BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
仕事の後、電車に揺られること一時間弱。隣町の駅でただ只管に人を待つ。
一九時半には到着すると伝えておいたはずだが、アイツは一体どこでチンタラ道草を食っているのだ。年始という事で、今日の新年会を開催することになったのはつい先日の話。同級生である
「…おっ。」
「おいすー。いやー、待たせたなぁ。」
「
数分の遅れの後無事合流できた俺達は、ここ数カ月の間ですっかり行きつけとなった串カツの美味しい店へ。冷え切った心と体をゆっくり休められる、適度に賑やかな店内に腰を落ち着けるとみっちゃんがテキパキと最初の注文を熟してくれた。
その辺りで漸くスマホを見る余裕ができた俺は、未だ嘗てない程のメッセージの通知に思わず顔を顰めた。
「…んー?どうした兄さん。」
「……いやぁ、今まで見たことも無いレベルで妹からメッセがな。」
「妹?…あぁ、蘭ちゃんとか言ったっけ。」
「そうそう。……見るの怖ぇ。」
確か今日は例の有咲ちゃんと遊びに行くとか何とか言っていた気がするが…万が一のことも考え、ある程度アルコールを纏ってから見ることにした。
運ばれてきた
**
「そういやぁよぉ、お前、まだ結婚とか考えねぇの??」
「結婚ねぇ……あんまし興味は無いかなぁ。」
飲み始めて一時間少々。目の前の友人はすっかり赤く染まった顔で随分と生々しいことを訊いてくる。我から見れば少し年下の彼だが、すっかり打ち解けた今ではこのようなプライベートな質問も珍しくはない…が、生憎と俺はそういった事にまるで興味が無かった。
「勿体ねえ…兄さん押しに弱いから結構な良物件なのにぃ…。」
「それは俺に世話させる気満々ってこったろ。それにお前、酔い過ぎだ馬鹿。」
「へっへっへへへ。…そういや、妹は良いのか??連絡来てたんだろ?」
「……あー、すっかり忘れてた。」
いい感じにほろ酔い気分の今ならば、あまり深いショックを受けずに読み進められるかもしれない。すっかり通知の溜まったアプリを一押しで起動し、目的の項目を探す。
…あったあった、通知の数字がカンストしてやがる。
「うぉ…」
「何だよ、何があったってんだ。」
「……いや、なんつーか、若いってすげえな。」
「あん??」
繰り広げられる蘭の青春っぷりをなんとかみっちゃんに伝えたかったが俺の語彙力じゃ無理がありそうだ。というか未知の世界過ぎる。
メッセージを見せれば…とも思ったがちょこちょこプライベートな要素があった為に断念。…結果、科学力に任せビデオ通話の形を取ることに。
まずは普通に発信してみる。
「……………。」
「…………。」
『…なに、兄貴。』
数コールの後、やや不機嫌そうに反応を見せる蘭。なんでそんな怒ってんの。
「おー、今何してた??」
『別に、何だっていいでしょ。それより兄貴、せめて既読位はつける努力したら?』
「きどく??」
『メッセージ。…何のためにケータイ持ってんの。』
「悪い悪い…緊急の用事だったのか?」
『緊急って訳じゃ…ないけどさ。今日兄貴帰ってこないじゃん。』
「明日の始発で帰るよ。」
『あそ。じゃあ切っていい?』
「いやいや、今、電話で内容教えてくれよ。」
危うく流されて通話を終了するところだった。今この場で聞かなければ、酒の肴……妹の大事な恋愛事情が心配だからな。
『……なんで。』
「有咲ちゃんとのことなんだろ?…俺も一応兄貴として、心配な部分もあるし…安心させて、美味い酒飲ませてほしいなって。」
『…今一人なの?』
