BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
例え逃れられない運命があったとして。
その前に立たされるは誰もが無知な幼子である。
嵌り切ってしまえば何も見えず。
目を背けてしまえば全てが無に帰す。
問い続ける事しかできない"終わった"日々の中でも。
生きるという苦しみは最早呪詛なのだ。
**
「…それで、話とは?」
「やあ○○、来てくれて光栄だよ。」
「……変わったな君も。」
「なぁに、吹っ切れたと取ってくれて構わない。」
「…
「
「………。」
「…言いたいことはわかる。心配してもらえるのも有難く思っているよ。だがね――」
「せ…薫君。」
「――ッ。」
「気持ちは分かるが、無茶はいけない。…私はこう見えて、様々な人生を見て来てね。」
「………かの思想家、エメット・フォックスは言った。『否定的な考えを捨てる為に、積極的且つ建設的な思考を持て』と。」
「それで"彼女"の模倣でも始めたという事かい?」
「……。いいかい○○。これは模倣じゃない。飽く迄も私自らの足で辿り着いた一つの答えなんだ。」
「役者。…目指してるんだってね。」
「……聞いたのか。」
「彼女の友人の…ええと…」
「いや、それが誰であろうと些末な問題でしかない。彼女の成し得なかったモノこそ、私が追うべきだと思ってね。」
「……………。」
「……なんだいその表情は。旧知の私が立ち直ったんだ。もう少し綻ばせたらどうだい?」
「前に会ったのは彼女の葬儀の日だったか。…随分と変わってしまって。」
「……。」
「それが誤りだとは言わないがね。それこそエメットの言葉を借りるならば…『君の選択が君の運命を創る』。…だが、『今この瞬間を生きる事こそが芸術である』とも言える。」
「…何が言いたい。」
「……まあ何だ、言葉は常に不器用で事足りない。いつもの、でいいだろうか?」
「ハ!…口下手な○○の事だ。致し方ないだろうね。」
「助かる。……それでは、これを。」
「………。」
**
雨の匂いに懐かしくなるのは、何故でしょうか。
夏が近づくと心が浮足立つのは、何故でしょうか。
「…あ、瀬田さん?もう、大丈夫…なの?」
「ああ。見ての通り、瀬田薫完全復活と言ったところさ。」
「……あ、あれ?瀬田さん、そんな感じ…だったっけ…?」
「ふふん。実は兼ねてより、役者を志していてね。…観衆を騙す為にはまず自分を欺かなくては、ということに気付いたのだよ。」
「え…???」
「つまりだね、演技をするから嘘になる。その嘘を真にするために、日常生活を送る自分さえも演技で欺く…!そんな、役者としての生き方に身を投じることに決めたのさ…!!」
嘘だ。
彼女と同じ道を選んだと錯覚させることで現実から逃げているだけ。大丈夫な私を演じているだけなのだから。
勿論、小さな頃から役者を志していたのは本当だ。けど、彼女を喪ってからというもの、必死に取り繕うために探し利用したのがこの"夢"だった。
「…っあー…うん。なるほど…ね?」
「あぁ…!儚い…!!」
「あ…あはは……じゃ、じゃあ、私、そろそろ行くね…??」
「あぁ。また会おう、仔猫ちゃん。」
「……うん?」
「………。」
自分でも滑稽さには気づいている。でも決めたんだ。彼女の遺志を継ぐと。
…決めたはず、なのに。その決意を笑われて、涙が出るのは何故でしょうか。
いつかきっと報われるその日を夢見て、我慢しなければいけないんでしょうが。どうすれば彼女を忘れずに居られるんでしょうか。
一人歩く街や人込みで思いがけず聞こえてくる「さよなら」の言葉にさえ苦しくなって。
気付けば目に映る夕焼けにさえ動けなくなってしまう。立ち直ったつもりでも陰に潜む感傷の日々。
――世の中の、幸せな皆さんに質問です。
私はこの先、どう生きて行けば救われますか。
そんなこと、誰も解る訳ないと一蹴されてしまいますか。
苦しい人生が送りたいわけじゃない。叶うなら、何も負わずに、悲しむことも怒ることも悔やむこともせず生きていきたい。
…漠然と、明るい明日を生きたいと思うのは、我儘ですか。
「ぁ…薫さん。」
「ん。…ああ、彩!元気かい。」
「え…あ、あれ??薫さん…だよね?」
「はっはっは!それ以外の誰に見えるというんだ!全く、彩は相変わらず面白いなぁ。」
「あ、あははは??」
「…心配かけたが、もう、大丈夫だ。…今はそれよりも、役者としてのステップアップを目指していてね…」
こんなにも胸が痛むのに、笑って嘘を吐けるのは何故でしょうか。
平気で嘘を吐ける人が前に進める、世界の暗い理を知ってしまったからでしょうか。
理と言えば、「幸せ」の文字が
物質的に成り立った「幸せ」から、一つ線を抜いただけで「辛さ」になるのは誰かの陰謀なんでしょうか。
多感な時期と称される貴重な時間の中で、誰かと出逢う事も喪う事も、青い希望も抱くことも。全ては。
かの巨匠が描いたサスペンスの様に、何かが大きく動き出す切欠になるのだとどこかで期待していたんだろう。
でも、もうどうでもいい。
尊敬していた、憧れていた、大好きだった…彼女を喪った今、ただ生きているだけでこんなにも辛い。
例えニーチェやフロイトだって、この大きな孔の埋め方を記せやしないんだ。
それならもういっそ、自分に引き籠って、君の笑顔を思い出して、あった筈の理想の明日を思い描こう。静かに、沈んで行こう。
逃げることは、我儘でしょうか?
