BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/26 四曲目 永遠なんて嘘ばかりだった

 

 

 

不思議と身に染みる言葉がある。

己と重ね、己を振り返るための鍵にもなる言葉。

 

自分はどうだったろう、自分はこうだったろうか。

気付けばそれは己をも表す言葉になり。

 

生きることは出会うこと。

出会うことは傷跡を残すこと。

 

 

 

**

 

 

 

「また君は……今度は何があったというのだね。」

 

「ふぇぇ?…あっ、○○さん!?」

 

「君は見る度に涙を流しているな。…尤も、今日はまだ流れ出してはいないようだが。」

 

「ふぇっ!?そ…そう、かなぁ…。」

 

「勿論泣くのは悪いことじゃあない。…その涙のあとに、ちゃんと前を向けるというのも、君の魅力の一つだからね。」

 

「そんなに泣いてばっかりいるかなぁ…?」

 

「少なくとも私の記憶だと涙に出くわすことが多い気がするがね?…この前なんか住宅街で迷子になって…」

 

「い、いいのっ!言わなくていいからっ!」

 

「…ふむ。…して、今日はまたどういう。」

 

「あぅ…えと、今日はその、思い出し泣き…みたいな、やつ、です…。」

 

「…………今日は夕日が綺麗だからね。そういえばあの日もこんな真っ赤な夕日を眺めていたのだったね。」

 

「……私が、○○さんに初めて出逢った…あの日のこと?」

 

「うむ。あの時も君は顔を涙で濡らし、ここでこうして一人夕日を眺めていたね。」

 

「…まだ、子供だったの。……色々初めてなことでもあったし。」

 

「実はあの時の君に見せたかった話があってね。…まぁ、あの日に見せても乗り越えられなかったろうが…少し大人になった今の君なら感じるものもあるかもしれないな。」

 

「おはなし…??」

 

「あぁ。あの日君に会う少し前に閃いた物語でね。…あまりにも君に重なってしまって、渡すに渡せなかった言葉だ。」

 

「……少し見てみたい、かも。」

 

「あぁ、そういうと思ってね。……それじゃあ花音(かのん)、これを。」

 

「…ん。………ぁ、これ。」

 

「夕日はまだ沈まない。あの日の君に、だ。」

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

五月蝿いくらいの喧騒、暖かかった街の灯がぽつりぽつりと消えていく。

齢十五ばかりの私たちには少しばかり難しい話だったかもしれない。

 

追い詰めてしまった君の涙が零れるのを、問うばかりで何もできない私は一人、立ち尽くし見つめていた。

冷たい風の吹く、卒業を目前に控えた一日―――。

 

 

 

 

 

"君"は出逢った最初の日から、私の中の一番大きな部分を埋めていた。

誰にでも分け隔てなく接する人懐っこさ、少し揶揄ったような明るい話し方、含羞んだように俯いて笑うその癖。

他にも挙げればキリがないくらい、私の全ては惹かれていった。

 

ずっと友達でいられると思っていた。

ずっと一緒にいてくれると思っていた。

ずっと私を、気にかけてくれると思っていた。

 

それでもいつしか心は変わり始め、ちょっとだけ特別扱いを求めてしまう私。

それが…私から"君"への特別な感情の始まりだと、今ならわかる。今ならもっと、上手にやれたはずだった。

 

 

 

卒業(お別れの日)まで一年を切ろうとした頃、私は"君"を想ってよく泣いた。

溢れていく涙の一つ一つに僅かばかりの疑問を抱きながら。

 

それでも私は誰よりも"君"を知っている自信があったし見詰めてしまっていると気づいていて。

いつだって頭の中は"君"でいっぱいで。おかしいことだと分かっていても、自分が止められなくて。

走り出しそうな感情を抑えることができないまま、只管に"君"を眺めていた。

 

 

 

気づいたんだ。知ってしまったんだ。

"君"が笑顔を向けた先に、私がいないこと。私が涙を流す訳を。

 

「ずっと友達じゃいられないの?」

 

そう口に出せば全てが終わってしまう気がして。その想いをそっと胸の内に、鍵を掛けて祈りを込めた。

 

 

 

そんな中、私の気持ちを知ってか知らずか"君"は、私に相談事を持ちかけてきた。

「あの人ともっと近づくには、もっと知ってもらうにはどうしたらいいか」そんな内容だったと思う。

 