「…いや、みっちゃんと飲んでんだ。…ほら、前に話した」
『あぁ、同級生の?』
「そうそう。」
「どぉーも、蘭ちゃぁん!みっちゃんだよぉ。」
『……ども。』
…こいつまだ人見知りするのか。昔からとても社交的とは言えない子だったが、高校生にもなってまだそんなだとは。俺も人付き合いが得意な方じゃないから強くは言えないが、仮にもバンドだ何だと人前に立つ機会も多いだろうにこれはどうなんだ。
赤メッシュが泣いてるぞ。
『…え、何。みっちゃん…さんにも聴かせる訳?』
「おう。…ほら、俺じゃあ聞いてやるにも限界があるし…それに何より、このみっちゃんって男はお前と有咲ちゃんのような関係に詳しいんだ。」
自分で言っていて何だが、詳しいってなんだ。いくら何でも苦しすぎるだろうこの理由付け。
『ほんと?…ほんとにほんと?』
「……お、おう。…なぁみっちゃん?」
「おうとも!百戦錬磨よぉ!」
『じゃあ話す。』
チョロすぎる妹とへべれけの親友…間に挟まる微妙な立ち位置の兄貴。夜も更け酒も進んだ混沌の空気の中、恋の夜会が静かに始まった。
**
『あのね、今日は有咲と駅前で待ち合わせして…適当にぶらぶらしようかって話だったんだ。』
俺も知らん。
『それで、ちょっと早く出すぎちゃって、駅に着いたのが約束の二十分前くらい。…あ、ちゃんと兄貴に言われた服着たよ。』
『でも有咲も同じくらいに来てね。…いつもと違って髪を下ろした有咲…可愛かった。』
「いつもは縛ってんの?」
『うん。ツインテールってやつ。…それもまぁ、素敵なんだけど。』
性癖駄々洩れだ馬鹿…。
『服も可愛くってさ。あたしと違って、やっぱ女子力あるなって感じ。』
「ほー。」
『まずはお話しようってなって、ショッピングモールに向かって歩いててさ。』
「ふむ。」
『………それで。……ええと。』
「「??」」
『手………繋ごうかって、話に、なって…。』
別段"手を繋ぐ"という行為はおかしなもんじゃない。だがそれをここまで恥ずかしがると言う事は…つまりはそう言う事なのか蘭。お前、本気でそっちに…。
急にぶっ込んできたプラトニックさに隣のみっちゃんも大興奮だ。
『べ、べつに、あたしが繋ぎたいとか言った訳じゃないよ!?有咲が…有咲が、「深い意味は無いけど
「なーにをムキになってんだ。仲が良くていいじゃねえか。」
「そうそう。…で?どうだったん?蘭ちゃん。」
『う……。その…すっごく、柔らかくて、ちっちゃくて。女の子なんだなぁって思った。』
みっちゃん、大興奮。先程運ばれてきたばかりのハイボールを持つ手も派手に暴れまわっているし、目もイっている。
確かに俺も妹からこんな話を聞かされるようになるとは思ってもみなかった。有咲ちゃん、ホントぐっじょぶ。
『暫く何も話さないで歩いてたけど…モールに着いてからはあんまり気にならなくなってさ。お店を見て回りながらお喋りしてて…。』
「ほう。」
『お昼過ぎに近くの喫茶店に行ったんだけど、そこであの日の話になったんだ。』
「…あの日?」
『うん。有咲と仲良くなるきっかけっていうか、前にも話したでしょ?有咲を庇った時の事。』
あぁ、あの実力派バンドの首領ポジによる有咲ちゃん弄りから守った話か。
「言ってたなぁそんなこと。」
『…それまでは、あたしって怖い人だと思われてたんだって。取っ付き難いし、笑わないし…でも、いい人なのかも…って思ったんだって。』
「………。」
『急にそんなこと言われたら、さ。……恥ずかしいじゃん。』
「…………。」
