BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
優雅な休日、とでも言おうか。シフト上の休みが割当たっている為、いつもよりやや遅めに起こされ作り置きの飯を食う。その後もダラダラとベッドから降りない時間を過ごし、惜しくもシフトが合わず出勤して行ってしまった燐子の帰りを待つ。
安心して身も心も任せられる相手が居ないというのは、やはり心寂しい。…が、久しぶりに得た自由というか、愛すべき彼女の視線を気にせずに目一杯フリーダムに過ごすことができる時間は、ある種の背徳さえ覚えてしまう。
俺、燐子が居ても居なくてもダメ人間なんだな。
「○○さぁん!何だかドキドキしますね!」
「…動きすぎて、動悸がー的な?」
「違いますぅ。私そんなお年寄りじゃないですもんー。」
ピンク色の髪を二つ括りにした後輩。肉欲の暴走超特急ことひまりちゃんも今日は休日だったらしい。燐子が出て行った数分後に、何食わぬ顔で部屋に…そしてベッドにまで潜り込んできた。
そう、この爛れた自由の一日に俺を目覚めさせたのは紛れもなく彼女だ。
…あぁ大丈夫。スマホにはちゃんと燐子からのメッセージが入っていたし、隠すつもりも更々ない。つまりこれは浮気だとか隠し事だとかそういうのじゃ断じて無い。
「だってぇ、こうしてちゃんとした場所でくっ付くのもいいなぁって。」
「……そう思うなら会社で襲うのやめてくれない?」
「ふっふーん、それはそれ、これはこれですよ。」
断じて違う、よな?
「今何時?」
「えと……あ、腕時計取っちゃったんでわかりませんね。…この部屋掛け時計とか無いんですか??」
「俺も燐子も自分のPCで時間見る癖あるからさぁ。」
「……へ、変なカップル…。」
「それが心地いいんだよ。」
普段燐子と二人の時間を過ごす時も、何だかんだそれぞれのPCの前で思い思いの行動を取ることが多い。それこそ食事や睡眠・入浴など、生活する上で必要な時間くらいしか一緒に過ごしていないのではないだろうか。
ひまりちゃんは変なカップルと捉えたようだが、適度なときめきを忘れないためにも生活の中でプライベートを忘れないようにと協議した結果なのだ。
…まぁ、どちらかが何かと我慢できないときは共に過ごすのだが。
「あぁ……もう十七時じゃねえか…。」
「何かあるんです?」
「忘れたのかね。…ウチの定時は十七時だろ?」
「ぁ……。」
ベッドから這い出てスマホを見れば…本来定時に当たる時間。普段「定時?何それ」状態の俺に対して同居人の燐子は真逆、終業五分前には帰る支度を始める方針の部署らしく、何ならいつも俺の退社を待ってくれているほどだ。
つまり何を言いたいかというと。
「…取り敢えず、服着よう?ひまりちゃん。」
「えぇー?涼しいじゃないですかぁ。」
「いやほら、スグとは言わないけど燐子帰ってくるし…」
「でも、隠しているわけでもないでしょう?」
「だとしてもさ…」
片付けや掃除もあるし。そもそも、公認とは言え立ち会ってしまえば気持ちのいいものじゃないし。
帰ってくるなり生まれたままの姿の恋人とその同僚が出迎える…それも乱れ切った部屋で。そんなカオス、仕事で疲れている彼女に見せていいものでは無い…と思う。
ブブッ
「んぁ。」
「??…燐子さんですか??」
「……あぁ。…ひまりちゃん、やっぱ服着よう。」
「えぇっ!?だって、燐子ちゃん私のこと知ってて…!!」
「いや、事情が変わった。」
画面をひまりちゃんに見せるなり納得してしまったようで。「あぁ…」と小さく零すなり渋々ベッドを降りた。…おぉ、ゆさっとは行かずともぷるぷると震える程よい脂肪は昼間の感触を思い出すに…まあいいか。
仕方あるまい。今の俺たちにとっては極大の敵かも知れない彼女が来るのだから。
『○○さんへ。北沢さんも夕食にご一緒しようと思うので片付けておいてください。』
『あと、今夜の私の分は残っていますか?』
**
「お、おかえり……なさい!」
「ただいま……帰りました。」
「お、お疲れ様ですっ!燐子さんっ!」
「……………。」