或いは――
「…何だいこの話は?」
「言わずとも分かるだろう。」
「知った様な事を…いや、知っているんだったっけか。」
「……薫君。私は思うに…君は、君で、君のままに生きて欲しい。」
「ハ!…私は決めたのさ。それにほら、私は自分を偽っているわけじゃない。言うなればこれももう一人の私、瀬田薫という人間の側面なのさ。」
「…今の君を見たら彼女は何て言うだろうね。」
「ッ……。」
「彼女も…
「……じゃあどうしろと?○○もまた、他の大人たちと同じようなことを言うのかい?」
「…。」
「死んだ彼女の分まで生きろと、立ち止まっていては彼女も悲しむと、俯いていては彼女も浮かばれないと…!」
「"大人"、か…。」
「ああそうだ!…私の親も、彼女の親も、教師も、医師も、みんな…!」
「…。」
「…ちーちゃんの事なんか、何も分かっちゃいない癖に…!」
「薫君…。」
「……ねぇ○○
「…なんだね。」
「例えばドラマチックに誰かが死ぬ物語って、安易に感動できるじゃないですか。」
「……。」
「…私は…そんな風に、人の生き死ににすら価値がつくのが嫌になったんですよ。」
「…気持ちは分からなくも無いが、しかし――」
「○○さんの夢は、なりたいものは何だったんですか?…思い描いていた理想の未来には、立てたんですか?…手に入れたいものを手に入れて、失くしたくない物は失くさずに来れたんですか?」
「――ッ。」
「……それとも、そんなのは全部、"大人"になると忘れちゃうものなんですか?」
「○○さん。このお話を読んだ上で、あなたに相談です。」
「…。」
「この先、私が生きている価値はありますか。」
「…。」
「流した涙の数だけ強くなれるなんて、只の綺麗事…成功者の飾りでしかありませんでした。」
「…。」
「それでも、生きて
「…。」
「真っ暗な世界だけがずっと続いていて、ちーちゃんが居たことすらどんどん遠くなって。…私の、胸の内に空いた孔は塞がらなくて。」
「…。」
「それが"現実"なんですか。そんな中を生きていくのが正解なんですか。」
「………それは…」
「……何ですか。」
「…その答えを探すことも、人生の意味なんじゃ…ないかね。」
「…。」
「……恐らくその問いは、他でもない君しか答えられない。私も、他の大人も、白鷺君でさえも。」
「…叶うなら、ずっとちーちゃんだけを感じていたかった。いつだって、ちーちゃんと一緒に居たかった。」
「…。」
「教えてください、○○さん。」
「ん…。」
「他の何も要らない、何も考えずにちーちゃんの事だけを想って死んでいきたい。そう願うのは我儘なんですか?」
「それ…は…。」
「もう、何もわからない。どうしたらいいのか、どう生きて行けばいいのか。でも誰も助けちゃくれないし、弱音を吐いてもどうにもならない。現実だけが圧し掛かって、素直に笑えていた筈の自分も遠い他人の様になって。」
「…。」
「もう、自分がどうしたいのかさえ、わからない。」
「…。」
「答えを見つけられるのが私だけなんだとしたら、その私は一体何処にいますか。"
「…すまない…薫君。」
「ッ、な、なにを…?」
「…"今一度、素敵な調べに心を委ねると良い。"」
「―――、――!!」
「…っはぁっ…ハァ……ッ、ハ…ァッ!」
思わず嘔吐きそうになりながら、
こういった世界を訪れることは珍しくなかったが、今回は特に渦巻く負の感情が凄まじかった。
恐らくこうして、崩壊への道を辿ることになるのだろうが…。
「…これが……一体あと何度繰り返されるんだ…?」
改めて辟易する。
彼女等は、それぞれ異なった世界線で正しく生きている。
俺に課された責務は、無数に存在する音楽に溶け込んだ彼女等の痕跡を追い、
終わりというのが何を指すのかは、分からない。…だが、これだけ辛く苦しい務めなわけだし、終わりのその先にはきっと報われる何かが待っている筈だ。
その為に、今俺が出来ることは、ただ一つ。
唯一生まれ持ったこの力で、干渉することなく物語を見届ける事なのだから。
「…しっかし。」
あの物語は一体誰が用意しているのだろう。意識を飛ばした先――即ち各世界の"私"だが――は予め記憶や人間関係が用意されている。口は勝手に動くしシナリオも出来上がっているそれは、一人称視点で見る映画の様なものだ。
わからない、が生まれてこの方…もう二十余年になるが、ただ只管にこの作業を繰り返してきた。
ああ、また。次の世界を感じてしまった。
俺は右手に握りしめた古びた音楽プレーヤーから伸びる一振りのイヤホンを装着し、鍵を唱える。
"今一度、素敵な調べに心を委ねると良い。"
主人公は、○○の中の人です。
<今回の設定更新>
○○:異世界を覗ける観測者。
全てを見届けなければいけないらしく、各世界で動いている○○は本当の主人公
の意識を乗せる入れ物の様なもの。
音楽の力によって、世界観は決定されているらしい。
薫:かつての親友であり盟友である白鷺千聖を事故で亡くした。
立ち直るためにも彼女の遺志を継ぎ俳優としての皮を被るが――