BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「ええと、そろそろ退いてもらえません?」
「嫌。」
「嫌、ではなくてですね…。」
会議室を丸々抑えての書類整理。すっかりお察しだとは思うが、この作業を俺と俺の向かい側に座る燐子、そして当然というか何と言うか付いてくる気満々のひまりちゃんに振ったのは膝の上の上司――友希那=湊その人である。
すっかり懐き切ってべったりなのか、燐子が呼び出されると同時に後を付いてくるはぐみちゃんの存在に、あまり堂々とした性的接触はないだろうと思ったらこれだよ。当然はぐみちゃんは無垢な質問をぶつけてきたがそれに対して友希那の舌の回ること回ること…。
半ば諦めムードで聴いていたが、案の定この部屋に常識人はいなかった。いや、そもそも常識なんか存在しなかったんだ。
「いい?今日の○○に課せられた使命は椅子よ。」
「ふざけんな。」
「あら、光栄でしょう?私のヒップの感覚をダイレクトに感じるのだから。…何ならその、お腹に回している両腕であんな所やこんな所を弄ってもいいのよ?」
「………いや、そんなことしないし。」
「あーっ!○○さん今迷ったでしょー!」
「うるせいピンク性人。」
最近調子に乗っているのか目に余る発言が増えてきたひまりちゃん。彼女の存在自体がもう我が部署の風紀と視線を搔き乱しているというのに、これ以上どう進化しようというのか。
「○○さん……?」
「ひっ」
「…私の見えないところで……って、言いましたよね?」
「だからその…っ、ほ、ほらっ!今の俺両腕フリー!友希那の体なんか触る訳ないだろー!?」
「私の体…"なんか"?」
ひらひらと空いている両腕を振って見せる。燐子の隣…俺から見れば燐子の奥に座るはぐみちゃんが焦ったように手を振り返してくるが、そうじゃない。
その様子を見た燐子の目つきが和らいだのも束の間。俺の発言に思うところのあったらしい上司様は次なる爆弾を投下した。
「…燐子。」
「はい…?」
「あなたの場所からは見えないだろうけど、この姿勢……"
「「ッ!!」」
「??(´・ω・`)??」
馬鹿なんじゃなかろうか。誰が、とはもう言えない空間だが。
唯一不思議そうな顔で、周りの驚愕面の上司陣を見回すはぐみちゃんの癒しオーラったら半端ないが、友希那の意味ありげな含み笑いと今にも泣き出しそうな燐子。…ついでに慌てた様子で机の下を覗き込むひまりちゃん。
や、挿入っているわけないが。
「…あのなぁ、仮にも仕事中にそんな事する訳ねえだろうが。」
「あら?"仮にも仕事中にそんな事"ばかりしているあなたがそれを言う?」
「お前等が好き勝手に襲ってくるんだろうが!」
「心外ね。…不満?」
「ふま………え待って、燐子さんどんな表情?それ。」
悔しそうな、それでいてどことなく哀しそうな表情にしては頬が赤く心なしか息も荒い。…うっそだろ。
素直に体調を心配するような視線を送る隣のはぐみちゃんだけがただただ不憫だ。
「………まぁ、挿入っていない事は…判っていましたけど…。」
「ほんとかよ。」
「…○○さんの……お顔を見たらわかりますから。」
「どんな。」
「………○○さん…締まりが良いと余裕の無さそうな切ないお顔になるんです…よ?」
「ちょま、え?お前、俺の知らない俺を…」
「ふふん、私達は○○の○○を良く知ってるもの。ね、ちn…燐子。」
「………まぁ、そうなります…ね。」
「…上手い事言ってんじゃねえ。」
まだ昼間だぞ。そして仕事中だ。
お天道様も見てるというのに、飛び交う下ネタには最早文学すら感じる。こいつら、はぐみちゃんの無知具合を良い事に暴走してやがる。
「…あぁもう、いいから仕事するぞ仕事。友希那も退けっての。」
「………んもう、強がっちゃって…」
「うっせぇ。」
「終わりました!(`・ω・´)」
「おっ。…ほれ見ろ、新人の方がよっぽど働くじゃねえか。」
「ちんt…何ですって!?」
「君はちょっと入ってこないでひまりちゃん。」
…カオスである。
**
「へへっ('v'*)」
「…何だか楽しそうだねはぐみちゃん。」
