BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/08 休日には飯事を

 

 

 

「どうして俺は日曜だというのにこんなとこに…」

 

「いいから、つべこべ言わず手を動かすっス。」

 

「てめぇ麻弥、騙しやがって…」

 

「フヘヘ、来ちゃったもんは観念するっすよ。」

 

 

 

日曜。本来であれば一日休養に専念できる素晴らしい一日だというのに。

クラスメイトのこの眼鏡のせいで、俺は学校の家庭科室に呼び出されていた。

 

 

 

「よっし、出来たっす!!」

 

「んじゃあ俺はこれくらいで帰…」

 

「まだ稽古があるっすよ?」

 

「んなもん一人でやれば」

 

「手伝ってくれるんですよね?」

 

「………ヒエェ」

 

 

 

どうしても直接会って伝えたい大切な用があるとかで呼び出されたのが朝八時半。結局電車の遅れで待ち合わせ時間に数分遅刻はしたが、朝からかなり気を遣った。

それほど深刻そうな口調で電話かけてきやがるし、本当に何事も無くて良かったっちゃ良かったんだが…。

結局蓋を開けてみりゃなんてことない、いつもの「芸能事」に協力してくれとかいうやつだった。今回は舞台の稽古らしく、先程からせっせと台本のマーカー引きをやっていたんだが…。

 

 

 

「にしてもよく会議室なんか抑えたな。」

 

「あぁ、仕事関係の事に使って良いって契約になってるらしいんっす。事務所と学校の間で。」

 

「ほー…若ぇ奴が芸能界に入るってなぁ大変なんだな。」

 

「やっぱ本分は学業っすからねぇ。」

 

 

 

確かウチの学校にはもう一人、この麻弥と同じグループに属するアイドルが居たはずだが、そいつも似たような契約でやってるんだろうか。

何でも、芸能方面とはまた違った意味で有名人らしいが…

 

 

 

「…え、日菜(ひな)さんっすか??…あー、あの人はあの人で強烈っすから。」

 

 

 

らしい。

何が強烈なのかは分からんが、芸能界でやっていけるくらいなんだしきっと変人だろう。出来れば関わり合いに成りたくないもんだ。

 

 

 

「じゃあ、ジブン発声練習も終わったんで本読みに入るっす。」

 

「おう。」

 

「〇〇さんはお好きに寛いでいてくださいっす。…あ、でも会議室(ココ)から出ちゃだめっすよ?」

 

「」

 

 

 

それって監禁って言うんじゃ…と言いかけたが、伝えても無駄だろう。何せ相手はあの麻弥だ。

普段は全く押しなんか強くない癖して、こと仕事が絡んできた時には威圧感が凄まじくなる。男の俺もちびりそうになる程に。

今だって素直に言う事に従っているのは、その笑顔の下で何を考えているか全く予測できないからである。未知とは則ち恐怖。君子危うきに近寄らずである。

 

 

 

「…君子…いや、玉子だったかな…」

 

「何か言ったっすか?」

 

「あいや、こっちの話。」

 

 

 

本読みを始める…といっても、実際にベラベラ文字を音読するわけじゃあない。以前も同じ状況になったことがあるが、まずはその文章を只管に黙読するのである。

二人きりのこの空間で麻弥がそれを始めると否が応にも俺は黙り込んでしまう訳で、シン…と静寂が支配するこの空間では二人分の呼吸音と紙の擦れる音、それに時折鳴る椅子の軋む音のみが木霊するのであった。

あぁ、不思議と苦痛じゃないこの沈黙は何なんだろう。

 

 

 

「……………。」

 

「…………ん??」

 

 

 

その無音に身を委ねていると、妙に突き刺さる様な視線を感じ、思わずそちらを見てしまう。

真剣な表情の所謂"仕事モード"な麻弥が鋭い眼差しで俺の何かをじっと見つめている。…一体何を観察しているのだろうか。

 

 

 

「〇〇さん。」

 

「ん。」

 

「もしも、ジブンが○○さんの弟だとしたら、距離感ってどうなるっすかね。」

 

「弟ぉ…?」

 

 

 

成程、弟ね。俺自身弟は居ない為に適切な距離感ってのは分からないが…同性の兄弟だとしたら、然程考えずに好きな距離を保つんじゃないだろうか。用があれば近づくだろうし、普段特別べったりはしないだろうし…。

