BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2019/11/14 一曲目 愛し君へ
今、私たちの身の回りには素敵な音楽が無数に散らばっている。
それは、大きな会場を揺らすほどの熱気を纏った歌声であるかもしれない。はたまたそれは、小鳥の囀りの様な小さな"音"であったり、放課後の空き教室から静かに響く誰かのハミングであったり…
そういった全ての音楽には意思があり、意味がある。
メロディに織り込まれた情景を、歌詞という呪文として綴られた物語を。
まるで大きな波に飲み込まれたように、音楽が私の心を打つ度に込み上げるこのストーリーを只此処に記さん。
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「おや、美咲。」
「…ん、あんたか。…また何か書いてたわけ?」
「何かとはなんだね。これはれっきとした作品だぞ?」
「ふーん…?」
「今日はね、丁度君をモチーフにして書いたんだが…良ければ読んでみないかね。」
「……えぇー…。」
「露骨に嫌そうな顔じゃあないか。」
「だって、あんたの書く作品ってあれでしょ?気に入った歌の歌詞から物語を興すっていう…」
「まぁまぁいいじゃないか。ほら。」
「………つまんなかったらグーで殴るかんね。」
「受けて立とう。」
嗚呼。最愛の君よ。
今、君に僕は見えているだろうか。
今、君に僕が感じられるだろうか。
今も尚、僕の愛が届いているだろうか。
美咲。
その名を、もう何度も何度も。何度も何度も何度も口にしたはずなのに。
君は振り返ることなく、立ち止まることも無く行ってしまった。
誰がどう悪いということも無く、誰かが正しかったわけでも無い。
いっそ抱きしめたまま離さなければよかった。離したく、なかった。
ずっとそのまま傍に居て欲しかったのに。
僕の傍で、何も問わずに微笑んで居て欲しかっただけなのに。
つまるところ、僕には決定的に足りていなかったのだ。
最後まで君の事を信じ抜ける…確かな力が。
例えば一時、偽りの言葉であったとしても。
「君を愛している」――そう素直に伝えられていたならばどうだったろう。
僕は、失わずに済んだだろうか。
こうしている間にも夜は更け、空が白み、また日の光が射し込んでしまう。
その眩い程憎らしい明日の光に、僕の中の君が掻き消されてしまいそうで。
僕の中の夜も、つられて明けてしまうような気がして。
……弱い僕はただ眠り続けることで自分を偽った。目を背け続けたのだ。
遠い記憶。微睡の中夢に見た、あの日溜りの中で微笑むのは且つての君か、それとも―――
嗚呼。最愛の君よ。美しく咲く君よ。
今、君は何処にいるのだろうか。
今も尚、あの柔らかい微笑みを湛えているであろうか。
今も尚、何処かで誰かを、その嫋やかな愛で包んでいるのだろうか。
叶うならば、今すぐ会いに往きたい。
今すぐ駆け寄って、叶わなかった想いを…全ての僕の素直を君に。
気付けばふっと消えてしまうような、一時の幻影でもいいから。
「………。」
「……………。」
「〇〇。」
「何だね。」
「グーで殴っていいんだっけ?」
「……本気か?」
「…何、あんたあたしの事好きなわけ?」
「全然、全く、これっぽっちも。」
「やっぱ殴らせて。」
「おいおい!それは物語が面白くなかった時の罰だろう!私情を挟むのは違うんじゃないかね。」
「…どうしてこんな恥ずかしいこと書けんの?ポエムじゃん、これ。」
「ある歌を聞いて、美咲のことを考えるとな…この苦しくも切ない情景が浮かんだのだよ。」
「ふーん…。」
「面白かったかね?」
「…あたし、そんな賢いわけじゃないからさ。まともに感想訊かれると困っちゃうけど……まぁ、悪くないんじゃない?」
「それだけ?」
「……この中の人が、すっごく…その、美咲って人を愛して求めているんだなって思った。」
「うむうむ。伝わったようで何よりだ。」
「あそ。…ねえ、やっぱりあんたあたしのことっ」
「そら、このイヤホンを付け給え。」
「あっ、ちょ!?」
「今一度、素敵な調べに心を委ねると良い。」
新シリーズは少し変わった雰囲気のお話です。
飽く迄主人公は〇〇ですが、絡むキャラクターは色々と出てくると思います。
<今回の設定>
〇〇:素性が一切分からない、謎の男。
その癖接しやすく、不思議と交友関係は広い。
いつも古いMP3プレーヤーを持ち歩いている。
美咲:主人公とはいつどこで知り合ったのか覚えていないが
ミステリアスで退屈しないな~という印象。
色恋沙汰には疎く、その手の話題にも弱い。
誰かを好きになったことも好かれたこともない。