『だからあたしもテンパっちゃって…「有咲が体調崩したらポピパの士気が下がる」とか「そのせいでポピパの張り合いがなくなっちゃったらAfterglowとしても困る」…みたいな、取って付けたようなこと言っちゃってさ。』
「……ほぉ。」
そんな有名な子なのかよ…!しかも美少女て。無駄に情報通なみっちゃんが言うんだから間違いないが…それならそれで一度見て見たい気もする。
『…そんな話してたら、今日もまた恥ずかしくなっちゃって。…有咲と二人、暫く何も言えなかったの。』
「若いなぁ。」
『でね!…有咲の顔、すっごく可愛く見えてきちゃって。…変、かな。』
「…変とは?」
『だって…………あたし、一応女の子なのにさ。…有咲も女の子なのに、その…』
「……あー…」
変かと訊かれると答えに困る。変…要するに変わっているかと訊かれたらどうしても俺基準で考えてしまうだろう。そうすると、変という言葉を使わざるを得なくなるんだが…色々な人が居ると考えた時にそれは否定の言葉になってしまうし、何よりもたった一人の妹を傷つけてしまう。ううむ…
「変じゃねえさ!素晴らしい事よぉ!」
『…ほんとっ??』
「おう!綺麗な物や可愛いものをそのまま素直にいいと思って何が悪い?…好きや嫌いだってそうだ。異性に好意を持たなきゃいけねえって誰が決めたんだ?」
「…みっちゃん、お前…。」
『ほんとにほんとで変じゃない??』
「うむうむ。胸を張り給え。君はとっても素晴らしい。」
「…。」
こいつ、酔ってると良い事言うんだよな。きっと普段も思ってるんだろうけど、中々深いことまでは言及しない節があるし。
まったく、兄貴よりいい言葉で励ましやがる。
「俺だって、兄さんに対してもういっそ抱かれても」
「みっちゃん。それ以上いけない。」
訂正。普段からアホだこいつは。
『そっか。…兄貴、いい友達だね。』
「うっせぇ。…で?その後はどうなったんだ?」
『あうん。…その場は一旦それで流れて、その後は映画見に行ったんだ。』
「映画ぁ…?」
『ガラじゃないって言いたいんでしょ。…でも、有咲が気になってるって言うから、有咲と一緒ならって。』
これ、もうすっかり惚気のレベルまで達してるよな?本人はそこまでの自覚はないかもだけど。
二人で映画って、もう出来ちゃってんじゃん。
『普段なら興味なんか湧かないような内容だったけど、今のあたしに重なることがあって…。ちょっと泣いちゃったんだよね。』
今なら少し前に話題になった悲恋ものが上映していた筈だ。そのほかは子供向けアニメだとか戦隊ものだとかで、今の話に該当しそうな作品は無いと思うし…ふむ。
蘭も大人に成ってるんだなぁ。
『その帰り…ね。あたしは大分落ち着いてたんだけど、有咲はずっとえぐえぐ言ってて。…拭いても拭いても涙は零れてくるし、ずっと腕を掴まれている内に…へ、変な気分になってきちゃって…。』
「……。」
『勿論最後はハッピーエンドで、恋っていいなって思えるようなお話だったんだけどね。…有咲も、そんな気持ちだったのかな。』
「………。」
『蘭ちゃん…って、小さい声で呼ばれただけで、あたしどうにかなっちゃいそうなくらいドキドキしてた。ていうか実際呼ばれて変な声でちゃった…。』
「………ほぉ…ぅ。」
無意識の内に作った握り拳に力が入る。ついでに、二人して酒が進む進む。肝心の串カツにはほぼ手を付けず、アルコールだけが体内に蓄積されていく。
恐らく今は、みっちゃんの事を笑えないほどに俺も赤い顔をしているだろう。
『そしたら、「香澄みたいなこと言うけど、私今すげーどきどきしてる」って。…あ、香澄ってね、Poppin'Partyのボーカルの子なんだけど、キラキラとかどきどきとかよく言ってんの。』