平気なフリに徹していたら、それは上手に笑えているように見えるだろうか。

それとも滑稽な、異端の道化に見えるだろうか。

気づかれてはいけない気持ちを押し殺しつつ、それでも気づいて貰えるように。

都合よく解釈するのならば乙女心とでも形容できそうなそれが確かにあった。私の中に。

 

「大丈夫、きっと上手くいくよ」なんてどの口が言えたんだろう。

あの時の私は笑えていただろうか。一体どんな顔で、その嘘を吐けたのだろうか。

 

…今すぐでも会いに行けたらいいのに。

 

次の月曜日が待ち遠しく眠れない悶々とした日々の中、分りたくもなかった事実に枕を濡らした。

 

 

 

出会いは偶然、過ぎるは必然。

触れ合える時は有限で、記憶は永遠。

 

つまるところ、永遠なんて嘘ばかりなのだ。

 

胸の内に秘めた、あの想いの鍵穴が錆びたら――想いの丈を、祈ることなくぶつけられたら、その時は私自身の等身大で君に会えるのだろうか。

 

あぁ世の理とは残酷で。

今日もまた普通(ノーマル)じゃない感情が一つ淘汰されていく。

 

 

 

知ってしまったんだ。

"君"の眩いばかりの笑顔を護れるのが、私じゃないことを。

 

 

 

私たちは限りある時間の中、一生懸命に生きていくのだ。

押し付けるでもなく、降りかかるでもなく…ただ抱いてしまったこの愛だけを伝えたくて。

"君"にいつだって会いたかった。"君"を知らないのが怖かった。…"君"の想いに気付くのが怖かった。

 

来るべき明日が来ないように何度願っても、"君"の涙も私の想いも全部。

全部、いつの日にか消えていくのだ。

 

私の大きな部分を埋めていたその笑顔も、いつか。

 

 

 

あの日からどれ程の時と距離が経ったのだろう。

あの日からどれ位の現実が、私たちを裂いてしまったんだろう。

 

 

 

五月蝿いくらいの喧騒、暖かかった街の灯がぽつりぽつりと消えていく。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

「………これ、本当に私に出逢う前に?」

 

「あぁ。私は嘘を吐かない。」

 

「不思議…です。まるで見てきたような。」

 

「君がそう言ったところですこしズレているのは知っている。…だがまぁ、多様化する人の世だ。今となっては全てが個性であり、それぞれの色だからね。」

 

「………実は今日も、ちょっとすれ違いが…あって…。」

 

「だろうね。君の顔を見ればわかる。」

 

「…また、繰り返すところだった。」

 

「ん。………まぁ大切なのは伝えることだ。」

 

「ふぇ?」

 

「想いを秘めるは美徳…そんな時代は終わった。勿論押し付けがましいのは是とできないが、時には素直に吐き出してみるといい。きっと彼女も…美咲(みさき)も受け止めてくれるさ。」

 

「……美咲ちゃんとのことだなんて、言ってないんだけどなぁ…」

 

「…違っていたかね?」

 

「…………どうしてそんなに色々知ってるんです?美咲ちゃんに聞いたの??」

 

「…私はね、物語を創っている訳じゃあないんだ。閃く光景は全て、きっとこの世の何処かに存在しているものなのだよ。」

 

「難しいこといって…誤魔化そうとしてます?」

 

「問いに答えているつもりだがね。…私は目に見たものを言葉にして書いている。心情も、情景も、時間も背景も全てだ。」

 

「よく……わからないよぉ。」

 

「はっはっはっ。まぁいいじゃないか。見えないから、分からないからこそ人生は美しい。」

 

「むぅ……やっぱり教えてくれない気なんだ…。」

 

「拗ねるんじゃないよ…。ほら、まずは涙を拭きたまえ。」

 

「うにゅ……ありがとう。」

 

「なあに大丈夫さ。ちゃんと伝えられたら、()()()()()からね。」

 

「………………○○さんって、もしかして」

 

「さて、そろそろ遅くなってしまうからね。…お耳を拝借するぞ。」

 

「ふぇっ!?…あ、これ、イヤホンっ!?」

 

「…では、今一度、素敵な調べに心を委ねると良い。」

 

 

 

"永遠なんて嘘ばかりだった"

 

 

 




以前花音さん単独作品で書きましたね。




<今回の設定更新>

○○:どうやら作品と"彼女ら"の関係には何か意味があるよう。
   中々正体を明かそうとしないが兎に角色々知っている。

花音:名前を呼ばなすぎて分かりにくいが花音ちゃんです。
   涙と困り眉が似合うふわふわ系女子。
   女の子が好き。

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