
「…彩、すまん……。」
「う?…私、アヤじゃないですよ。イーチャンです。」
「……わかったよイヴ。今日からはまた一緒に寝よ。…ッ痛!?」
言い終わるや否や背中を何かに叩かれた。いや、本当にね?申し訳ないと思ってるよ?でもほら、一番愛しているのは彩っていう事実もぶれていないし、心までは浮気性なところもないし…。
ドンドン、続けて二度、背中を強く叩かれる。心を読んでくる感じ、千聖ちゃんだな。
『あなた、その内本当に愛想尽かされるわよ。』
(…その時は千聖ちゃんが貰ってくれ…)
『…そういうとこだってば。』
何がトリガーかは分からないが、世界は確かに変わりつつあるらしい。
このまま彩のあの可愛らしい顔を一日も早く拝めるようになってくれたらいいのに。
一途ですからね。
<今回の設定更新>
○○:元々夜型だったこともあり、仕事が無く気を緩めるとすぐに昼夜逆転
生活に。今はイヴが家事全般を熟すから良いとして、彩と二人で過ご
していた頃はそれはもう凄惨な部屋になっていたとか。
浮気性じゃないんだよ、本当に。
千聖:出し入れ自由な女神。
若宮イヴを監視対象と言いつつも、何だかんだでずっと見ているのは
主人公であったりする。
はいてない。
イヴ:嫉妬がもう…。
主人公の生活リズムが変わりご立腹な模様。
大好きなんです。
彩:声だけの出演。わふぅ。