 

 

 

「んー……別に、今くらいの距離なんじゃねえの。」

 

 

 

授業を受ける通常の教室対比で八割程のサイズだろうか。その個室に、会議用の長机を挟み窓際の端に俺、それと丁度対角線で結べる位置…部屋の隅に麻弥。

特に関わる必要のない時、男兄弟なんてそんなもんだろう。

 

 

 

「……ふむ、結構寂しい感じなんですねぇ。」

 

「男兄弟なんてそんなもんだ。」

 

「…あ、そうか。いや……んー?」

 

 

 

何やら納得できていないご様子。何がそんなに不満だというのか。

麻弥の兄弟事情については知らないが、俺なんかに訊いてくると言う事は何もわからないからであるだろうし、何かで得た知識との差異に引っ掛かりを覚えているのかもしれないし…いや、そもそも何故俺がこんなに気を揉まねばならんのだ。

 

 

 

「あぁ、なるほど。謎が解けたッス。」

 

「謎とは?」

 

「いえね、ジブンの演じる役は"お姉ちゃん"で、"弟"がいるんすよ。でも、掛け合いや絡みのシーンが掴めなくて訊いた訳っすけど…。」

 

 

 

…合点がいった。

要は、麻弥は単純に"弟"という存在に対しての距離の図り方を知りたかったわけだ。だが俺は"兄"と"弟"の距離感を答えてしまったと。

それは当然、"男兄弟"特有の距離感の話になってしまうし、姉弟とはまた違った視点での役作りになってしまうと、そういう"謎"か。

 

 

 

「んじゃ、弟とどうするかって考えるよりお前がお姉ちゃんになってみりゃいいんじゃねえか?」

 

「…その結果がさっきの質問っすよ?」

 

「だからよ、弟とどの距離感~みたいに上辺だけじゃなくてよ、自分が完全に姉なら周囲のキャラクターとの関係性も自然に作られるんじゃねえのか?」

 

「………素人の割に結構言うっすね。」

 

 

 

ままごとみてえなもんだがな。…と心の中で思ったが、事実そう言ったところに通じる遊びなのかもしれない。

まずはなりきる、思い込むこと。第二者との関りは、本人が出来上がってからだろう。

 

 

 

「……それじゃあ、ジブンがお姉ちゃんになれるように、協力してほしいっす。」

 

「…協力ぅ??」

 

 

 

嫌な予感がする。

 

 

 

「弟役に……じゃなかった、弟になってほしいっす。」

 

「………げぇ。」

 

「何すか、不服っすか。」

 

「不服っつーか……何で俺まで…」

 

 

 

とは言えその言葉と表情にはふざけている様子も冗談のような雰囲気もまるで無い。飽く迄仕事として、真面目な提案なんだろう。

…なんだろう、勝手に乗りかかってしまった船ではあるんだが、手伝う責任が俺にあるのだろうか…。

 

 

 

「…まぁ、あるんだろうな。」

 

「はい?」

 

「いや、いい。…で、どうしたらいいんだ、俺は。」

 

「ええとっすね……あ、じゃあまずは呼び方から。」

 

「姉ちゃん、って呼べばいいのか?」

 

「待ってほしいっす。今本を…………あぁ、この弟くんは、「ねえね」って呼ぶらしいっす。」

 

「……あんだって?」

 

「「ねえね」っすよ。お姉ちゃんの呼び方。」

 

 

 

宇宙の起源は何処にあるんだろう。ビッグバンとかいう無から有を生み出す奇跡があったからこそ原始の世界が始まり、広がり続ける無限の彼方では今日もまた輝かしい出会いと希望に満ちた愛情の物語が紡がれていて――

――いけねえ、衝撃のあまりトリップしかけてたぞ。

……状況を整理しようか。俺は弟役になりきることで、麻弥のお姉ちゃん像完成を手伝う。…これはわかる。

まずは何処から手を付けたもんかと考えてみたが、手っ取り早いのは相手の呼び方からだよね。…これもわかる。

「じゃあ「ねえね」って呼んでみようか」…わからない。

 

 

 

「…わからない。」

 

「どうしたんすか?〇〇。」

 

「……姉からは呼び捨てなのか?」

 

「そっすよ。…ほら。」

 

 

 

言いながら台本を開いて近づける麻弥。……おぉ、本当だ。

 

"タケルはお姉ちゃんっ子だもんね。仕方ないよね。"

"ねえねはボクのこと嫌いなの?……ボクはこんなにも、こんなにもねえねを愛しているのに!!"