『そんなの真剣な顔で言われたらさ、もう、ね?…「あたしも」って答えたら少し間が開いて……。』
ヤバい、俺迄ドキドキしてきた。酔ってるとは言え、ここまで聞いていいもんなんだろうか。俺、記憶失くさないタイプだぞ。
『少しして……「付き合ってる人いる?」って、有咲が…。』
「!!!」
『…??何??』
「や、多分どっかのテーブルの馬鹿が盛り上がっただけだ。」
『そ?……でもほら、あたしってそういう経験無いし…さ。』
「そうなのか。」
『そーだよ。兄貴だって、あたしが彼氏とか恋愛だとか言ってるの見たことないでしょ。』
「……確かに。」
『兄貴もそういう縁無いしね。』
「うるせぇ。」
俺は別に、いいんだよ。うん。
「で?その続きはどうなったん蘭ちゃん。」
『あうん。あたしも「いないよ」って言ったら、「ふーん」って有咲が…。』
「ほうほう。」
『…で、テンパってたあたしは…その……』
『……つ、「付き合ってみる?」…なんて…っ、訊いちゃったり、して……』
「「!!!!!!」」
『そしたら有咲も「私なんかでいいの?」って満更でもない感じだったからもう行っちゃえと思って…!!!』
『…こっ…告白……しちゃ…った。』
ついにやりました。やってのけましたウチの妹が!
人生初の恋人、それも超絶美人(みっちゃん談)を手中に収めたのです!……でも待て。この場合、恋人という表現は良いだろうが、彼女?…になるんだろうか?
『ちょっ、そ、そんな喜ぶこと!?…あたしが恥ずかしいんだけど…。』
「いやぁ凄いよ蘭ちゃん!ナイス勇気!ナイスチョイス!」
「お前も存外、やるときはやるのなぁ…。」
『う……あ、ありがと?…それでね、有咲もあたしのこと気になってたみたいで…。』
マジか。
『……お、「お願いします」…って。ちっちゃい声で、少し震えてて……すっごく可愛いの。』
お兄さん達、歓喜のお代わり。
新たに運ばれたスパークリングの日本酒をラッパ飲みし、空のグラスを打ち付け合う。それを置くや否や抱き合い、今日という日を心から祝った。
だって、俺に義妹ができるなんて思わないだろ?唯一のきょうだいが妹なんだからさ。しかも相当の美人、ツインテで巨乳のツンデレさん…だっけか??
…ううん、高まる。
『えへへ、だからとっても幸せな気分。』
「よくやった…よくやったぞ…!」
『それで、呼び捨てで呼び合う事になって――』
ヴーッ、ヴーッ
弾む声を遮る様に、通話越しの蘭のスマホが震える。…直後、弾けるようにご機嫌な蘭の声。
『有咲からだぁ!切るねぇ!!』
暗くなった画面に浮かび上がる通話終了の文字。取り残されるおじさん。
最後も有咲ちゃんからの何らかの連絡によりテンションブチ上げで通話をブッチした訳だが、これは案外ひょっとするとひょっとするのかもしれない。
「……なぁみっちゃん。」
「おうよ兄さん。」
「……今日はコレ朝までコースだなぁ。」
「…へへっ、話は尽きねえってな…行こうぜ。」
男二人、次なる行きつけの店へと歩き出すのであった。
…そうか、妹のが先に恋人を…ねぇ。
今後が楽しみである。
視点が遠いとこうも書き難いか…。
<今回の設定更新>
○○:お酒には強い。みっちゃんとはあまり長い付き合いじゃないが波長が合った
模様。
義妹に想いを馳せると同時に、親父にどう報告しようか頭を痛めている。
蘭:やったね蘭ちゃん。
行動力もさることながら、テンパった時の選択肢が素晴らしい。
試される主人公力。
充弥:みっちゃん。
主人公とは飲み友達として、夜な夜なネオンの下を歩く仲。
就いている仕事も出自も謎。