地獄の様な作業時間が終わっての昼食。元より部署のある事務所エリアを離れている事と午後も会議室での作業が続くこともあって、作業に当たったメンバーで場所を移すことなく食事を摂る。
食事自体は日常生活の一過程に過ぎない訳だがどうにも共にする人間が変わると新鮮な気分を味わえる。俺と燐子の間に座って矢鱈茶色の多いお弁当を広げる新人ちゃんもご機嫌なご様子で。
「はいっ!(*≧∇≦)ノ」
「みんなで食べるって、遠足みたいだなって!(*´∪`*)」
「……ふふっ、かわいい……。」
「遠足…か。懐かしい響きだなぁ…。」
「…はーちゃん…お弁当は、自分で作ったの…?」
「ううん!これはかーちゃ…ははが作ったの!(`・ω・´)」
「…唐揚げにハンバーグにエビフライに……これは、コロッケかな?」
「コロッケとメンチカツです!(((o(*゚▽゚*)o)))」
「はぐみの家、お肉屋さんで、コロッケは自慢の商品でぇ…ほわぁぁ…・:*:・(*´∀`*)・:*:・」
箸で掴んだコロッケの味を想像したのか、だらしない顔でトリップ状態になるはぐみちゃん。…成程肉屋ね。道理で、まるで男の子の様なお弁当だと思ったが…。
しかしこうしてみると実年齢が冗談のように感じる程子供だな。勿論悪い意味ではなく、可愛がり甲斐のある後輩といった意味で。
燐子なんてもう、慈しみの聖母のような顔ではぐみちゃんのあちこち外ハネした髪を梳くように撫で繰り回しているし、俺も何だか娘のように扱ってしまう節がある。他の面々とは違って、ゆったりとしたほのぼの空間を味わえるというか…。
はぐみちゃんに悪影響があるとまずい為食事中は距離を置いているが…弁当一つとっても人柄や個性というのは滲み出るものだ。
俺と燐子は言うまでも無くいつもの弁当で、はぐみちゃんは前述の通り。一方向かい側に座っているひまりちゃんとちびっ子上司だが…。
ひまりちゃんはある意味で納得。持ち物や私服も"今時の女の子"といった感じで、流行や可愛い・綺麗を集めたものが多いらしい彼女は、いつも近所のコンビニや館内の売店で買った軽食にその倍ほどの量のスイーツを合わせたものを摂っている。
一度お裾分けをされたこともあるが、カロリーを考えただけでも胸焼けを起こしそうな食事だった。今日はイチゴとホイップクリームを挟んだサンドウィッチに小さなパンケーキ。その後の
そしてお隣のちびっ子上司は真逆で、五~六種類のサプリメントと栄養剤…二つ並んだバカでかい缶はエナジードリンクか。カフェインマシマシのドリンクを好んで摂取するところなんかは俺と同じで、偶に新商品談義なんかもする。…その辺りで留めてくれるなら「友好的な上司」で片付くのだが…
「別に。相変わらずエナドリ好きなんだなって思っただけだ。」
「……。」
すぐこういう事言う。
「…なぁ燐子。」
「なんです…?」
「あの二人、絶対早く死ぬよな。」
「……ああ、お弁当が…ですか。」
「うん。」
「……心配、ですか?」
「いや別に。……いなくなったらなったで、風紀と俺の印象が守られるだけだと思うし。」
「ふふ。……貞操観念が滅茶苦茶なあなたが滅茶苦茶にされるというのも…中々に興奮するのですが…。」
「り、燐子さん?」
だめだ。俺の恋人もそっちだったらしい。
俺の貞操観念が滅茶苦茶だと思ったことは無いが、そんなことを言いながらも愛してくれているのだろうこの子は。愛しているからこそ他の関係も結んで欲しい。だが浮気や行為を直に見たくはない。…これが乙女心というものなのか、まるで理解できる気がしない。
拗らせ過ぎなのだ、皆して。
「あっ…りんねぇと○○さん!同じおべんとだ…!(`・ω・´)」
「あ、あぁ…そうだね。両方燐子が作ってるから。」
「えっ……。Σ(´∀`;)」
流石のはぐみちゃんも何となく察しがついたか、弁当箱と両脇の二人の顔を見比べる。やがてウンウン唸ったかと思えば一人合点が行ったかの様に柏手を打ち、「((* ´艸`))」こんな顔になった。
「りんねぇって、○○さんのお母さんだったんだ。(`・∀・´)!!」
何も分かってなかった。
「ね!(**'v'**d)」
「…え、ええと………」