 

本気で"ねえね"って書いてある。…つか何だこの弟、怖くね?呼び名と喋り方でキャラぶれすぎだろ。何歳の設定なんだ…?

 

 

 

「…具合悪くなってきた。」

 

「大変っすね。」

 

「お前のせいだよ。」

 

「お前じゃ無いっす、"ねえね"っすよ。」

 

「この"ねえね"はそんな語尾じゃないぞ。」

 

「あぁっ!確かに!…s」

 

「息漏れてんぞ。」

 

「………〇〇。」

 

 

 

一呼吸置いたのちに、一際落ち着いた声で俺の名を呼ぶ。役に入っているのだろうが、不覚にも心臓を鷲掴まれたような感覚を覚えた。

…でも、本当に役に入るなら呼び名は俺の名前じゃダメだろ。

 

 

 

「……ね、ねぇね……。」

 

「うふふふ、もっと呼んで?」

 

「ねえね………ねえね……ううむ」

 

 

 

馴染まねえな。

 

 

 

「もっと大きな声で、いっつもみたいに呼んで…ごらん??」

 

「大きい……まじか。」

 

「マジよ。うふふ。」

 

 

 

わかった、多分麻弥にこの役向いてねえ。顔は引き攣ってるし、人物像が早くもおかしくなってる。「マジ」と「うふふ」のミスマッチ感がやばい。

 

 

 

「……ねえね!!」

 

「いいねぇ!!」

 

「ねえねー!!!」

 

「もっと、もっとよ!」

 

「ねえね、ねえねー!!!」

 

 

ガチャァ

「るんっ♪あ、麻弥ちゃ…」

 

 

「ああん、お姉ちゃん嬉しくなっちゃうー!」

 

「ねえね、ねえね、ねえねぇえええ!!」

 

「ぎゅーしてあげよっか!…ぎゅぅううう!!」

 

「ねえね!!…ぅぶっ。……!?あ、ねえね、じゃない、麻弥!」

 

「だめでしょぉ、ねえねってちゃんと呼ばないとぉ……って…!!」

 

 

 

あまりの非日常感のあまりぶっ飛んでしまっていた俺達は、休日の闖入者に気付くことも出来ず盛り上がってしまっていたらしい。

抱き締められた胸の中で一足先に気付いた俺の指す指に、ワンテンポ遅れて視線を向けた麻弥は思わず硬直。…会議室の入り口でニヤニヤとこちらを見ていた青髪の少女は、俺達が動きを止めたのを確認するとより口角を吊り上げて…

 

 

 

「麻弥ちゃんが、変態さんプレイしてるぅうううううう!!!!!」

 

 

 

大声を張り上げた。満面の笑みで。

 

 

 

「あっあわわわ、ち、ちち違うッス!!違うッス日菜さぁん!!!」

 

「…………。」

 

「なっ、何ぼーっとしてるっすか!!〇〇さんも止めてくださいよぉ!!」

 

「いやぁ……お前、結構胸あんのな。」

 

「ヒィッ…ば、馬鹿言ってる場合じゃ無いっすぅうう!!」

 

「あっはははは!!やっぱり変態さんだー!!!変態サンダー!!!!あひゃひゃ!!」

 

 

 

 

 

その後、騒ぎと変態ワードを聞きつけた教師陣にそれなりに怒られた。練習としては有耶無耶になってしまった感が否めないが、麻弥にあの役は厳しいだろうな。

しかしなんだ……

 

 

 

「埋まる程あんのか……。」

 

「…??何か言ったっすか?」

 

「…いや。」

 

 

 

やばいなありゃ。

 

 

 




すっすっすぅー




<今回の設定更新>

○○:演技とかそういったものには興味も無い。
   ふっかふかのクッションに顔を埋め、何かに目覚めてしまいそうらしい。

麻弥:「っす」はもう取り外しの利かないジョイントパーツのよう。
   一応「っす」と「ッス」でテンションが違うらしい。
   一生懸命になると何も見えなくなるご様子。

日菜:情緒がもう…
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