BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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新シリーズです。


【音楽】奏
2019/11/14 一曲目 愛し君へ


 

 

 

今、私たちの身の回りには素敵な音楽が無数に散らばっている。

それは、大きな会場を揺らすほどの熱気を纏った歌声であるかもしれない。はたまたそれは、小鳥の囀りの様な小さな"音"であったり、放課後の空き教室から静かに響く誰かのハミングであったり…

そういった全ての音楽には意思があり、意味がある。

 

メロディに織り込まれた情景を、歌詞という呪文として綴られた物語を。

まるで大きな波に飲み込まれたように、音楽が私の心を打つ度に込み上げるこのストーリーを只此処に記さん。

 

 

 

**

 

 

 

「おや、美咲。」

 

「…ん、あんたか。…また何か書いてたわけ?」

 

「何かとはなんだね。これはれっきとした作品だぞ?」

 

「ふーん…?」

 

「今日はね、丁度君をモチーフにして書いたんだが…良ければ読んでみないかね。」

 

「……えぇー…。」

 

「露骨に嫌そうな顔じゃあないか。」

 

「だって、あんたの書く作品ってあれでしょ?気に入った歌の歌詞から物語を興すっていう…」

 

「まぁまぁいいじゃないか。ほら。」

 

「………つまんなかったらグーで殴るかんね。」

 

「受けて立とう。」

 

 

 

* * *

 

 

 

嗚呼。最愛の君よ。

 

今、君に僕は見えているだろうか。

 

今、君に僕が感じられるだろうか。

 

今も尚、僕の愛が届いているだろうか。

 

 

 

美咲。

 

その名を、もう何度も何度も。何度も何度も何度も口にしたはずなのに。

君は振り返ることなく、立ち止まることも無く行ってしまった。

 

誰がどう悪いということも無く、誰かが正しかったわけでも無い。

 

いっそ抱きしめたまま離さなければよかった。離したく、なかった。

 

ずっとそのまま傍に居て欲しかったのに。

僕の傍で、何も問わずに微笑んで居て欲しかっただけなのに。

 

 

 

つまるところ、僕には決定的に足りていなかったのだ。

最後まで君の事を信じ抜ける…確かな力が。

 

例えば一時、偽りの言葉であったとしても。

「君を愛している」――そう素直に伝えられていたならばどうだったろう。

僕は、失わずに済んだだろうか。

 

 

 

こうしている間にも夜は更け、空が白み、また日の光が射し込んでしまう。

 

その眩い程憎らしい明日の光に、僕の中の君が掻き消されてしまいそうで。

僕の中の夜も、つられて明けてしまうような気がして。

……弱い僕はただ眠り続けることで自分を偽った。目を背け続けたのだ。

 

遠い記憶。微睡の中夢に見た、あの日溜りの中で微笑むのは且つての君か、それとも―――

 

 

 

嗚呼。最愛の君よ。美しく咲く君よ。

 

今、君は何処にいるのだろうか。

 

今も尚、あの柔らかい微笑みを湛えているであろうか。

 

今も尚、何処かで誰かを、その嫋やかな愛で包んでいるのだろうか。

 

 

 

叶うならば、今すぐ会いに往きたい。

今すぐ駆け寄って、叶わなかった想いを…全ての僕の素直を君に。

 

 

 

気付けばふっと消えてしまうような、一時の幻影でもいいから。

 

 

 

* * *

 

 

 

「………。」

 

「……………。」

 

「〇〇。」

 

「何だね。」

 

「グーで殴っていいんだっけ?」

 

「……本気か?」

 

「…何、あんたあたしの事好きなわけ?」

 

「全然、全く、これっぽっちも。」

 

「やっぱ殴らせて。」

 

「おいおい!それは物語が面白くなかった時の罰だろう!私情を挟むのは違うんじゃないかね。」

 

「…どうしてこんな恥ずかしいこと書けんの?ポエムじゃん、これ。」

 

「ある歌を聞いて、美咲のことを考えるとな…この苦しくも切ない情景が浮かんだのだよ。」

 

「ふーん…。」

 

「面白かったかね?」

 

「…あたし、そんな賢いわけじゃないからさ。まともに感想訊かれると困っちゃうけど……まぁ、悪くないんじゃない?」

 

「それだけ?」

 

「……この中の人が、すっごく…その、美咲って人を愛して求めているんだなって思った。」

 

「うむうむ。伝わったようで何よりだ。」

 

「あそ。…ねえ、やっぱりあんたあたしのことっ」

 

「そら、このイヤホンを付け給え。」

 

「あっ、ちょ!?」

 

「今一度、素敵な調べに心を委ねると良い。」

 

 

 

"愛し君へ"

 

 

 

 




新シリーズは少し変わった雰囲気のお話です。
飽く迄主人公は〇〇ですが、絡むキャラクターは色々と出てくると思います。




<今回の設定>

〇〇:素性が一切分からない、謎の男。
   その癖接しやすく、不思議と交友関係は広い。
   いつも古いMP3プレーヤーを持ち歩いている。

美咲:主人公とはいつどこで知り合ったのか覚えていないが
   ミステリアスで退屈しないな~という印象。
   色恋沙汰には疎く、その手の話題にも弱い。
   誰かを好きになったことも好かれたこともない。

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