サムズアップを突き付けられた燐子が助けを求めるように視線を送って来る。…暫し迷ったものの、面接のときのあの様子から考えるに詳しく説明したとてこの子には難しかろう。何とか上手い流し方は無いかと考える。
「は、はい!ひまりんさん!(*'-'* )」
「お、おかあさん…ぷれい??(´・ω・`)??」
このピンク…口を開けば大体碌なことにならないな…!第一俺が燐子相手にそんな願望……そんな…願望…。
「……………確かにそっちは…まだですね。」
そんな熱の篭もった目で見んでください。今はまずはぐみちゃんを正しい道から外れないように悪を打ち倒すのが先決でしょうが。
「ぷれい……?????(´・ω・`)」
「ばぶみ……o(゚ω゚`*)??」
「………ああ!!(o´∀`o)」
どうしよう。ここまで勢いづいてしまった彼女等はもう止められない、止まらない。
燐子の母性云々は否定しないが、それをプレイという事で片づけてしまっては社内屈指の変態カップルということで処理されてしまう。そもそもそんなのが社内共通認識として認知されてしまっては、ただでさえ居辛い空間がより過酷なものになってしまう恐れすらある。
「はぐみ、わかりました!(o´∀`o)」
「ちょ、ちょっと友希那…」
「それははぐみちゃんの教育上よろしくない…」
「ちげえや!」
「ッ……!」
確かに、俺の一日は燐子に優しく起こされるところから始まるし、出勤前も通勤中も、何なら鞄の中身や昼飯まで行き届いた燐子の思慮に甘えっぱなしで。家に帰れば温かいご飯と風呂を燐子が用意してくれて、「ゲームで楽しそうに遊ぶ○○さんを見ているのが幸せ」とか言ういじらし過ぎる発言に甘えて一切の家事を任せてしまっているし。
かと思えば夜は眠るまで燐子の体温と息遣いを感じ続け、気付けばまた朝に……ああ、俺の毎日は燐子で出来ているのだ。気付けば侵されている日常は、燐子の持つ高度なバブみを余すことなく表していて…。
「……俺、燐子にオギャりたい。」
「!?(*´△`*)」
「え、えと……○○さん??」
「……っ、あ、俺、何を…?」
つい、口が勝手に。
「……はぐみ、またひとつ賢くなりました。( ノ゚Д゚)」
「…やめときなさい、それは純粋さを失う行為だぞ。」
「…あのですね、○○さん。りんねぇには途轍もないばぶみがあるんですよ。( ノ゚Д゚)」
「ああもう、覚えんでいい事を…。」
はぐみちゃんが大切な何かを失っていく横で、俺は俺で何かに目覚めてしまいそうであったが。果たして男として、パートナーとして、甘える一方で居ていいのだろうか。
今は冗談めかして茶化していられるが、いつかは重大な責任を負うためにもっと芯を通しておくべきではないのだろうか。
それこそ、はぐみちゃんのような子供が俺自身に出来た時に。
「……ゆきなさん!はぐみ、ばぶみ覚えました!( 0w0)ノ」
「こっち…?(´・ω・`)」
「ぉぉぉおお…!かっこいい…!!(`・ω・´)」
友希那の手招きに誘われるようにしてはぐみちゃんは行ってしまった。もう、清い体に戻れることは無いだろう。
一時の好奇心と興奮、自らが持つ甘えと甘えたい願望。もし本当に燐子が母親になったら、俺はどうなってしまうんだろうか。
はぐみちゃんが居なくなったことにより空いた距離を静かに詰めてくる燐子。そのまま耳元まで顔を近づけて来て、言った。
「……はーちゃん、可愛いでしょ?」
「?…あ、あぁ。」
「………そろそろ本物、欲しいですね。」
「……ッ!!」
「……ぱぱ。」
あぁ。
燐子が持つのは純粋な母性じゃない。嘘…と言う訳では無いが。
彼女が持つのは俺を惑わせる"魔性"だ。甘えたくなるのも目が離せないのも、理解できずとも願望を叶えてやりたくなるのも。
全ては彼女の、魔性なんだ。
「……そうだね、ママ。」
どうやらこれからは、ノーガードで殴り合うハメになりそうだ。
バブみのお話。
<今回の設定更新>
○○:そういった性癖は持ち合わせていなかったはずだが…。
惑わされたっていいじゃない、疲れてるんだもの。
燐子:魔性の色白美人、揺れ動く白金山脈、溢れ出る母性―――
子供好きで尽くすタイプです。
友希那:いい加減にせえよ。
ひまり:二つ名のバーゲンセール。
今回は静か目。
はぐみ:かわいい。