「…?………○○さ…おや、この匂い。」
「な、なんだ……?ちょっと顔、近くないか?」
帰ってくるなりすんすんと俺の匂いを嗅ぎ出す燐子。首・肩・胸…と下がっていったかと思うと、また顔まで戻ってきて少し拗ねた顔。
「………なるほど。結構やんちゃさん……だったんですね。」
「………いやあの、俺」
「すっ、すすすっ、すみませっ…でも途中途中で休憩挟みましたし、あんまり絞り」
「ひまりちゃん?」
「はひゃっ」
どこまで口走ろうとしているのだろうこのテンパりピンクは。見えていないのだろうか。
燐子の一つ結びにした黒髪の後ろで隠れるようにして覗き込んでいるフレッシュな彼女が。
「あ、あのぉ……(´・ω・`)」
「あ…………ごめんなさい、はーちゃん。」
「はーちゃん?」
「い、いえっ……このお部屋、いい匂いしてますねっ(`・ω・´)」
「ふふっ……芳香剤…ですかね。」
「まあ…立ち話もなんだし、取り敢えず入りな?」
「ええ。……ほら、はーちゃん。……靴はこちらで、ええ。」
「わぁい!おっじゃまっしまぁす!(*´∀`*)」
元気に廊下の奥へと向かうはぐみちゃん。その様子を微笑ましく見ている燐子だったが、ふと何かを思い出したように自宅待機組二人に視線を向ける。
…怒られるのだろうか。
「…な、なんですか……燐子さん?」
「……お二人、特にひまりちゃん。………あの子はあなた達と違うタイプの子ですので……決しておイタはしないように、ね?」
「違う?」
「タイプ?」
はて。
「あの子……はーちゃんは、性への興味どころか………性知識すらまともにありません。……友希那さんのいつもの冗談に疑問符しか浮かんでいなかったので………。」
「あれまぁ。」
「だから…くれぐれも、刺激の強い言動は控えるように……ね?」
その静かなウィンクは、ひまりちゃんをも震え上がらせるほど美しく、静かな威圧感を持っていた。
正直チビりそうだ。
「ふふ……今行きますよー。…それじゃ、夕飯の準備しますね。」
「…………○○さん、燐子さんってあんなに迫力ありましたっけ。」
「母性か何かが目覚めたんだろうか。…正直、イイ。」
「なっ……ぼ、母性だったら、私だって!」
もにぃ。
手を誘導するんじゃない。昼間散々揉んだよそれ。……ああはいはい、そのムキになっている顔は少し可愛いよ。
胸を掴む手はそのままに、空いている手でグリグリと頭を撫でてやった。
「えへへ……でもね、○○さん。今○○さんの左手が空いていたように、私のこっちの胸も空いて」
「君は本当に、脳みそ以外は完璧なんだけどなぁ…。」
ぶち壊しである。
……その後の飯?勿論うまかったし、ひまりちゃんもテーブルの下で色々してくるくらいで大人しく、はぐみちゃんはただただ元気だった。
問題なのは二人が帰ったあと…燐子と二人になってからで。
「○○さん?」
「あん?」
「……何回ですか?」
「………というと?」
「ひまりちゃん。……あれだけの子に言い寄られて、さぞかし盛り上がったことでしょう。」
「…え、あれ?怒ってる感じ?」
「怒ってなんかいません。……あぁそういえば、明日の有給申請してきました。」
「はい?…俺は出勤だけど……なにか用事でも?」
「??……ふたり分……ですよ?」
「は?俺も?」
「…………今日の分、取り返さないとですから。」
「うっそだろ…。」
「メッセージで言ったじゃないですか。……残ってますかって。残って…なかったです?」
「いやそれは、あの、えと」
「………はーちゃんと過ごしていると、欲しくなっちゃうんです。」
「ええと……欲しいって、やっぱり、そういう?」
「…ふふ、まずは女の子がいいです。」
なるほど、今日は朝から晩まで運動しっぱなしって訳だ。
ちょっと露骨すぎましたかね?
<今回の設定更新>
○○:悪い。
燐子:スイッチオン。
これからはより一層積極的に…
ひまり:いい加減にしとけ。
君は母性を履き違えている。
今回はほぼ服も着ずにお送りいたしました。
はぐみ:かわいい。
そう、はぐみは刺客としての参加ではなく燐子のブースター要員だったのだ。
これからは母性に目覚めた燐子が…